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「リリシスの物語」
『幾千万の波を越え、最も紅き船が火の帯を引いて行く。
悠久をたたえる海は深く、蒼く。魚たちはうねりの中を迷い、惑い、喰らい合う。
焔立つ冥界より大魚が浮かび来て、星の嵐が大洋に降り注ぐ。
熱き風の荒ぶ中、勇者は大魚に跨り。
新しき扉の鍵は、夜を切裂く。
大魚が常闇の眠りに就くと、拡散する島の男は雲の切れ間を目指して、小舟で漕ぎ出でる。
――――――――紅暗き安らぎの灯を、携えて。
永久の祈りの糸を赤く、赤く…………紡いで』
〔「リリシスの物語」,未来伝承より〕