86-2、闇夜の住人。輝く湖の秘密。俺が彼女の心を傷付けたこと。
ある夜、突如として部屋にやってきた深紅の瞳の少女・フレイアに誘われて、俺(水無瀬孝、26歳ニート)は魔法の国サンラインへと旅立った。
様々な困難を乗り越え、ようやく目的地に着いた俺は、「蒼の主」ことリーザロットの館に招かれ、正式に「勇者」としての役目を引き受けることとなる。
その後、自警団の少女ナタリーらとの出会い等を経て、俺はサンラインの歴史を左右する重要儀式「奉告祭」に参加する。
しかしそこで待ち受けていたのは、五大貴族の一人、及び異教徒「太母の護手」を手引きとした、敵国・ジューダムからの襲撃であった。
教会騎士団と共に何とか襲撃者が遣わした竜を倒した後、俺達はジューダムに占領されている都市・テッサロスタの奪還を目指して遠征隊を結成する。
旅はつつがなく進むかに見えたが、俺達は最初の野営地へ着く直前、ジューダムからの刺客と遭遇した。
何とか窮地を脱した後、俺達は臨時の野営地で一時の休息を得るも、次なる追手はすでに迫ってきていた。
星空はひたすらに美しかった。どこまでも広がる白い宝石の海を、可愛い女の子と二人、竜に乗って駆ける。邪悪な魔物に追われているのでなければ、本当に素敵なデートだったのに。
竜の手綱を取っているフレイアは、しきりに後続の仲間を振り返っては、ピタリと背中に抱きついている俺を気遣った。
「コウ様、寒くはありませんか?」
「いや、温かいよ。ありがとう、フレイア」
俺は彼女に笑いかけ、次いで話した。
「大分追手の魔力が強まってきてるね。…………何だか焦げたパン屑みたいな味がする」
濁竜の魔力みたいに口の中がベトつくのも嫌だったが、パン屑に水分を吸い取られてボソボソするのも気持ち悪かった。近付いてきたなら、きっとこの感じがもっと複雑化して不快になっていくだろう。
フレイアは眉を少し下げ、俺に告げた。
「もう少し…………もう少し粘れば、イゼルマ湖です。そこまで行けば、何とか振り払う目処がつきます」
「こんなに暗くて、湖なんて見えるかな?」
「それは問題ありません。イゼルマ湖には光藻が多数生息しておりますので、夜間はむしろ目立ちます」
「ヒカリモ?」
「このぐらいの、真ん丸で可愛らしい藻です。夜になると、気脈を通して魔海の蛍光虫の魔力を吸収し、金色に光るのです」
フレイアがマリモぐらいの大きさを指で示して見せる。最後に知るかもしれない知識がこれっていうのは少し悲しい気もするが、俺の旅らしいと言えばらしいか。
俺はカラカラに乾いていく口の中を水筒の水で潤しつつ(実際に乾いているわけではないのだが、とても耐えられない)、さらに夜を突き進んだ。
やがて山が開けて、イゼルマ湖が見えてきた。
確かに、暗い山間で、ああもくっきり発光していれば見逃しようも無い。澄んだ黄金色の光がほのかに明滅していて、湖全体がユラユラと波打っているように見えた。
想像以上に巨大な湖で、中央には小さな島がポツンと顔を出していた。
追跡者は俺達にいよいよ追いつき始めていた。フレイアの緊迫した紅い眼差しがそれをよく知らせてくれる。ヤツらの魔力も、今や口中に木炭を塗りたくられたみたいに苦々しく、不愉快に感じられる。
シスイとグラーゼイの念話が、さらに危機感を煽った。
(イゼルマ湖だ。…………隊長さん、後ろの様子はどうだ?)
グラーゼイの厳粛な声は、ズシリと腹に響いた。
(間もなく追いつく。ここまでだ。…………湖上にて戦闘に移る)
(何が来ている?)
(幻霊。ウェーゼン。そして…………「流転の王」)
言葉の終わりに、スッと冷たい気配が臓腑を走り抜けた。俺は咄嗟に後ろを振り返り、藍佳竜の上ですでに抜刀しているタリスカを目の当たりにした。
彼の二振りの曲刀はじっとりとした蒼白い光を帯び、周囲の空気をひんやりと凍てつかせていた。彼は眼窩に潜む深淵な闇をいつになく濃くし、彼はじっと白い下顎骨を引いて立っている。到底余人には触れられぬ壮絶な何かが、業火となって彼を焦がしていた。
竜の腹を静かに照らし始めたイゼルマ湖の明かりが、騎上の死神を一層不吉に夜空に浮かび上がらせる。タリスカは漆黒の衣を風に雄々しくはためかせ、ナタリーに何か伝えた。ナタリーは真剣な表情で彼を見返し、頷いて手綱を握り締めた。
ナタリーの若葉の魔力がフッと風に乗って届く。
と同時に、魔物達の魔力が一気になだれ込んできた。
粉塵の魔力が肺にまで吹き荒ぶ。激しい閉塞感に思わず咳き込んだ俺の肩を、フレイアが支えた。
「コウ様!? 大丈夫ですか!?」
「っ、へ…………いき…………っ」
うまく声が出せなかった。俺は水筒に手を伸ばし、思いきり煽った。慌てた勢いで口からこぼれた水滴が、眼下の湖にヒュウと吸い込まれていく。俺は訳もない不安を覚えつつ、口元を拭った。
人心地つく暇もなく、グラーゼイの太い声が脳裏に響いた。
(総員、散開!!!
――――退避の後、レヤンソン郷にて集合!)
フレイアが躊躇いがちに前へ向き直り、セイシュウを蹴る。
セイシュウの翼に押しのけられた風が、流線形の胴体をぐんと前へ押し出す。俺は冷たく刺々しい向かい風を浴びながら、また始まるのだと腹を据えた。
…………ああ、それにしても咽喉が乾く。ただ呼吸しているだけで、滅茶苦茶に乾く。今となってはマジで唾さえ出てこない。水は貴重だから、あんまり飲みたくないんだけど(そもそも空戦の合間に飲むなんてできないけど)、これは辛い。
俺達のすぐ脇を、ナタリーとタリスカの乗った藍佳竜が疾風の如く過ぎ去っていった。
擦れ違いざまに聞こえた彼らの会話は、耳を疑うようなものだった。
「…………ってことはつまり、アナタと「流転の王」は知り合いってことッスか!?」
「然り。だが今の王は完全なる魔。過去も未来も無き故、現世の縁など無に等しい。
…………魂獣を呼べ、水先人の娘よ。竜は私が操る」
「了解!」
彼らは風に乗って、たちまちフワリと上空へ舞った。シャランと軽快に揺れるナタリーのアクセサリーの音が微かに耳に残る。
「知り合い」って言ったか? 知り合いが魔物になって、「裂け目」から出てくる? ついていけないが、とにかく今はそれどころじゃない。
と、ふいにフレイアが後ろを振り返って叫んだ。
「コウ様!! 幻霊です!! 頭をお伏せください!!」
「へっ!?」
俺は即座に頭を抱えてフレイアに縋った。
そうするが早いか、俺の頭上を掠めて火蛇達が飛び出していく。フレイアの短い詠唱が、高らかに宙をつんざいた。
「――――炙れ!! 昏き罪!!」
火蛇がぐるんと巨大な二重円を描く。猛り狂った彼らの炎が、天を覆って神々しいまでに輝いた。
「――――暴け!! 冥き水際!!」
続けてフレイアが叫ぶ。
それと共に、凄まじい絶叫が炎の輪の内から上がった。この世のものとは思えない凄惨なその響きに、俺の鼓膜はビリビリと痺れた。
見れば、火蛇の中で何かが悶えている。
よく見えないが、人の形をしている。
まるで火刑のようだった。
悲鳴はすぐに失せていったが、燃えていた何かの姿も同じく消失した。
フレイアはすぐに火蛇を呼び戻し、いつものベールをセイシュウの周りに張った。彼女の瞳は未だ苛烈に燃えている。
俺は弾丸の如くセイシュウを飛ばしていくフレイアに、乾いた声をかけた。
「い…………っ、今のは…………!?」
「幻霊です! 如何なる因果にも連ならぬ、外道の存在。消滅させることは如何なる手段をもってしても不可能です。…………逃げましょう! アレに捕らわれると、問答無用で同族にされてしまいます!」
「同族!? た…………倒せないの? 誰にも?」
「私達の魔術や呪術では、あの存在を定義できない…………「いない」のと同じなのです! いないものを倒すことはできません! かろうじて対処できるのは、ああしてこちらに敵意を持って姿を現した時のみです!」
「それじゃ、どうすれば!?」
「逃げるしかないのです!」
俺は今一度後ろを振り返ったが、もう何も見えなかった。
どうにか幻霊の気配を探ろうとしたけれど、それも無駄だった。炭がしつこく口中に張り付いてくる気配の他に、感じられるものは何もなかった。ただ荒涼とした夜だけが広がっている。欠けた月が山の端に隠れて、こっそりと輝いているのを見つけた。
艶めかしくきらめくイゼルマ湖の上をセイシュウは速やかに飛んでいく。
見渡せば、そこかしこに似たような湖が点在していた。
夜空一面を満たす星の海の銀と、真っ暗な大地に幾つも灯った金の燈。幻想的な光景に俺は一瞬心を奪われたものの、すぐさま気を取り直した。
今は景色を楽しんでいるじゃない。早く敵を見つけなくては。
俺は辺りを睨み渡した。
蛇の芽のせいで、もうフレイアには頼れないし、頼みの綱だったツーちゃんも今はいない。
俺は一刻も早く出来ることを探さなくちゃいけない。
俺はダメ元で、気脈とやらの気配を探ってみた。やり方なんざロクに知らないが、とりあえずいつも人に対してやっているみたいに、集中して景色を眺めてみよう。
心の目…………俺自身の扉を開いて、この夜空と大地に、眩い湖に、冷たい風に、ゆっくりと意識を沈めていく。
自分の吐息や咽喉の渇き、フレイアの体温、彼女の白銀の髪が俺の頬を掠めるくすぐったい感触なんかが、絶えず意識の水面をさざめかせるけれど。
それらをあえて全部受け入れて、とっぷりと景色に溶け込んでいく。
…………そうして、色んな感覚が鏡みたいに澄んで、凪いできたら。
焦らずに深呼吸。
景色に重なって浮かび上がってきた、もう一つの景色を辿っていく…………。
…………何かがぼんやりと目の前に浮かんでくる…………。
――――…………イゼルマ湖はかつて、魂と魔力の満ちる豊かな森だった。
――――大きな火山と豊富な水源の下に、無数の命が溢れていた。
――――遥か昔のこと。
――――…………ある時、途方もない規模の噴火がイゼルマの地を見舞った。
――――何もかもが岩で押し潰され、大地はたちまち虚無へと還った。
――――降り注ぐガラスのような灰の破片。
――――埋もれていく、折り重なった屍。
――――幽鬼すらも漂うことのなかった茫漠とした大地。
――――太陽は厚い雲の奥に霞んでいた。
――――そんな地にも恵みの雨は降った。
――――白とは程遠い、泥にまみれた雨。
――――寿ぐ者はいなかった。
――――皆死んだか、死んだように眠っていたから。
――――大地は少しずつ形を変えながら、待った。
――――時計の無い世界を。
――――悠久の時を。
――――…………長い年月を経て、雨は少しずつ透き通り始めた。
――――虚無の地は潤いを孕み、ついに新芽を芽吹かせた。
――――気付けばあちこちに、巨大な水溜りが生まれていた。
――――水鏡には果てし無い大空が広がっていた。
――――やがて鳥か、竜か。
――――翼ある誰かが種と藻を水溜りに運んできた。
――――新たな命は復活した地で、次々と産声を上げた。
――――藻は古い土地を弔うように、夜の間だけ、魔海の灯をともした。
――――樹々は生い茂り、古の記憶を深い地の底へと沈めていく。
――――光藻は一層美しく輝く。
――――すっかり灰の晴れた夜空は、今にも落ちてきそうな星々に彩られていた。
――――未だ滔々と地下を流れる、熱い大地の血潮がほのかに感じられる。
――――…………きっと、何度だって繰り返すのだろう。
――――しかし再生の旋律もまた、必ずそこに響き合う。
――――雨はいつだって大地の上に降る。
――――…………光藻が水底から、じっと俺を仰いでいた。
――――永い永い時の中の、儚く賑やかな一時。一瞬の出会い。
――――飛び交う竜と人、幻霊。
――――真綿のような蝶々。
――――廃城のような巨大な骸。
――――そして…………。
…………そこで俺は、ハッと我に返った。
ん?
蝶? 骸?
俺は今、何を見ていたんだ?
一度途切れてしまった集中の糸を再びより合わせることは難しかった。覚めてしまうと、不思議なくらいさっきまでの感覚が取り戻せない。折角何かが掴めそうだったのに、どうして俺ってやつはこう…………。
ともあれ俺は溜息を吐き、再び周囲を見張った。
一度できたのだ。もう一回ぐらい、すぐに勘を取り戻してやる。
意気込んだ矢先に、俺はセイシュウの周りに、薄ぼんやりとした白い何かが飛び回っているのに気付いた。
「…………?」
あんなの、いつからいた?
改めて目を凝らしてみると、その白いものはなんだか綿のように身体がモコモコとしていて、蛾によく似ていた。白い蛾達はパタパタ、ホワホワと音も無く舞って、微かに輝く鱗粉のようなものを宙に撒き散らしていた。
どこからともなく現れ、次々と俺達の周りに群がっていく。
俺は気味が悪くなり、フレイアに尋ねた。
「なぁ、フレイア? 俺達の周りにいるのって、何? ずっといた?」
フレイアは眉を顰め、俺の方を振り返った。
「え? 周りに何かご覧になれますか?」
俺はギョッとして、答えた。
「えぇっ? あの、蛾みたいなやつだよ。いっぱいいるやつ」
「蛾…………!? コウ様! 本当にそれをご覧に!?」
フレイアが血相を変える。俺は面食らい、見たままを伝えた。
「本当に見えないのかい? 白い、真綿みたいな虫がセイシュウにどんどん群がってきているんだ!」
「――――ッ! それはいけません!」
フレイアが手綱を握り締め、やにわにセイシュウの翼を畳んで急降下させた。急な加速に蛾の多くは引き離されたが、それでもまだしぶとい連中がついてきた。
真っ白い鱗粉が派手に宙を舞い、空を白く霞ませる。火蛇の火の粉が鱗粉に触れると、人魂のように燃えて紫色の光を放った。
「燐光…………! やはり、ウェーゼン!」
「ウェーゼン!?」
「ええ。厄介です」
「何なの? また幻霊の仲間?」
フレイアはセイシュウの翼を広げ、左右に翼を振りながら巧みに風を捌き、執拗に追ってくる蛾…………ウェーゼンとかいう魔物を振り払うべく、激しくセイシュウを蛇行させた。
彼女の答えは、早口だった。
「肉体を持たない魔物という点では同じです。ウェーゼンは蛹から羽化する際に肉体を大地に捧げることにより、土地の気脈と強い繋がりを持ちます。つまり彼らは、気脈深くに霊体を溶かして姿を不可視化させることができるのです」
フレイアが振り返った直後、すぐそこでまた燐光が輝いた。
次いでいくつもいくつも、紫色の人魂じみた明かりが夜に浮かび上がる。生じた光は右へ左へ定まらない軌跡を描いて俺達を追いかけてきていた。
フレイアは涼やかな音を立てて剣を抜き、切羽詰まった表情で言葉を続けた。
「攻撃を受けた際には、ああして鱗粉にて相手の力を吸収し、燐光を放ちます。あの燐光に触れるとたちまち肉体が腐ってしまうのみならず、明かりに長時間晒されるだけでも、精神に異常をきたすと言われています」
彼女は火蛇の一匹を自分のレイピアに呼び戻すと、そのまま燃え盛る刃を横薙ぎに振った。
ヴェーゼン達は鋭い一閃をフワリと躱して羽ばたき続ける。一、二匹は避け損なって真っ二つに身を裂かれたが、それでも夥しい数の仲間がすぐに死骸を覆い隠した。
鱗粉が火蛇の火の粉に当てられ、新たな燐光を放つ。
フレイアは苦々しげに前を向いた。
「ああ、やはり難しい…………。
幻霊と違い、ウェーゼンには霊体がありますので攻撃は通ります。…………ただ、とても捉え難いです。とりわけ「裂け目」の気脈を汲んでいるウェーゼンともなれば、気脈の深さの分だけ見え難くなっています。
大きな術で一気に殲滅する手もありますが…………強力な術の使用は幻霊を呼び寄せますので…………」
俺は彼女にギュッと掴まり、提案した。
「じゃ、じゃあ、俺がウェーゼンのいる場所を指示するっていうのは? 何でかわからないけれど、俺、アイツらがよく見えるんだ!」
フレイアは難しい顔を崩さず、応じた。
「それではどうしても攻撃が遅れてしまうかと思われます。むしろ…………よろしければ、もう一度私と共力場を編んで頂けませんか? それでしたら、より素早く攻撃に移れると思いますので…………」
「いや! それはダメだ!」
急に強く断った俺を、フレイアが驚いて振り返る。
その紅玉色の瞳には疑問と戸惑い…………いや、それよりも、あまりにもハッキリとした悲しみが撃ち込まれていた。
ほのかな暗さを帯びた彼女の眼差しが、力無く細められる。
俺はうろたえ、すぐに釈明した。
「あっ、いや、事情があるんだ! 誤解しないで!」
「事情…………とは?」
「邪の芽が」
口にした途端に、俺は後悔した。
フレイアは何よりも、自分の内に宿る邪の芽のことを気にしている。彼女にとって、これはここで告げるべきではない非常にデリケートな問題だった。
俺は彼女と指を結んで約束した。
「ずっと君の味方だ。ずっと、一緒にいる」と…………。
フレイアは綺麗な色をした唇を少し震わせた。
それから一拍置くか置かないかのさりげなさで、ポツリとこぼした。
「わかりました。では、他の手段を考えましょう」
あくまでも淡々とした調子である。紅い眼差しも静かに目の前の俺を見つめている。
俺は何か言わなくちゃと思ってまごついた。
「フレイア、違うんだ。俺…………」
しかし言葉は俺を嘲るように、俺の手をすり抜けていった。
俺は彼女に謝ろうとしていた。
だが実際に頭の中に湧いてきたのは、「もっとスマートに嘘が吐ければ良かった」なんて、吐き気を催すような下らない考えだけだった。
フレイアは労わるみたいに微笑し、柔らかく話を繋げた。
「いえ、どうかお気になさらず。
…………ところで、コウ様は先程気脈を辿っていらっしゃいましたが、何か手掛かりは掴めましたでしょうか? ウェーゼンがご覧になれる程に強く気脈を感じていらっしゃるのですから、思いつくことがおありでしたら、是非試してみてはいかがでしょう? フレイアにお手伝いできることがありましたら、何でもお申し付けください」
「…………っ、…………う、うん」
俺はホワホワと後をついてくる紫の燐光と、おびただしいウェーゼンの群れとを睨んで唇を噛み締めた。
ああ、クソ、どうしてこんなに咽喉が渇くんだ?
俺はなけなしの唾を飲み込み、再度景色を眺めた。
欠けた月が心許なさそうに、更けていく夜を見守っていた。




