【婚約者】 ミハエル、驚く
【ミハエル公爵視点】
王城内。
ミハエル公爵執務室。
俺は執事のサイ爺の報告を受けていた。
白髭を生やしたベテラン執事だ。
「そ、それは本当か・・・マリアが浚われたって!」
「はい。左様でございます」
な、なんということだっ!
まさか・・・
そんなことが・・・・
報告によると、王城から家に帰る途中、マリアが浚われたらしい。
乗り捨てられた馬車のみ見つかったと。
くっ、もう少し回りに注意を払っておくべきだった。
もう少し早く手を打っておくべきだった。
まさか・・・彼女が直接被害に会うとは・・・
予想だにしなかった事態だ・・・
何も出来なかったことに悔いが残る。
だが、ここで悲嘆にくれている場合ではない。
すぐさま捜索を開始しなければ。
現場に残った足跡から、マリアを襲ったのはオークの集団らしい。
それならば・・・
であるならば・・・
まだ彼女が生きている可能性は高い。
オーク達は獲物を自分の巣に持って帰る習慣がある。
すぐには殺さないはず。
まだ、彼女を助け出すチャンスは十分ある。
それだけが明るい情報だ。
ならば決まっている。
万全を期して、捜索には俺自ら出るしかあるまい。
部下に任せておくわけにはいかない。
心が揺れて落ち着かない、
「サイ爺、すぐに準備を。俺自ら探し出す」
「こ、公爵様自らですか?」
うろたえるサイ爺さん。
爺さんはちょっと過保護なところがあるからな。
俺の身を心配しているのだろう。
「勿論だ。心配しなくてもいい。これでも腕には自身がある。魔道具だって十分に揃っていよう」
「そ、そうですが・・・万が一がありますと・・・色々問題がございます」
万が・・・一か。
確かに魔物の巣に突撃するのは危険もあろう。
だが、マリアのためならそれぐらい。
何でもないことであろう。
「心配無用。腕の良い者を連れて行くので問題あるまい。
時間との勝負だ。一時も無駄には出来ない。諸所、手配を頼む。
俺の心意気を知っていよう」
「ははっ。それは知っておりますが・・・」
「サイ爺さん。心配はいらないよ。ちょっと出かけてくるだけさ」
「はは~では、直ぐに準備いたします」
「よろしく頼む」」
サイ爺が部屋を出て行く。
俺は窓から王城の外を見る。
マリアが浚われたであろう方角。
王城の東に広がる森を。
あの森の中にマリアがいるはずだ。
待っていておくれ。
マリア・・・
俺が今すぐに助けに向おう。
きっと彼女は今頃洞窟で恐怖に震えているだろう。
いつ殺されるか分からない状況で。
ご飯だって食べられていないだろうし。
劣悪な環境で睡眠だってとれていないと思う。
薄暗い洞窟の中で、ボロ切れをまとっているはず。
なんて悲しい・・・
無慈悲な現実・・・
君がそんな苛烈な状態にいると思うと・・・
心が耐え切れない。
想像するだけで涙が出るよ。
君の境遇を思うと。
マリア・・・今、助け出す。
少しの辛抱だ。
何とか持ちこたえてくれ。
俺は空に祈った。
マリアの無事を。
次は、マリアのお話しです。