花の精霊
あたしとバッカスが冒険者ギルドに向っていると。
「フラー、フラー、離して欲しいフラー」
「!?」
「!?」
どこからか声が聞こえてきた。
あたしとバッカスは顔を見合わせる。
「バッカス、何か声が聞こえなかった?」
「あぁ、どこからか・・・」
「だよねー」
「うん」
「こっちフラー、こっちフラよー」
やっぱり。
声が聞こえる。
バッカスも同じように声が聞こえるみたい。
キョロキョロ首を振っている。
「こっちフラー、こっちフラー」
あたしとバッカスが声の方向を見ると。
そこはバッカスの右腕。
紐で縛っている赤い花。
花の魔物から声が出ている。
「マリア・・・まさかコイツが話しているのか?」
「うん。そうだと思う・・・プルプル震えてるし」
「紐を離してほしいフラー、反省したフラー。ガブってしたの、反省したフラよー」
赤い花がプルプル振動している。
すっごい自己主張してる。
ちょっと花粉も出て、バッカスの肩に降りかかってる。
かぶれたりしないといいけど・・・
「バッカス、離してあげたらどうかな」
「そうかー。なんだか危ないと思うけど・・・・ガブって噛まれるかも」
「反省したフラー、もう噛み付かないフラよー」
涙声になる赤い花。
必死の懇願。
なんだか申し訳ない気分になってくる。
「バッカス、お願い」
「そうだな。マリアが頼むなら仕方ないか。
じゃあ、少し紐を緩めてみよう。逃げないように、首輪はつけたままだけど」
バッカスが紐を緩めると。
激しく震えていた葉っぱは、ピタリと止まる。
「フラフラー、ありがとうフラー」
ヒョコっと動き出した赤い花。
バッカスの肩に腰掛ける。
「赤いお花さん、何者なの?」
「わたしはお花の精霊フラ~」
「ほーう。お前精霊なのか。にしては弱いな」
バッカスが、ツンっと花をつっついた。
お花さんはポヨーンと揺れる。
「フラは生まれたばかりフラ~」
「そうなんだ、お名前はなんていうの?」
「ないフラー。お名前付けて欲しいフラ~」
「へぇー。ならマリア、良い名前あるか?」
「そうだね~」
うーん。
名前か。
名付けかー。
スラちゃんには、スライムだからスラちゃんってつけたから・・・
赤いお花の精霊さんの場合は・・・
「花ちゃんでどうかな」
「いいフラよ~」
「良い名前だな。さすがマリア。ということでよろしくな、花ちゃん」
「あたしもよろしくね~花ちゃん」
「よろしくフラ~」
なんだろう。
赤い花の精霊花ちゃんが仲間になった雰囲気だけど。
あたしとバッカスは冒険者ギルドに向っていた。
花ちゃんを売りに。
ちょっと気まづい。
「どこいくフラ~?」
花ちゃんがあたし達の目的を察知したのか。
質問を浴びせてくる。
意外と空気に敏感なのかもしれない。
「んん、花ちゃんを売りに冒険者ギルドに行くんだ」
「ふ、フラ~!?わたしを売るのっ!?」
ガクガク震える花ちゃん。
尋常じゃなくプルプル震えている。
あれっ?
売るのはよした方が良いのかもしれないな。
花ちゃんがバッカスの肩に泣きつく。
「いやでフラー。売らないでほしいフラー」
サスサスと葉で肩を撫でている花ちゃん。
なんだか悲しそう
とっても悲しそう。
「うーん、どうするマリア?」
困り顔のバッカスがあたしを見る。
ええっ!?
バッカス。
あたしに判断任せるの?
花ちゃんを売るかどうか?
「お願いフラー、マリア、ご主人様、フラを見捨てないで欲しいフラ」
「う・・・・」
なんだかなー。
やっぱり気まづい。
ならっ。
売るのはよした方が良いのかもしれないな。
そもそも魔物じゃなくて精霊だし。
あまり悪そうにも思えないから。
「バッカス、花ちゃんは持ち帰ってもいいんじゃないかな。魔物じゃなくて、精霊だから」
「そうだなー。売れないかもしれないし。メギドに渡せば喜ぶかもしれない」
「フラー、フラー、やったフラー」
歓喜の声を上げる花ちゃん。
心なしか、葉につやもでてきた。
よかったね、花ちゃん。
「じゃあ、宿に戻るか」
「そうだね」
「フラー」
あたし達はホテルに戻った。