【第三王女】 王女の策略ですわっ!
【アイリス第三王女視点】
マリア伯爵令嬢とミハエル公爵が去った舞踏会。
アイリス第三王女は、取り巻きの貴族令嬢に囲まれていた。
「さすがアイリス様。見事でしたわ。一滴もこぼさすワインをかけられたのでは」
「そうですわ。アイリス様の必殺、赤ワインがけ。
あれをよけられる者はおりません。たとえ勇者様でも無理でしょう」
「お見事でした。私もスカッとしました。
私達を差し置き、ミハエル公爵様と婚約など、聖女はふざけていますわ」
「伯爵令嬢という地位を分かっていないのでしょう」
「聖女様といわれて、何か勘違いしているのでしょうね・・・きっとそうですわ」
やれやれ。
周りの貴族女性達は皆興奮しているようですわ。
にっくき、聖女が恥をかいたとなって、気分爽快なのでしょう。
気持ちは痛いほど理解できます。
若い下級令嬢に、社交界で人気があり、身分が高い殿方をとられる程勘に触ることはありません。
ですがこの会場には殿方もいるのです。
あまり大きな声では話さないで頂きたいですね。
間違ったイメージをもたれてしまいます。
私達は可憐な乙女なのですから。
「皆さん。私は偶々、不運にもぶつかっただけなのですよ。
故意ではありません。確かに・・・聖女様の姿はひどい娼婦のようでしたが」
勿論故意です。
部屋でマネキン相手に何度も練習したぐらいです。
グラスの持ち方や、歩き方など、鏡を見て何度も練習しました。
どうすれば、盛大にワインをかけられるのか。
どうすれば、狙いを外さずにかけれらるのか。
どうすれば、彼女をぶざまな格好にできるのか。
どうやら・・・練習の成果が出たようですね。
手首のスナップあたりが上手くいきました。
努力は裏切りませんね。
「ミハエル様のお怒りよう。あの様子では、近々婚約破棄をされるのでは」
「私もそう思いますわ。となると、ミハエル様の次のお相手は・・・アイリス様では」
「そうですわ。きっとそうです。アイリス様しかおりません」
「絶対そうですよ。アイリス様程素晴らしい女性はおりませんわ」
「今世紀始まって以来の、ベストカップルですわ」
こまったものですね。
勝手な憶測を立ててもらっては困りますわ。
そういわれると、思わず頬が緩んできます。
「皆さん、気が早いですよ。ミハエル様のお気持ちは分からないのですから」
「しかしアイリス様。
ミハエル様に見合う女性など、社交界の花、アイリス様をおいて他におりません」
「そうですわ。他に誰がいるのでしょうか」
「アイリス様だけですわ」
「皆さんのお気持ちは分かります。私もやぶさかではございません。
もし・・・彼がどうしても私と婚約したというのなら・・・考慮したいと思います」
ミハエル公爵様。
私はあなたのことを想っています。
ずっとずっとお慕いしておりました。
本当なら、私があなたと結婚するはずだったのです。
あの聖女より、私の方が先にミハエル様と出会ったのですから。
それなのに・・・・
それなのに・・・
あのメス犬聖女は・・・
いきなりポっと現れたと思ったら・・・瞬く間に掻っ攫っていきました。
全く許せませんわ。
私が先に唾をつけた殿方と・・・
第三王女である私に断りもなく婚約を結ぶなど・・・
ここのルールをよく分かっていないようですね。
誰の許可があって婚約しているのやら。
王女が社交界のクイーンであることを、よく理解した方が良いでしょう。
おまけにあの美貌。
下級貴族の分際で、王族である私よりも美しいのは許せません。
小さくてかわいらしいお顔に、美しくしとやかな髪。
見ているだけで劣等感に苛まれて、ついつい苛立ちを覚えてしまいます。
早く婚約破棄されて、オンボロ教会に篭って庶民相手に媚でも売ってなさい。
それがお似合いです。
あぁーミハエル様。
あなたは普段、チラリとも私のことを見てくださらない。
王族だから気を使っていらしているのかもしれませんが・・・
私はとても寂しいのです。
心が痛みます。
毎日枕を涙で濡らしておりますのよ。
私の方はいつだって・・・あなたの事を想っていますのに。
けれど・・・
ミハエル様と話せるのは、あの聖女をいじめている時だけ。
彼と話せるのは嬉しいけれど、あの女に関係しないと話せないとなると・・・
とても悲しい。
心がひどく傷つく。
ミハエル様のお心が、私よりも聖女に向っていると感じてしまう。
あんな女のために・・・私に謝ってほしくなどないのに。
私は彼の事が大好きなのに。
届かない想い・・・
まったく・・・どんだけ私を惨めな気分にさせるの。
あの聖女は。
忌々しい女。
「アイリス様。お話中失礼します」
私の従者のトビがやってくる。
彼の顔を見て用件は分かった。
皆の前では話せないことでしょう。
私は周りの貴族令嬢たちに礼をして。
「皆さん、少し席を外させてもらいますわ。ごきげんよう」
「「「ごきげんよう」」」
従者のトビと共に舞踏会場の隅に移動する。
周囲の人に声が聞こえない場所に。
「それでトビ、報告は何ですの?」
「例の件にございます。たった今、聖女様が王城を出たと報告を受けました」
やはりあの件ですか。
かわいらしい聖女様も、今日でお終いのようですね。
私が社交界で遊んでいる間に婚約破棄をしていればいいものを。
多くの貴族がいる舞踏会の中で、ポツンと一人でいるのがそんなに好きなのでしょうね。
彼女は。
一人が好きな聖女様にはプレゼントを贈ってあげましょうか。
彼女には、この世から退場してもらいましょう。
私のコケにしつづけてきた報いを受けてもらいます。
さぞ、あの方々には大人気でしょうから。
「手配は済んでいますの?」
「御意に。聖女様が家につくことは、永遠にないかと」
「ふふっ、任せましたよ」
「ははっ」
聖女様の葬式では、涙を見せてあげましょうかね。
悲しみにくれるミハエル様を、私が慰めて差し上げますの。
二人で肩を寄せ合って嘆き悲しみ、心の距離を縮めるのです。
彼女の死は、私とミハエル様を繋ぐいいきっかけになるでしょうね。
私とミハエル様の物語が・・・今、始まるのです。
ふふふっ。
そう想うと、胸がワクワクしてきますわ。
もう少しで笑い出してしまいそうです。
期待に胸が膨らみます。
私の未来は、明るいですわっ!
悪役令嬢の女子会でした。
次は、とんでもないことになるかもしれない・・・マリア視点です。
※本作はハッピーエンドです。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
7月7日ですので。
七夕短編投稿しました。宜しければご覧下さい。
↓
『大嫌いなお星様』(ハッピーエンドor悲恋ものです)
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