皆、ありがとう
あたしが目覚めると。
誰かが頭を優しくさすっていた。
くすぐったいような感触。
誰だろうと思いまぶたを開くと・・・
「お目覚めかい、お姫様」
バッカスの顔が映った。
あたしはベッドで寝ていた。
天蓋つきのベッド・・・
「あれ?あたし・・・・どうして・・・うぐっ」
動こうかした瞬間。
激痛が走る。
全身が痛い。
「マリア、大丈夫かい。動かないほうが良い」
「そうスラよ~。じっとしてるスラ」
あれ?
スラちゃんとバッカス仲良く並んでいる。
どうして?
スラちゃんのことはバッカスに隠していたはず。
あっ。
その瞬間思い出した。
そうだ。
あたしとスラちゃんが話していると、バッカスが突撃してきたの。
それで・・・
色々あってスラちゃんとバッカスが戦って・・・
あたしは2人の間で叫んだの。
「やめてっ!もう争わないでって」
でも・・・
そこからが思い出せない。
多分・・・
白い光に包まれてあたしは気を失ったと思うけど・・・
確信がもてない。
思い出せない記憶がわずらわしい。
「ごめんな。マリア」
「ごめんなさいでスラ」
2人ともとても悲しげな顔をする。
なんで謝っているの?
2人は悪くないよ。
悪いのは全部あたしなのに。
バッカスにスラちゃんのことを隠していたのはあたし。
彼の誤解をとけなかったから、スラちゃんは身を守るために抵抗しただけ。
あたしさえしっかりしていれば・・・
あんなことにはならなかったのに。
もう・・・やめて。
優しすぎだよ・・・皆。
スラちゃんもバッカスも全然悪くない。
「そんな顔しないで。悪いのは全部あたしなんだから。
2人は当然のことをしただけだよ。だから謝らないで」
「いや、違う。悪いのは俺達だ」
「そうスラ」
2人はシンクロしたように首を振る。
本気で自分達が悪いと思っているようだ。
そんなのおかしいよ。
「君が寝ている間にスラちゃんと話したんだ。
お互い一時的に戦闘不能状態だったから、話すことしかできなかった」
「そうスラ。ご主人しゃまの光がスラ達を無害化したスラ。
ご主人さまのように優しい光だったスラ」
「でも・・・」
あたしが口を挟もうとするけど。
「マリア、どうか最後まで言わせてくれないか」
「ご主人しゃま、お願いスラ」
二人の真剣さに負けてしまう。
「うん」っと軽く頷く。
「スラちゃんが君の従魔だということは聞いたよ。
君が自分の力のなさを嘆き、勇者パーティーのために力をつけようとしていたことを。
でもそれは間違いだよ。マリアは俺達のパーティーにはかかせない存在だ。
君が一番大事なんだ」
あれ?
スラちゃんには話していないはず。
なのに何故・・・
あたしの思いをバッカスが知っているの。
不思議な顔でスラちゃんを見ると。
「従魔契約をすると、偶にご主人しゃまの思いが流れてくるスラ。
伝えるのを忘れたスラ。ごめんなさい」
「ううん、いいよ。スラちゃんのお陰で新しい魔法を使えるようになったんだから」
「ご主人しゃま、優しいスラ」
「マリアはいつだってこうなんだ。
君は自分を卑下しすぎなんだ。
君が俺達の足をひっぱているなんて思った事は、一度だってないのに」
バッカスがあたしの髪を優しくすくってくれる。
スラちゃんも、頬をプニプ二の触手?で撫でてくれる。
「マリア、俺が勘違してしまったばかりに悪かった。
実は、図書館で会った時から君の異変には気づいていたんだ。
君に何か起きているんじゃないかと不安でたまらなかった。
それでスラちゃんの姿を見た瞬間・・・
だめだった・・・
君のことを思うと自分を抑えられなかったんだ」
「スラもごめんなさいです。
従魔なのに、ご主人者命令に逆らってしまったスラ。
驚いてあたふたしたら、戦っていたスラ」
もう・・・
皆・・・
バカなんだから。
そんなに優しくしないでよ。
バッカスに、スラちゃん。
そんなに優しくされたら・・・
あたし・・・
泣いちゃうよ。
ううん。
もう目が潤んできちゃった。
でも・・・
ここで泣いちゃダメ。
泣いたら2人にまた迷惑をかけちゃうだもん。
涙を見せちゃダメ。
必死に目に力をいれてこられなきゃ。
あたしが泣いたら、きっと2人が困っちゃう。
「ありがとう。バッカスにスラちゃん」
「マリアが礼をいうことないよ」
「そうスラ。悪いのはスラ達なの」
もう・・・
これじゃずっとお互いに謝ることになっちゃう。
なら・・・
「ねっ、バッカスもスラチャンも。ならこうしましょう」
「なんだい?」
「スラッ?」
2人は不思議な顔をする。
あたしが何を言うのか見当がつかないようだ。
キョトンとした表情をしている。
「皆で仲直りするの。ほら、手を重ねましょう」
あたしは自分の手を動かそうとするが・・・
「ぐっ・・・」
少しでも体を動かそうとすると激痛が走る。
すっごく痛い。
半端なく痛い。
これまで味わったことのない痛み。
でも、痛がっているのがばれてはいけない。
これ以上、皆には心配をかけられないだもん。
あたしは痛みを飲み込んで笑顔をつくる。
笑顔笑顔。
痛みになんてまけないんだから。
「マリア、大丈夫かい?」
「スラスラ」
「大丈夫。ごめんなさい。ちょっと寝違えたみたい」
「まったくマリア。気を使わなくてもいいよ。
あれだけの魔力を使って、体に負担がこないわけがないんだから」
「そうスラよ~。ご主人しゃまは絶対安静スラ」
「ほらっ。俺とスラが君の手に重ねるよ」
「スラッ」
バッカスの手とスラちゃんの触手が、あたしの手に重ねられる。
2人の暖かさを感じる。
「ありがとう。あたし・・・お礼をいってばかりだね」
「ははっ、マリアらしい」
「ご主人しゃまスラ~」
2人の笑顔がまぶしい。
顔を見ているだけで元気がでてくる。
「今日も頑張ろう」って感じになる。
だめ・・・
暖かさにふれると涙がでてきちゃう。
頑張れ!
あたし!
こらえないと。
頑張らないと。
あと、もう少しなんだから。
「皆で手を重ねたでしょ。これで仲直りね。
これまでのことは全て水に流しましょう。
皆悪くて、皆良い。それでいいじゃない」
「素晴らしい言葉だね、マリア。俺は勿論賛成だ」
「スラも~スラも~賛成」
あたし達は重ねた手をにぎりあい。
お互いの暖かさに触れていく。
「はい、じゃあこれで皆仲良しだね。
バッカスもスラちゃんも、改めて宜しくお願いします」
「あぁ、マリア、これからも宜しく」
「ご主人しゃま~宜しくスラ」
あたし達はお互いに自己紹介した。
最後まで涙はこらえようと思ったけど。
だめだったみたい。
だって・・・
「マリア、何を泣いているんだ?」
「大丈夫すら?」
二人が心配そうにあたしを見てくれる。
あたしの手が動かないことを知っているので。
バッカスが優しく涙をふいてくれる。
「なんでもないよ。恥ずかしいから泣き顔はみないで」
「泣き顔のどこが恥ずかしいんだ。良い顔だ」
「そうスラ。ご主人しゃまはとっても奇麗スラよ」
もう・・・
二人とも真剣な表情で言うんだもん。
まるで本気いってるみたいに。
褒められるとくすぐったい。
泣いているのに・・・
笑っちゃう。
もう・・・自分の感情が制御できないよ。
皆、ありがとう!