光のマリア
大剣を持ち戦闘モードのバッカス。
気迫を感じる。
彼は本気だ。
「バッカス、違うの・・・」
「マリアッ!こっちにこい。魔物から離れるんだ!」
えっ、何?
一瞬理解が追いつかなくて、キョトンとしてしまう。
一体どうしたっていうの?
何でそんなに怒ってるの?
バッカスはあたしに怒鳴ったことに気づいたのか。
しゅんと顔を弱めてから。
「すまない、でも魔物から離れるんだ。そいつは危険だ」
「でも、スラちゃんが真っ二つに・・・」
「マリア、注意するんだ。その魔物は死んではいない」
バッカスは荒々しくあたしの手をとり手元に引き寄せる。
彼の胸の中に納まるあたし。
彼の匂いがする。
あたしとバッカスの目の前で、スラちゃんは再生して再び一つの姿に。
元通りの姿だ。
どこも変わっていない。
「スラッ~ビックリしたスラ~」
「やはりな、強力な固体か・・・無傷とは恐れ入った。
一応やるつもりで放ったのだがな。かなりの強敵か」
「スラッスラッ。ご主人しゃま~。スラをいじめないでほしいスラ~」
ウルウルと瞳を濡らし、振るえるスライム。
あたしに向って懇願している。
スラちゃん・・・
「バッカス、大丈夫なの。スラちゃんは、あた―『君は俺の後ろに』
「きゃっ」
あたしの主張は遮られて、バッカスの背中に引き込まれる。
彼の引く手が強すぎて、ソファにフワっと着地する。
――「オラアアアアアァァァ!」
間髪いれず、バッカスがスラちゃんに襲い掛かる。
大剣を勢いよく振りおろそうとする。
――「スラッスラッ」
スラちゃんの周りに白い光の縄が出てきて、バッカスを拘束する。
白い光の縄は彼に絡みついていく。
「ぐはぁっ。何だこれは・・・力が・・・・出ない」
バッカスの動きが止まり、床にへたりこむ。
息が荒くなっている。
彼が弱っているようにも思える。
「スラちゃん・・・何したの?バッカスに何をしたの?」
「スラッ。光魔法スラよ~。生命力を吸い取って拘束するスラ。
光魔法は生命の力。ご主人しゃまも練習すればできるようになるスラ」
「スラちゃん、やめて、バッカスを離してあげて」
「ご主人しゃま。離すと危ないスラ」
「バッカスは大丈夫よ。ちょっと勘違いしているだけなの」
――「マリアァァァァアア!!俺は大丈夫だあああぁぁぁあああ!」
無理やり光の縄の拘束をはがしたバッカス。
彼は身体強化魔法を使っているようだ。
上級モンスターを相手にする時に使う、特別な魔法を。
「ス、スラッ。な、なんて力スラ・・・これが勇者の力・・・」
プルプル震えて驚くスラちゃん。
予想外のことだったのか、振動しすぎて波打っている。
スラちゃんはちょっとビビり症のところがあるのかも。
「スライム、お前はここで倒す」
「スッ、スラも負けないスラ」
「ちょっと、待って二人とも。あたしの話を聞いてっ!」
だが、あたしの声は届かない。
二人からは何の反応もない。
戦闘に入れば、あたしはいつだって傍観者。
これまでもあたしは何もできなかった。
いつも皆の後ろで守られていた。
それがあたし。
でも・・・
ううん・・・
だめ。
そんなのだめ。
あたしだって・・・できることはあるんだから。
決して傍観者じゃないんだから。
絶対に違うんだからっ!
――「オラアアアアアアアアァァァァアアア!」
――「スラッスラッスラッ!」
バッカスとスラちゃんの魔力が膨れ上がり。
強力な攻撃が繰り出されようとする。
だめ。
もうやめて。
2人が戦う姿は見たくない。
スラちゃんも、バッカスも。
全部誤解なの。
これ以上戦ってはダメ。
――――「もうやめてー!。あたしのために、争わないでぇえええ!!!」
気づくとあたしは・・・
無意識に体が動いていた。
スラちゃんとバッカスの間に入っていた。
彼らの攻撃が放たれる瞬間に。
「お、おい、マリアっ!。くっ、攻撃が止まらねー!」
「スラッ、スラッ、まずいすら。魔法を止められないスラ」
2人の攻撃があたしに当たる瞬間。
先程覚えた魔法。
閃光魔法を最大出力で放つ。
お願い。
届いて・・・
あたしの思い。
もともと争う必要なんてないんだから。
二人とも・・・
もうやめて。
お願いだから。
あたしのために争わないで。
――――『フラッシュ』
「うわぁっ!」
「スラッ!」
あたり一面が白い光で包まれる。
あたしを中心に沸き起こった爆発的な魔力の本流。
ドンドンと体の中が脈打つのが分かる。
あたしの中の何かがあふれ出てくる。
意識を失いそうになるほどの魔力の動き。
魔力は白い光と合わさり全て包み込み・・・
バッカスとスラちゃんの攻撃すら打ち消していく。
あっ・・・
よかった・・・
二人を救えたみたい・・・
本当によかった。
傍観者だったあたし・・・
やっと何か一つはできたみたい。
あたし・・・
少しは成長したのかな。
勇者パーティーの皆の足を引っ張らないぐらいには。
でも・・・
なんだろうな・・・・
なんだか眠くなってきた。
ウトウトしてきちゃった。
意識も限界みたい。
体の感覚が全然ない。
もう・・・・だめ。
まぶたが重いよ。
立っているのも限界。
足がプルプル震えているし。
目も開いていられない。
もう・・・色々無理だよ。
十分頑張ったよね・・・あたし。
これでいいんだよね・・・
バタンッ
あたしは光の中で倒れた。
同時連載しておりました。
「ビューティフルざまぁ」無事完結しました。
宜しければ、ご覧下さい。