スライムさんを従魔にしました。
「マリア、俺の後ろに隠れているんだ。いいな、絶対だぞ。絶対に離れるなよ」
「うんっ」
「それにしても、一体さっきの叫び声は・・・」
バッカスは大剣を握りながら階段を上り、部屋の中を進んでいく。
彼は無しでは、この階にはあたし達勇者パーティーの貸切。
つまり、声の主はパーティー内の誰かになる。
あたしは彼の背中に隠れて、チョコンと回りを伺いながら歩く。
ちょっと怖い。
ビクビクしながらも、彼の大きな背中に触れて進み。
声の発生源と思われる部屋に入ると・・・・
机が壊れてメギドが床に倒れていた。
その横では申し訳なそうな顔のゴル。
クマみたいに大きな体を小さくしている。
「ゴル、メギドはどうしたんだ」
「おっ、バッカスかー。心配いらん。ちょっと遊んじょったら、もやしのメギドがポキッとな」
「なにをいってるんですか、ゴル。お茶目にいわないでください」
倒れていたメギドが、埃をササッと払いながら立ち上がる。
怪我はないようだ。
「でもどうしたの?悲鳴が聞こえたけど」
「おや、マリア譲もいたのですか、バッカスの影で見えませんでした。お許しを」
「さっきの悲鳴はメギドのじゃけん。がははっ。オナゴのような声をあげておった」
「笑い事ではありませんよ。とっさに魔法を発動しなければ怪我をするところでした」
「メギドなら大丈夫じゃろ」
和やかな二人。
どうやら悪ふざけだった模様。
男同士のパーティーではよくあることなのかも。
彼らはあたしが見ても仲がいいのが分かる。
「それでメギド、何があったの?」
「すみませんマリア譲。話しが脱線していましたね。
私とメギドが腕相撲をしていたのですが。
ゴルが負けそうになり、ルール違反の身体強化魔法を使ったのです」
「メギドが最初に使ったから我も使ったじゃけん。
魔法発動を隠せると思ったようじゃが、甘かったのう。
我が見抜けるわけなかろうに」
「確かに・・・かなり周到に隠匿したのですが、ゴルの探知能力は高いようですね。
さすが魔法防御で名高いゴールド家といったところかもしれません。
ゴルはがさつですが、繊細ですからね」
ゴルとメギドは再戦について話し出した。
あたしは誰も怪我をしてなくて安心しつつ。
壊れた机をみて魔法を発動する。
「クリエイト・リバース」
真っ二つに割れた机が元通りに。
貧乏な孤児院では、子供達が暴れまわって色々なものが壊れた。
その度に買いなおしていてはお金が足りない。
だからあたしが魔法で直していた。
聖女生活で覚えた便利魔法の一つ。
「マリア譲、ありがとうございます」
「すまんのう。マリアちゃん」
礼儀正しく礼をするメギドと、恥ずかしそうに頭をかくゴル。
もうっ、これぐらいいいのに。
あたしにとっては簡単なことだし。
魔物との戦闘に比べれは楽。
「いいよ。これぐらいしかあたしはできないから」
「いえ、謙遜なさることありません。十分に凄い魔法ですよ。私にもできない魔法です」
「そうじゃそうじゃ、マリアちゃんは器用じゃけんのう」
褒められると心苦しい。
本当にあたしは、勇者パーティーの皆に比べると大したことないのに。
皆、優しいな。
ついついこの空間に甘えたくなってしまう。
でもだめ。
ちゃんとあたしも皆と一緒のレベルまでいかないと。
バッカスがあたしの雰囲気を察したのか。
「マリア、疲れただろう。ベッドで休むといいよ。フカフカの布団だったろ」
「ありがとう。では、少し休むことにします」
「夕食時になったら呼ぶから、ゆっくりするといい」
「マリア譲、ごゆっくり」
「マリアちゃん、暫くさいならじゃ」
あたしは自分の部屋に入った。
とんでもなく豪華な天蓋つきのベッドでゴロンとしていると。
何故か落ち着かない。
元々貧乏孤児院出身だからか、ソワソワする。
右にコロコロ。
左にコロコロ。
再び右にコロコロすると。
「いい部屋でスラね~スラッスラッ」
「!?」
あたししかいないはず部屋の中から、声が聞こえた。
ササッと首をふって回りを確認するけど・・・
誰もいない。
気のせいかな?
幻聴?
バッカスのいう通り、疲れているのかな・・・
「こっちスラよ~マリアさん、こっちスラ~」
声の方向を見ると、机の上にスライム師匠の姿?
何故か半透明。
うっすら後ろの景色がすけている。
「スライム師匠、どうしてここに?」
どうやってここに入ったの?
メギドもゴルも近くの部屋にいた。
あの2人の魔物察知能力はかなり高いはずなのに。
「ずっと後ろを歩いていたスラよ。光魔法で姿を隠匿していたスラ。
こうやって光を調整するスラ~」
目の前でみるみる見えなくなったかと思うと・・・
再び存在が露になる。
そ、そういえば・・・・
スライム師匠は透過魔法が凄かったんだ。
さすが光マスターの師匠。
王立図書館に侵入するだけはある。
「師匠。さすがです」
「マリアさんもできるスラよ~。それより図書館では話しが途中だったスラ」
そういえば・・・
師匠から貰った「吸収」能力で本を吸収し終わったら。
いきなりバッカスが現れて・・・
それで今に至る。
「マリアさん、スラと従魔契約して欲しいスラ~。魔法を教えるのなら、その方が便利スラッ」
「というと・・・」
「訳はこうスラ」
スライム師匠は説明を始めた。
従魔契約の概要は以下らしい。
・主は従魔に一定の魔力を供給し続ける
・従魔は主に従う必要がある。
・心の中での会話、念話ができるようになる。
・お互いの居場所を大まかに把握できるようになる
・魔力供給をし合えるようになる
「でもいいの?スライム師匠。あたしより強そうなのに」
「良いスラよ~。マリアさんは良い人そうでスラ。それに聖印があるなら問題ないスラ」
聖印・・・
図書館でもスライム師匠は言っていた。
特徴は赤髪で、魔物魔法を使えることのようだけど・・・
「師匠がいう聖印は、赤髪のこと?」
「そうスラ。赤髪は一つの特徴で、本質はオーラスラ。よくみると他の人と全然オーラが違うスラよ」
そうなんだー。
腕輪の呪いでオーラを纏うようになったのか。
それとも・・・元々素質があったのか分からない。
「従魔契約するスラ。手を頭に乗せて~」
ぺタッ
言われたとおり。
スライムのプニプ二した頭に手を載せると。
【ピクシースライムを従魔にしますか?】
んん?
頭の中に聞こえる声。
この声・・・
噂に聞いたことがある。
魔法関連で時々聞く神の声という奴だ。
なら、答えは決まっている。
『はい』
白い光であたしとスライム師匠が繋がれる。
二人を結びつける光が収束し。
あたしの中の魔力がもっていかれるのを感じる。
【ピクシースライムを従魔にしました。】
「これでいいスラね。ご主人しゃま、よろしく頼むスラ」
マリアさんから呼び名が変わったようだ。
あたしがご主人しゃまかー。
いいのかな~、本当に・・・
「こ、こちらこそ、よろしくね」
「スラッスラッ」
スライムさんは元気一杯だ。
「マリアァァァァ!大丈夫か?無事か?」
何やら聞いたことがある声がすると。
バッカスが大剣を持って慌てて入ってきた。
あれ?
デジャブ感。
本日二度目のバッカスの突撃だった。
新連載始めました。
↓
「彼女が二股していたので、腰が砕ける程衝撃を受けた。」
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※完結まで毎日投稿です。