【公爵視点】 ミハエルの心意
【ミハエル公爵視点】
「ミハエル。さようならっ!あたしは旅立ちますわっ!」
「ま、まった、マリア!・・・これには・・・訳が・・・実はさっきのは・・・」
俺が呼びかけても、マリアは止まらなかった。
彼女が出て行った部屋。
残されたのは俺とナターシャ。
まるで光が失われたようだ。
マリアがいなくなってしまえば一気に世界は暗くなる。
光の源の彼女がいなければ、この世は荒廃したつまらない世界。
それよりも・・・
許しておくれ・・・マリア。
君に暴言を吐くのはつらかった。
つらい言葉を浴びせる度に胸が痛んだ。
本当はそんなこと言いたくないんだ。
でも・・・言わなければいけない。
君のために。
俺はマリアを言葉で傷つけるたびに。
心臓に釘をうたれている気分だった。
ズキズキと痛む胸の痛み。
マリアを悲しませたくなのに・・・
今はそうしなければいけない。
君のために。
今すぐマリアの後を追って抱きしめたいけど。
それもできない。
今は出来ないんだ・・・
許しておくれ・・・マリア
君のことが大好きなのに・・・
ふと腕がワサワサするなと思うと。
ナターシャが俺の腕をとり、フリフリドレス生地があたっていた。
くすぐったい。
「ミハエル。どうしたの、ぼーっと扉を見て。
これであのヒカリ女とおさらばできるんだよ」
「ナターシャ、彼女を侮辱するのは俺が許さないっ!
ちゃんとマリアの名前を呼ぶんだよ。マリアに失礼だろ。
というか、いつまでふざけてる」
「えー。さっきまであんなに彼女に怒っていたのに」
「君は訳を知っているだろ。
本気で怒っているように見えないと、マリアは信じてくれないからね。
賢い子なんだよ、マリアは」
少し拗ねたような顔をするナターシャ。
プイっと顔を背けて口を尖らす。
「なんで私にあたるの~」っという雰囲気だけど、すぐにニカっと笑う。
「でも、ミハエルも悪い人ね。
わざわざマリアに嫌われるようなこと言って。
正直に全て話せばいいのに。
あたしがマリアの立場だったらそうしてほしいなぁ」
ナターシャの言いたいことは分かる。
その道も考えた。
でも・・・
「ダメだっ。マリアは優しい人だからね。話せば彼女も巻き込んでしまう。
いつだって彼女は人のためになろうとするからね。
つらいけど、彼女が幸せになるには今はこうするしかないんだ」
「あんなに奇麗で優しい人だからね・・・マリア。
私、初めて彼女を見たときビックリしちゃった。
お姫様って本当にいるんだって・・・容姿だけでなく、心も雰囲気も他の人は全然違ったわ。
ミハエル・・・マリアのこと好きなのでしょう?」
好きだって?
当たり前だろ。
そんな答えるまでもない。
例え100回聞かれても、100回好きと答えることができる。
「当然だ・・・言わせないでくれ。だからこそ俺から遠ざけるんだ。
一番大事な人だからこそ、遠くに置かなければならない。
それに、これ以上社交界で彼女が侮辱されるのを見たくないんだ」
マリアが会場の隅でこっそりとしているが。
やはり彼女の存在感は消すことが出来ない。
多くの人がついつい彼女を気になってしまう。
だから第三王女達も放っておけないのだろう・・・
自分より優れた人物を見るのが耐えられないのかもしれない。
「ミハエル。心配そうに見ていたからね。
第三王女様がマリアのところにくと、すっとんでいくんだもん」
「マリアの被害を最小限に済ますには、ああするしかない。
非道なワインかけを止められなかったのは、一生の後悔だ。
まさに鬼畜の所業だった・・・第三王女め・・・地獄のような女だ」
赤ワインに塗れたマリア。
健気にも気丈に振舞っていた彼女。
くっ、自分の無力さに打ちひしがれる。
「私、ひやひやしちゃったよ~。第三王女様相手に暴れるんじゃないかと」
「ふっ、危機一髪だったよ。もう少しで愉快なことになっていただろうね。
俺の寛大な忍耐も限界に達していた。
それでナターシャ、話は変わるけど・・・」
「何?」
「なんでここに来たんだ。今日の舞踏会には出席しないはずだろ」
「予定が変わったの。あなたを驚かせようと思って。どう?驚いた」
「とっても驚いたよ。心臓に悪いぐらい」
凄くね。
これでは計画に不都合が出るかもしれない。
マリアが勘違いしてとんでもない行動を取らなければいいけど。
彼女は思い込みが激しいところがあるから。
自暴自棄な行動に出ないことを祈るばかりだ。
というか・・・さっきから右腕が思い。
ナターシャに掴まれているというか、絡みつかれている。
「ナターシャ。いいかい、よく聞くんだ」
「何?」
「今すぐ腕から放れてくれ」
「えー、なんでっ?なんでっ?」
ピュアなクリクリ瞳のナターシャ。
言葉の意味を分かっていないのか。
それともあえて戯れているのか。
多分、後者だろう。
「君と俺はそういう仲ではないだろ。あまりふざけないでくれ。
マリアが誤解したかもしれない。
俺と君が恋仲だと思っているかもしれないんだ」
「そうかなー。仲良くするのは良いことでしょ。私達、とっても仲良しでしょ」
はぁー。
ナターシャはピュアというか。
とてもなんというか・・・無邪気だっ!
「ほらっほらっ」
「わわっ」
無理やり右腕を動かすと。
彼女が右腕にしがみついて浮かび上がった。
お、重い・・・
イヤイヤイヤ。
片腕で持てるから軽いのかも。
ワンハンドガールか・・・
「腕から離れるんだ」
「そんなー」
フンッと腕を振ると。
「キャキャッ」と楽しそうに笑ってナターシャは放れた。
ネコの様にストンッと着地する。
そういえば、クリクリした目も仕草も。
すばしっこいところも。
ナターシャは猫っぽいな。
前世は子猫かもしれない。
なら、マリアは光の妖精かな。
彼女ほど美しくて、魅力的な人は見たことがない。
人を超越している。
美の女神といっても過言ではない。
「でっ、ナターシャ。戻ってきたんなら、『アレ』はとってこれたのかな?」
「大丈夫だよ~。あたしを誰だと思ってるの。ちゃんとやることはやるんだから」
「信用しているよ。『アレ』を見せてもらいたいけど・・・」
彼女は鞄なども持っていない。
手ぶらだ。
すると・・・
「今は持っていないのかな?」
「ちゃんと有るよ。ちょっと待ってね」
ナターシャがドレスの中にごそごそ手を入れると。
一枚の証書を取り出す。
そこそこ大きな紙を服の中に収納していたらしい。
いやはや・・・内ポケットが豊富なドレスなのかもしれないな。
「はい。税関の記録。中々大変だったんだよ~。誰にもばれずにやるのは」
※税関=国に入ってくる商品をチェックし、通行税を取る場所
「よくやった。偉いぞナターシャ。
でも君の家も公爵家なら、密偵ぐらいはいるんだろ」
「色々あったんだよー。最近はチェックが厳しいの」
そうなのかー、大変だなと思いつつ。
受けとった書類を見ると。
「やはりここ数ヶ月・・・かなりの武器が王城に納品されているようだ」
「そうだね。戦争でもできるぐらいだよ。今はどの国とも、魔物とも戦争をしていないのにね」
「これからするんだろう」
「でも、今は隣国と魔物達とも上手く行っているはずだよ。魔王だって大人しくしているよ」
「別に外の国と戦うのが戦争というわけでもない。国の中での戦争もあるんだ」
「じゃあ・・・誰かが内戦を行おうとしているの?」
「分からない。それを突き止めるのが、俺と君の役割だ。
代々君の家と俺の家は王家を裏からサポートしてきた。
最近の王城がおかしいのは君を気づいているだろ。
特に第三王女様は・・・時々常軌を逸している」
「うんっ。頑張ろうね。あたしも張り切っちゃう」
「まずは、王城に入り込んだ異分子を見つけ出す。
魔物か、敵国の人間か、どちらにしろ入り込んでいるのは間違いない。
ナターシャ。君は貴族令嬢たちの間を頼む」
「任せといて。私はお茶会クイーンなの。でもいいの?マリアをあんな風に扱って」
「ふっ、マリアは聖女。市民に影響力がありすぎる。それに俺の傍にいれば争いにまきこまれる。
暫く修道院にこもって安全にしてもらいたいんだ。彼女のためにはそれが一番なんだ」
「マリア・・・旅立つっていたよ。妙にスッキリした顔で。つき物でもとれた顔で」
「・・・あぁ、心配だ。君にもそう見えたか・・・
彼女は・・・その・・・ちょっと変わっているから。
思い込みが激しいんだ・・・
大人しくしてくれていればいいんだけど」
俺はマリアの無事を祈った。
マリア・・・もう少しの辛抱だ。
君が安心して暮らせるよう・・・俺が場を整える。
待っていておくれ。
君と俺の未来は・・・きっと明るいはずだからっ!
次は、第三王女様のお話です。
なぜ、彼女はマリアを嫌うのか・・・
同時連載中の「ビューティフルざまぁ」ですが、
佳境 (ざまぁ)に近づいております。
宜しければ、ご覧下さい。




