リューイと水切り
トーマスが去ってから。
あたしは滝傍の椅子に座って水面を見つめていた。
ポイっとエサをお魚に向って投げていると。
「マリアっち。どしたん?」
いきなり後ろから頭をサクっと撫でられる。
うおおおっ!
ひいいいいいっ!
ビクった。
いきなりだったからすっごくビックリした。
後ろを向くと・・・
なんだ・・・リューイか。
「前から話しかけてください」
「しょんぼりしていたんじゃね。だからビクってさせたんよ。ビクった?」
「少しだけ・・・」
「ほーう。ならよかったじゃん」
リューイは隣の椅子に座る。
彼も木の実を持っている。
売店で買ってきたんだと思う。
「マリアっち。さっきの人知り合い?」
ドキッとした。
胸が震えた。
まさか・・・見られていたの?
あたしの真の姿については暫く隠していたい。
マリア・マーマーレード伯爵令嬢であることは。
だから、従者のトーマスとの関係も。
「違います・・・」
「そう・・・そうねー。まぁ、色々あるんじゃね。別に詮索するわけじゃねぇし。
奴もそこそこ元気でたみたいだったからな」
うん。
トーマスも元気にやっていけばいいけど・・・
「ですね・・・」
「ほらよっ。見てなっ」
リューイが木の実を水面になげる。
ポン ポンっと水面を跳ね返って、最後には・・・
水面に置かれている魚の銅像の口に乗った。
「水切りっていうんだよ。マリアもできるんじゃね?」
あたしはリューイをマネて木の実を投げてみるけど・・・
ポンっと一回水面で跳ねたかと思うと・・・
木の実は沈んでしまう。
「マリアっち、水面に平行にして投げるんだ。こうやって、横回転かけるんだぜ」
リューイが木の実を投げると、水面を跳ねていく。
あたしは真似して投げるけど・・・中々上手く行かない。
「ほらっよ。どんくさくね?こうするんじゃん」
後ろからリューイがあたしの腕を掴む。
「こうやって、腕を水平にふるんよ。いいか?
でっ、こうやって手首のスナップでパシッとっして?分かったじゃん?いくぞっ!」
「えっ!?」
「おりぁっ!」
リューイがあたしの腕を無理やる動かして木の実を投げる。
変に力が入ったためか・・・
木の実は水面に跳ね返らず。
お魚に直撃した。
「あっ・・・」
「・・・・・・・」
木の実が当たったお魚さんはとっても痛そう。
プクっと口を膨らませている。
怒りんぼうだ。
「マリアっち、魚をいじめるなよー。魚が怒ってるじゃね」
「あ、あたしのせいじゃーないよー。リューイが・・・」
もぅ・・・。
あたしはリューイのスネを蹴ろうとしたが・・・
さっとかわされた。
くぅ・・・二度目の攻撃は効かないのかも。
学習しおった・・・リューイの癖に。
「まぁ、今日はこのへんにした方が良いんじゃね。俺に感謝しろよ」
「な、なにを・・・」
「マリアっちが辛気臭い顔をしていたからな」
「・・・」
えっ。
まさか・・・
今あたし、リューイに気を使われていたの・・・
ただ単にからかわれているのかと思ってたけど。
「ほらっ、部屋に戻るぞ。十分お魚鑑賞は済んだだろ」
「・・・そう・・・かな」
あたしはリューイについて部屋に戻ることにした。
◇
部屋に戻ると・・・
皆がラウンジでくつろいでいた。
バッカスはソファに座って剣の手入れをしていた。
入念に剣を磨いている。
愛用の武器は手入れは大事なのかもしれないな。
メギドは魔導書?を読んでいた。
椅子にピシッと背筋を伸ばして読書中。
インテリの雰囲気。
ゴルは・・・
ええっ?
器用にトランプタワーを作っていた。
繊細な手つきで、慎重にカードの山を作っている。
遊んでいるだけかもしれないけど・・・
多分・・・何かの特訓だと思う。
あたしもラウンジのソファにチョコンと座る。
皆特訓しているようだから・・・
さすがに一人だけぼけーっとするのもいけないと思ったから。
よしっ!
あたしも自分の能力を磨こうっ!
さてさて。
あたしができるのは光魔法。
回復魔法が主で、他は細々とした便利魔法。
戦闘でも役に立ちたいので・・・
やはり、攻撃に使える魔法がほしかった。
時々やっている特訓を開始する。
目の前に光の球を浮かべて、ヒョコヒョコ動かす。
光魔法の訓練方法の一つ。
この光の球を何個動かせるか。
それで大まかな実力が分かると、教会の師匠は言っていた。
あたしは集中して光の球を動かす。
まずは一個目。
よしっ。
上手くできた。
次は二個目。
よしっ。
こっちもOK。
どんどん数を増やしていくよ。
ヒョコヒョコ光球を増やし・・・
増やしていくと・・・
5個までは上手く出来た。
しかし・・・そこで止まってしまう。
やっぱり同時に動かすのは難しい。
あっ。
しまったっ!
パシュン。
光の球が消えてしまった。
「これはこれはマリア譲。5個も同時に動かせるのですか。中々凄いですね」
ふと声のほうを見ると。
メギドだ。
彼がいつの間にか近くにいた。
魔導書を読むのはやめたようだ。
「いえいえ。あたしはまだまだダメですよ。へっぽこです」
「光魔法が扱いが難しいと聞きます。5個でも十分凄いと思いますよ」
5大属性を扱えるメギドから褒められるとは・・・
「私は光魔法には詳しくありませんが、明日、図書館に行く予定です。
呪い関連の書物を読むのが目的ですが、きっと光魔法の魔導書もあるはずです。
私達といっしょなら、普段は閲覧できない本も閲覧禁止の本も読めるでしょう。
ご一緒しますか?」
図書館といえば・・・
王立図書館かな・・・
禁書の類にはあたしも触れられなかった・・・
ずっと読みたいとは思っていたんだけど・・・
ならっ、明日が楽しみ。
「はいっ、お願いします」
「では、今日はもうそろそろ休んだ方が良いかもしれませんね。
明日は王城に向わなければなりませんので」
「そうですね」
あたしは特訓を切り上げ。
部屋に戻って熟睡した。
お腹が一杯だったから、すぐに夢の中に落ちていった。
zzzz。
zzzz。