従者のトーマス
夕食も終わりに近づいた時。
レストランの入り口が騒がしくなった。
『おいおい。俺達が入れねーってどういうことだ』
『そうだ、そうだ。席は空いてんだろ』
目を向けると、荒々しい姿をした冒険者達の姿。
狩りの帰りなのか、所々血がついている。
『最低限のドレスコードがありまして』
『知るかボケッー!俺達は腹が減ってるんだ』
『客に料理を出すのがレストランだろがー』
『いえ、しかし、当店にはドレスコードがありまして・・・』
お店の人と冒険者が揉めているみたい。
バッカスは騒ぎに気づき。
背中の大剣を柄を握とうとする・・・
「待って、バッカス。ここはあたしに任せて」
「マリア・・・」
彼はポカンとあたしを見つめる。
バッカスが暴れると良くはないと思う。
「マリア譲、ここは私が収めてきましょう」
メギドが席を立とうとするけど。
ヒョイ ササッ
席を立って先に冒険者の下に向う。
あたしだって活躍できるとことを皆に見せないと。
「お、おい、マリア」
「マリア譲」
後ろか声が聞こえるけど、気にしない。
こういった揉め事は力で解決してはいけないと思うの。
孤児院の子供達の仲裁で慣れているし。
あたしが冒険者と店の人に近づくと。
「んん、奇麗な譲ちゃん、どうした?」
「どうされましたお嬢さん?」
二人ともあたしをポカンと見つめる。
?という顔だ。
「ここはあたしに任せてください」
あたしは両手を冒険者に向けると。
清掃魔法を放った。
すぐさま奇麗になる冒険者達。
新品同様のいでたちだ。
「これで、ドレスコードは問題ありませんわ」
「お、おぅ・・・ありがとな・・・譲ちゃん」
「どういたしまして」
ヒョイ スタッ
あたしはすぐさま自分の席に戻った。
後ろでは、キョトンした冒険者とお店の人。
数秒後
騒ぎは収まり、無事に冒険者達は席につけたようだ。
「マリア・・・中々やるな」
「マリア譲。お見事です」
「じゃけん。マリアちゃんの清掃魔法は凄いじゃけん」
「俺は、マリアっちがスネでも蹴るんじゃねーかとヒヤヒヤしたぜ」
「とんでもございません。あたしはできることをしたまでです」
あたしはお皿の上のお肉を食べた。
妙ないさかいは起こしたくなかったから。
騒ぎは起きない方がいいから。
皆仲良くしないと。
「皆さん、お食事が冷めてしまいますよ」
「・・・お、おう」
「そうでしたね。残り少しですので頂きましょうか」
あたし達の食事は進んでいった。
◇
レストランからの帰り道。
お腹一杯で満腹気分。
皆と一緒に滝の傍を通っていると・・・
どこかで見覚えがある者の姿を見かけた。
滝脇の椅子に腰掛けている。
悲しそうな背中。
そう・・・その姿は・・・トーマスだった。
あたしをオークの群れの前に置き、転移魔道具で逃げていった従者。
彼らはしょんぼりしながら木の実を水面の魚に向って投げていた・・・
しかし・・・
上手くエサやりは出来ていない。
木の実は直ぐに水面の下に沈んでしまう。
「んん、どうした?マリア」
バッカスがあたしの視線に気づいたのか・・・
話しかけてくる。
彼らには、あたしと従者のことは知られたくなかった。
だから・・・
「何でもありません。ただ・・・あの方。エサやりが上手くいっていないようでしたから」
あたしは言葉を濁す。
「そりゃー仕方がない。マリアみたいに上手く行く方が稀だ」
「そうじゃけん。マリアちゃんは特別じゃけん」
「マリアッチは何かあるんじゃね」
「そうですね・・・」
あたし達は上の部屋に戻る。
だけど・・・だけど。
やっぱりあたしはトーマスの事が気になってしまう。
だから・・・
「皆さん。あたしはもうちょっと滝を見て行こうかと思います。
先に部屋に戻っていてください」
それだけ言って、皆の下を離れた。
滝の傍に戻ってくると。
従者のトーマスはまだお魚にエサをやっていた。
あたしは木の実を近くの売店で買い。
チョコンと彼の横の椅子に座る。
「んん?あれっす?まさか・・・」
トーマスは目を凝らしてこちらをみている。
幽霊でもみたかのような顔。
「どうしたのですか?」
「いえっ、なんでもないっす・・・知人に似ていたものっすから」
トーマスは私だとは分からなかったようだ。
当たり前かな・・・
小さくなって赤髪になって瞳の色を変わってるんだから。
ばれるわけがない。
でも・・・
なんだかなー。
トーマスはすっごく悲しそうな顔している。
いつも能天気に明るそうなのがトーマスの取りえなのに。
「何か・・・あったのですか・・・あまり良い顔をされておりませんが?」
「少しあったっす」
トーマスがエサをポイッと水面に投げるが、お魚はよってこない。
あたしがポイッと投げると、パクッとお魚がエサを食べる。
「上手いっすねー。小さいのに凄いっす」
「簡単ですよ。真心をこめて投げるのです」
トーマスが木の実を水面に投げるが、お魚はよってこない。
「ははっ。あっしにはムリっすね」
「諦めることありませんよ。過去に何があったか知りませんが。
罪を犯したのなら、今からでも悔い改める事はできるのですから」
あたしが木の実を水面に投げる。
ポイッポイッっと。
お魚がパクパク食べる。
「あっしは大事な人を見捨ててしまったっす。とても素晴らしい人だったす」
「そうですか・・・それはお辛いですね。しかし、何故そのような事を・・・」
「実は・・・とある偉い人に人質を取られていたっす。
お嬢様を残して逃げれば家族を助けるって。お金やるって」
あー。
そういうことですか。
ちょっと変だと思っていたの。
トーマスが逃げるのは何か理由があるはずだと。
やはりワケがあったのですか・・・
「そうですか・・・あまり自分を責めるのはよくありませんよ」
「そうっすね・・・あっしは王都を離れるっす」
トーマスは木の実を全て池に投げたのか。
エサが袋が空になったようだ。
「つかぬ事を聞いても良いですか?」
「なにっすか?」
「先程の、偉い人とは誰なのですか?子供のあたしになら話してもいいのでは?
王都を離れるのでしたら」
「それは・・・そうっすね。三番目ぐらいに偉い王女様っすよ」
やはり・・・
第三王女様でしたか・・・
舞踏会でのやり口からそうかもしれないと思っていました。
まさか・・・馬車を襲われるとは思いませんでしたが。
「あっしは帰るっす」
「はい。さようなら。人は誰でもやり直すことができるのですよ」
「お譲ちゃんは優しいっすね。まるで聖女様みたいっす」
あたしは従者のトーマスと別れた。