婚約破棄?
ミハエルと二人っきりの個室。
舞踏会場を出る際、多くの貴族に見られた。
皆、あたしを嘲るような表情をしていた。
クスクスと笑っている者も多かった。
今目の前では、ミハエルがウロウロと歩き回っている。
怒りが収まらず、止まっていられないのかもしれない。
歩みを止めると死んでしまう魚みたい。
テクテクと、10回ぐらい机の脇を往復した後。
彼はあたしの目の前で止まり。
「もう、限界だっ、我慢できない!マリア、君との婚約は解消する!」
「・・・・」
「元々ただの政略結婚だ。俺はお前なんかと結婚したくはなかったんだ。
庶民の人気取りのために、冴えないお前と婚約してここまで我慢してやったのに・・・
なんだこの仕打ちは・・・いい加減にしろっ!」
あたしも同じ。
お父様に言われての結婚。
伯爵家が公爵家と結婚すれば財政は潤うから。
愛などない政略結婚だった。
でも、あたしは十分にミハエルを愛そうと努力していた。
つい最近までは、彼もあたしに優しくしてくれていた。
だからあたしは彼の愛情を感じ、尽くしてきていたのに。
なのに何故?
何故彼は変わってしまったの?
数週間前の彼はどこにいってしまったの?
何故、あたしを認めてくれないの?
「いつもいつも問題を起こして。王女様の機嫌を損ねて遊んでいるのか?
俺を苦しめるのが好きなのか。なぁ、どうなんだ?」
「違うのです・・・あたしは何もしていませんわ。ですが、王女様の方から」
「もう大人だろ。子供見たいなことを言うんじゃない。
王女様の言葉と、君みたいな何のとりえもない下級令嬢の言葉。
どっちが正しいかは明らかだ」
なっ・・・
なんで・・・ミハエル。
婚約者はあたしだよ・・・
確かに王女様は偉いけど・・・
あたしが婚約者なんだよ
なのになぜ・・・
「あたしのいうことを、信じてくださらないの・・・」
「一度はしたさ。でも何度もやられると・・・無理だ」
「そ、そんな・・・」
「いいじゃないか。お前は庶民に、特に男性に大人気の聖女様だからなっ。
奴らが信じてくれるんじゃないか。一体どうやって魅了したんだか。想像もしたくないが・・・・」
彼の言葉に含みを感じた。
嫌味を感じた。
怒気を感じた。
王女様と同じ雰囲気。
「何ですか?はっきりいってくださいましっ!」
「君は慈善活動と称して、いくつもの施設を回っているだろ。
随分多くの男性と親しくしていると聞いている」
それは孤児院を回っているだけで。
孤児院の運営者には男性も女性の方もいるのに。
「あたしは・・・『もういい!』
またしても遮られてしまう。
大声で怒鳴られるとビクっとしてしまう。
弱い自分がいやだ。
「俺には体裁があるし、お前は聖女だ。すぐには婚約解消はしない。
聖女様を振ったとなれば問題になる。
皆から忘れられるまで、お前は修道院にでも入って身を隠せ。いいなぁ!
理由はそうだな・・・なんでもいい、貴族生活が合わなかったでいいだろ。
それか『一人の男では満足できませんでした!逆ハーが好きな自分を戒めたい!』とでもいっておけっ!」
あぁー。
ここまで我慢してきたけど・・・・
もうっ・・・ここまでのようですね。
あたしの婚約者生活も終わりなのかもしれません。
「わかりましたわ」
「よかった。みっともなく粘ってこられたらどうしようかと思っていたよ。
じゃあな、皆の聖女様。せいぜい神にでも祈ってな。
汚れたドレスがお似合いだ。あばよっ!」
彼が部屋を出て行こうとすると。
一人の女性が入って来る。
フリフリドレスの女の子。
髪を縦ロールがかかっているお嬢様。
「ミハエル様、あれ、まだそのヒカリ女がいたんですか・・・」
ええ?
どういうこと?
というかどなた?
いきなりヒカリ女呼ばわりされましたけど・・・
「ナ、ナターシャ・・・何故ここに?」
急にキョドリ出すミハエル。
さっきまでの堂々としていた彼の姿は消えている。
始めてみた彼の動揺する姿。
ナターシャと呼ばれた女はミハエルの傍に寄り添い。
あたしを見てニヤっと笑い。
まるであたしに見せ付けるように彼に腕を絡ませて・・・
「きちゃった。ミハエル、もう婚約破棄したんんでしょう。
では、これで正式にあたしと婚約できますね」
「ナターシャ・・・ここでその話は・・・」
「えー、だっていってたでしょ。
ずっと前から冷めていて、中々そこのヒカリ女が婚約破棄に応じてくれないって」
あたしは今日初めてミハエルから婚約破棄の話を聞いた。
でも、これではっきりした。
彼がだんだんあたしに冷たくなってきた理由を理解した。
彼には別の女がいたの。
だからあたしに対して関心が薄れたの。
あぁーあ。
なんだったんだろうなぁ。
これまでのあたしは・・
彼のためにあたしは我慢してきたのに・・・
彼のために尽くしてきたのに・・・
たとえ暴言を吐かれても・・・
いつか彼があたしのことをちゃんと愛してくれると思っていたのに。
だから彼のことを愛そうと思っていたのに。
あたし・・・
ばっかみたい。
一人でなにやってるんだろ。
でも・・・
もう、いいかな・・・
あたし・・・これまで十分に頑張ったんだから。
ミハエルは運命の人じゃなかったのかもしれない。
もう、彼には愛想が尽いた。
過去と決別するのです。
―――もう、結構ですわっ!
―――新しい幸せを探しに行きましょう!
「ミハエル。さようならっ!あたしは旅立ちますわっ!」
「ま、まった、マリア!・・・これには・・・訳が・・・実はさっきのは・・・」
後ろで聞こえるミハエルの声を後に。
あたしは部屋を飛び出した。
輝かしい未来に向って。
―――きっと、あたしの未来は明るいはずですわっ!
次はミハエルのお話しになります。
何故、彼はマリアにひどい態度をとるのか・・・
基本、マリアのお話ですが・・・
連載中の「ビューティフルざまぁ」と同じように、主人公以外の視点も入る予定です。
彼女にワインをかけ、虐げる第三王女様。
部屋に入ってきたミハエルの新婚約者?ナターシャ。
パーティーの主催者の第一王子様。
マリアを慕っている騎士団長。
勇者パーティーのお話なども予定しております。