旅の始まり
ゴブリンとの戦闘後。
彼らはゴブリン一匹一匹耳を切っていた。
理由を聞くと、『討伐の証』で必要とのこと。
後で立ち寄った冒険者ギルドに提出するらしい。
褒章ももらえるし、魔物がいた証拠にもなるからと。
本来出現しない場所で魔物がでたら、冒険者ギルドに報告して危険を促すとのこと。
そして今。
あたし達は川の傍で休憩中。
川原でのんびりタイム。
あたしは水面に映る自分の姿を見ていた。
やっぱり赤髪で真紅の眼の女の子。
夢じゃなかったみたい。
すると・・・
水面にバッカスの顔が映る。
隣に彼が来たようだ。
「わりぃーな、マリア。まともな話も出来ずに連戦で。でも、ここいらで休憩できるだろう」
「いいですわ。皆さん活躍なさっていましたから」
「マリアはいい腕してるな。ここまで便利魔法が使える奴は初めて見た」
「慣れているんですわ」
「マリアちゃんは小さいのに偉いのう」
ゴルも話に入ってきた・・・というよりも。
川に入りだした。
水浴びを始めたようだ。
本当クマさんみたい。
「えいっ」って、川魚とか取りそう。
あたしがゴルを見ていると。
バッカスが川の中に石を投げ出した。
ポカンっと水面の揺れる。
「なぁ、マリア」
「何?」
「俺達の仲間にならないか。ちょうど光属性の魔法使いがほしかったんだ」
「え?」
えええ?
仲間にってことは・・・
勇者パーティーに入らないかってこと。
あたし・・・戦闘経験なんてないのに・・・
「俺は闇属性。メギドは基本5属性、後、光属性さえ揃えば、主要七大属性が揃う」
「そうですね。マリア譲、私からもお願いします」
あっ。
メギドまで話に入ってきた。
奇麗に執事服を着こなし、汗一つかいていない。
気のせいかな・・・・
なんだかメギドの周りだけ気温が2,3度低いように感じる。
でも・・・
なんであたしなんかを。
それに・・・
「七つの魔法使いが揃うと、意味があるのですか?」
バッカスもメギドも七大属性が揃う事が重要だと思っているようだけど。
あたしには理由が分からない。
光属性のあたしがいなくても。
このすっっごい勇者パーティーなら問題ないと思うけど・・・
「七つの属性が揃えば、苦戦する事が少なくなるんだ。
魔物との戦闘が格段に楽になる。
炎属性は水属性に弱いというように、各属性には必ず弱点がある。
難しいダンジョンや魔物を倒すときには、全属性揃える方が良い」
なるほど・・・
そうなんだー。
だから七属性をねー。
ふむふむ。
分かりました。
でも思ってみれば。
そういえばあたし。
これから何をするか決めてなかったな。
勢いだけで、『幸せを求めて旅に出ますっ!』って王城から駆け出してきたけど。
それだけ・・・
完全にノープランだった。
どうしようかなー。
これから。
とりあえず家に戻ってみようかなー。
あれー。
でもでも、待って。
目的うんぬんの前に一つ懸念点が・・・
もしかして・・・・
赤髪少女となってしまった今では。
家に戻ってもあたしがマリア本人だと信じてもらえないかもしれない。
だって。
今のあたしを見てマリア・マーマレードだって信じれる人はいないと思う。
オーク爺さんだって信じてくれなかったし。
ならっ。
どうにかして元の姿に戻らないと。
あたしに戻らないと。
っと思っていると、バッカスがあたしの赤髪を撫でる。
「ほらっ、マリアのためにもなるぜ。その赤髪、直したいだろ?」
「えっ?」
訳知り顔であたしをみるバッカス。
まさか・・・
まさかまさか・・・
この呪い&変化に心当たりがあるのかも?
「マリア、呪われたんだろ。その腕輪から放たれている邪気で分かる。
奇麗な赤髪にまとっている魔力も尋常じゃない。
呪いを解かなければ、何が起こるか分からんぞ。最悪死ぬかもしれん」
「ほ、本当ですか?」
マジですか?
これ・・・そんな呪いの腕輪だったの。
確認するようにメギドを見る。
「マリア譲。本当の話です。
私達は呪いを解くために一緒に旅をしているわけでもありますから。
皆、呪いを帯びています」
えっ。
じゃあー。
メギドもバッカスも、ゴルもリューイも呪われているってことだろうか。
あたしが見回すと・・・
皆「うんうん」と頷いている。
どうやら本当のようだ。
「だからよー、マリア。俺達と一緒に来い。俺達にもマリアが必要だ。なぁ?」
「そうですね。マリア譲が宜しければ、是非ご一緒して頂きたいです」(メギド)
「マリアっちはかわいいからね。一緒に旅しよ」(リューイ)
「じゃけんのう。小さな女の子の呪いはほってはおけん」(ゴルドウィン)
どうしよう?
呪いを解かなくちゃ。
でも、今のあたしには他に選択肢なんかないのかもしれない。
家に帰っても良いけど・・・
あたしだって分かって貰えないのかもしれない。
それなら、このまま一緒に旅に出ても良いかもしれないな。
それに・・・
あたしは『幸せを求めて旅に出るんだから』。
未知の分野に挑戦するのもいいかもしれない。
ふいに婚約者のミハエルの顔が浮かぶけど・・・
あたしは振り払う。
彼のことは振り切ったんだから。
あの部屋で断ち切ったんだから。
あたしは勇者パーティーの皆を見て頷く。
「あたし・・・一緒に行きます」
皆と旅をして、呪いを解かなくちゃ。
新しい旅に出るの。
この生まれ変わった体で旅に出て。
新しい人生を歩むんだから。
「そうか。マリアよろしくな」(バッカス)
「マリア譲、宜しくお願いします」(メギド)
「マリアッチ、よろ~」(リューイ)
「マリアちゃん、じゃけん」(ゴルドウィン)
皆があたしを向えいれてくれた。
皆があたしを必要としてくれた。
あたしにも皆が必要だった。
この時、あたしの旅が始まったのであった。