ヒーローは悪魔騎士?
目の前には一人の騎士がいる。
全身黒い服で、手には体と同じぐらいの大剣を持っている。
オーク爺さんからあたしを守ってくれた人。
あたしは彼の姿に見とれてしまう。
「どうしたんだい、赤髪のお姫様。キョトンとして。助けに来たぜ。早くここを立ち去ろう」
語りかけられて、我を取り戻す。
そうだ。
今はぼーっとしている場合じゃない。
この洞窟が大変なことになっているはずだから。
「な、何が起こっているのですか?あなたは一体?」
「俺は黒剣のバッカスだ。詳しい話はここを出てからにしよう。
敵陣の中では穏やかに話もできやしない。ほらよっ」
「きゃっ」
バッカスがあたしの手を引っ張っておんぶする。
子供になったからか、ヒョイって感じだ。
さくっと彼の背中に納まってしまった。
「ちゃんと捕まってろよ。今からここを出るからな。巻き添えをくうなよ」
「ちょ、ちょっと・・・」
強引な彼に戸惑ってしまうけど。
今は大変なことになっているこの場を出るのが最優先。
あたしは大人しく従うことにする。
「お姫様の名前はなんていうんだ?」
あっ。
名前を聞かれた。
どうしよう。
本名はマリア・マーマレードだけど。
この赤髪と、小さくなった体。
これじゃー、知人が見ても本人だと分からないと思う。
無難に答えておこう。
「あたしの名前は・・・マリアよ」
「そうか、赤髪のマリアよろしくね」
「よろしくお願いしますわ」
バッカスが部屋を出てすぐ。
『こっちだー。こっちにいるぞ!』
『賊は姫様の部屋だー!』
『全員武装して集まれー!』
『ブフィィィィィィィ!』
武装したオークがぞろぞろと集まってくる。
血気盛んな者達だ。
明らかに戦闘態勢に移っている。
「ちっ、見つかっちまったか。おやおや皆さん、おさかんだ。歓迎ありがとう」
「あなた、大丈夫なの、この数・・・・それにあたしは・・・」
「まかせろっ!マリアはしっかりと捕まってな。
この数なら・・・封印を一部解く。
マリア、心をピュアにたもちなっ!」
「な、なにをする気?」
「ふふふっ。闇が疼くぜ・・・・
俺にはよー。黒剣のバッカスの他に、もう一つ名前があるんだ。
悪魔騎士のバッカスとは・・・・俺のことだっ!」
バッカスが手に持っている黒剣が黒い霧に包まれる。
まるで悪夢を具現化したような霧。
全てを飲み込むような黒霧が出現する。
『な、なんだあの黒霧』
『ま、まずいんじゃないのか・・・』
『おい、まさか・・・バカデカイ剣に、黒霧の剣。あいつ・・・・本物の悪魔騎士じゃ』
―――「消えなっ!貴様らに悪夢を見せてやろう。
黒霧よっ!全てを暗い尽くせっ!悪夢で多い尽くせっ!」
ブワーン
黒霧がゴブリンを多い尽くす。
黒霧が生きているかのようにゴブリンを包み込んでいく。
その姿はまるで捕食だった。
『うごうごううご』
『あ・・・なんだここ・・・どこだ』
『あぁうああああ!』
『なんだ、やめろ、やめろ、落とすなっ!』
黒霧に包まれたオークが床にひざまづいていく。
絶望の表情のオーク達。
胸を押さえて苦しんでいる者もいる。
黒霧はあたしにも迫ってくる。
あたしを包みこもうとするが・・・
さっと離れていく。
近づきたいようだが、近づけないようだ。
ガクっとしたと思ったら。
バッカスも少しきつそうな顔をしている。
黒霧は、彼にも何かしらダメージがあるのかもしれない。
「大丈夫ですか、バッカス」
「お、おう。俺は大丈夫だ。マリアはどうなんだ?」
「あたしは何もないです。皆どうしたのですか?突然体調を悪くしたようですが」
「お、お前・・・・本当に何も感じないのか?」
バッカスの声は震えている。
心底驚いているようだ。
「何も異常はありませんが」
「すげーな・・・見た目だけでなく、心もキレイなようじゃねーか。
気に入ったぜ。このままここを抜けていく。しっかり捕まってな」
「は、はい」
バッカスが洞窟を走り抜けていく。
出会うオークは黒霧に包まれたとたんに苦しみに襲われていく。
走っていると、ドロや血がかかる。
あたしは清掃魔法で汚れを落とす。
「マリア、光魔法が疲れるのか?」
「ええ。少々ですが」
「ますますいいねー。光魔法使いを探していたんだ。
俺は闇、マリアが光なら良いパートナーになれる」
「お話しは、外に出てからの方が良いのでは」
「そうだな」
バッカスはあたしをオンブして洞窟を駆け抜けた。
暫くすると、光が見えてきて・・・
無事、洞窟の外に出ることができた。