隊長の頼み
「俺がですか?」
合ってるけど、どうやってその結論に至ったのだろうか。
「ますたあ以外が勇者とか、そんな事有り得ないです。」
コーコは分かってて言っているのだろうか。
無理に話に入らなくて良いんだぞ、それともヒマなのか?
まあ、別に内緒にする事も無いとは思うけど、隊長さんの腹づもりが分からない。
変な抗争に巻き込まれたくはないんだよなあ。
帝国側と教団側が、上手い事行ってなさそうだというのは、さっきのやり取りで感じたからな、俺を利用しようというのか?
俺は世界を救う為になら、協力もしようと思うけど。
勇者云々は良く分からない、女神の言う事なんだから、どうせ碌な事にならないだろう。
よし。
「・・・どうやら、図星・・・か?」
「いえ、全然。」
コーコの言う事は余り気にしないで下さい。
あっ、隊長さんがズルってなった。結構ひょうきんな人だな。
「なんでえ、警戒してやがんのか?」
勿論そうです。
「別に・・・そういう訳じゃないですけど、一体何でそんな事を?」
「おっ、理由が聞きてえか。」
隊長さんが自信ありげだ、ちょっと失敗したかも。
ここでズバリ言い当てられたら、言い逃れ出来るだろうか。
「ズバリ言っちまえば勘だ。」
・・・あんまりな理由だ、いや、これは理由とは言わないな。
「まあ待て、最終的には勘だが、一応根拠はある。」
持って回った言い方だな、だったらその根拠とやらから話せば良いのに。
「あんちゃんは気絶してたから知らないかも知れねえが、あんちゃん達は祭壇の石碑から出て来たんだ、さっきも言ったが、ここはダーレインと繋がってる。
ダーレインの名前を聖職者でもねえのに知ってたしな、これがまず一つ。」
正確にはゴドルフ聖跡の聖安窟から転移して来たんだけど、知らないのも無理はない。
「もっとも、これだと嬢ちゃんもそういう事になるが、あんちゃんの事をマスターとか呼んでるしなあ、あんまり勇者っぽかあねえよな、それに、あんちゃんは気絶しながら何だかキラキラとしたもんを口から吐き出してやがったんだ。」
ぬおお!そのまま出てきちゃったのかよ、服は汚れてないようだけど汚いな。
嘔吐しながら気絶して現れた男のどこに勇者要素が?
「ありゃあ凄え魔力だ、俺にゃわかる、そんなもん口から吐き出してる奴が只者の筈がねえ。」
あの得体の知れない物体は魔力だったのか、変なもん食べたのかと心配したけど、安心した。
そうか、魔力は口から出るのか・・・胃袋に溜まってんの?
魔法が使えない原因はこれだろうな、だからコーコは自分のせいとか言ってたのか、害は無いと言ってた事を気にしてたからな。
転移門を使うと魔法が使えなくなってしまうとは、なんという罠。
出てった魔力って戻って来るのか?
やっぱり魔法が使えないのは不便だし、テツユキ達と相対した時に困った事になる。
安心している場合じゃなかった。
「あとはその装備だ。」
この装備は俺のお手製なんだけど、何か問題でも?
「これは自作です。それなりに自信作なんですけど、変ですか?」
ミカもカッコいいとか言ってくれてたし、三日もかけたんだ、だせえとか言われたらへこむ。
「自分で作っただと?その凄えやつをか?」
おお、これは褒められてるのか?隊長さんは良く俺を褒めてくれるな、俺は褒められると弱いんだ。
「その鎧下は色合いやツヤからして、ジャイアントダックバットの飛膜じゃねえのか?そんなのを着てる奴なんて初めて見たぞ、それにその木の胸当てにはブルホーンボアの皮か?それを鞣して貼り付けてやがんな、いいや俺にゃ分かる。さらにちらっと覗くその木材は霊木で名高いヴィヴォーだな!この罰当たりめ、だが嫌いじゃない、そうだよな、いい装備の為にゃあ迷信なんざ気にするこたあねえよな!さらに極め付けはその手甲!一見他と同じブルホーンと見せかけてからの、まさかのフォレストサベージか?いやまったく・・・」
「ちょちょ、ちょっと待ってください!」
めっちゃ早口で言ってる、何なんですか、マニアさんなんですか?
急にどうしたというのか?という変貌だ。
ノリが今までと大分違う。
「おっと、ちと興奮しちまった、すまねえな。」
いや、好きな事なら興奮するのも理解出来るけどさ、何言ってんのかよく分かりませんでした。
こっちに聞かせたいんじゃ無くて、自分が言いたいってだけの典型例だな。
俺も野球に関してはそんな感じだから分かります。
けど、聞いてる方はこんな気分になるのか、気を付けよう。
「あー、おほん、つまり何が言いてえかと言うとだな、なんつう凶悪な装備をしてるっだよっつう話だ。」
凶悪ですか、褒めてるのか貶してるのか。
「そんな物あ、見た事も聞いた事も無えんだよ、俺あ、その業界じゃあちったあ名の知れた者だがよ、その俺がだ、素材を見極めるのが限界なんだよ。」
何の業界かは知りませんが、十分凄いです。
と言っても、俺が勝手に名付けた名前しか知らないから、何が何やら、合ってるのかどうなのかさっぱりだし、手甲と他のの獣皮が別の物とか知らないし。
そもそも聞き取れてないし。
それでも、あれだけポンポン出てくるのは、只者じゃないと思わせるには十分だ。
「しかも、その素材自体、手に入れるのが容易じゃねえもんばっかりだ、自分で作ったって言ってやがったが、加工だって只事じゃねえぞ。」
まあ、楽に手に入れたもんじゃないですけど。
「でも、普通に石のナイフで加工したんですよ、目利き違いじゃないですか?」
「はあ?石のナイフだあ?馬鹿言っちゃいけねえよあんちゃん、奴らの毛皮は尋常じゃねえ硬さだぞ、一体どんなナイフ何だよ。」
だから、目利き違いじゃないのかと言ってるんですけど。
そりゃ、石のとは言え、何種類か魔法で削り出してみて、一番良いのを使ったんだから、ひょっとしたら凄い鉱物的な何かだった可能性もあるかな。
それよりこの話まだ続けるの?
コーコもミレイちゃんも退屈なんじゃない?
「そんな事より、だからどうだと言うんですか?」
「おっと、そうだった。つまりだな、そんな装備をしていながら武器の一つも持ってねえ、って事は、本当は魔法が使えるんだろう?それに、そうじゃなきゃあんな素材は集めらんねえしな。」
大筋で的を射ているな、さっきも『なんらかの事情で魔法が使えない』って言ってたし、ちゃんと客観的に考えてくれているのだろう。
「魔法ってなあ、魔力がありゃ使えるって代物でもねえ、この辺を考えて、あんちゃんが実は勇者なんじゃねえかってな。」
まあ、そう思ってもらって構わない。
問題は、俺に何をさせたがってるかだな。
「そんで、こっからが本題っつうか、頼みなんだがよう。」
ほらきた、
「ミレイを連れてこっから逃げてくれ。」
うおい!どうしてそうなる、隊長さんは話下手なのか、結論を急ぎ過ぎる。
倒置法なの?そんな脈絡もない展開で、はい分かりました。と言う奴なんかいないだろう。
「え、無理ですよ?」
何が悲しくて小学生女子みたいな娘と、駆け落ちまがいの事をしなくちゃならんのだ。
逃げてくれと言うくらいなんだから、誰に話を通した訳でもないんだろう。
殆ど誘拐じゃないか、俺はロリコンじゃないとあれ程・・・そう言えば、俺のその疑惑を吹聴したのは隊長さんなのかの追求をまだしてないな。
まあ、空気を読んで後にしておこう。
「ミレイの母親がな、殺されちまうかもしれねえんだ。」
勝手に喋りだしたぞ、今無理って言いましたよね?
それは確かに一大事だろうけど、なぜ駆け落ちに繋がるのか。
俺がミレイちゃんを連れ去れば、母親は助かるとでも言うのか?
いったいどんな理屈だよ。
ミレイちゃんに顔を向けると、悲痛な面持ちをしている。
「と言うのもだな、ミレイの母親は神託を受けた巫女なんだ。」
確か、精神を病んでしまったという人か?
その人がミレイちゃんのお母さんなのか、大体女神の所為だけど、関係者としては責任を感じてしまう。
でも、何でそんな人が殺されそうにならなきゃいけないんだろうか。
「つってもまあ、正確には神託を受けたが故に巫女にされちまった、つうのが本当のところだな。」
この世界では巫女は処女じゃなくちゃいけないとかは無いのかな?まあ前の世界も建前みたいなもんだった気もするけど。
「それほど立場の高い身分でもねえ上に、おまけに神託まで受けちまった、正規の巫女を差し置いて、何処の誰とも知れねえ奴の子を産んじまった女がな。」
なんかここ嫌な感じだな。
聖印同士で対立して、教団と帝国でいがみ合って、教団内部で妬み嫉みからの人殺し?
おまけに警備隊長が誘拐示唆?幇助?とか、どうなってんのここ。
「その女は糾弾されてな、やれ芝居だの嘘吐きだの、挙句には人類を惑わす裏切り者だとよ、精神を壊しちまって、何にも受け答え出来なくなっちまったってのも、また問題になってな、女神の神託に失礼だとか、嘘がばれない様に狂った振りをしてるだとか、ま、色々な。」
だから本当あの女神は碌なことしない、別にワザとじゃないにしても、大分酷い事になってるぞ。
大体、受け止めきれない、巫女でも何でもない人に神託を授けるとか考え無しかよ。
「それは、酷い話とは思いますが、それが何で・・・ミレイ、ちゃんを連れ出せば良い事になるんですか?」
「貴方にちゃん呼ばわりされるいわれは有りません!」
きゃー、ミレイちゃんが怒った?
え、なに、名前、ちゃん付け不味かったですか?
なにも怒らなくても ・・・。
今まで何にも喋らなかったのに、いきなりソレですか。
コーコと随分対応に差があるなあ。
「私は、貴方に何をされようと、させられようと、受け入れる覚悟がありますが、心までは自由にされるつもりは有りません!」
何々、何なの?俺はミレイちゃんに何をするの?なんでそんな話が出て来るの?
ちゃん呼ばわりって・・・そんな変な呼び方じゃ無いじゃないですか。
「ますたあへの無礼は許しませんよ!」
「ミレイ、大人しくしていろ。」
二人に嗜められて下を向いて拳を握るミレイちゃん。
そんなに俺は嫌われてるのか。
このくらいの子に、ここまであからさまに嫌われると傷付くなあ。
「悪いなあんちゃん、今ミレイは不安定でよ、変なことを吹き込まれたのかもしれねえが、許してやってくれ。」
それは図々しい言い分だな、今までだって結構我慢して来ましたよ?
拘束されて牢屋に入れられ、犯罪者と言われ、ロリコン扱いされ、見下されて、コーコと引き離そうとされたり、少女誘拐を促されたりしてきましたよ。
それ全部我慢してたんですが。
・・・まあここまで我慢してきたんだから、ここも我慢するか。
「良いですよ、気にしてません。寧ろこちらが謝罪します、名前を呼んですいませんでした。」
「嫌味のつもり?」
もうこの子扱いにくい。




