決意と未練
「こんな時にまで変な冗談を言うのはやめろ!」
全くもって洒落になってない。
だいたい何でここにいるんだ、彼女は関係無いだろう。
「いいえ、本当の事よ。」
確信を込めたその瞳に、冗談のつもりで言っている訳では無さそうな気がしてきた。
「妹さんを助けたいんでしょう?信じて貰わないと始まらないわ。」
もうこうなったら、神でも悪魔でも仏さんでもなんでもいい!
本当に涼子が助かるというのなら、信じるというのは難しいが、助ける事が出来ると言う三神さんに縋るしかない。
「わ、わかった・・・ああわかったとも!信じるよ!どうすればいいんだ?俺に出来ることがあればなんでもやってやる!だから・・・。」
「…今、なんでもって言ったわね。」
あれ?こんな時だが、猛烈に嫌な予感がしてきた。
「ちょっとトータ!?あんた誰としゃべってんの?」
え?誰とって?三神さんとですけど・・・。
突然蓮璽が顔をくしゃくしゃにして、
「うわあああああん!兄ちゃんが狂ったあああ!イヤだよおおおおお!!」
今まで見たこともないような大泣きを始めた。
「お兄さん!気を確かに、気持ちは私も一緒です!」
有希ちゃんも泣き顔のまま俺を宥めようとする。
まさかとは思うが、皆んなには三神さんが見えていないのか?
え、幻覚?そんな馬鹿な、そういえば昨日も最初は幻覚かと思ったけな。
万一俺が狂ったんだとしても、こんな都合のいい、会話も成り立つ幻覚なんか見ないだろ?
まさか本当に神様とかそんな何かなのか・・・?
「説明してもいいけど、遅くなればなるほど成功率は下がるし、後遺症も出やすくなるわ。」
昨日の言葉が思い出される・・・“死んでもらってもいいですか?”・・・。
「俺の命でいいんだったらいくらでもくれてやる!だから、だから涼子を死なせないでくれ!地獄にでもなんでも行ってやらあ!」
「その言葉を待ってたわ!」
ブ・ブッチチチチ・ビビリビリリリリイイイイイ
何かを引き裂くような下品な音と共に、痛覚を直接刺激したかのような激痛と奇妙な浮遊感を感じた。
ギャアアアアア痛っイタタタタタタタイタイ!
だがそれも一瞬で、俺の視界には自分の倒れている姿が見えた、しかも俯瞰で・・・・。って・・・・。
エエエエエッ!まさか、マジで死んだのか俺?え、嘘だろ・・・。
倒れた俺に皆んなが駆け寄る姿が見える。
すまない皆んな、つい勢いで命くらいくれてやる!とか口走ってしまったけど、本当にこんな事になってしまうとは。
三神さんが神様、もとい女神様だかどうだかはともかく、なんかそういう力を持っているのは間違いないと考えてもいいのだろう。
それよりも涼子はどうなった?
と、手術室から看護士さんが転がり出てきた。
何か色々医者と話しているが、声が聞こえない。
何だ?大丈夫なのか?
すると、続けてなんと、涼子が歩いて出てきた。
イヨッシャアアアアアア!
死にかけていた筈なのに、平然と歩いて出てきた事は気になるが、助かったのなら問題は無い。
みんなも驚いている様だ。
ん?なんか涼子がこっちを見ているな・・・まさかな。
替わりに俺が運ばれていく、俺の身体はどうなってしまうのだろう・・・。
・・・涼子が助かって安心したと同時に、急に何だか恥ずかしくなってきた。
さっき俺はなんと言ったか。
クアアアアア!こ、これは今後思い出すだけでかなりの破壊力のある黒歴史だ。
普通妹が助からないと言われたからって、あそこまで言うだろうか?
比較対象に心当たりが無いのでなんとも言い難いが、普通にキモいのでは?
どんだけ妹好きだよ?って話だよなあ。
いや、もちろんこれが蓮璽だとしても同じ事をした筈だが。
それより問題なのは、三神さんが皆んなには見えてない様だった事だよな。
独り言で恥ずかしい台詞を散々のたまった挙句、唐突に倒れた…たぶん死んだ。
一体何事か?という話だよなあ。
「あなたの魂の一部を使って、妹さんの生命を繋ぎ留めたの。」
うお、いきなりの三神さんの説明か、でも姿が見えない、サウンドオンリーか。
「安心できた様なので、約束通り早速リフェーリアに送還させてもらうわね。」
約束?そう言えば、何でもするとか、地獄でも何処でもとか何とか言った覚えがあるが、その事か。
結局異世界とやらに行く事になってしまったのか。
今更昨日の話を疑うようなことはしないが、そんな所で何すんだ?
涼子の命と引き換えだから後悔はないが、未練はあるな。
甲子園・・・・・行きたかったな。