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¨夏樹¨と¨倉本先生¨

 入学式の翌日。今日は、クラスと担任の先生が発表され、LHRをして終わり。本格的な授業は明日からだ。


 大きな門を抜け、白い、まるでお城のような校舎。その玄関の前に張り出された紙に軽い人だかりができている。その紙に新しいクラス編成が張り出されているのだろう。担任の先生の発表は、教室に行ってからだ。


「¨優衣¨は見えないでしょ?私が探してあげるよ。」


 そう私に言う少女。

 元からの焦げ茶の長い髪を高い位置で1つに結び、大きく、少し釣り上がった目は、まるで猫のよう (けして、きつく見えるわけではない)。背は高く、スラッとした立ち姿。引き締まった足は、運動神経の良さをうかがわせる。見た目通り、陸上部に入っており、中学生のエースだった。高校生になった今年も陸上部に入り、インターハイを目指すらしい。


 そんな元気少女が私の同学年の一番の友達である¨江藤(えとう) 夏樹(なつき)

 私が入学したての頃、人見知りな私は独りポツーンと席に座っていたところ、¨夏樹¨に声をかけられた。


「すっごく小さいけど、本当に中1なの?」


 とても失礼な第一声。あとから知ったことだか、この少女は、思ったことをそのまま言うだけであって、悪気は微塵もないのだ。

 そんな話から始まった私達だが、何故か¨夏樹¨はいたく私を気に入り、今に至っている。私の数少ない親友だ。



 そんな¨夏樹¨に助けてもらい、私は¨夏樹¨と同じ1年百合組であった。

 この学校のクラスは、高校は1学年4クラス。入学のときの成績上位順に、¨百合¨、¨菊¨、¨葵¨、¨松¨であり、中学は1学年3クラス。同様に、¨さくら¨、¨うめ¨、¨すみれ¨、¨ひまわり¨の順である (高校は漢字、中学は平仮名)。和花と洋花の混じりあった、変なチョイスである。

 成績順で、だいたいクラスはわかっていたが......


「ごめん、¨夏樹¨。アンタが同じクラスになるとは思ってなかった。」


 本当に失礼を承知で言った。長年一緒にいるので、こういうことを言って¨夏樹¨が怒らないことが分かってのことだったけれど、やっぱり失礼だ。

 だが¨夏樹¨は、陸上部に忙しく、この学校に入学してからは、中学の成績トップのさくら組で最下位だった。この学校に入るために勉強してさくら組に入れるのだから、元の学力はそんなに悪いわけではないが......


 ¨夏樹¨は、恥ずかしそうにニコリとはにかみ、


「¨優衣¨と同じクラスになるために、頑張ったんだぞ~!」


 と、おどけて言った。それがどれ程大変か、容易に想像出来た。クラスは入学のときのテストで決まる。そのため、3学期のテストが終わって、部活の休みが増えてから¨夏樹¨の様子が変わっていた。私との遊びの約束はすべて快く受けてくれたが、その他の人との約束は断っていた。¨夏樹¨は私と違って、明るく、運動もできるため友達も、慕っている人も多いのに。


 無理をしている¨夏樹¨を見ていられなくて、しかし止めることもできない私は、春休み、¨夏樹¨と遊ぶ回数を通常の長期休みよりも少なくしていた。

 体調を壊しかけてまで頑張る¨夏樹¨を止められない理由は2つあった。1つは、せっかく頑張っているのだから止めてはいけないという、¨夏樹¨の意思を尊重するもの。2つ目は......先程の¨夏樹¨の真意を微かながらに気づいてしまっているから。



「そうなの?良かったよ~¨夏樹¨と同じクラスで。私人見知りだからさ。」


 と、なんにも気づいてないようにニッコリと笑う。こういうときにこの容姿は役に立つ、なんて性格の悪いことを考える私。


「いや、¨優衣¨はもう人気者だからね。皆、積極的に話しかけて来てくれるんじゃないかな?」


 そう言って、私の少し前を歩く¨夏樹¨。顔がギリギリ見えない距離。



 ほどなくして着いた、1年百合組の教室。中からは賑やかな、喜びの声。その理由はすぐにわかった。少女の高い声に混じって聞こえる、高いけど性別の違う、聞き覚えのある声。


「この声ってまさか......?!」


 驚いたような¨夏樹¨の声。¨夏樹¨、この先生嫌いだもんね。その理由を悟っている私に少し影が落ちる。

 扉を開けると、さすが人気トップ3教師。女生徒に囲まれたまま、新たな来訪者を見る。


「おお~、おはよう。¨江藤¨、¨津田沼¨。先生が担任だ、よろしくな。」


 ¨倉本先生¨。年中白衣の化学教師であり、生徒会顧問でもあるため、前年度生徒会副会長の私が良くお世話になった先生。

 ¨倉本先生¨が嫌いな¨夏樹¨に変わって私が答える。


「おはようございます。¨倉本先生¨が担任で嬉しいです!」


 春休み前の3月。¨倉本先生¨と話しているとき、高校1年の担当になると言われたときに、¨倉本先生¨が担任になって欲しいと言っていたが、まさか本当になるとは思ってなかった。まだまだ若いのに¨百合組の担任¨になるとは......


「期待の教師なんだよ!」


「いや、もうおじさんってことじゃないですか?」


 こういうやり取りができる先生は、¨倉本先生¨ぐらいだ。生徒に近い教師であるから、なのだろうか。


 私が¨倉本先生¨といつものような会話をしていたら、明らかにイライラした¨夏樹¨が私と¨倉本先生¨の間に入った。


「¨倉本先生¨、もう時間過ぎてますし、皆来たようなので、もうLHR始めませんか。」


 いつもの、誰にでも笑顔で元気な¨夏樹¨からは想像できないトゲトゲしい口調。毎回、¨倉本先生¨と話すときはそうなってしまう。

 当の¨倉本先生¨は、そんな怒りを気にしないで、


「そうだな~、じゃあ皆そろそろ席に着け~。あっ、¨優衣¨。」


 ¨倉本先生¨が私の名前を読んだ途端、¨夏樹¨はバッと振り返り、


「生徒を下の名前で呼ぶのはどうかと思います、¨倉本先生¨!!」

 

 凄く怒っている¨夏樹¨。その理由を微かに感じている私は何も言えない。


「ごめん、ごめん。じゃあ、始めるぞ~。」


 全然悪びれず言う¨倉本先生¨。絶対ワザとだ。ワザといつもは呼ばない私の下の名前で呼び、¨夏樹¨を怒らせている。その真意は......?¨夏樹¨はなんとなくわかるが、¨倉本先生¨のはよくわからない。が、この2人はいつも私を挟んでこのようなやり取りをする。仕掛けるのはいつも¨倉本先生¨。流石に今日のはやり過ぎだ。今度、先生に「やめてください」って言いに行こう。そう決めた私は、新しい自分の席に着いた。

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