入学式after story~挨拶の原稿~
そんな入学式の約1ヵ月前。中学職員室にて。
1ヶ月後の入学式の新入生代表に選ばれた¨優衣¨は、生徒会顧問である¨倉本 裕太¨先生に原稿を見てもらっていた。
¨優衣¨は、生徒会副会長であるため、顧問の¨倉本先生¨に推敲を頼んだのだ。国語の先生にやってもらうのもいいと思ったが、親しい先生にやってもらったほうが、意見交換ができると思ったのと、普通に生徒会関連で用事があったからである。後者のほうが主な理由なのは先生には内緒だ。
最後まで挨拶文を読み、しばらく考えていた¨倉本先生¨は、座っていた椅子をこちらに向けた。
短くも、長くもないがフワフワして、所々寝癖が跳ねている黒髪。黒いメガネをキリッとした目にかけ、時折クイッと持ち上げる。着ているものは、教師の大半が着ているスーツではなく¨白衣¨ (勿論、その下にはスーツを着ているのだろうけど)。
化学の教師というのもあるが、前に聞いてみたら、「冬は寒いからさ。」と言われた。寒がりらしい。けれど、1年中着ているので疑問に思うと、「いや......夏は暑いから脱ぎたいんだけどさ。¨白衣の先生¨で覚えてる生徒、多いんだよ。だから......かな?」と疑問系で言われたので、自分ではあまり意識してないらしい。
私の下の学年の副担任で、授業も持たれていなかったので、¨倉本先生¨とちゃんと話すようになったのは生徒会に入ってからなので、中学2年生の6月ぐらいだろうか。それまでは、私も¨白衣の先生¨だった。
それから、生徒会関連で話す機会が多くなり、推敲の手伝いを頼めるぐらいまでにはなったのだ。
「いいんじゃないか?流石、¨中学トップ¨。」
茶化すように言う¨倉本先生¨。生徒とまるで友達かのように接する先生は、見た目のかっこよさも合間って、生徒の中での¨先生、人気トップ3¨に入るほどの人気だ。¨倉本先生¨以外の先生は全員高校の担当なので、「¨倉本先生¨も¨中学トップ¨なんですよ?」と心の中で言いながら話を聞く。
「あー、でもここは......」
茶化したと思ったら、一変真面目な表情になる¨倉本先生¨。この表情の変わりようが好きな生徒も大勢いるらしい。生徒を子供だと思わず、真剣に向き合う先生には、好感がもてる。
あらかた推敲をしてもらって、最終確認をしていると突然、
「¨津田沼¨って、幼いよな。中学にも見えないのに、新入生代表で高校生って認識されるのかな?」
「何を失礼な!まぁ、確かに中学3年生にもなって、街歩いてたらお婆さんに小学生に間違われましたが......」
そう私が言うと、¨倉本先生¨がプルプルと震え出した。と思ったら、堪えきれないといったように、笑い出した。
「しょ、小学生......プッ。も、無理。耐えられない。」
ひとしきり笑った¨倉本先生¨は1つの提案をした。
私は、もうこういう扱いを受けることには慣れているので、別に怒ったりしない。外面上では、だけど。ここで怒ったら、それこそ子供だ。幼く見えるのなら、言動などを大人っぽくしよう。ということを決めていた (それこそその発想が幼いが)。
それで、¨倉本先生¨が言った提案とは、新入生代表挨拶の言葉より先に、自己紹介をするというもの。少々普通から外れるが、動揺したまま聞くよりはいいだろうということらしい。
まぁ、それも一理あるため、不本意ながらその提案を受けることにした。¨倉本先生¨から、他の先生方には話してくれるそうだ。
挨拶文も、自己紹介文の推敲も終わり、帰り際。
「もう、¨津田沼¨も高校生か......早いなぁ。」
「おじさんですよ、その台詞。」
別に、先程の微かな仕返しでは、けしてない。
「おじっ......¨先生¨まだ28歳なんですけど。あっ、そうそう。¨先生¨も¨津田沼¨達と一緒に上がって高校担当になるから。よろしくな。」
「次は、クラス持つんですか?」
人と仲良くなるのが苦手なので、知っている先生がいるのは心強いし、その上担任だとなおさらだ。
この学校は、クラス替えが1年生のときしかない。つまり、3年間同じクラスメイトで担任も同じである。私にとってとても有難い制度である。
「ああ、たぶんな。高1担当だから、もしかしたら担任になるかもな~。」
「私、それとても楽なので、なってくださいよ。担任。」
そんな会話をして別れた3月。
約1か月後、¨倉本先生¨の予想通り、新入生の中学生は動揺していた。私のことを知っている同学年の生徒と、生徒会の高校生、そして先生方も楽しそうに笑っていた。中でも一際笑っていたのは、よく私をいじってくる生徒会長と、壇上の横、カーテンに隠れて皆からは見えない位置にいた¨倉本先生¨だった。