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入学式

 都会のど真ん中。けれど、辺りは静かで、鳥のさえずりが聞こえる優雅な場所。そんな場所に建つ、立派な建物。大きな門、白い壁、溢れる花や木々。

 門の横には『私立瑞穂川学園 白百合高等学校・中学校』の文字。そう、ここは。この国の誰もが知っている、お嬢様学校で有名な瑞穂川学園。その中でも選りすぐりの淑女(レディー)を集めたのが、白百合高等学校・中学校。俗世間から隔離されているこの学校の中身は、謎に包まれている。



 そして桜舞散る春。念願のこの学校に入学した女生徒達。中学生60人、高校生80人。清楚な伝統のあるセーラー服を身にまとって、少し緊張した面持ちで入学式の会場に向かっていく。

 

 入学式。新入生代表挨拶。

 この学校では、中学から上がってきた生徒 (ほとんどそうである)の中で、一番成績も、見た目も、たちふるまいも優れている人物が選ばれる。中学生の憧れであり、高校生から尊敬される、名誉である。

 

 今年の新入生代表の生徒が壇上に上がる。


 高い位置でふたつに結ばれた、綺麗な黒髪をチョコチョコと揺らし、自信なさげにキョロキョロする目は大きい。緊張しているのか、頬は赤く、小さな手足は左右が揃っている。

 壇上の真ん中までくると、クルリと方向展開し前を向き......やや背伸びをして固定されているマイクを取った。


 高い壇上から見おろされているにも関わらず......小さい少女だった。幼女と言ってもいいほどだ。

 ツインテールに大きなクリクリとした目。赤い、ぷっくらした頬に小さな唇。袖に隠れた小さな手。少し内股な細い足。身長は、150あるのだろうか。

 見た目と身長がピッタリとあっている幼い少女。しかし、壇上に立っているということは、この学校の生徒であり新入生代表。つまり高校1年生。


 中学生の新入生60人は動揺を隠せないような顔をしているが、中学から上がってきた高校生の新入生は、動揺せず、むしろ喜んでいるようにも見え、在校生代表である生徒会の高校生4人は、中学生の反応を楽しんでいるようにも見える (特に、長い黒髪のビシッとした感じの女生徒)。


 少しざわつく式場だが、慣れているのか、壇上の少女は皆に聞こえるようにコホンと小さな咳払いをした。流石、お嬢様学校である。それだけで私語はなくなり、元の静寂は戻った。


「初めまして、中学生の新入生の皆様。思っていた通りの反応なので、新入生代表挨拶の前に、私の自己紹介をさせていただきます。」

 

 見た目に合った、可愛らしい鈴を転がしたような声で少女は言った。やはり、あの中学生達の反応は予想通りらしい。通常は挨拶からするのだが、まず最初に動揺を解いたほうがいいだろう。

 参列している先生方も特に驚いた様子もなく、むしろ笑っているので、事前に言ってあるのだろう。いや、先生から言われたという可能性もあるだろう。あのような見た目だと。


「中学生の皆様、初めまして。高校生の皆様、お久しぶりです。新入生代表、高校1年の¨津田沼(つだぬま) 優衣(ゆい)¨と申します。前年度は生徒会の中学生枠で副会長でした。」


 補足説明として、この学校の生徒会は、高校生4人、中学生1人の計5人で形成されている。選び方は推薦。大抵、学力と見た目で決められる。


「こういった人前に立って話をすることは苦手なので、お聞き苦しいと思いますが、新入生代表挨拶をさせていただきます。」


 そういうと、ペコリと頭を下げ、通常通りの新入生代表挨拶が始まった。


 お聞き苦しいと言っていたがあれはやはり謙遜であった。スラスラ、ハキハキと話される挨拶は、文章の試行錯誤と多くの練習をうかがわせるもので、始めは動揺していた中学生達も、終わるころには、目の前の少女が今壇上に立っていることを疑問に思うものはいなくなっていた。



 新入生代表挨拶が大きな拍手に包まれて無事に終わった後、今度は在校生代表挨拶。

 壇上に上がって来たのは、新入生代表の¨津田沼 優衣¨とは間反対。動揺する中学生をひときわ楽しそうに見ていた、キリッとしたロングヘアーの女生徒だった。

 ¨優衣¨を可愛いと言うのなら、こちらはかっこいいか、美しいだろう。

 髪は黒のロング。目は鋭いが、怖さは感じない。微笑をしながら歩く姿は堂々としていて、手足は長く綺麗。

 壇上でクルリと方向転換し、マイクを慣れた手つきで取る。そして、緊張した様子を見せることなく話だした。


「こんにちは、高校3年で生徒会長の¨小早川(こばやかわ) 瑞希(みずき)¨です。堅苦しい感じは苦手なので、通常の私でお話させていただきます。」


 ハッキリとした力のある声で話す生徒会長は、見た目通り、サバサバした性格のようだ。少し、いやかなりお嬢様学校には似合わない少女である。

 補足として、この生徒会長は一部の女生徒から、¨瑞穂の王子¨と呼ばれているらしい。ちなみに先程の¨優衣¨が¨瑞穂のお姫様¨候補らしい (まだ決まっていない)。


「さっきの¨優衣¨、可愛かったでしょ。あの子、とってもいい子で大抵のことは知ってるから、困ったことがあったら相談するといいわよ!」


 と、先程の美しい微笑はどこえやら、ニンマリと楽しそうに笑う生徒会長がこの学校のあれこれを楽しく教えたことにより、新入生達の緊張も溶け、明るく、入学式は幕を閉じた。



 この様子からもわかる通り、有名なお嬢様学校、俗世間から隔離されていると言われていても、知られざる中身は、ただの賑やかな楽しい、普通の学校なのである。

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