藤四郎怪談!
生暖かい風が汐里の首筋を撫でる。
廃墟に闇が蠢く、ある夏の深夜の出来事であった。
「誰か!助けて!」
汐里は自分の発した声によって、さらに恐怖を覚えた。
興味半分何かでこんな場所へは来るのでは無かったと後悔した。
今まで一緒だった仲間達とも、はぐれて一人で暗闇に溶けてゆく。
次の瞬間、近くで音がした。
どうやら、人の声のようだ。
「由香里?」
声のする方へ近づいてみる。
「ねえ、怖かったんだよ?どうして先に皆いっちゃうのよ!」
そう言って、柱の影を覗く。
立っていたのは友達ではなく、無惨に笑う黒い女の霊であった。
顔面は墨のように黒々として眼球や口からは血のようなものを流していた。
そいつが汐里を喰いたそうに、ただ血の眼差しで眺めていた。
一瞬で首から背筋の血液が逆流するような感覚に陥る。
助けを求めたかったが、息が出来なかったせいか叫ぶ事が出来ない。
そいつは、ぬうぅっと汐里へ寄っていく。
手には血の付いた刃物が握りしめられていた。
その時だった。
刃物は空中で弧を描き地へ叩きつけられた。
立っていたのは、隣のクラスの藤四郎君であった。
話をした事は少ないが、いつもおとなしく成績は優秀の部類だと聞いている。
そんな彼が、ここにいる。
汐里の前に立ちはだかっていた。
「おい。今、俺の大好きな女の子に…何しようとしてたんだ?」
藤四郎が静かに声を発する。
汐里には、その言葉が理解出来なかった。
恐怖と混乱のせいで、頭が真っ白になる。
心臓の鼓動はより強く脈を打った。
「何しようとしてたんだって聞いてんだよ!」
そう言って、無造作に御札を取り出す。
「クイタインダヨ、コノムスメヲ!」
そう叫び、牙をむき出しにした。
藤四郎はその隙を見逃さず、口の中に御札を突っ込む。
そして呪文を唱えた。
「ソレハコッチノセリフダァ!」
見事、悪霊は成仏したのだか後日、藤四郎は失恋ソングを4曲書き上げたのであった。