カンガルーのしっぽ
「カンガルーのしっぽ」
ある実験で魂にカンガルーのしっぽをつけてはどうかという案がでた。
その日のうちに上司に呼び出されて、てっきりリストラだと勘違いして、私はハルシオンを十錠飲んでいなくなることにした。
リスとトラを一度に四畳半の狭いアパートで飼えるわけがないじゃないの。
ちょっとした抗議のつもりだったのだ。
気がついてみると、長々とカンガルーの立派なしっぽが垂れ下がっていて、なんたることか、それが鼻にくっついているのだった。
上司いわく。
「君ね、魂にだって独自のしっぽがある。それなら反対側につけないとバランスが悪いじゃないか」
私は開発課へ行って、カンガルーのしっぽの由来をたずねた。
「そりゃ、あんたあたしだって最初は謙虚にハツカネズミだのガラパゴスイグアナだののしっぽを勧めたさ。クロコダイルじゃ比重があり過ぎて。1.5だぜ? バランスが取れないんだよ。ブタのしっぽも考えたけどさ、ラセンだね、メビウスとかアルキメデスの、とかいうんじゃないの。ラセンで栄養がよくて比重がないと、吸収されちまって、本当におてあげなんだよ。それに哺乳類には哺乳類のしっぽがいいだろう? その点、カンガルーは1.0だし、哲学的意味もないし、第一見た目がいいじゃない」
話の半分は上の空で、もう半分は下の地面で聞いていた。
「そうそうカンガルーのしっぽね、一色じゃ芸がないから、今度千鳥柄やら格子縞やら絞り染めやらで、日本的イメージを出そうと思うんだ」
「それじゃ、私の鼻についてるこれは?」
「ありゃ。鼻につけちゃったの? だめだなぁ、よく取り扱い書を読まないとさぁ。それって、プロトタイプのサンプルでしょ? 今度はちゃんと説明書、読んでよね。困っちゃうなぁ、直すのこっちだからね、勝手にそんな扱いかたされちゃあさぁ」
会社をでると、一陣の風に私はバランスを失ってフワフワと浮き上がった。
それを見たひとが言った。
「うわっついている証拠だね」
私は自問自答する。
「ところで千鳥模様はつけるつもり?」
「世の中不慣れでも要領よくならなくちゃね」
かくして、魂のカンガルー計画は成功したのだった。