TALE6:ルヴィアとランディが!? I
ルヴィア達の到着したタウンは異様な盛り上がりを見せている。それもそのはず、このタウンは年中そんな雰囲気なのだ。
「やっと着いたのねっ!」
興奮気味にルヴィアが言った。
何故ならこのタウンには絶対来たい理由があった。
「ええ。ほらあれを見て」
レーシアが壁のポスターを指差す。それは格闘術大会のポスター。
「ホントだわっ!」
それを見たルヴィアが一目散にスッ飛んでいった。
ここデュッカ・タウンの名物はなんといってもコロシアム。年12回、毎月様々な大会が開催される。8月は格闘術大会だ。その為、大会が開催される日の近づく頃はタウンに人が集まり熱気に包まれる。
「ルヴィアが格闘術を始めたきっかけが、このタウンで開催された格闘術大会なんだよな」
「はい」
ランディとレーシアがルヴィアを見て言った。
ルヴィアは2年前に観戦しに来た格闘術大会にハマり、それから自己鍛錬で腕を上げた。1年前マックスに格闘術大会への出場を申し出たが、当然却下された。
ポスターに見入るルヴィア達。
「カイサイ日は8月25日」
「5日後ね」
「優勝賞金は200万ラルか」
「シメキリ日は……8月20日まで。今日ってなんにちっ!?」
ルヴィアが尋ねた。
「20日よ」
「やったわちょーラッキーっ!! グッドタイミングだわっ!!」
喜びガッツポーズを取るルヴィア。
タイミングの良さに日頃の行いがいいからかしら、とルヴィアは思った。
まるで自分の事を待っていてくれたかのようだ。うん、きっとそうに違いない。それだけずっと出たかったのだから。
「やっとネンガンの格闘術大会出れんのね〜」
感激して瞳をキラキラと輝かせるルヴィアだった。
「ココで申しこみすんのかしら?」
格闘術大会の受付でルヴィアが受付嬢に尋ねた。
「はい、そうです。どなたがご出場なさいますか?」
「あたしよ」
「かしこまりました。ではこちらの出場希望申込書にご記入ください」
「は〜い」
申込用紙を渡された。
「えっと、ナマエね」
羽ペンを握ったルヴィアが名前を記入しようとしたがレーシアに腕を引かれる。
「きゃッ!」
少し離れた所でレーシアは腕を離した。
「ナニすんのよレーシアッ」
「お姉さま、本名で書かないほうがいいんじゃないかしら」
「はっ!? どーしてよ」
「アイルーン・キングダムのプリンセスが、こんな所で格闘術大会に出ているなんて知られたら大騒ぎよ!」
「べつにカンケーないわよ」
「何話してるの?」
2人の上からランディがヒョイっと顔を出す。
「ランディさん。お姉さまの名前、本名で書かないほうがいいですよね?」
「えっ!? うーん、そうだな。騒がれたら面倒だしな」
「じゃーなんて書いたらいーのよ」
ルヴィアがそう言うとランディはひらめく。
「いいのがあるぞっ! ルヴィア=アレインってのはどうだっ!?」
「はあッ!!?」
思いっきりルヴィアが顔をしかめた。
「ナニよそれッ!!」
「いい名前だろっ!?」
ニコニコと微笑んで言うランディにレーシアも同意する。
「いいじゃない、それで書いたら?」
「ジョーダンじゃないわよッ!!」
結局ルヴィアは氏名の欄に『マリア=アレイン』と記入した。マリアは母マリアンヌから取った。
次の日。
「うーんっ、イイキモチ〜♪ 朝のバスタイムもサイコーねっ♪」
バスルームで入浴中のルヴィアがお湯から片足を出しながら言った。
「そうね……」
隣のレーシアがルヴィアをチラっと見た。
すぐ前に向き直り目線を下へ向ける。
お姉さまはあんなに大きいのに、どうして私は……。
深いため息をついた。
ルヴィアの胸と自分の胸を比較してしまったのだ。
彼女は自分の胸が小さい事がコンプレックスで結構気にしている。ルヴィアの大きな胸を目の当たりにすれば、女性なら思ってしまうかもしれない。
再び横目でルヴィアの胸を見るレーシア。
「さっきからドコ見てんのかしらァ、レーシア」
「えッ!」
ギクッとした。ルヴィアにはバレバレだった。
「お、お姉さまって、胸が大きいからうらやましくって……」
「あらそんなコト考えてたの? まーたしかにあんたにくらべたらちょーおーきいけどー」
ルヴィアがそう言うとレーシアはムッとする。
「だけどね、おーきくたってイイコトなんかゼンゼンないのよっ!?」
「えッ!? 嘘!」
「重いし肩コるし、ちょーヤなのは男どものやらしーシセンよッ! ったくゥ、そんなコトうらやましがるなんて代われるもんなら代わってやりたいわよッ」
不愉快そうに言うルヴィアだが、やはりレーシアはうらやましいと思わずにはいられない。
「……本当に? そう思っているの?」
「できるもんならね」
「あるわよ。私達が入れ替わる方法」
「えっ!? なにそれ」
ルヴィアがポカンとした。
「妖精術書に、そういう術があったのよ」
「えーっ!! ホントにっ!? おもしろそーじゃないっ! やってみましょーよっ!」
森の中の木々のない開けた場所は遮る物がなく太陽の暖かな日差しを直に受ける。朝の森は胸に心地良く清々《すがすが》しい木々の香り。静かで、たまに小鳥のさえずる声が聞こえる。
草のない地面にレーシアは分厚い妖精術書を片手にアイルーン・ロッドの先で大きな魔法陣を描いているところだ。
「なんだってッ!? ルヴィアとレーシアちゃんが体を入れ替えるッ!?」
驚きの声を上げたのはランディだ。
「そーよ。おもしろそーでしょっ?」
「一体全体、なんで急にそんなこと……」
「レーシアが胸…」
「キャ――――!!!」
途端に真っ赤な顔のレーシアがスッ飛んできて片手でルヴィアの口を塞いだ。
「な、なんでもないんです。ただ、そういう術があったので試してみようと……」
ルヴィアの口を押さえたままランディに言う。
「そうなの?」
レーシアの慌てようにランディもそれ以上は聞かなかった。
「さっ、完成したわ」
ルヴィア達は地面に大きく描かれた魔法陣を前にした。
魔法陣には何やら不思議な文字がたくさん書かれている。おそらく妖精文字だろう。
「へぇ、これが」
魔法陣に見入るランディ。
「で? それからどーすんの?」
ルヴィアが尋ねるとレーシアは術書に目を通す。
「魔法陣の中の2つの小さな円の中に体を入れ替える者がそれぞれ立ち、精神を集中し呪文を詠唱する。それでいいんですって」
それを聞いたルヴィアはレーシアに歩み寄り術書を覗き込む。
「どれどれ呪文って? エーッ!! あたしこんなの読めないわよっ!!」
「大丈夫よ、呪文は私が詠唱するから。お姉さまは精神を集中していてくれればいいわ。それでは始めましょうか」
ルヴィアとレーシアはそれぞれ小さな円の中に向かい合って立った。
「準備はいい?」
「ええ」
ルヴィアが目を閉じた。
レーシアは人間の言葉ではない不思議な言葉を口にし詠唱した。それは美しい旋律で歌のようにも聴こえ耳にする者を魅了する。
……なんて綺麗な声なんだろう。
聴いていたランディも目を閉じてレーシアの声に耳を傾けた。
レーシアが詠唱し終えると魔法陣が光り輝き、まばゆい光が立ち上る。光の中央に小さな人影が2つ現れ、光が消えると姿が明らかになる。
2人の可愛い少女だ。裾のフンワリした淡い色のワンピース姿で背には薄く透きとおった綺麗な羽根が生えており手にはスティックを握っている。
ルヴィアとレーシアはゆっくり目を開ける。
目前で羽ばたく手の平サイズの小さな少女にルヴィアは驚く。
「きゃッ!」
「ピクシーね」
「はっじめましてぇー☆ あたし達はぁ、双子のピクシーヤエちゃんとぉ」
「ユウちゃんでぇーす☆」
妙に間の抜けた話し方だが、それはレーシアの言うとおりピクシーだった。
「どうなったんだ?」
ランディにはピクシーが見えずルヴィア達の会話も聞こえず様子が解らないようだ。
「ピクシーッ!? 妖精族のっ!?」
「そうでぇーす☆」
「今日はぁ、ご召喚いただきぃ、どうもぉ、ありがとうございますぅ☆」
ヤエとユウが言う。
「チョットなんなのよそのトロクサイ話し方ッ! イライラするわよッ!」
「えーっ! そんなことぉ、言われましてもぉ」
「これがぁ、あたし達ぃ、ピクシーのぉ、ペースなんですぅ」
困り顔で言う2人にルヴィアはしらけ目線をそらす。
「あっそ」
「おわかりぃ、いただけましたぁ?」
「さぁユウ、お仕事よぉ☆」
「はぁーい☆ それではぁ、あなた方のぉ、魂をぉ、6時間だけぇ、入れ替えたいとぉ、思いますぅ☆」
「心の準備はぁ、よろしいですかぁ?」
「ええ」
「はい」
ルヴィアとレーシアが目を閉じる。
「それではぁ、いきますよぉ☆」
ヤエとユウがスティックをそれぞれルヴィアとレーシアにかざした。
その時レーシアの頭上を1羽の鳥が羽ばたいた。そしてなんとフンを落とした。
「あッ!!」
それを見たランディが目を見開く。
「危なァ――いッッ!!!」
思わず走りだしレーシアをドーンっと魔法陣の外へ突き飛ばした。
「キャアッ!!」
レーシアが地面に倒れる。
だがなんという事か、ちょうどうまい具合にランディの頭にフンが落ちたのだった(汗)。
「えっ」
ユウが戸惑ったが手遅れで2人のスティックに光が灯った。
ルヴィアとランディの体が光り輝き2人の光が入れ替わる。
「……ん……」
恐る恐る目を開けるランディ。
「ど、どーなったのっ!? んッ!? 声がァァ――ッッ!!!」
驚き両手を開いて下を向き体を確認すると顔から血の気がサーっと引いた。
「キャア――ッッ!!! ナニよコレェ――ッ!!! あたしがランディになってるゥ――ッ!!!」
あまりの出来事に驚愕して真っ青な顔で絶叫した。
一方ルヴィア(ランディ)も目前の自分の姿に驚き指差す。
「ああーッ!!! ぼ、僕がそこに…ん? 声が女…てことは、わあーッ!! 僕とルヴィアが入れ替わっちゃったのかーッ!!?」
「なんでよーッ!! どーしてこーなんのーッ!!? ちょっとレーシアッ!! あ、あんたなんでそんなトコにッ!?」
目を点にしたランディ(ルヴィア)が魔法陣の外で慌てているレーシアに尋ねた。
「私達が入れ替わる直前にランディさんが私を外に突き出したのよ」
「なッ!! なんですってェッ!!?」
ルヴィア(ランディ)をギロッと睨みつけた。
「ああッ!! まさかジブンをにらむコトになるなんてェッ!! ちょっとランディッ!! いったいどーゆーコトよッ!!」
ルヴィア(ランディ)に詰め寄った。
「僕が女言葉でしゃべってる……」
「セツメーしなさいよッッ!!!」
ランディの顔でもの凄い形相になった。
「レーシアちゃんに鳥のフンが落ちそうになって、気がついたら突き飛ばしてたんだよ」
「えっ!? そーだったのっ!?」
悪気がないと知りランディ(ルヴィア)が我に返った。
私のために、と1人嬉しそうに頬を赤らめるレーシア。
ふとランディ(ルヴィア)は顔をしかめる。
「鳥のフン? そーいえば、さっきからなんかにおうのよねェ……」
「エッ!? まさか、あーッ!! 僕の頭にフンがッ!!」
ルヴィア(ランディ)がランディ(ルヴィア)の頭を指差し青ざめた顔で言った。
「なんですってーッ!!? キタナーイッ!!」
それを聞いたランディ(ルヴィア)がマントを掴み頭をがむしゃらに拭いた。
「うわッ!! バカッ!! 僕のマントで拭くなよーッ!!」
「ウッサイわねーッ!! そんなコトよりランディッ! もっかいやるわよッ! そーすればモトにもどるハズよッ」
「ダメよ」
「エッ!?」
冷静に言うレーシアに2人が振り向いた。
「妖精術を続けて行うことはできないの。自然に解けるのを待つしかないのよ」
レーシアがそう言うとランディ(ルヴィア)は両頬を押さえて驚愕する。
「エエーッ!!? ウッソォーッッ!!!」
「自然に解けるのって、どれくらいで?」
「6時間経てば……。今は9時過ぎだから、3時過ぎには解けると思うわ」
「ろッ!! 6時間ーッ!!?」
ルヴィアとランディが愕然とした。
「ジョーダンでしょォーッ!!? ながすぎるわッ!! それまでコイツのカラダでいなきゃなんないワケーッ!!?」
一方ルヴィア(ランディ)は怪しげな笑みを浮かべていた。
その様子にランディ(ルヴィア)は睨みながら詰め寄る。
「ちょっとアンタァ、ナニうれしそーにしてんのよ。またなんかエッチなコト考えてるわねッ!?」
ルヴィア(ランディ)はギクッとした。
「えッ!? いや別に何もッ」
「ねぇ、もうここにいても仕方ないじゃない? タウンに戻りましょうよ」
「あ、そーね……」
「なぁルヴィアー。このブーツ歩きにくいよ。足も痛くなるしさぁ」
歩きながらルヴィア(ランディ)が不満そうに言う。
「ウッサイわねッ!! モンク言ったってしかたないでしょッ!! あたしだってこんなアツくるしーカッコちょーヤなんだからッ!!」
「暑苦しくて悪かったなっ」
などと端から聞くと訳の解らん会話をしながらタウンへ向かった。
「いい? ヨリミチしないでまっすぐホテル向かうわよ」
「ああ」
ルヴィア達は街道を歩き始めた。
なんだか妙に緊張してランディ(ルヴィア)は冷や汗をかく。
そんなランディを見てヒソヒソと話しているギャルが居た。顔を赤らめて。
「あ、あのぉ」
「え?」
2人のギャルがランディ(ルヴィア)に声をかけてきた。2人とも少し恥じらっている。
「私ぃ、昨日あなたの姿を見かけて気になってたんです。お時間あったら遊びませんか?」
「エエッ」
女のコにナンパされてる!
ビックリしたランディ(ルヴィア)が振り返るとルヴィア(ランディ)とレーシアはうろたえる。
「ねぇ、なんか臭くない?」
「そうね」
こんな会話をギャルが交わした。ランディの頭に落ちた鳥のフンがにおっているのだろうか。
「あ、あの」
再び声をかけられランディ(ルヴィア)は向き直る。
「な、なに?」
「その人達、あなたのファンですか?」
「だったら私達も混ぜてください!」
どうやら一緒に居るルヴィアとレーシアの事をランディのファンだと思ったらしい。
「はッ!? そんなんじゃないわよッ!」
即行否定するランディ(ルヴィア)。
「エッ!?……ない……わよ?」
ギャルの目が点になる。
ランディ(ルヴィア)はうっかり出てしまった女口調にヤバイッと目を見開き顔は青ざめた。
「おッ!! オカマァァ〜〜!!!」
顔の青ざめたギャルが猛スピードで後ずさりをしながら遠ざかっていった。
「ちょっと聞いた? あの人オカマだってよ」
「やあん。かっこいいのにー」
行き交う町人がヒソヒソと話しながら通り過ぎた。
「ふぅ、ビックリしたなぁ。でも僕が女の子に逆ナンパされるなんて、僕もなかなか捨てたものじゃないだろ? ルヴィア」
得意顔でルヴィア(ランディ)が言う。
「ルヴィア?」
無反応なランディ(ルヴィア)を見ると背を向けたまま震えていた。
「ラン、あっ、お姉さま大丈夫?」
区別できていないレーシア。
「もーイヤァァ――ッッ!!!」
たまらずランディ(ルヴィア)が猛ダッシュで走りだした。
「あ、オカマが逃げた」
悲しくも町人から呟かれたのだった。
【NEXT→II】