表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/54

TALE47:消えそうな光



※警告※


今回のお話は一部に惨酷な描写が含まれます。

苦手な方はご注意ください。



 無造作に雑草が生い茂る荒野に口を開けた洞窟。そこが盗賊のアジトだ。

 暗くゴツゴツした足場の悪い洞窟を抜けた空洞で焚き火が燃えている。


「まったくこのイビキすげェなァ。おいダンッ! このネーちゃんどうするヨ」

 ルヴィアをかついでいるチップが呆れながら尋ねた。

「適当に転がしておけ。それから口を縛れ」

 顔を覆っていた布を取ったダンがチップに命じた。

 素顔の彼は結構な美青年。動物にまたがっている時は解らなかったが背も高い。


 チップは言われたとおりにルヴィアを降ろし顔を覆っていた布でルヴィアの口を縛った。

 ルヴィアのイビキは少しは抑えられたが、それでもまだ布を通して聞こえる。

「で、それからどうすんだ?」

 続けてチップが尋ねた。

 彼は小柄で姿勢が悪く、素顔もさながら背格好からして人間というよりは動物的だ。


「身に着けている物を取ってしまえ」

 ダンが冷静に言った。

 期待通りの答えにチップは顔を赤らめてガッツポーズを取る。

「うっしゃっ!」



 アクセサリーを全て外され、コスチュームを脱がされたルヴィアはあられもない姿にされた。わずかランジェリーとヘアバンドを身に着けているだけだ。

「下着も取っちまうかー? ヘヘヘ」

 チップがデレデレした顔で言ったがダンは冷静に口を開く。

「しかしこんな所でアイルーン・キングダムのプリンセスに遭遇するとはな。とんだお宝が手に入ったってものだ」

「そんで次は?」

「そうだな……。られた子分共の痛みの分、じっくり苦しめてなぶり殺してやる。まずチップの鞭で存分に痛めつけ、体のパーツごとに切断するとかな。あの煙を1度吸ったら半日は目覚めん。いくら魔法が使えるとて、こうなってしまえば赤子も同然だ」

 不敵な笑みを浮かべるダン。

「そうか……。やっぱり殺すか……」

 名残なごり惜しそうにチップがルヴィアの全身をジロジロと見つめた。

「で、でもヨォ。この女、殺すにゃちと惜しくねェか?」

 それを聞いたダンは冷や汗を垂らす。

「……おまえ、まさかその女に惚れたのではないだろうな」

 チップは慌てて否定する。

「ちっ! ちげェヨっ!! ただこの女、マホウとやらが使えんだろっ!? だったらそれを利用しねェ手はねェんじゃねェかと思ってヨ。それがありゃ世界征服も夢じゃなくなるゼっ!」

「ほう……。だがこの女が素直に言うことを聞くとは思えんがな」

「例えば脅すとか……。言うことを聞かねェと、あのタウンの連中を皆殺しにするとかヨ」

「その前に俺達がられると思うがな」

「…………」

 呆気なくダンに冷静に返されチップは言葉も出なかった。

「でもヨォっ! そんな急いで殺しちまわなくっても、いいよナっ!」

「どういう意味だ」

「よく見てみろヨ。この女、極上の体をしてると思わねェか? 殺すのは……い、1発ヤッてからでも遅くねェよナ?」

 チップの発言にダンは表情をこわばらせる。

「だ、ダメか?」

 ダンは呆れてため息をつく。

「やはりそういうことか。好きにすればいいだろう」

「本当かっ!? ありがてェ。ダンはいいのかヨ?」

「俺はいい……」

 背を向けて小声で返した。

「エッ!!? マジかヨっ! こんな極上な女、めったにいねェゾっ!? ぜってェあとで後悔するゼっ! いくら下手クソだからってヨォー」

「うるせェ!! やるんならさっさとやれ!!」

 冷静なダンが急にムキになって怒鳴った。

「あ、ああそんじゃ……」

 チップはルヴィアの体におもむろにまたがる。そうとは知らずルヴィアは眠りこけたままだ。

 ルヴィアの大きな胸をブラの上から鷲掴みしたチップは感激の声を上げる。

「おおでっけェッ!! こいつァ楽しめそうだ」



 ルヴィアの夢の中。


 何もない、ただ真っ白な空間に人影がボンヤリと現れた。

 その影はゆっくり近づいてくる。現れたのはランディだった。

 ランディはデレっとした顔になり、ヘヘヘといやらしく笑いながらルヴィアの胸を揉み始める。



「∞∴$¢£#*@☆ッッ!!!」

 声にならない悲鳴を上げルヴィア・パンチをチップの顔面に繰り出しブッ飛ばした。

「ぬォォッ!!?」

「何!?」

 チップが吹っ飛びダンが振り返った。

「んむゥッ!?」

 ビックリしたように飛び起きるルヴィア。

 冷や汗をかいたダンはルヴィアを見つめていた。

「なぜだ!? 目を覚ましやがった……」

「イッテェーッ!! 何しやがるッ!!」

 片手で顔面を押さえながらチップが起き上がった。

 ルヴィアは口を縛られていた布を首にズリ下ろす。

「ナニコレッ!!」

 次の瞬間、目が点になる。

「キャアア――ッッッ!!!!!」

 絶叫したルヴィアにダンとチップは両耳を塞ぐ。

「うるさい女だ」

「なッ!! ナニよこれッ!! あたしの服はァッ!!?」

 真っ赤な顔のルヴィアが両腕で胸を覆った。ランジェリーは着けているものの2回目だ。

「貴様の身に着けていた物は俺達が頂いた。貴様にはもう必要のない物だからな」

「なんですってッ!!?」

 ダンの声にルヴィアが振り向く。

 そこにあるテーブルにルヴィアのコスチュームとアクセサリーが置いてある。

 だがダンを一目見た途端ルヴィアはドキンッとときめく。

 ダンは長めの前髪から覗く鋭い目がクールな男前。

 それはつまり、ルックスがルヴィアのタイプなのだ。

 ルヴィアは顔を赤らめて立ち上がりダンに歩み寄る。

「ねーあなたダレ?」

 それを聞いたダンは呆れて冷や汗を垂らす。

「……貴様、まだわかっていないのか?」

「えっ!?」

「よく思い出してみろ」

「……そーいえばあたし、どーしたんだっけェ……」

 今までの出来事を思い出そうとした。

「……んーと……。たしかタウンで急に眠くなってェ、そのまま……眠っちゃったんだわァ――ッッ!!!」

 顔が青ざめ両頬を押さえて叫ぶルヴィアに再びダンとチップは両耳を塞いだ。

「うるせェェ――ッ!!!」

 チップまで叫んだ。

「どうやら思い出したようだが」

「アンタ達ッ!! まさかさっきのトーゾクッ!!?」

「そのとおりだ」

「こ、このあたしをこんなカッコにして……。エッチなコトするためにこんなトコつれこんだのねェ〜〜!?」

 怒りの込み上がったルヴィアが体をワナワナと震わせてダンとチップを睨みつけた。

「へっ、バーカ。おめェを殺すために決まってんだろっ!? ただその前に1発ヤッてやろうかと思ったんだヨ」

 チップがそう言うとルヴィアはキッと睨みつける。

「なんですってェッ!!? ヘンタイッ!! ふざけんじゃないわよッ!! ダレがアンタなんかッ!!」

「……あ? それって俺だけに言ってんのかヨ」

 疑問を持ったチップが尋ねた。

「そーよ」

「なんでダンには言わねェんだヨ」

「えっ」

 ルヴィアは顔を赤らめてダンを見る。

「あなたなら、まーゆるしてあげるわ。殺されんのはジョーダンじゃないけどね」

「…………」

 無表情のダン。

「だっはっはっ!! ネーちゃんダンに惚れたのかヨっ!!」

 涙目でチップが大笑いした。

 ルヴィアは不愉快になりキッと睨みつける。

「ナニがおかしーのよッ!!」

「ひっひっひっ……。やめたほうがいいゼェ。ダンは女嫌いなんだからヨ」

「エッ!?」

 それを聞いたルヴィアがダンを見る。

「余計なことを言うな」

「どーしてっ!?」

 ルヴィアが尋ねるとチップは代わりに説明する。

「あー、なんか昔な、ダンがすげェ惚れてた女に利用されて騙くらかされたんだと。それがダンはひでェショックだったみてェでヨ。それが原因でダンは女嫌いになっちまい荒れて荒れて、そんで賊の道に足を踏み入れたんだと」

「チッ……」

 不機嫌になったダンが舌打ちした。

「そーだったの。でも、こーんなにうつくしーこのあたしを前にしてどーかしらっ」

 ルヴィアが得意のセクシーポーズを取り後ろ髪を掻き上げ、うなじをチラリと見せつつ色っぽい流し目とウィンク、投げキッスをしてダンを誘惑した。

 チップはいうまでもなく見惚れて目をハートにした。

 常に無表情のダンだったがルヴィアの魅力にはかなわず頬を赤らめる。

「おおっ!! ダンが赤くなったゼっ!! 俺初めて見たっ!!」

「ちッ、違う!!」

 珍しくうろたえるダン。

「ウフンっ。このあたしのミリョクにどーじない男はいないのよっ」

 得意顔のルヴィアにチップは感心する。

「すげェなァ。だけどダンはやめときナ、下手クソだしヨォ。それより俺がかわいがってやるゼっ!」

「アンタはヤダッ!!」

「なんだとォーッ!!?」

「……そんなに俺がいいなら抱いてやってもいいぞ」

「えっ!?」

 ダンの発言にルヴィアが振り向く。

 ゆっくりダンは歩み寄りルヴィアをドンッと突き飛ばした。

「キャアッ!!……イッタァ」

 地面に倒れたルヴィアが目を開けると、そこにダンの顔があった。

「あ……」

 ダンは四つんばいでルヴィアを見下ろしている。

「……綺麗な顔だ。アイルーン・キングダムのプリンセスは絶世の美女だと噂に聞いていたが、嘘ではなかったようだな」

「あらトーゼンよ」

 得意顔のルヴィアの胸をダンはブラの上から乱暴にグッと掴む。

「イタッ!!」

 力強く掴まれ痛さでルヴィアの顔が歪んだ。

 最初から優しくするつもりなどない。その反応はダンの解っていたものだ。

「ヤッ!! イタイッ!! やめてッ!!」

 痛さに耐えかね強く目を閉じたルヴィアが叫ぶ。

「貴様が誘ったんだろう」

「やっぱいいッ!! やめてェーッ!!!」

「ふざけるな」

 行為をしていてもダンは無表情だ。

「イタイってばヤダァーッ!!!」

「たっ! たまんねーっ!! おいダンっ!! 早く俺にも回せヨっ!!」

 側で見ているチップが興奮して鼻息を荒くしながら言った。痛がり拒絶しているルヴィアさえも彼を高ぶらせるには充分なようだ。

「イヤァ――ッッ!!!」

 ルヴィア・パンチをダンの頬に繰り出しブッ飛ばした。

 それを見たチップは目を見開く。

「何しやがんだおめェッ!!」

 ルヴィアは起き上がるとダンを睨みつける。

「貴様……」

 起き上がったダンも睨んだ。

「イタイって言ってんのにムリヤリしよーとするなんてゆるせないわッ!! そもそもあたしがまちがってたわよ、こんなアクトーにカラダゆるすなんて。アンタ達のキタナイ手でこのあたしのうつくしーカラダ触れたツミは死にアタイするわよッ!!」

 ルヴィアが立ち上がった。

「黙れボケがァーッ!!」

 チップが飛び上がり鞭を振るった。

 華麗な側転で避けるルヴィア。

「ちょッ! チョット待ってよッ!!」

 だがチップは更に鞭を振るいルヴィアは素早くかわした。

「落ち着けチップ!! もう1度あれを使え!!」

「へっ!?」

 チップがダンに振り向いた。

「眠り玉だ」

「おうわかったゼっ!!」

 そう言いチップはふところから再び眠り玉を取り出し振りかぶった。

 それを見たルヴィアは両手を突き出す。

「させないわッ!! 『ファイア・フレイム』ッ!!」

 ルヴィアの体が淡く輝き手の平から火炎球をボンッと放った。

 火炎球がチップに迫る。

「どわあッ!!」

 たじろいだチップは火炎球に飲み込まれた。

「ウギャアアッ!!!」

「チップ!!」

 ダンは上着を脱ぎながら地面でのたうち回っているチップに駆け寄る。

 上着でチップをバタバタと叩き炎を消そうとした。

 ルヴィアはそのスキに走りだしテーブルのコスチュームとアクセサリーを取り戻し、その場を立ち去った。

「待て!!」

 ダンが追いかけようとしたが、まだ炎が残っているチップに向き直る。

「チッ……」



 雲の厚い空の下を馬に乗ったドミニオは急ぐ。

 まだ昼だというのに暗く嫌な空は、ルヴィアの危機を更に予感させた。

 嫌だ。もの凄く悪い予感がする。

 体の全神経がピリピリとそう訴えている。とめどない不安がかき乱す。

 以前ティナに教えてもらった盗賊のアジトにルヴィアはいるはずだ。

 自分が着くまで、どうか無事でいてほしい。



 アジト。

 なんとかチップの炎は消えたようだが焼け焦げた全身の火傷やけどは酷い。

「大丈夫か?」

「くゥ……。体中が痛ェ……」

 チップが苦痛で震えていた。

「動けるか?」

「なんとかナ……。このままじゃ俺の気がすまねェヨッ!! あの女ぜってェ犯すッッ!!!」

 こうなってまでも凄い気迫で言うチップ。

「だが逃げられたかもしれん……」

「いや、あの女はまだここにいやがる。匂いがしやがんだ」

「何!?」

 それを聞いたダンが走りだす。

「おいッ!! 待ってくれヨッ!!」

 痛々しくチップが立ち上がった。



「……ん……」

「ティナ!」

 ベッドで目を覚ましたティナに母が声をかけた。

「あ、お母さん……。あれ!? ここティナの部屋!」

 起き上がってティナが言う。

「ティナがタウンで気絶したってドミニオが連れてきたのよ」

「そうだったの!? それでお兄ちゃんは!?」

「行く所があるからって急いで出ていったわ」

 それを聞いたティナはハッとする。

「いけない! ルヴィアお姉様がご無事かどうか早く見てみないと!」

 慌ててベッドから降りた。



「!」

 走っていたダンは現れた人影に足を止めた。

 そこに居たのはコスチュームを身に着けたルヴィアだった。

「ハ〜イ」

「貴様……。なぜ逃げなかった!?」

 ダンが尋ねるとルヴィアの表情がこわばる。

「逃げるですってッ!? ふざけないでッ!! 言ったでしょッ!! アンタ達は死にアタイするってねッ!!」



 エレンティア家のティナの部屋。

 水晶球にルヴィアの姿が映った。

「ルヴィアお姉様! よかったご無事みたいだわ!」

 ティナがホッとした。

 だが水晶球にルヴィアと対峙しているダンの姿も映り驚愕する。

「盗賊!!」



 アジト。

「アンタがトーゾクなんかじゃなかったらよかったんだけど、ザンネンだわ」

「…………」

 そこへ全身火傷(やけど)のチップがフラフラとやってきた。

 ダンは振り返る。

「チップ! 大丈夫か!?」

「あらあら、みっともないスガタになっちゃったわねェー」

 ルヴィアがチップを見てクスクスと笑った。

「てんめェ〜〜。許さねェゾォッ!!」

 怒り狂ったチップが必死で鞭を振るった。

 ルヴィアは華麗なバク転で避ける。

「そんなになってまでまだあたしとやろーってのッ!? だったらウィップにはウィップでお相手してあげるわッ!」

 腰からジュエル・ウィップを外して握りしめ、振るった。

「やあーッ!!」

 チップは避けられず、もろに食らった。

「ぐはッ!!」

「チップ!!」

 チップが倒れ込みダンはナイフを取り出す。

「今度は俺が相手だ」

 ルヴィアにナイフを投げつけた。

 避けるルヴィアにダンは移動しながら更にナイフを投げつける。

「!」

 振り向いたルヴィアは慌てて避けた。

 だが気を取られているスキにチップの鞭が片足に絡みつく。

「なッ!! キャアッ!!」

 引っ張られルヴィアはうつ伏せに倒れ込む。

「へへ……。やったゼ」

 倒れているチップがニッと笑った。

「ナニすんのよッ!!」

 起き上がろうとルヴィアが半身を上げた。

 次の瞬間、ダンの投げつけた2本のナイフがルヴィアの腹と左脇腹にズドッと深く突き刺さった。目前が一瞬暗くなり、たちまち襲ってきた激痛にルヴィアは目を見開く。

「キャアアッッ!!!」

 一気に呼吸がままならなくなった。呼吸をするのでさえ腹部から押し上げてくる強烈な激痛。続いて口中に血の味が広がり苦くなってきた。

 激痛を堪え、細く息をしながら震える体をなんとか仰向けにする。

 そんなルヴィアを不敵な笑みを浮かべたダンとヨロヨロと立ち上がったチップが見下ろした。

「うっしゃあっ!! やっと俺達の反撃開始だナっ!!」

 反撃開始? ふざけんじゃないわよ、とルヴィアは思ったがどうしようもない状況。

 額にジットリとした嫌な汗が溢れてくる。

 ……とにかくナイフを抜かなければ。

 震える手を腹に伸ばしてナイフを掴み、激痛を堪えて引き抜く。

「ううッ!」

 傷口から鮮血が溢れドクドクと流れ出た。腹に感じる生温かい液体の感触に気が遠のきそうになる。もう手には力が入らない。だがこんな時にでも脇腹に刺さったもう1本のナイフをそのままにしておくなど自分のプライドが許さない。麻痺マヒしている手を動かして脇腹のナイフを必死の力で引き抜く。ドッと溢れ出た鮮血をゴツゴツとした地面が吸い、黒い染みを広げていく。

「おお、痛そうだねェ。そんな傷を負っちゃ、もう動き回れねェよナァ」

 両手で傷を押さえて苦しそうに呼吸しているルヴィアの横にチップはしゃがみ込む。

「さぁ、今度は俺がかわいがってやるゼ。コネコちゃん」

 そう言いチップはルヴィアの体にまたがった。

 ルヴィアの腹をわざと押す。

「おっと」

「アアァァッッ!!!」

 恐ろしい程の激痛がルヴィアの体を駆け抜けた。

 苦痛の叫びを上げた口の端から血が流れる。

 圧迫されて傷口から大量の血が溢れ、地面の染みを更に濃くした。

「……あぁ……」

 もう意識がハッキリしない。血の気が引いていく。

「いい声を出すじゃねェか。その顔も色っぽいゼェ。ゾクゾクするヨ。たまんねェ」

 朦朧もうろうとする意識の中でルヴィアは薄く目を開ける。目前にあるいやらしい笑みを浮かべて自分を見つめている鬼畜きちくの顔さえもう見えない。

 その時

「プリンセス――」

 遠くからドミニオの声が響いてきた。

「何!?」

 ダンが反応しチップは振り向く。

「何モンだッ?」

 ドム……?

 意識が途切れる寸前のルヴィアにも、ドミニオの声は届いていた。



 アジトを走るドミニオの前にダンが現れ立ちはだかる。

 ドミニオはサッと身構えダンを睨みつける。

「テメーッ!! プリンセスはどこだッ!!」

「女を助けに来たのか。貴様、なぜここがわかった」

「んなことどーでもいーだろがッ!!」

 地面を蹴りダンに殴りかかる。

 ダンはかわすとナイフを取り出しドミニオに投げつけた。

「くッ!」

 ナイフを避けるドミニオ。

 今戦っている余裕はない。ルヴィアを見つけるのが先だ。

 奧に向かって走りだす。

「待て貴様!!」

「プリンセス――ッ!!」

 火傷やけどの痛みを堪えて震えながら立っているチップにドミニオは足を止める。

「てめェか、さっきからうるせェのはヨ」

「プリンセスはどこだッ!!」

「ああ? てめェの捜してる女はあれかヨ?」

 チップが首を後ろに振るとドミニオは走りだす。

「プリンセスッ!!」

 倒れているルヴィアを発見した。

「!!」

 それは、あまりにもドミニオに惨酷すぎた。

 暗い洞窟で横たわる愛しい女性ひとの変わり果てた無惨な姿。

 腹と脇腹からのおびただしい大量出血。瞳はうつろに開いた状態で、いつもなら笑みがこぼれているはずの美麗な唇からも、こぼれているものは血。更に目を背けたくなったのは、服もろともランジェリーがはだけて肌が露わだった。

 ……遅かった……。

 一気に奈落の底へ突き落とされたような絶望感がドミニオを襲う。

「……うあぁ……」

 胸がえぐられたように苦しくなり、震えながらしゃがみ込む。

「へっ! てめェの女だったんかヨ。こんな姿見ちまったら、そりゃショックだよナァ」

 背後から聞こえる不愉快な笑い声。

 ……黙れ。

 耳が腐る。

 腹の底から、こんなに憎悪を感じたのは生まれて初めてだ。

 頭に血が逆流し、自分が自分でなくなる瞬間を今まさに感じる。

 ドミニオの体から明るいオーラが発した。

「テメー……」

 背を向けたままドミニオが低い声で言った。

 ダンはドミニオの背中にナイフを投げつける。

 素早く振り返りドミニオは指でナイフを捕らえた。

「何!!?」

 ダンが目を見開く。

 ドミニオは立ち上がり目に見えぬさばきでダンにナイフを投げつける。ナイフはダンの腹に突き刺さった。

「ぐゥッ!」

「ダンッ!!」

 チップが声を上げた。

「てめェッ!!」

 鞭をドミニオに振るう。

 ドミニオは鞭を掴み勢い良く引いた。

「ギャッ!!」

 地面に倒れ込んだチップを飛び上がったドミニオは両足で踏み込む。

「ギヤァーッ!!」

 ドミニオの拳にオーラが集まりチップの背中に振り下ろす。

 あまりの威力にチップは海老剃えびぞりになって地面に沈み周囲にヒビが走った。チップは絶命した。

「……プリンセス」

 ドミニオはルヴィアに駆け寄り抱き起こす。

「冷てー……」

 血の気の失せたルヴィアの体は氷のように冷たい。

「プリンセスッ!! プリンセスッ!!」

 呼びかけたがルヴィアは無反応だ。

 ドミニオの目に涙が溢れる。

「……プリンセス、死ぬな。今ドクターのとこに連れてってやるからなッ」

 ルヴィアを抱えて立ち上がろうとした瞬間、目を見開く。背中にナイフが突き刺さった。

「ぐあッ!!」

 痛みを堪えて振り返ると腹の傷を片手で押さえているダンが居た。

「て、テメー……」

「死ね!!」

 ダンがナイフを投げつけた。ドミニオは素早くナイフを掴む。手に血が滲んだ。

「死ぬのは、テメーのほうだッッ!!!」

 立ち上がりダンにナイフを投げつけた。

 ナイフはダンの額に突き刺さり、後方に倒れ絶命した。



【TALE47:END】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ