TALE46:裂かれた想い
次の日。
町長の屋敷で祝宴が催され、ルヴィア達3人とドミニオ、ティナは招かれた。
大きな屋敷のダイニングルーム。
ルヴィア達が着席した長テーブルには豪華な料理が並ぶ。
「いやあ! 本当にめでたいですな。盗賊が出没するようになってから、倒せる者がなかなかいなくてほとほと困れ果てておったんですよ。そいつらを倒してしまうとは女性なのにお強いんですなぁ」
上機嫌で豪快に笑うのは町長だ。
「そうなんですぅ! ルヴィアお姉様のご活躍は、それはもうすごかったんですよぉ! こんなにお綺麗で、それでいてお強いなんてすべての女性の憧れですぅ!」
瞳をキラキラと輝かせたティナが語ったが隣に居るルヴィアは青ざめた顔で苦笑いしていた。ティナが言うと別の意味で怖かった。
「先ほどフィール・ビリッジからドクターが来てくださって、おじいちゃんももう安心ですぅ! ルヴィアお姉様、本当にありがとうございました!」
「よかったわねー」
ルヴィアは無理に微笑んでティナに言うと、いつものごとくもの凄い勢いで料理をたいらげ始めた。
「ああ! ルヴィアお姉様の食べっぷり! 素敵ですぅ」
ティナの発言にルヴィアは食べていた物を吹き出してしまった。そんなところにまでいちいち感激するティナだった。
一方ランディはティナがルヴィアに引っ付いているのが不満ではあるが、女の子にそんな事が言える訳もない。
町人は盗賊が退治されたと知って胸を撫で下ろし、笑みがこぼれた。
そのはずだったが。
「盛り上がっているところ失礼します。町長!! 大変です!!」
突然、血相を変えた1人の男が入ってきた。
「どうした。騒々しい」
不愉快そうに町長が振り向く。
「盗賊が襲ってきました!!」
「何ィー!!?」
町長が愕然とし、ルヴィアに問い詰める。
「どういうことですかな!? 盗賊共は全滅したはずでは!」
「だと思ったんだけど、おかしーわねェ」
不思議に思うルヴィア。
「きっとまだ仲間いやがったんだッ!!」
ドミニオが立ち上がりランディとレーシアは冷や汗をかく。
「そんな! ルヴィアお姉様どうかお助けください! お願いします!」
ティナがルヴィアに懇願した。
「……わかったわ。まだゴチソーすんでないけど、ちゃんと残しといてねっ!!」
そう言いルヴィアは飛び出した。
「ルヴィアッ!! 待ってくれッ!!」
「私も行きます!」
ランディとレーシアも続いて出ていった。
「……悔しいがオレの出番はねーな」
「大丈夫よお兄ちゃん。ルヴィアお姉様なら絶対に盗賊をやっつけてくれるわ」
悔しがっているドミニオにティナが言った。
街道を走るルヴィアはすぐ現場を発見した。
人だかりができた只事じゃない状況。盗賊のものか甲高い声が響いている。
タウンに居た盗賊は2人組。
リヤカーを繋げたラクダのような動物にまたがった盗賊が1人、そのリヤカーに革製の鞭を手にしたもう1人の盗賊が乗っている。2人共目つきが悪く、目から下に布を巻いて顔を覆っている。昨夜の2人だ。
「おらおらァッ!! モタモタしねェでさっさと乗せろッ!!」
リヤカーに乗った盗賊が鞭をビシッと振るい叫んだ。
周囲に集まった町人は逆らえずに次々と金品をリヤカーへ乗せていく。
その場にルヴィアは躍り出た。
「こらアンタ達ッ!! やめなさいッ!!」
「あっ!?」
突然、現れたルヴィアに盗賊だけじゃなく町人も注目する。町人は大の大人が逆らえないのに勇敢な少女だという視線で。だが逆らったりして大丈夫かという不安な視線も注がれる。
「ほォー、こいつァ上玉なネーちゃんだナァ。ヒヒヒ」
リヤカーの盗賊がルヴィアの全身をいやらしい目つきで舐め回すように見つめた。気味悪がりゾッとするルヴィア。
動物に乗った盗賊はルヴィアの首飾りに注目して口を開く。
「貴様……。その首と足の飾りのエンブレムは……アイルーン・キングダムの物では?」
「あら、そのとおりよ」
盗賊の意外な問いにルヴィアが答えた。
周囲の町人がざわめく。まさかアイルーン・キングダムのプリンセスがこんな所に居るとは思わなかっただろう。
「……まさかとは思うが、貴様が俺の可愛い子分共を殺したのではあるまいな」
「そーよ。あたしがやっつけたわよ」
「やはりそうだったか」
「何ッ!!? このネーちゃんがッ!!? マジかヨッ!!」
リヤカーの盗賊が目を見開いた。
「アイルーン・キングダムは魔法王国ともいわれている。子分共の妙な死に方は魔法とやらを使ったのだろう」
「そーよ。よくわかったわねェ。アンタかしこいじゃない?」
感心したルヴィアが言った。
「そうとわかれば貴様を殺すのみ……。貴様に殺られた子分共の仇、討たせてもらうぞ」
「カタキですってッ!? アンタ達トーゾクってヒレツなワリにはズイブンとナカマイシキ強いのねェ。それにはカンシンするわ」
「こ、この女ァ。さっきから聞いてりゃ俺らをバカにしやがってッ!! 犯すゾおらァーッッ!!!」
リヤカーの盗賊が鞭を振るう。大変、気性が荒いようだ。
それを聞いたルヴィアは盗賊を睨みつける。
「なんですってェッ!!? ヘンタイッッ!!!」
「ルヴィアーッ!!」
そこへ遅ればせながらランディとレーシアが駆けつけた。レーシアはめちゃくちゃ苦しそうだ。
「レーシア、ランディッ! あんた達来ちゃったのッ!?」
「役者は揃ったようだな。だが俺が用があるのはそこの女だけだ。チップ!」
「おうヨっ!」
チップと呼ばれたリヤカーの盗賊が返事をし、懐から何やら怪しげな白い玉を取り出すとルヴィア目がけて投げ付けた。
「アブナイッ!!」
「キャア!!」
ルヴィアがとっさにレーシアをかばった。
玉はランディの近くでボンッと破裂し、辺りに白い煙が広がった。
「うわッ!! なんだッ!!?」
直撃を受けたランディはすぐ白い煙に包まれ見えなくなった。
「ナニコレッ!」
少し離れて倒れていたルヴィアとレーシアも白い煙に包まれる。
煙に巻き込まれた町人の何人かが倒れた。
すると辺りにゴォー、ガァーと不気味な轟音が響き始めた。
その音に盗賊や町人は驚き周囲を見回す。
「なッ、なんの音だッ!?」
警戒するチップ。
煙が晴れるとそれは解った。ルヴィアのイビキだ。催眠効果がある煙を吸い込み眠ってしまったようだ。勿論ルヴィアだけじゃない。ランディとレーシア、煙を吸った町人も眠っている。
「……もしかしてこいつらのイビキかっ!?」
冷や汗を垂らしたチップがルヴィア達を見て言う。
リヤカーから降りてルヴィアを肩に担ぐと更に驚く。
「ゲッ! イビキはこのネーちゃんだゼっ! キレイな顔してすげェナっ!」
「フ……。うまくいったな。それでは行くぞ」
ルヴィアを担いだチップがリヤカーに乗ると2人はその場を走り去った。
「ルヴィアお姉様、もうやっつけてくれたかしら?」
「プリンセスなら簡単だろ」
ルヴィアが負けるはずがない。当然もう倒して、こちらに戻ってくる頃だと思ってドミニオとティナは迎えに行くところだった。
それにしても、ルヴィアには頭が上がらない。自分がどうにもできなかった盗賊を簡単に倒してしまったし、自分も救ってもらったし。
……もう1度きちんと礼を言おう。できれば皆が居る所じゃなくて、どこか2人きりで。
それで色々話もしたい。
ランディが許すはずはないと思うが、ルヴィアを想う気持ちは同じ。こうしてまた再会できたのだから引き下がる気はない。
ルヴィアの気持ちだってまだ確認していないままだ。このまま別れるなんて、もう嫌だ。
今度は逃げない。逃げる気なんてない。ルヴィアの口から答えを聞くまでは。
ティナは遠くで人だかりができているのを発見する。
「ねぇお兄ちゃんあれ!」
「んっ? なんだ?」
ドミニオは人だかりに駆け寄り町人の1人に声をかける。
「スンマセンっ! なんかあったんですかっ!?」
「男と女が道端で寝てるんだと」
「えッ!?」
急いで町人を掻き分けて前に出ると、そこにランディとレーシアが眠っていた。
「あっ!」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
やってきたティナも状況を見て驚く。
「レーシア王女様! ランディさん! 何してるんですか!?」
ドミニオはランディを揺する。
「おいっ! 起きろっ!」
「こんな所で寝たら風邪ひきますよぉー。起きてくださぁーい。ルヴィアお姉様はどうしたんですかー?」
ティナもレーシアを揺すった。だが2人に目覚める気配はない。普段のランディとレーシアならすぐ目覚めるはずだ。
「どーなってんだ?」
「この2人は盗賊に変な玉を投げつけられて、その煙を吸って眠っちまったんだよ」
周囲に居た町人の1人が教えてくれた。
「エエッ!? そうなんですか!? ルヴィアお姉様は!? ルヴィアお姉様はどうなったかご存じないですか!?」
血相を変えたティナが尋ねた。
「えっ!? まさか盗賊にさらわれたプリンセスのことかい!?」
「さッ、さらわれた!?」
それを聞いたティナはショックで気絶してしまった。
「ティナッ!!」
3人揃ってそこに倒れていた。
ルヴィアが盗賊にさらわれた。
ドミニオはこれからルヴィアに起こるであろう身の危険を瞬時に察知した。
同時に怒りも腹の底から込み上げる。
また、自分の大切な人が奪われた。
早くルヴィアを助けなければ。大切な人を2度と危険な目に遭わせたくない。
今度は自分がルヴィアを助ける番だ。
表情を強ばらせて立ち上がるドミニオだった。
【TALE46:END】