TALE44:盗賊団
「おじいちゃん!! しっかりして!!」
「どうしましょう、もうほとんど薬が残っていないわ」
そこでは発作で苦しみ寝込んでいる老人を孫娘とその母が看病していた。
その孫娘とは懐かしのティナだ。
ドミニオの妹で水晶占術が得意な少女。以前(TALE17)ルヴィアが記憶喪失になってしまった時に失われた記憶を取り戻してくれた。
「薬をフィール・ビリッジまで買いに行かないと……」
母が困り顔で呟いた。
「あいつらさえいなければ行けるのに!!」
悔しそうにティナが下唇を噛みしめた。
「お母さん。もう1度、もう1度占ってみるわ! ほんの少しの可能性でも信じてみたいもの!」
「ええ、そうしてちょうだい」
ティナの部屋。
テーブルで小さなクッションの上に乗せられた水晶球にティナは両手をかざして念じる。
(神よ……。我は問う、盗賊を倒せし者は何処に?)
水晶球がポォっと淡く輝き人影が見えた。
「映った……!」
表情が明るくなったが水晶球に現れた人物に目を見開く。
「えっ! この方は!」
「おいしーっ♪♪」
街道を歩きながらルヴィアは笑顔で両手のアイスクリームを代わる代わるに舐める。
「おいルヴィア、そんなに食べたら……」
声をかけたランディをルヴィアはギロッと睨みつける。
「……ナニ?」
「お腹壊すぞ。僕に1つくれ」
ランディが手を差し出すとルヴィアはプイッと顔を背ける。
「ダメェー」
すると向かう先にルヴィアは何かを発見した。
「あ」
思わず足を止める。
それはエスタ・タウンのシンボルの女神像。
あれ、見た事ある……。
記憶を取り戻したルヴィアとドミニオが一緒に見た女神像だ。
……ドミニオは元気にしているだろうか。
思い出して切なくなる。
ドミニオの事を考えると、いつもこんな気持ちだ。淋しいような、胸が締め付けられるような気持ち。この気持ちはなんなのだろう。
女神像を見つめるルヴィアにランディは声をかける。
「どうしたんだルヴィア」
ランディの声に反応してルヴィアは振り向く。
「えっ、なんでもないわ」
街道を走るティナは息を切らして辺りを見回す。
この辺だったと思うけど。
「あ、いた!」
ルヴィア達を発見して一目散に向かう。
「プリンセスー!!」
「えっ!?」
ルヴィアが振り向くとティナが駆け寄ってきてビックリ仰天する。
「あっ! あんたはっ! ドムの妹のっ!」
「はい! ティナです。お久しぶりです!」
息を切らしながらティナが微笑んだ。
レーシアはティナにお辞儀する。
「あの、以前は姉が大変お世話になり、ありがとうございました」
「えっ! いえ、お礼なんていいんです。それよりプリンセスがこのタウンにいらしてたなんて驚きました!」
「ええ、ひさしぶりにキャッスル帰るトコなの」
「そうだったんですか!? あ、あのプリンセス。お兄ちゃんが……」
急にティナの表情が曇る。
「ドムがどーしたの?」
「今、お兄ちゃんがフィール・ビリッジで入院してるんです……」
「エッ!!? ニューインッ!? どーしてッ!?」
「それは……。あの剣士様! どうかお助けください!!」
突然、頼み込んできたティナにランディはうろたえる。
「えッ! 何ッ!?」
「ちょっとティナ、ワケわかんないわよ。ちゃんと話して」
「は、はい……」
ティナはおもむろに話し始める。
「お兄ちゃんは、この前のトリガーさん殺害で逮捕されて、ずっと牢屋の生活をしてたんです」
「エエッ!!?」
ルヴィアが目を見開いた。
「ドムが牢屋ッ!?」
「はい……。そして少し前、おじいちゃんが病にかかって時々発作を起こすようになったんです。今まではフィール・ビリッジのドクターの所までティナがお薬を買いに行ってました。でも最近になってビリッジまでの通り道に盗賊が出没するようになったんです」
「なんですってッ!!? トーゾクッ!!?」
「この前といい、急にそういう奴らが増えたな」
ランディが不愉快そうに言った。
「はい。盗賊は通行人を襲って金品を奪っていくんです。このままではビリッジまで安全に行くことができません。ティナは盗賊をやっつけられるのはお兄ちゃんしかいないと思って、町長さんに話をしに行きました。それでもしお兄ちゃんが盗賊をやっつけることができたら、釈放してもらえることになったんです。さっそくお兄ちゃんは1人で盗賊をやっつけに行きました。ティナは水晶球で様子を見てたんですが、あの強いお兄ちゃんでもかなわなくってやられてしまったんです……」
話を聞いたルヴィア達は愕然とした。
「お兄ちゃんは傷を負ったんですが、なんとかビリッジまで逃げ延びることができてドクターの病院に入院してます。お兄ちゃんは安心ですけど、おじいちゃんの容態は悪くて……。もうお薬も残り少なくなって早くドクターの所に買いに行きたいんです。それで盗賊をやっつられる強い人を水晶球で捜してきたんですが、今まで誰もいなくて、初めて映ったのが剣士様なんです」
「え、僕っ!?」
目を丸くしたランディが自分を指差した。
「そのトーゾク、ゆるせないわ。ティナ、あんたには借りもあるし、まかせなさいっ! このあたしがトーゾクなんてパーっとやっつけてあげるわっ!」
ウィンクしながらルヴィアがガッツポーズを取った。
「ほっ、本当ですか!? ありがとうございます!!」
ティナの表情が明るくなり喜んだかと思いきやランディの前でお礼を言っていた。
「ちょッ! チョットチョット!!」
「はい?」
ルヴィアに顔を向けたティナが微笑む。
「なんでランディにお礼ゆーのよッ!!」
「え? こちらの剣士様がやっつけてくれるんじゃあ……」
「ちがうわよッ!! あたしよッ!! そー言ったでしょッ!!」
いきり立つルヴィアにティナは驚く。
「エエッ!!? プリンセスがですか!? あの、お言葉ですけど盗賊を甘く見ないほうがいいと思います。今までも腕に自信のある男の方が何人も挑みに行ったんですが、皆さんやられてしまって……。女性がやっつけるなんてとても……」
「だからってランディはムリよ。コイツ見た目だけはリッパだけど、実戦ケーケンなんてないんだから。トーゾクなんてムリムリ」
ルヴィアの発言にティナは愕然とする。
「エ――!!! そうなんですかぁ!!?」
「お姉さま、そんな言い方は酷い……」
レーシアが言い、涙ぐんだランディは情けない顔をする。
「ルヴィアー……」
それじゃやっぱりプリンセスが。だから最初に水晶球に映ったのね。
ルヴィアを見つめてティナが思った。
「プリンセス。あの、どうかよろしくお願いします!」
ティナがルヴィアにお辞儀した。
「まかせといてっ! それじゃすぐシュッパツしましょーか」
「ティナさん、そのフィール・ビリッジまではどのくらいかかるんですか?」
レーシアが尋ねた。
「馬車で2時間ほどです」
「2時間〜〜!?」
肩をガクッと落とすルヴィア。
「でも……。盗賊が出没するようになったので馬車は出してもらえないと思います」
「出してもらえないってどーすんのよッ!! 馬車で2時間かかんのにユーチョーに歩いてらんないわよッ!!」
「そんなこと言われましても……」
困り顔のティナがシュンとした。
「ムリにでもたのむしかないわね」
ルヴィア達は馬車小屋へ向かって街道を行く。
「……大丈夫かしら?」
不安そうにレーシアが呟いた。
「ダーイジョーブっ! イザとなったら、このあたしのミリョクでっ」
歩きながらルヴィアが片手を頭の後ろに回してレーシアにウィンクした。それを見たランディはピクッと反応する。
ルヴィア達は馬車小屋の主人に馬車を出してくれるよう依頼した。
「駄目駄目!! 馬車は出せないよ」
開口一番で断る主人。
「どーしても行かなくっちゃなんないのよっ!!」
ルヴィアがそう言うと主人はため息をつく。
「お嬢さん、知らないのかね? 通り道には盗賊が出没するんだよ」
「知ってるわよッ!! ソイツらはこのあたしが…」
途端にティナが前に出る。
「おじさんお願いします! どうか馬車を出してください。祖父のお薬を買いに行きたいんです。盗賊はこちらのプリンセスがやっつけてくれますから!」
主人に頼み込んだ。
「ティナちゃん、このお嬢さんが盗賊を退治するって!? そんなの無理に決まってるじゃないか! 大の男達が行ったきり帰ってこないってのに」
ルヴィア・パンチが主人の頭の真横の壁を突き破る。
すくみあがった主人は硬直する。
「女だから、なんだってのよ」
主人を睨みつけるルヴィア。
「ヒ……」
ルヴィアの迫力は主人だけでなくティナまでもビビらせた。
「ねー、どーか馬車出してよ。ルヴィアのお・ね・が・いっ」
態度をコロっと変えて色っぽい流し目を送った。
「は、はい……」
主人が怯えたまま返事をした。
「やったーっ!!」
喜ぶルヴィア達。色じかけより迫力で承諾した主人だった。
ルヴィア達は馬車に乗り込み、ようやくタウンを出発した。
白い布でほおかむりのように覆ってある馬車の内部は両サイドにシートがあり向かい合って座れるようになっている。
両脇を森に挟まれた道をガタゴトと揺れながら進む馬車。
「オジサーンっ! もっといそいでよっ! 日が暮れちゃうわよっ!」
馬を走らせている主人に向かってルヴィアが言う。
「へいへい」
「それにしても先ほどのプリンセスの迫力はすごかったです。でも強いお兄ちゃんでもかなわなかったんですから、油断しないでくださいね!」
ティナが心配そうにルヴィアに言った。
「フンッ! このあたしがトーゾクなんかに負けるもんですか」
「ルヴィアは強いぞ。さっきすごくこわかっただろ?」
ランディがティナに尋ねた。
「はい」
正直に答えたティナにルヴィアはムッとする。
「ナニよッ! 人をバケモノみたいにッ!」
「おそろしさでは負けてない気が……」
「なんですってェッ!!?」
ルヴィアが牙を剥き出してランディをギロッと睨みつけた。
そんな2人をティナはクスクスと笑いながら見ていた。
「お2人、おもしろいですね」
「ナニがよッ!!」
エスタ・タウンとフィール・ビリッジを繋ぐ道の茂みに人影が3つある。
「あーあ……。見張りなんてつまんねェよなァ」
「ほんとほんと。ここんとこまったく誰も通らねェし……。頭もいつまでやらせんだろ。意味ねェよ絶対」
「そろそろ、ここも潮時だよなァ」
こんな会話をしているのは噂の盗賊だ。茂みに隠れて通行人が通るのを見張っているのだ。
「おい、静かにしろ。ありゃなんだ?」
もう1人の盗賊が遠くの物体を指差した。
「なんだ?」
他2人もそちらを見つめて確認する。
徐々に近づいてくる物体は馬車だ。
「馬? いや馬車だあれは」
「馬車!? ここを馬車が通るなんざ、一体どれくらいぶりだ!?」
「馬車だったら荷物か人が乗ってるはずだ。どっちみち大物だぜェ」
ニヤっと笑う盗賊だった。
「やっと1時間たった頃かしらー?」
「いつ盗賊が現れても、おかしくないですね」
緊張気味に言うティナ。
「来るなら来いよッ! タイクツしのぎにあばれてやるわッ!」
拳をブンブン振り回すルヴィアにレーシアは微笑む。
「頼もしいわねー」
馬を走らせる主人の前に茂みから人影が飛び出した。
「止まれ!!」
「わッ!! うわわッ!!」
驚いた主人が慌てて馬を止める。
2人目の盗賊は馬車の後方に回りルヴィア達に向かって命じる。
「荷物を置いて馬車から降りろ!!」
「来たわね……」
ルヴィアが小さく呟いた。
皆顔を見合わせルヴィアはうなずく。
レーシアとティナは恐る恐る馬車から降りた。
「わかっているな。無駄な抵抗はするなよ」
「ハ〜イっ! トーゾクさん」
「ん?」
盗賊だけじゃなくランディ、レーシア、ティナも何を言いだすのかとルヴィアに注目した。
「ウフンっ」
ルヴィアは両手で後ろ髪を掻き上げ、うなじをチラリと見せつつ色っぽい流し目を送り、得意のセクシーポーズで誘惑する。
「おおー!」
見惚れた盗賊が目をハートにした。
「やっと会えたわ…」
ルヴィアが馬車から飛び上がりフワっと浮き上がった。
「ねッッ!!!」
強力なルヴィア・キック(飛び蹴り)を盗賊の顔面に食らわせた。ヒールが盗賊の顔面に食い込み、かなり惨たらしい。
「ぐはァァ〜〜」
歯が折れ鼻も曲がった盗賊は倒れ込んだ。
ルヴィアは華麗に宙返りして着地する。
「キャアア――!!!」
あまりにも無惨な盗賊を目の当たりにしたティナが真っ青な顔で叫んだ。
「な、なんだ!?」
馬車の前方に居る盗賊が何事かと後方に回る。
そこに倒れていた仲間を発見して駆け寄る。
「おいしっかりしろ!! くッ、くっそォ、よくもやってくれやがったなァ。許さねェ、ブッ殺してやる!!」
怒りの込み上がった盗賊が立ち上がり馬車の前方に走りだそうとした。
「チョットォ、トーゾクさん。こっちよー?」
「なッ!?」
声をかけられ盗賊が振り返ろうとした瞬間ルヴィアは地面を蹴った。
ルヴィア・キック(膝蹴り)を盗賊の腹に思いっきり食らわせる。
「ぐほォッ!!」
盗賊が血を吐き出した。
ルヴィアは盗賊の頭を掴む。
顔面にも同じくルヴィア・キックを入れる。
盗賊は顔面から血を流して倒れ込んだ。これで立っていられる者はいないだろう。
「ナニよ、こんなもんなの? つまんないわァー。もーチョットたのしめると思ったのに」
アッケラカンとしていたものだった。
「や、やったか?」
ランディは何もしていない。
「す……すごい……」
離れて見ていたティナが震えていた。依頼したにも関わらずゾッとしたようだ。
「チッ……」
茂みの中で舌打ちする者が居た。もう1人の盗賊だ。
「……まだ、終わってないわッ!!」
気配に気づいたルヴィアが叫んだが手遅れだった。
盗賊が茂みから勢い良く飛び出しティナ目がけて短剣を振り下ろす。
「死ねェェ――!!!」
「危なァァ――いッ!!!」
まさに緊張の刹那!
ランディがティナに飛びかかって抱き込み受け身を取るように地面を滑った。
盗賊は着地すると地面を蹴り今度はレーシア目がけて短剣を握った。
「死ねェ…」
「『ファイア・フレイム』ッ!!」
途端に盗賊は火炎球に飲み込まれた。
「グワァァ――!!!」
火ダルマになりのたうち回った。
ルヴィアは一息つく。
「あぶなかったわね」
「お姉さま、ありがとう」
ホッとしたレーシアがお礼を言うとルヴィアは振り向く。
「うん、もーヘーキよ。ケハイ感じないわ」
「よかった……」
レーシアは地面に座っているランディとティナに駆け寄る。
「大丈夫ですか!? おケガはありませんか!?」
「ティナは平気ですけど……」
ティナがチラっとランディを見た。
「あ、僕ならなんともないよ。よかった、無事で」
微笑むランディにティナはドキンッとときめき顔を赤らめる。
「助けてくれて、ありがとうございました!」
「礼には及ばないよ」
そう言いランディは立ち上がるとルヴィアに歩み寄った。
「アンタにしちゃジョーデキなんじゃないの」
ルヴィアがそう言うとランディは冷や汗を垂らす。
「そういう言い方……」
「あら、これでもほめてんのよ?」
一方ティナは座ったまま赤い顔でポーっとランディを見つめていた。
……自分の事を、命懸けで護ってくれた。
「ティナさん? どうかしました?」
レーシアが声をかけたがティナの耳には入っていない。
「ランディ様!!」
声をかけられランディがティナに振り向きルヴィアはキョトンとする。
瞳をキラキラと輝かせたティナはランディに駆け寄る。
「ランディ様。ティナ、あなたのことが好きになっちゃいました!!」
「エエッ!!?」
それを聞いたランディが驚きルヴィアとレーシアの目が点になる。
「ティナと結婚してください!!」
「ちょッ! ちょっとティナッ!? あんた気はたしかッ!?」
「何言ってるんですかぁ? プリンセス、ティナは普通ですよぉ」
ティナがルヴィアに向かってニッコリ微笑んだ。
「ティナのことを命懸けで護ってくださったんですもの……。ランディ様の愛がこの胸に伝わってきました……」
両手を握り合わせてウットリした。
「こ、このコって……」
とんだ勘違いをしているティナにルヴィアは呆れ、冷や汗を垂らして顔をしかめた。
「でもそーいえばあんた、リッドくんのコト好きだったんじゃないの?」
「あ、リッドさんお元気ですかぁ?」
ティナが笑顔でルヴィアに尋ねた。
「ランディ様。ティナ、素敵な花嫁になりますぅ」
「ね、ねーティナ、ランディとマジで結婚したいワケ?」
冷や汗を垂らしたルヴィアが尋ねた。
「はい!!」
「変わってるわねー」
それを聞いたランディはムカッとして額に青筋が立つ。
「どういう意味だよッ!!」
「ティナ、好きになったらすぐ結婚したいんですぅ」
再びティナが瞳をキラキラと輝かせるとランディは困り顔で冷や汗を垂らす。
「好きですぅランディ様!」
ティナがランディに抱き付いた。
「わッ!!」
「ランディ様、キスを……」
顔を上げて目を閉じたティナにランディは慌てる。
「ちょッ、ティナちゃん」
「ランディー、よかったわねェ」
ルヴィアが意地悪そうな笑みを浮かべてランディをからかった。
そんなルヴィアをランディは困り顔で見る。
「ティナちゃん、ごめんっ! 僕にはフィアンセがいるんだっ!」
ランディの発言にティナは驚愕する。
「エエッ!!? フィアンセェ!!?」
ランディから離れてグワ――ンと大ショックを受け、その場に泣き崩れた。
「ランディッ!! ナニよけーなコト言ってんのよッ!!」
「そんな……。フィアンセがいるなんて……。それなのにティナにあんなことを……」
ハンカチを噛みしめたティナが嘆いた。すっかり悲劇のヒロインになりきっている。
「おいおい。どうでもいいが早くビリッジに向かわないと日が暮れちまうよ」
ハッ、忘れてた……。
馬車の主人の存在をすっかり忘れていたルヴィア達が心で呟いた。
「ほらティナっ! いそぎましょっ!」
「あっ、そうですね。ティナったら……」
再び馬車に乗り込み出発した。
「ねぇお姉さま」
レーシアがルヴィアに声をかけた。
「ん?」
「あの盗賊達、あれで懲りたかしら? もう悪さしないといいんだけど……」
「そーねー。こりたと思うけど、まだわかってないよーなら、このあたしがもー1発オミマイして」
拳をグッと握ったルヴィアだが目前の状況を見て気が抜けた。
ティナがランディの腕を抱きしめて幸せそうに寄り添っているからだ。
ルヴィアが呆れたように冷や汗を垂らして見ている事に気づいたランディは困り顔になる。
「ティナちゃん、ちょっと離れてくれるかなぁ?」
「嫌なんですか!?」
顔を上げたティナが悲しそうな表情をした。こんな目で見つめられてはランディは嫌とは言えない。
「嫌とかじゃなくて……」
「じゃあいいですよね! ティナ、ランディ様にフィアンセがいてもいいです。ティナの気持ちは、それくらいで変わりませんから」
それを聞いたルヴィアとレーシアは心打たれた。
ティナ、そんなにランディの事を?
ルヴィアが思ったが、そんな思いも次の瞬間どこかへ行ってしまった。
「でも、ランディ様のフィアンセって一体どんな方なんですか? きっと素敵な方なんでしょうね」
ルヴィアとランディがギクッとした。
「それは……」
冷や汗をかいたランディが恐る恐るルヴィアを見た。ルヴィアはキッと睨みランディをビビらせる。
「どうしました?」
何も解っていないティナがランディに尋ねた。
「ぼ、僕のフィアンセは……」
ためらいながらもランディが口を開いた。
「ものすごく乱暴で口より手が早く、僕はいつも痛めつけられてるんだ。おまけに口も悪くてなー」
それを聞いたルヴィアの表情が険しくなっていく。
「エ――!! なんですかその人!! 本当に女性ですか!!? ランディ様、その人のことお好きなんですか!!? そんな最低女のこと!!」
ティナが驚きながら言った最低女という言葉にルヴィアがブチギレる。
「ぬァんですってェェ〜〜」
ついに噴火した。
「だまって聞いてりゃアンタ達ナニよッッ!!! よくも言いたいほーだい言ってくれたわねェッ!!! いーカゲンにしないと怒るわよッッ!!!」
「もう怒ってるくせに……」
ポツリと呟くランディ。
一方ティナは訳が解らずにいた。
「えっ、えっ!? どうしてプリンセスが怒るんですか?」
ティナの問いにルヴィアはしまったと我に返り顔が青ざめる。
「ま、まさかランディ様のフィアンセって、プリンセス……?」
冷や汗をかいたティナが尋ねるとランディは真顔でうなずく。
次の瞬間ルヴィアのエルボーがランディの頬にヒットした。
「ち、ちがうわよっ! あたしじゃないのっ! ゴカイしないでっ!」
脂汗をかきごまかした。
「あ、本当に口より手が早い。どうやらプリンセスに間違いなさそうですね!! ランディ様はプリンセスのことを大好きだからもしかしたらと思ったんですけど、プリンセスはランディ様のことを嫌ってるからわからなかったんです!!」
「そーよ大ッキライよッ!!」
ランディの心臓にショックのドスがドスッと突き刺さった。
「ランディ様の一方的な片想いなんですね」
「なっ、なんで僕がルヴィアを好きだってわかるんだよっ」
涙目のランディが言う。
「ティナは人の感情を表すオーラを見ることができるんです」
「オーラ?」
「そうです。好き、嫌い、怒り、憎しみ、愛などの感情が、人の体から発せられているオーラの色でティナにはわかるんです」
「ウソっ! スゴイわねっ! どーしてそんなコトできんのっ!?」
「生まれつきです。でもお兄ちゃんには見えないみたいなんです」
「ふーん」
「それで、ランディ様の体からは愛という情熱的で激しいピンクのオーラがプリンセスに向かって発せられてるのが見えます」
ちなみに好きは黄、嫌いは青、怒りは赤、憎しみは黒、愛はピンクだ。
「エエーッ!!?」
ティナの発言にルヴィアがイヤーな顔をしてランディを見た。ランディの顔がカァッと赤くなる。
「すごくプリンセスを愛してるってわかります」
「やめてキモイッ」
ルヴィアがブルッと身震いするとランディはガビーンとショックを受けた。
「でもプリンセスからは逆にランディ様のことを受けつけようとしない、大嫌いという濃い青のオーラが発せられています」
「大ッキライだもん」
当然のようにルヴィアが言うとランディはズーンと沈んだ。
「そんなに嫌いだなんて……」
「ランディ様、悲しむことないですよ! ティナがいますから!」
ティナがランディを見つめた。
「ルヴィアが僕のことを好きじゃないなんてわかってる。だけど諦めるわけにはいかないんだ」
「どうしてですか!?」
「それは……君に言うことじゃない」
目線をそらすランディ。
ショックを受けたティナの目に涙が溢れる。
「ランディ様……。酷いですぅ……」
「ランディ――ッッ!!! 女のコ泣かせるなんてゆるさないわよォッ!!」
額に青筋を立てたルヴィアがランディの頬を力いっぱいつねった。それにはランディも涙を流しシクシクと泣いてしまうのだった。
【TALE44:END】
【盗賊団編】に殴り込みです!
いよいよストーリーも終盤です。
どうかルヴィア達を最後まで温かく見守ってやってくださいませ。
次回はあの彼も再登場します♪