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TALE43:レーシアのバースデー

 次の日。

 部屋にグゥオ〜と不気味な音が響いた。

「……おなかすいた……」

 その音は強烈なイビキかと思いきやルヴィアの腹の音だった。

「……今なん時?」

 ベッドから起き上がり置き時計を見ると9時過ぎだ。

「あれ〜? レーシア起こしに来てくんなかったの?」



 身仕度を済ませたルヴィアはランディとレーシアの部屋へ向かった。

 何してるのかと思いながらドアをノックする。



 ランディとレーシアの部屋。

 ベッドに座りコックリコックリ眠っていたレーシアはノックの音に目を覚ました。

 ドアを開ける。

「はい……」

「レーシアッ! あんたまだ寝てたのッ!?」

 レーシアのバスローブ姿を見たルヴィアが驚いて言う。

「ランディさんが夜中に熱を出しちゃって、ずっと看病していたの……。今は熱が下がったけど、いつぶり返すかわからないでしょう?」

「そ、そーだったの。じゃーあんた寝ブソクでしょ? あたし代わるから、あたしの部屋でゆっくり休みなさいよ」

「いいの? ありがとう。それじゃお願いね」

 そう言いレーシアはルヴィアの部屋へ向かった。



 ベッドでランディは静かに眠っている。

 あたしとレーシアみたいな美人姉妹にみてもらえて、幸せな奴ね。

 思いながらルヴィアは隣のベッドに座る。

 開いた窓から明るい太陽の日差しと心地良い風が吹き込みレースのカーテンがなびく。

 窓から見える青空。今日も良い天気だ。

 風がカーテンをなびかせる音だけが聞こえる。

 そんな静かな部屋にグゥオ〜と腹の音が響いた。

 空腹で目を回すルヴィア。彼女にとって、ご飯はパワーのみなもと。食べなきゃ力が出ない。

 するとランディは目を覚ました。

「……ん?……ルヴィア」

 ランディの声にルヴィアは我に返った。

「あっ、目ェ覚めたのね」

「今のってもしかして、お腹の音か?」

 ルヴィアの腹の音で目が覚めたらしい。

「ちっ! ちがうわよっ!!」

 赤い顔でルヴィアが否定したが、またもグオ〜と腹が鳴りランディは笑う。

「やっぱり。でもどうしてルヴィアがここに? レーシアちゃんは?」

 起き上がったランディが尋ねた。

「アンタ、カンシャしなさいよねー。レーシアは今の今まで、ずっとアンタのカンビョーしてたのよ。今あたしの部屋で寝てるわ」

「あっ、そうだったのか。僕のために……」

「そーよ、アンタのためによ」

 ルヴィアがそう言うとランディの顔がカァッと赤くなる。

「あっ! 赤くなった! アーヤシーイ」

「なっ、何が怪しいんだよっ!」

「ムキになってるー」

 クスクスと笑うルヴィア。

「さっきから何言ってるんだっ!!」

 レーシアを意識している証拠だ、とルヴィアが意味ありげな視線でランディを見つめた。

「な、なんだよ」

「なーんでもっ! それよりグアイどお?」

「もうすっかりよくなったみたいだ」

「そ、よかったわね。だったらひとりでもヘーキよね。あたし食事してくるわ」

 立ち上がったルヴィアにランディは慌てる。

「行っちゃうのかっ!?」

「だっておなかすいちゃったんだもん」

「うっ……。なんか急に頭痛が……」

 白々しくランディが頭を抱えルヴィアは冷や汗を垂らす。

「……ケビョー使うんじゃないわよ」

「じゃあ食欲ないけど、僕も一緒に行く」

「えッ!? アンタもッ!?」

 イヤーな顔をするルヴィアだった。



「あっ! なぁ今日って11月6日だよなっ!?」

 レストランで食事をしながらランディが思い出したように料理に夢中のルヴィアに尋ねた。

「えっ? そーなのっ?」

「……ルヴィアに聞いても知ってるはずないか」

 顔をしかめるランディをルヴィアはギロッと睨みつける。

「アンタ、ケンカ売ってんのね?」

「違うよッ! 今日が11月6日だったら……なんの日かわかってるか?」

「えっ! えっと……レーシアのバースデーだわっ!」

 それを聞いたランディは驚く。

「レーシアちゃんのバースデーは憶えてたのかっ!?」

「そりゃそーよ。あたしのカワイイ妹だもの」

「僕のバースデーはすぐに思い出してくれなかったくせに……」

 不満そうにランディが言った。



「レーシアまだ寝てるハズよ。今の内にバースデープレゼント買いに行きましょっ!」

 廊下を歩きながらルヴィアが言った。

「ああ。でもレーシアちゃんて何が欲しいのかなぁ?」

 ランディが考え込んでいるとルヴィアはひらめく。

「あたしにイイ考えあるわっ!」



 部屋でテーブルに向かって羽ペンを握り悩みながら一生懸命、紙に何かを書いているルヴィアをランディは覗き込む。

「何書いてるんだよ?」

「まだできてないのッ!! アンタはベッドすわっててッ!!」

 牙をクワッと剥き出すルヴィアにランディはビビる。



「できたわっ!」

 笑顔でルヴィアが紙を手にした。

「ほらランディ、見ていーわよっ!」

 立ち上がりベッドに横たわるランディに紙を差し出す。

「何?」

 ランディは起き上がりベッドに座って紙を受け取り目を通す。


『美しいレーシアへ


 16歳のバースデーおめでとう

 キミはますます美しさにみがきがかかったみたいだ

 ボクはキミの美しさのトリコ。ボクのハートはビンビンメロメロさ

 ボクの美しいレーシア、これからもボクから離れないでずっと側にいてくれ

 愛してる


                                キミのトリコのランディより』


 それはラブレターだった。

「なんだこりゃあッ!!!」

 ラブレターを読んだランディがビックリ仰天してルヴィアを見た。

「どおっ!? なかなかのリキサクでしょっ!? あたしってばサイノーあるわよねっ!」

 得意顔になるルヴィア。

「何言ってるんだッ!! どういうつもりなんだこれはッ!!」

「ったくニブイヤツね。ソレをレーシアの前で読むのよ」

「はあッ!!? なんでそんなことをしなくちゃならないんだよッ!!」

 何を言いだすのかとランディが顔をしかめた。

「……そーゆーコトゆーワケ? レーシアに朝までカンビョーさせといて」

「うッ……。レーシアちゃんには感謝してるけど、こんな内容はまずいよ。ルヴィアに対してだったら望むかぎり読んであげるけどさっ」

「けっこーよッ!! ダレがのぞむかってーのッ!!」

 ルヴィアがランディをキッと睨みつけた。

「あ・と・は、バラのブーケ買えばオッケーだわっ!」

「……なぁ、本当にこれを読ませる気か?」

 冷や汗を垂らしたランディが張りきっているルヴィアに尋ねた。

「そーよ。シチュエーションもバッチリ考えたわっ! レーシアが目ェ覚ましたらアンタがヨコにいて、バラのブーケわたしてそのラブレター読むの。そしてレーシアにキスすんのよ」

 ルヴィアの発言にランディは目を丸くする。

「エエッ!!? 何言ってるんだッ!!」

「これでアンタとレーシアはラブラブよっ! カンペキだわっ!」

「さっきから何言ってるんだよッ!! なんで僕とレーシアちゃんがラブラブなんだッ!!」

 それを聞いたルヴィアは鈍感すぎるランディをジロッと見る。

「……アンタさァ、ホントにわかってないワケ?」

「はっ!? 何が?」

「レーシアのキモチよ」

「レーシアちゃんの、気持ち?」

 ポカンとするランディにルヴィアはイライラする。

「ホンット、ニブイヤツねェ。あきれちゃうわ。しかたないわね、あのコはコクるつもりなさそーだからあたしが教えてあげるわ。あのコはね、アンタのコト好きなのよっ!」

 ルヴィアがランディをビシッと指差してレーシアの気持ちをバラしてしまった。

「えっ!?……エエッ!!?」

 一瞬よく解っていなかったランディだが顔がボンッと真っ赤になった。

「レーシアちゃんが、僕をっ!?」

「そーよ。やっとわかった? あたしはとっくのとーに気づいてたわよ」

「そ、そんな……。だってレーシアちゃんは、僕がルヴィアのことで落ちこんでる時にいつも励ましてくれたり相談に乗ってくれてたし、僕とルヴィアの仲を取り持ってくれたりしてたのに……」

「それはタテマエってやつよ。ホンネはゼッタイ、アンタとラブラブになりたいハズだわっ!」

「えっ! え……」

 顔が真っ赤なままのランディ。

「ランディ、レーシアのキモチ受けいれてあげて。そのほうがあたしもシアワセだし、アンタとレーシアもシアワセになれんのよっ!」

「そッ! そんな勝手なッ!! 僕のルヴィアへの愛はどうなるんだよッ!!」

「だからその愛をレーシアにあげればいーじゃないっ」

「だッ、だけどルヴィアと僕が結婚しないとアイルーン・キングダムがッ!」

「……まだそんなコト言ってんの。シツッコイヤツね。とにかくあたしバラ買ってくるわ。ココで待ってなさいよ」

 そう言いルヴィアは部屋を出ていった。



 ベッドでレーシアは目を覚ました。

「おはようレーシアちゃん」

「え?」

 横から声が聞こえ顔を向ける。

 レーシアの隣で横たわったランディが見つめていた。

「キャ――――!!!!!」

 あまりにも驚いて絶叫し、真っ赤な顔で飛び起きた。

 大声にやられキーンとするランディ。

「ラッ、ランディさん。どうしたんですか!? なんでここに……」

 レーシアの鼓動が苦しいくらいに高鳴る。

 目が覚めた途端こんな事になっていて訳が解らず、隣でずっと寝顔を見られていたんだと思って恥ずかしくなり顔から火が噴き出そうだ。

「ごめん、驚かせて」

 ランディが起き上がる。

「あの、レーシアちゃん。朝まで僕の看病をしてくれたんだってね、ありがとう」

 照れながらお礼を言った。

「えっ! いえ、そんなこと。ランディさんの風邪が治ってくれるなら。もう具合はいいんですか?」

「うんすっかり。レーシアちゃんの看病のおかげだよ」

「そんな……」

 レーシアの顔が再び赤くなる。

「よかったです、治って」

 ニコっと微笑んだ。

 レーシアの笑顔にランディは思わずドキッとする。

 ……レーシアはすごくいいだ。そりゃ今までだっていいだとは思っていたが、それとはまた違う意味で。今までずっとルヴィアしか見ていなかったから気づかなかった。

 うつむいてドキドキするランディ。

「あっ! そうだ」

 何かを思い出してベッドから降りる。

 テーブルの薔薇のブーケを手にしてレーシアに差し出した。

「レーシアちゃん、16歳のバースデーおめでとう」

「えっ!?」

 レーシアの顔が赤くなった。

「あ、ありがとうございます」

 お礼を言いブーケを受け取る。

「この薔薇、レーシアちゃんの歳の16本なんだ」

「そ、そうなんですか? 嬉しいです……」

 レーシアの目に涙が溢れた。

 それを見たランディはうろたえる。

「レーシアちゃんっ!?」

「す、すいません……。感激してしまって……」

 涙を拭いながらレーシアが微笑んだ。

 そんなレーシアにランディは顔を赤らめキューンとする。

 レーシアの手からブーケを取りベッドに置いた。

 指でレーシアの涙を拭う。ランディに触れられレーシアはドキンッとした。

 だが次の瞬間もっと驚くはめになる。

 ランディに押し倒された。

「エッ! ラッ! ランディさん!?」

 突然の事にレーシアの顔が真っ赤になった。

 自分を見下ろすランディの顔がすぐそこにあり鼓動が速くなる。

 何故ランディがこんな事を? 訳が解らない。

 でもランディの目は真剣で冗談でしているようには見えない。

 顔は熱いが不安になって体が震える。

「レーシアちゃん……。キスしていい?」

 耳に入ってきた信じられない言葉。

 鼓動がドクンと高鳴り更に速くなった。

 心の準備もしていないのにこんな事になって、心臓が壊れそうに痛いし耐えられない恥ずかしさがレーシアを襲う。

 火が噴き出そうな顔をランディに見られたくないが震えてしまって動けない。

 一体ランディはどうしてしまったのか。ルヴィアと何かあったのか。あったとしても何故自分にこんな事をするのか解らない。

 パニック状態で考えているとランディが動いた。

 ゆっくり近づいてくるランディの顔。 

 そんな、いきなり、どうして。

「ダメェェ――!!!」

 レーシアがランディの頬に平手打ちした。ハッと我に返るランディ。

「あ〜〜!!」

 ドアのほうから声が聞こえた。

 慌てて起き上がったレーシアが声のほうを見ると、なんとドアが少し開いていた。

 ドアが開きルヴィアが入ってきた。

「ナニやってんのよレーシアッ!! ランディがあんたにキスしよーとしたのにッ!!」

「おッ! お姉さま!!」

 見られていた事にレーシアの顔が真っ赤になる。

「あんたランディのコト好きなんでしょッ!!? なんでたたいたりすんのよッ!!」

「ちょっと! お姉さま!」

 ランディに聞かれてしまったんじゃないかとレーシアがうろたえる。

「ランディ知ってるわよ、あんたのキモチ」

「エエッ!!?」

 ルヴィアの発言にレーシアがビックリ仰天した。

「どッ、どうして!?」

「あたしが言ったの。好きなのにかくしてたってしかたないじゃない」

 それを聞いたレーシアはショックを受けて顔を伏せた。

「…………」

「……レーシア?」

「……酷い……」

「えっ?」

「勝手に言っちゃうなんて酷すぎるわ……」

 涙を拭いながらレーシアはベッドから降りた。

「レーシア?」

「お姉さまのバカ――!!!」

 そう言い捨て部屋を飛び出した。

「…………」

 呆然とするルヴィア。

「ちょッ! チョットどーしてこーなんのよォーッ!!」

「レーシアちゃんを傷つけちゃったな……」

 ランディがポツリと呟くとルヴィアはキッと睨みつける。

「アンタがピュアなレーシアにいきなりキスしよーとしたのがいけなかったのよッ!!」

「エッ!? そんな僕のせいかッ!? だってルヴィアがしろって」

「ウッサイッ!! とにかくレーシアさがすのよッ!!」

「あ、ああ」



「レーシアッ!!」

 ホテルの階段に座って泣いているレーシアを発見したルヴィアが駆け寄った。

「レーシア、ゴメン……」

「ほうっておいて。1人にしておいてほしいの」

 震えた声で言うレーシア。

「あんた泣かすつもりなんてゼンゼンなかったのよ。どーしてランディに言っちゃいけなかったの?」

「……ランディさんはお姉さまのことが好きなのよ? 言う必要なんてないじゃない」

「そんなのかなしーじゃないっ! 好きなのにかくしてるなんてっ!」

「私は、私はお姉さまと違うの!!」

 レーシアが涙の溢れた目でルヴィアを見た。

「お姉さまは昔から好きな人に積極的にアタックしていたわ。私は、そんなことできない。お姉さまがうらやましいと思ったこともあったわ。でも私、本当はランディさんのことを好きになっちゃいけないの。お姉さまとランディさんは結婚しなきゃならない運命なのだから。ランディさんへの気持ちを何度も忘れようと思ったわ。でも、忘れられないの。この気持ちは永遠に心に秘めておこうと思った。ランディさんを見守っていられれば、私はそれでいいの。ランディさんが愛するお姉さまと幸せになってくれれば、私も幸せだから……」

「レーシア……」

 レーシアの気持ちを知ったルヴィアは心打たれた。

 よく考えずに行動してしまった自分が恥ずかしくなる。

「ゴメンネ……。レーシアのキモチも考えずに、あたしは……」

「……ううん、もういいの」



 ランディは部屋の前に戻ってきた。

 どこを捜してもレーシアが居ない。もしかしたら戻っているかもしれない。

 ドアを開けて部屋に入る。

「あらランディ、おそかったわね」

 ソファーでルヴィアと身支度を済ませたレーシアが優雅にお茶をしていた。

 それを見たランディは冷や汗を垂らしてズッコケた。

「あの、ランディさん……」

 歩み寄ってきたレーシアにランディはドキッとして慌てて立ち上がる。

「あ、レーシアちゃん。さっきはごめんね……」

「いえ、私こそ叩いてしまってごめんなさい」

 レーシアが頭を下げた。

「あ、いやっ! 僕がいきなりあんなことしたから。許してくれる……?」

「は、はい」

 顔を上げたレーシアにランディはホッとした。

「薔薇のブーケ、嬉しかったです。花瓶を買ってきて生けました」

 テーブルの上にある花瓶の薔薇に目を向けた。

「えっ、あ、よかったよ。喜んでもらえて」

 そんな2人をルヴィアはニヤニヤしながら見ていた。

 なんだかあまりにも初々《ういうい》しい。

「あの……。でも今日は11月5日なんです」

「エッ!?」

 それを聞いたルヴィアとランディが同時に声を上げて目を丸くした。

「で、でも1日前でも嬉しいです」

 レーシアがニコっと微笑むとルヴィアとランディはズッコケたのだった。チャンチャン♪



【TALE43:END】

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