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TALE42:ランディの災難

 見渡す限りが緑の鬱蒼うっそうとした森。だが所々から木漏れ日が差し込み、それ程暗さは感じない。


 そんな森の中をルヴィア達は進む。

 ただがむしゃらに森を探検しに来た訳ではない。一応旅人が通るように作られたのか道らしき物はある。

「空気がおいしーい」

 森独特の清々《すがすが》しい空気を思いっきり吸い込み笑顔で言うのはルヴィアだ。とても機嫌が良いのかニコニコと微笑んでいる。

「タップリ寝たからご機嫌みたいだな、ルヴィア」

「まーねー」

 ランディに声をかけられルヴィアが笑顔で答えた。それほど機嫌が良いらしい。

「ウワァァ――!!!」

 突然、悲鳴が聞こえた。

「ナニッ!?」

 ルヴィア達が一斉に声のほうに振り向く。



 ルヴィア達は声のほうへ駆けつけた。

「あッ!!」

 状況を見て驚く。

 1人のおじさんが数人の男に囲まれ震えていた。

「ナニしてんのアンタ達ッ!!」

 ルヴィアがすぐその場に躍り出た。

「あん? おお!」

 男共が現れたルヴィアに見惚れて目をハートにした。

「いい女じゃねェかァ。俺らは新しくこの辺を縄張りとした賊だァ。ここを通りてんならそれなりのことをしてもらわねェとなァ。このオッサンもここを通りてェって言うもんだから物をもらおうとしてたんだよ」

「なんですってッ!!?」

「とんでもない連中だな」

 ルヴィアとランディが賊を睨んだ。

「オメエらも通りてんだろ? だったら2人の女の体で払ってもらおうかァ?」

 男がルヴィアとレーシアをいやらしい目つきで見つめるとランディはカッとなる。

「なんだとッ!!?」

「まーまーランディ」

 ルヴィアがランディを制した。

「ラッキーね、アンタ達。あたし今キゲンイイの。フダンだったらブッ飛ばしてるトコだけど、トクベツに見のがしてあげるわ。おとなしくココから去りなさい」

「何ほざいてやがる。ふざけてると体だけじゃすまねェぞ!」

「あらァ、せっかく見のがしてあげるって言ってんのに、このあたしの好意ふみにじる気ねェ? そーゆーワルイコは、オシオキしなくっちゃいけないわねェ」

 ルヴィアが賊を睨みつけた。

「お――い。なんだー? てこずってんのかー?」

 ルヴィア達の後方から別の声が聞こえた。

「!」

 振り返ると、そこに仲間の賊が数人居た。

「まだいたのッ!!?」

「囲まれたぞッ!!」

「おう!! 聞いてくれよ!! この女が俺らに去れとか言うんだぜ!!」

「なんだって? ほう、いい女だなァ。痛い目にあいたくなかったら素直に言うこと聞いたほうがいいぜー?」

 後から来た賊の1人がいやらしい目つきでルヴィアをジロジロと見つめた。

「ヘンタイッ!!」

 気味悪がったルヴィアが顔をしかめて言い放った。

「こ、こいつ……。おい!! 少し痛めつけてやろうぜ!!」

「俺もそう思っていたところだ。野郎共!!」

 ついに両側の賊がそれぞれ武器を手にした。

 それを見たおじさんは驚愕する。

「うわあ!! 欲しい物ならなんでもやるから命だけは助けてくれぇ!!」

『吹き荒ぶ風の精霊よ…我が意の全てを吹き飛ばせ』

 ルヴィアの体が淡く輝き瞳は淡く輝きながらエメラルドグリーンに染まる。

 髪はうねりルヴィアの前に一陣の風渦が現れた。

「なんだ!?」

 ルヴィアの精霊術に賊が目を見張る。

「おじさんこっちにっ」

「えっ!?」

 ランディがおじさんの手を引いた。

「『トーネード・ストーム』ッ!!」

 両側の賊の足元から2つの猛烈な竜巻が発生し賊を巻き込んで吹っ飛ばした。

「もーヘーキよ、オジサン」

 ルヴィアがおじさんに顔を向けた。

 だがおじさんは精霊術を目の当たりにして声も出ずに驚愕していた。

「……あ、ありがとう」



「ナニコレェーッ!!!」

 目前の光景にルヴィアが目を見開いた。


 そこはガケだった。

 結構な高さで下には川が流れているのだが、架けられている吊り橋はボロボロで人の渡れる状態ではない。しかも崖の合間を吹く強風が吊り橋をあおり見ているだけで危険だ。


「こりゃ酷いなぁ」

「とても渡れないわね」

 ランディとレーシアが眉をひそめて言った。

「わたれないなら飛べばいーのよっ! 『レビテイト』ッ!」

 ルヴィアの体が淡く輝き風をまとって崖を越え始めた。

「エッ!! おいッ!! 僕を置いてくなよォーッ!!!」

 ランディがルヴィアに向かって叫んだが見向きもせず崖の向こう側へ行ってしまった。

「ルヴィア……」

「もう、お姉さまったら。ランディさん、私に掴まってください」

「えッ!? でも僕重いよ。大丈夫かな?」

「ランディ――――」

 崖の向こうに居るルヴィアが大声でランディを呼んだ。

「な、なんだぁ――?」

 振り向いたランディが返事をした。

「あたしぃ――。ランディのつり橋わたるカーッコイイスガタ見たいわぁ――。こっちまでつり橋わたってきてぇ――」

 投げキッスをしたルヴィアにランディはドキンッとして顔を赤らめた。崖の向こうに居る豆粒程のルヴィアでも敏感に反応する。

 ……僕のつり橋を渡る、カッコいい姿?

 ランディはフッとすまし、吊り橋をスタスタと渡る自分のりりしい姿を想像した。

「よッ! よォーしッッ!!!」

 目に炎を灯して燃えた。

 そんなランディにレーシアは驚く。

「ラッ、ランディさん!? まさかつり橋を渡る気ですか!?」

「ああ、もちろん。レーシアちゃんは先に向こうに行っててくれ」

「ダメですよ!! 危険すぎます!! やめてください!!」

「だけどルヴィアが見たいって言ってるんだ。僕はやるっ!」

「お姉さまの言葉なんて真に受けないでください!!」

「いや、僕はやる」

 懸命に止めるレーシアだがランディはフラフラと吊り橋に向かっていく。

「ランディさん!!」

「きゃ――――。ランディがんばってぇ――――」

 ルヴィアの演技にまんまと騙されランディは顔をカァーっと赤くする。

「ルヴィア――。しっかり見てろよぉ――――」

「見てるわぁ――。はやくこっち来てぇ――」

「今行くよぉ――。僕の愛しのスイートハニ――」

「すいーとはにーッ!?」

 ランディの発言にルヴィアが顔をしかめた。

 そこへレーシアが精霊術『レビテイト』で崖を飛び越えてきた。

「お姉さまのバカ!! 早くランディさんを止めて!!」

 怒り噴騰で言う。

「まーまー落ちついて。ランディがやるって言ってんのよ」

「落ち着けるわけないでしょう!!?」


 一方ランディは緊張の表情で今にも切れそうなロープに手をかけ、ボロボロの木の板に恐る恐る一歩を踏み出すところだった。ギシッときしむ音がする。

 こわい……。でもビビッていたらカッコ悪い。りりしくりりしく……。

 冷や汗をかいてルヴィアをチラっと見た。


 ルヴィアはワクワクしながらランディを見つめレーシアはハラハラと気が気じゃない様子で見ている。


 豆粒でも2人がこちらを見ているのは解る。

 見てる……。がんばらないと……。

 ランディは勇気を出して更にもう一歩を進める。木の板がバキッと鳴った。

 慎重に、慎重に……。

 ゆっくり足を進める。

 木の板の隙間からは遥か下を流れる川が見える。高い場所は割と平気なほうとはいえ、強風で揺れる吊り橋はさすがに恐怖だ。ギシギシときしむ音が心臓に悪い。

 だが今ランディを動かすもの。それは愛するルヴィアに良く思われたい一心だ。


 あら? 意外と渡れるもんなのね。

 吊り橋の半分をなんとか越えて渡ってくるランディを見てルヴィアはつまらなそうに思った。


 もう少しだ……。渡りきったら、きっと……。

 ランディはルヴィアに『ステキだったわーっ』と抱き付かれ、チューっとキスされる妄想をした。

 顔がデヘデヘとニヤける。

 その時、腐っていた木の板にバキンッと足を乗せてしまった。

「ワアッ!!!」

 ランディの体がガクッと傾く。

「キャア――!!!」

「落ちたぁっ!! あ?」

 レーシアが両手で顔を覆いルヴィアは一瞬喜んだがランディはとっさに吊り橋のロープを掴んでいた。

「……あ、危なかった……」

 安心したのも束の間、ロープは次第に細くなっていきブツッと切れランディは落下した。

「ウワァァ――ッッ!!!」

「ランディさぁーん!!!」

「やっぱ落ちたぁっ!!」

 真っ青な顔のレーシアが両頬を押さえて叫んだが、やはりルヴィアは喜んでいた。

 川にドボンと落ちたランディは哀れ流されていった。



「へーっくしッ!!」

 なんとか川から生還したランディがクシャミをした。全身ズブ濡れだ。

「さ、寒い……」

 両腕を抱えてブルブルと震える。

「早く服を乾かさないと風邪をひいてしまうわ」

 心配そうに言うレーシアにルヴィアはひらめく。

「服かわかせればいーのねっ!?」

「そうよ」

 レーシアが振り向くとルヴィアは右手をランディに向けて突き出していた。

「ま、まさか……」

 それを見たランディとレーシアの顔から同時に血の気がサーっと引いた。

「『ファイア・フレイム』ッ!!」

 ルヴィアの手の平から火炎球がボンッと発した。

「ワア――ッッ!!!」

 アイルーン・アーマーが光り輝き火炎球は弾かれ消え去った。

「あーまたッ!! せっかくかわかしてあげよーと思ったのにッ!!」

 不満そうに言うルヴィアにランディは憤慨する。

「あのなァッ!! そんなやり方酷すぎるぞッ!!」



 とあるタウンのホテルの一室。

「ふあっくしょぉーんッ!!」

 ベッドに寝込んでいるランディが大きなクシャミをした。どうやら完璧に風邪をひいてしまったようだ。

「ホントにカゼひーたわね」

 ソファーでルヴィアが呆れたように呟きレーシアは側で心配そうに見ている。

「寒いですか? ランディさん」

「だ、大丈夫……。ゴホゴホッ!」

「私、風邪薬を買ってくるわ」

「エッ!? ひとりでッ!? ヘンなヤツにつかまったらタイヘンッ! あたしも行くわっ!」

「すぐ戻るから平気よ。お姉さまはランディさんについていてあげて」

「でも……」

 不安そうなルヴィア。

「レーシアちゃん……。ありがとう……」

 ランディがレーシアを見て言った。

「なんかあったらテレパシーおくんのよっ!」

 レーシアはうなずいて部屋を出て行きルヴィアとランディは2人きりになった。

「ゴホゴホッ! ルヴィア……。僕寒いんだけど……」

「はッ!? さっきダイジョーブって言ってたじゃない」

「今寒くなってきたんだ……」

「……しかたないわねェー」

 ルヴィアがため息をつき立ち上がる。

 隣のベッドの布団を二重に重ねた。

「どーお?」

「いや……。そうじゃなくて……」

 冷や汗を垂らすランディ。

「なによ、言いたいコトあんならハッキリ言いなさいよッ!」

「……その……。ルヴィアのか、体で、温めてほしいなぁって……」

 ドキドキしながら言ってからルヴィアの反応を見た。

「…………」

 顔中に青筋を立てたルヴィアが睨んでいた。

「うわあッ!! ゴホッゴホッ! ご、ごめんッ! そのほうが、あったかいかなぁって思っただけですゥーッ」

 怒りで体をワナワナと震わせているルヴィアにランディが青ざめた顔で謝った。

 だがルヴィアはクルっと背を向ける。

「そーね。ランディがカゼひーちゃったのもあたしのせいだし……。それくらいはしてあげてトーゼンよね」

「え……?」

 ロンググローブを取ってロングブーツを脱ぎ、服のボタンを外して脱いだ。

 それを見たランディはドキンッとして顔を赤らめる。

 ミニスカも脱ぎ、ランジェリー姿になったルヴィアは恥ずかしそうに振り返った。

「ル、ルヴィア……」

 ドキドキするランディ。

 ルヴィアはゆっくり布団の中に入りランディに体を重ねる。

「あったかい?」

「あっ、あったか〜いっ」

 夢みたいだぁ〜。


☆★ 殴 ★☆


 夢だった。

 頭に大きなタンコブのできたランディは涙をシクシクと流す。

 その横でルヴィアは額に怒りの青筋を立てて拳を震わせる。

「何するんだよッ!! 僕は病人なんだぞッ! ゴホゴホッ!」

「病人だったら病人らしくしてなさいよッ!! カゼなんて、日ごろのおこないワルイからひくのよッ!! 情けないッ!!」

「誰のせいで風邪ひいたと思って……。ゴホゴホッ!」

「チョットはおとなしくなるかと思ったら、エッチなトコちっとも変わんないわねッ!!」

「ルヴィアだって……風邪をひいてる時くらい僕に少しは優しくしてくれると思ったのに……。乱暴者……」

 ランディがボソッと呟いた。だがルヴィアは耳が良い。

「ぬァんですってェッ!!? アンタがあたし怒らせてんでしょォッ!!? ちょームカツクッ!!」

 額に青筋を立てたルヴィアがドアに向かった。

「ゴホゴホッ! ルヴィア? どこ行くんだよっ!」

「レーシアむかえに行ってくんのよッ!! シンパイだからッ!!」

 怒りを噴騰させながらルヴィアが言うとランディは慌てて引き止める。

「エエッ!!? ごめんッ!! 行かないでくれッ!!」

 だがルヴィアは見向きもせず部屋から出ていってしまった。

「ルヴィアー……」

 1人ポツンと残されたランディは涙を流した。



「あの……。急いでいるので困ります……」

 街道で2人の若い男に絡まれているレーシアが怯えながら後ずさりをした。

「そんなこと言わないでさぁー、な?」

 男がレーシアの腕をグイっと引っ張る。

「あッ!」

 レーシアは抱いていた紙袋を地面に落としてしまった。

「さっ、行こうぜー」

 男がそう言うとレーシアは顔を伏せて震え始める。

「そんなこわがるなよぉ」

 もう1人の男が駆け寄ってくるルヴィアに気づいた。

「たあーッ!!」

 ルヴィア・キック(飛び蹴り)を男に食らわせた。

 男が吹っ飛びレーシアの腕を掴んでいる男は驚いて振り向く。

「何!?」

「アンタ、あたしのカワイイ妹にナニしてんのよッ!!」

 ルヴィアが男をギロッと睨みつけた。

「お、お姉さん……? お姉さんもすごい美人で」

「酷い!! ランディさんのために買ったのに!!」

 レーシアがアイルーン・ロッドで男の頭を思いっきり殴った。

「ぐえッ!!」

 倒れた男は気絶した。

 それを見たルヴィアは感心する。

「レーシア、やるじゃなーい」



 ルヴィアとレーシアは買い物から帰った。

「ただいま帰りました」

「お帰り」

 ランディが2人に顔を向けた。

「風邪薬と林檎を買ってきました。お薬を飲む前に何か食べたほうがいいと思いまして。ランディさん、食べますよね?」

「あっ、じゃあ頂こうかな」

「あたしも食べたいっ♪」



 レーシアは林檎を洗ってソファーに座りナイフで剥き始めた。

 そんなレーシアを見てランディは口を開く。

「レーシアちゃんはほんと家庭的だよなー。料理とか上手だし。ルヴィアは料理なんてできないだろ」

 それを聞いたレーシアは顔を赤らめルヴィアはムッとする。

「さーねッ! したコトないからわかんないけど、べつに料理なんてできなくてもかまわないわッ! してみたいとも思わないものッ」

「……でもルヴィアの手料理って食べてみたいんだけどなぁー」

 ランディが残念そうに呟いた。

「なんでこのあたしがアンタなんかのために料理しなきゃなんないのよッ!!」

「そうだよな。よく考えたらルヴィアの手料理って、なんだかまずそうだしな」

 つい憎まれ口を叩いてしまいルヴィアの余計な怒りを買うランディ。

「なんですってェッ!!? よくそーゆーコト言えるわねッ!! アンタなんか大ッキライッッ!!!」

 ランディの心臓にショックのドスがドスッと突き刺さった。

 涙目になり顔を背けて涙を流す。

「ねぇお姉さま。お姉さまも林檎剥きをやってみたら?」

 レーシアがルヴィアに声をかけた。

「えっ!? どーしてあたしが」

「いいからいいから、ね?」

「え、えー」

 戸惑うルヴィア。



 ルヴィアはロンググローブを取ってナイフを握り、嫌々ながら林檎剥きにチャレンジしてみた。

 そんなルヴィアをランディは無言で見つめる。

「あっ」

 皮が繋がらず、ちぎれてしまう。

「ムズイわね。レーシアみたいにできないわ」

「練習すれば、すぐできるようになるわよ」

「レンシュゥ〜!?」

 イヤーな顔をする。

 再び林檎剥きに取り組んでみたルヴィアだが、ナイフが滑り左手を切ってしまった。

「イッ、ターッ!!」

 ナイフと林檎を落とし右手で左手首を握る。

「お姉さま!!」

「ルヴィアーッ!! ゴホゴホッ!」

 血相を変えたランディがベッドから転がり落ち、すぐルヴィアに駆け寄った。

 ルヴィアの手の平から血が溢れている。

「大丈夫かッ!!」

 ランディがルヴィアの左手首を握り血を舐める。

 それを見たルヴィアはゲッと顔をしかめたがレーシアは何故か顔を赤らめた(汗)。

「いッ! イヤーッ!!」

 ルヴィアがランディを右手でドンッと突き飛ばした。

「レーシアおねがい。なおしてくれる?」

「え、ええ」

 レーシアはアイルーン・ロッドを手にした。

『天の聖なる光よ…我に力を授けたまえ』

 アイルーン・ロッドが淡く輝きクリスタルの球が光り輝いた。

「『ヒール・ライト』!」

 球から優しい光が溢れルヴィアの傷を塞ぐ。

「サンキュー」

 お礼を言うとルヴィアはランディに顔を向ける。

「見たでしょ? アンタの言ったとおり、あたしこんなコトすらできないわ。それにあたしこんなコトするガラじゃないでしょ。もーにどとやんないわよ」

「……そんなことないよ。たとえ下手でも、おいしくなくても、ルヴィアが何か作ってくれるなら僕は残さず食べるよ」

「…………」

 黙ってランディを見るルヴィア。

 ランディはテーブルに転がっている中途半端に皮が剥けた林檎を手にする。

「ありがとう、僕のために剥いてくれて」

「べつにアンタのためじゃないわよ。チョットためしにやってみただけ」

 ルヴィアが言ったにも関わらずランディは林檎をかじる。

「うん、おいしいよ」

「それリンゴの味じゃない……」

 しらけて言うルヴィアにランディはガビーンとショックを受けた。



 ベッドでランディは眠りについた。

「眠ったみたいだわ」

 一安心して言うレーシア。

「お薬も飲んだし、風邪が治ってくれるといいんだけど。ね? お姉さま」

「え? ええ、そーね」

 適当に返事をするルヴィアだった。



 真夜中。

「……う……」

 汗だくのランディがうなされながら目を覚ました。

 頭痛がガンガンと酷い。

「うッ! ゴホッ、ゴホゴホッ」

「ん……。ランディさん? 目が覚めたんですか?」

 隣のベッドで眠っていたレーシアがランディの咳に気づいて目を覚まし、起き上がった。

「ゴホ……。レーシアちゃん、ごめん。起こしちゃった?」

 レーシアはベッドから降りてランディの側に行った。

「まだ風邪が治っていないんですね。キャア! ランディさん、すごい汗」

 汗だくな事に気づき驚く。

「ちょっと、頭痛がするんだよね」

「えっ、頭痛ですか?」

 それを聞いたレーシアは片手でランディの額に触れてみた。

「熱い。熱がありますよ。ちょっと待っていてください!」

 そう言いレーシアは部屋を出ていった。



「あっ、あのっ、バスローブを持ってきましたので着替えてくたさい」

 バスローブを手にしたレーシアが言う。

「あ、ありがとう」

 ランディは起き上がり着替え始める。

 その間レーシアは背を向けてドキドキしていた。



 レーシアは水を汲んだ容器を用意し浸したタオルをランディの額に置く。

「ありがとう、レーシアちゃん」

「いいえ。私がずっとついていますから、ゆっくり休んでください」

「うん、ありがとう」

 ランディはお礼を言うと目を閉じた。

 鼓動が速いのを感じる。

 ……なんかドキドキしているな。緊張しているのか……?

 思いながらも、やがて眠りにつくランディだった。



【TALE42:END】

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