TALE41:ルヴィア妊娠!?
ここ数日ルヴィアの自分に対する態度の変化には気づいていた。決して優しくなったという訳ではないが、前ほど冷たくなくなったというか。だから嫌われてはいない事は確信していたつもりだった。
それだけでも嬉しかったし充分な進歩だと思っていたけど、今日ルヴィアがホテルのフロントで言ってくれた。
「ランディ、あたしといっしょの部屋にしない?」
聞いた瞬間、もう心臓が破裂しそうなくらい飛び跳ねた。
それで今ホテルのバスルームでシャワーを浴びている訳だが。
その時のルヴィアがまた可愛かった。本当にいいのか確認して、うなずく時の恥じらう仕草が。
さっきから心臓がドキドキしっぱなしだ。顔も緩みっぱなしだし。……いつもだろとか言わないでほしい。
だってルヴィアから誘ってきたんだから。もう1度言うけどルヴィアから誘ってきた。
同じ部屋に泊まれるなんて、これはもう僕の事を好きだと思って間違いない。
あ、また顔がニヤけてしまう。
バスローブ姿のランディはバスルームを出た。
テーブルにランプだけを灯した薄暗い部屋でバスローブ姿のルヴィアがソファーに座っている。
ランディはドキドキしながら向かいのソファーに座る。
「……ランディ、あたしやっと気づいたわ」
「えっ?」
ドキッとするランディ。
「あたし、あんたのコト好きになったみたい」
顔を赤らめたルヴィアが言う。
「えっ!? そ、それって、僕のこと……愛してるってこと?」
「……うん」
ルヴィアがうなずいた。
「僕のこと、本当に愛してる?」
「愛してるわ」
それを聞いたランディの顔がボンッと真っ赤になった。
「ル、ルヴィア」
ランディの頭上で祝福のクス玉がパンパカパーンと割れた。
やった――! ついに、ついにルヴィアが愛してるって言ってくれた――!
目に感激の涙が溢れる。
そんなランディにルヴィアはため息をつく。
「もーあんたってホントすぐ泣くんだから」
「だっ、だってルヴィアが、僕のことを愛してるって、僕すごく嬉しくて」
ランディが涙を拭いながら言う。
「あたしもフシギだわ。あんたのコト大ッキライだったのにね」
そう言いルヴィアは立ち上がりランディの手を引いた。
立ち上がったランディの首にルヴィアは両腕を回す。ドッキーンとして顔が真っ赤になるランディ。
ルヴィアはランディに唇を重ねた。
……ルヴィアが、僕にキスを。
感激したランディはルヴィアを抱きしめた。
ベッドでルヴィアとランディは唇を重ねていた。
情熱的なキスを交わし、紅潮した顔で熱い視線を絡め合う。
そしてランディが目線を移した先はルヴィアの首筋と胸元に散った薄く残る小さな痣。明らかに自分以外の男が触れた証を見せ付けられ、頭の中が悔しさと怒りで熱くなるのを感じる。
その1つ1つに唇を這わせて色濃くし、全てを自分のものにする。
ランディは腕の中のルヴィアの髪を優しく撫でる。
ルヴィアは自分の体に腕を回して密着している状態。今もの凄く幸せだ。
やっと想いが通じて、想い合えてルヴィアとこうする事ができて、幸せすぎてこわいくらいだ。
「ルヴィア、愛してるよ」
「あたしもよ」
ああ、期待通りの答えで嬉しい。
「じゃあ、僕と結婚してくれる?」
「……結婚は、まだ考えたくないわ」
「エッ!?」
ガビーンとショックを受けた。今の流れだと当然イエスだろう。
「どうしてっ!?」
「あたし、まだ旅続けたいし」
「……それでもいいよ。でも僕はルヴィアと結婚式を挙げたいんだ。だからどこかのタウンのチャペルで」
「ランディ、おねがいもーチョット待って」
遮るようにルヴィアが言うとランディは悲しそうな表情をする。
「……わかったよ……。それじゃもう1回」
目をピカーと光らせた。
次の日。
ホテルのレストランでお約束のもの凄い勢いで料理をたいらげるルヴィア。
「ちょっとお姉さま、もう少し落ちついて食べなさいよ」
レーシアが食事の仕方を注意する。毎回無駄だと解ってはいるがつい注意してしまう。
「なに言ってんのよぉ、こーやって食べないとおいしくないでしょっ!?」
そう言いルヴィアは再びもの凄い勢いで料理を食べ始める。
「うッ! ゴホゴホッ」
突然ルヴィアが片手で口を押さえてむせた。
隣に座っているランディは血相を変えてルヴィアを見る。
「ルヴィア大丈夫かっ!?」
「もうお姉さま! 言ったそばからよ!」
「ゴホッ、ゴホッ、ゴメン」
ランディは心配そうにルヴィアを見ていた。
「…………」
こういう光景を昔見た事がある。
確か……。
目を閉じて過去を思い出した。
ランディの回想。
ベリーズ・ビリッジのアレイン家。
当時5歳のランディと母のミレイアは食事中だった。
『うッ』
突然ミレイアが片手で口を押さえて立ち上がりキッチンへ向かう。
『お母さんっ!?』
その様子にランディも慌てて立ち上がる。
ミレイアは流し台で水を流しながらむせていた。
『お母さんっ! またきもちわるいのっ!?』
ランディが心配そうに声をかけた。
『大丈夫よランディ』
『どうしてなのっ!? お母さんいつもきもちわるくなってるよっ! かわいそうだよっ!』
泣きだしたランディにミレイアは慌ててしゃがみ込んだ。
『ランディ、お母さんはちっともかわいそうなんかじゃないのよ。お母さんは今とても幸せなの』
『どうしてっ!?』
ランディが涙の溢れた目でミレイアを見た。
ミレイアはランディの手を取り腹に当てる。
『ここにね、赤ちゃんがいるの。ランディはお兄ちゃんになるのよ』
『あかちゃんっ!?』
「赤ちゃんっ!!」
目を見開き声を上げた。
「ランディさん? どうかしましたか?」
レーシアが尋ねたがランディの耳には入っていない。
「ルヴィアッ!! 赤ちゃんができたのかっ!!」
「はあッ!?」
何を言いだすのかとルヴィアが思いっきり顔をしかめた。
「ナニ言ってんのよッ!!」
「だって僕の母さんは赤ちゃんができて、食事の時そうやってむせてたっ!」
「い、今のはたんに料理つまらせて」
だがランディは聞く耳を持たずルヴィアを抱きしめた。
「キャッ!」
「やったーっ!! 赤ちゃんがっ! 僕達の子がっ! 僕の……」
満面の笑顔だったランディがハッと我に返る。
僕の子……?
でも本当に自分の子と言えるのだろうか。ルヴィアは黙っているだけで他の男と寝ている可能性がなくはない……。
冷や汗をかくランディ。
「ランディ、あたし達のあかちゃんできたって……ジョーダンでしょ?」
ルヴィアも冷や汗をかいて不安そうに尋ねた。
「いや、僕達の子ができたんだよ。僕達の子が。そうだよなっ!? なっ!?」
そう信じて疑わない。
「そんなッ!! あかちゃんなんてできるワケないわよッ!!」
「何を根拠にそう言いきるんだ? だって僕達、少し前までは毎日あんなに愛しあって……」
言いながらランディの顔が真っ赤になった。
「だから僕達の子ができてもおかしくないんだぞ」
「…………」
「ルヴィア、嬉しくないのか? 僕達の子なんだぞ?」
だが突然の事でルヴィアは戸惑いを隠せない。だって妊娠とかそういうのはずっと先の事だと思っていた。
「ルヴィア?」
「…………」
ルヴィアはそっと腹に触れる。
でも、ここに新しい命が宿ったなんて。そう思うと、なんだか急に愛おしくなってきた。
「そーね」
「本当っ!?」
それを聞いたランディの表情が明るくなり満面の笑顔でバンザイする。
「やった――っ!!」
「ランディさん、お姉さま。おめでとうございます!」
レーシアが祝福した。
「あ、ありがとうレーシアちゃん」
ホテルの一室。
ベッドに座ってランディはルヴィアの腹に優しく触れる。
「ここに僕達の赤ちゃんがいるんだ。僕は父親になるんだな」
嬉しそうに言うランディ。
「絶対に女の子だよな。アイルーン・キングダムは代々プリンセスが産まれてきてるんだから」
「そーね」
「名前、どうしようか」
先走りすぎのランディにルヴィアは呆れる。
「もーあんた気ィはやいわよ」
「だ、だって……」
2人は見つめ合った。
ランディはルヴィアに顔を近づけ唇を重ねる。
「愛してるよ」
そう囁き唇を重ねながらルヴィアをベッドに押し倒した。
ルヴィアに体を重ね首筋に唇を這わせる。
「あっ! 待ってランディッ! ダメよッ」
抵抗したルヴィアにランディは顔を上げる。
「どうしてっ!?」
「あたしのおなか、あかちゃんいんでしょっ!?」
「あッ!」
それを聞いたランディは慌ててベッドから降りる。
「ご、ごめんルヴィア」
ランディが謝るとルヴィアは起き上がる。
「もー気ィつけてよね」
「うん……。ちょっと淋しいけど、我慢するよ」
ルヴィアの隣に座る。
「なぁルヴィア、キャッスルに帰ろうよ」
「エッ!?」
唐突なランディの発言にルヴィアが顔を向ける。
「お腹の子のためにもさ、キャッスルで安定した暮らしをしたほうがいいと思うんだ」
「……そーかしら」
「絶対そうだよ。だからキャッスルに帰ろう。僕達の子ができたっておじ様が知ったら喜ぶよっ!」
「…………」
「それで……やっぱり結婚しよう」
真顔でランディが言う。
「エッ!!」
「当たり前だろ? 僕達の子ができたんだから。な?」
「…………」
妊娠と結婚。
ずっと先だと思っていた2つの事がいっぺんに覆い被さってルヴィアは複雑な思いだった。まだ現実味が湧かない。
ルヴィアは腹に触れる。
ここに赤ちゃんがいるんだ。自分の赤ちゃんが。それなら……。
「……わかったわ」
うなずいたルヴィアにランディの表情が明るくなる。
「本当っ!?」
「もーチョット、ジユー気ままな旅したかったけど」
「ルヴィア……」
ランディは立ち上がるとルヴィアの前で立て膝をし、真剣な眼差しで見つめる。
「それじゃ、改めてプロポーズするよ。僕と結婚してください」
「ええ」
微笑んでルヴィアが答えた。
感激して涙ぐみジーンとするランディ。ずっと聞きたかった言葉だった。
「ルヴィアっ!」
ランディがルヴィアを抱きしめた。
ルヴィアとランディはレーシアに帰国と結婚を報告した。
勿論レーシアは笑顔で2人を祝福した。
そして1日でも早く帰国する為タウンを出発する事にした。
街道を手を繋いでを歩くルヴィアとランディの後ろでレーシアはなんだか浮かない表情だ。
「あっ!」
何かを発見したルヴィアが走りだす。
「おッ! おいルヴィアッ!! どこに行くんだッ!!」
慌ててランディが追いかけるとルヴィアはアイスクリームショップの前に居た。
「……ルヴィア」
冷や汗を垂らす。
「ルヴィア、あんまり走るなよ…っておいッ!!」
目を丸くした。
ルヴィアが3個重ねのアイスクリームを両手に持っていたからだ。
「おいルヴィアッ!! 何考えてるんだよッ!! そんなに食べたらお腹に悪いだろッ!!」
「なによいーじゃない」
そう言いルヴィアはアイスクリームを舐めた。
「ダメだッ!!」
片方のアイスクリームを取りあげるランディ。
「あッ!! ナニすんのよッ!!」
ルヴィアがランディを睨みつけた。
「お腹に悪いだろ」
「どーしてッ!!」
「お腹が冷えるだろッ! それとな、そういう服も見てる分には嬉しいけど、お腹を締めつけるからよくないぞ」
ランディがそう言うとルヴィアは顔を伏せる。
「これからはリラックスできるゆったりした服を着たほうがいいな」
「…………」
ルヴィアが体をワナワナと震わせ始めた。
そんなルヴィアにランディは嫌な予感がして冷や汗をかく。
「ウルサイわよ。そんなコトあたしのカッテでしょッ!?」
「ぼ、僕はお腹の子のためを思って言ってるんだぞ」
「おなかのコおなかのコって、そればっかじゃない。このあたしよりあかちゃんのほうがタイセツなのねッ!?」
ルヴィアがギロッと睨みつけるとランディはビビる。
「違うッ!! そういうわけじゃないよ。でも」
「おだまりッ!! あたしソクバクなんかされたくないのよッ!! アンタなんか大ッキライッッ!!!」
ルヴィア・パンチをランディの顔面に繰り出しブッ飛ばした。
夕暮れ。
ホテルの一室。
ソファーでランディは肩をガックリ落とす。
「……どうして、どうしてこうなっちゃうのかなぁ。またルヴィアに嫌われちゃったよ」
涙をボロボロとこぼした。
「お姉さまは、あれこれ言われるのが嫌いですから……」
向かいに座っているレーシアが言った。
「ううっ……。でも僕はお腹の子のためを思って……」
「それはわかっていますけど」
(レーシアッ!)
ルヴィアからテレパシーが届いた。
ルヴィアの部屋。
「ねーレーシア、あたしアイツのコなんか産みたくないッ! どーしたらいーのッ!?」
困り顔のルヴィアがソファーに座っているレーシアに相談した。
「……お姉さま、あの……あれは来ていないの?」
唐突なレーシアの発言にルヴィアは目をパチクリさせる。
「はッ!?」
「生理よ」
「なに言いだすのよあんた」
「生理があれば妊娠はしていないわ」
ルヴィアは手の平をもう片手で打つ。
「そっか! モチロンあるわよ」
「そう……。ランディさんには悪いけど、お姉さまは妊娠していないわね」
「えっ!? ホントーっ!? よかったーっ!!」
満面の笑顔でルヴィアがバンザイした。
ランディとレーシアの部屋。
部屋に戻ったレーシアはランディに声をかける。
「……あの、ランディさん。お気を悪くなさらないでくださいね」
「えっ?」
ランディがレーシアを見た。
「お姉さまは、妊娠していません」
「エエッ!!?」
それを聞いたランディが愕然とした。
「な、なんでッ!? なんでそんなことがわかるのッ!?」
「それは……」
「……そうなんだ……」
レーシアから説明を聞いたランディが肩をガックリ落とした。
「ランディさん、すいません……」
申し訳なさそうに謝るレーシアにランディは顔を上げる。
「えっ? なんでレーシアちゃんが謝るんだよ」
「え……」
「僕が勝手に勘違いしたんじゃないか」
元気なく笑うランディなのだった。チャンチャン♪
【TALE41:END】