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TALE37:ニキッドの元?彼女

 自宅へ帰ったニキッドがチャイムを鳴らすと、すぐドアが開く。

「ニキッド!!」

 ドアを開けたのは女だった。スラリとした大人の女性だ。

「エエッ!! ニスティッ!!」

 ビックリ仰天するニキッド。電話で話した婦警のようだ。

「どーしたの?」

 覗き込もうとしたルヴィアにニキッドはビビリ慌てて家の中に入った。

 ドアを閉めて鍵をかける。

「何!!? 今女の声が聞こえたわよ!!」

 ルヴィアの声に反応したニスティが言った。

 ドアの向こうからドンドンと叩く音が聞こえる。

「き、気のせい気のせい……」

 ニキッドの額から脂汗が溢れる。

「誰か外にいるじゃない!! 携帯にかけてもずっと繋がらないし一体どこにいたのよ!! やっぱり浮気していたのね!!」

「してないって、俺を信じろよ」

「あなたのその態度の何を信じればいいって言うのよ!!」

 急にニキッドは真顔になる。

「ニスティ、大事な話があるんだ。落ちついて聞いてくれないか」

 それを聞いたニスティはドキッとする。

「な、何よ。別れ話をする気なのね!? 許さないわよそんなの!!」

「違う。あのな……俺が今まで一緒にいたのは、実はルヴィアちゃん達なんだ……」

 ニキッドの衝撃発言にニスティは驚愕する。

「なッ! なんですって!? ルヴィアって、プリンセスの!?」

「ああ。ルヴィアちゃん達が警察に追われるハメになったから俺がかくまってたのさ」

「なんでそんなことを!? だってプリンセスはあなたの家族を殺害し、キャッスルを破壊したのよ!?」

「だけど俺はルヴィアちゃんを恨んじゃいないぜ。むしろ感謝してるんだ。だから警察に追われてるのを見過ごすわけにはいかない」

「ニキッド……」

「ニスティ、君ならわかってくれるよな?」

「で、でも私は警察なのよ」

「…………」

 ジッと見つめるニキッドにニスティは戸惑っていたがうなずく。

「わかったわ。みんなには報告しない。あなたのことを愛しているもの」

「本当かニスティッ! ありがとなっ!」

「あなたのためならかまわないわ」

 ニスティがニキッドに抱き付いた。

「ねぇ、キスして」

「……ん」

 少しためらったもののニキッドはニスティに唇を重ねた。

「じゃルヴィアちゃん達を家に入れるな」

「……ええ」

 ドアを開ける。

「あーらニキッド、その人がモトカノジョかしらァ?」

 腕組みしたルヴィアが不愉快そうに嫌みタップリに言った。

 ニキッドの顔から血の気が引く。

「ルヴィアちゃんッ」

「元……?」

 ニスティがニキッドの背後で反応した。

 背筋に冷たい何かが走るニキッド。



 リビングルーム。

「そーだったの。ニキッドがケーサツのモトカノをセットクしてくれたのね」

「ニキッド……。さっきからプリンセスが元って言っているけど、一体どういうことなのかしら……?」

 ソファーでニスティが目をピカーと光らせて隣のニキッドを見た。

「エエエッ!! それはあとでゆっくり話そう」

 青い顔でニキッドが言った。

「さ、さてと……。ルヴィアちゃん、レーシアちゃん。もう疲れたろ? バスルームの準備ができてるから入ってきたらどう?」

「そーね」

「じゃ案内するぜ」

 ニキッド、ルヴィア、レーシアが立ち上がった。

 3人がリビングを出るとニスティはテーブルに置いてあるデジタルカメラを何気なく手にする。



 ニキッドが戻ってきた。

「ねぇニキッド」

 すぐニスティが声をかけた。

「んっ?」

「こーんな物見つけたんだけど」

 ニスティが見せた物はデジタルカメラのルヴィアとニキッドのツーショット画像だった。

 それを見たニキッドの顔が真っ青になる。

「何かしらこれ。プリンセスとこんなに密着しちゃって」

 笑顔だがニスティの眉と口の端はピクピクしていた。

 ニキッドの額から脂汗がダラダラ溢れる。

「た、ただの記念写真さ」

「ふーん、それだけなのかしら? プリンセス、すごく綺麗だものねェ」

「それだけだってッ!!」

「あ、あの……」

 口を挟んだランディにニスティは振り向く。

「なんでしょうか?」

「彼は、ルヴィアのことが好きなんですッ!!」

「きッ! 君何をッ!」

「…………」

「ニ、ニスティ……」

 ニキッドが恐る恐る声をかけるとニスティは向き直る。

「そうなの? ニキッド」

「えっ」

「私は、あなたの口から聞いたことしか信じないわ」

「……ニスティ……」

 ニキッドはニスティの隣に座る。

「このまま隠してても、俺は君を傷つけてしまうな。だから正直に言う。俺は、ルヴィアちゃんのことが好きになった。悪いけど、俺と別れてくれないか」

 それを聞いたニスティは目を見開きショックを受けた。

「そんな!! どうして!! 私達、婚約したじゃない!!」

 なんと2人は婚約までした仲らしい。そういえばニスティの左手の薬指にはリングがある。

「うッ! そうだけど……。今の気持ちじゃ結婚できない。ゴメン……」

 涙を流したニスティはニキッドの頬に平手打ちする。

「どうしてよ!! 酷い!! 酷すぎるわよ!!」

 泣きながらニキッドの胸部を両手で叩く。

 気まずいムードに居づらくなったランディは立ち上がりリビングを出た。

「ニキッド……。あなた私をふるなんてこと、できるはずがないのよ?」

「……ああ、わかってる。ニスティ、君には感謝してるさ。警察に捕まった俺を君は見逃してくれた」


 それは2年前。警察に捕まりプリンスと正体がバレたニキッドを見逃したのがニスティだった。それが2人の出会いだ。


「そうよ。あんな出会いだけど、あなたはこんな私を愛してくれた。すごく幸せだったのに……。それに私のお腹には……わかっているの?」

 ニスティが片手で自分の腹に触れた。

「ホントにゴメンな……」

「謝らないでニキッド。私は絶対に別れないわ。言ったでしょ、そんなことをするくらいなら」

 腰から拳銃を取るニスティ。それを見たニキッドは目を見開く。

「ニスティッ!!」

「あなたを殺して私も死ぬわ!!」

 ニスティが拳銃の銃口をニキッドに向けた。

「やめろッッ!!!」


 銃声が響いた。


「エッ!?」

 廊下に居たランディが振り向く。



「……ん? 今なんか聞こえなかった?」

 広いバスルームで入浴中のルヴィアが銃声に反応してレーシアに尋ねた。

「え?」



 急いでランディがリビングへ行くと、それは恐るべき光景だった。

「ウワァァ――ッッッ!!!!!」

 真っ青な顔で絶叫した。

 拳銃を手にしたニキッドが座っているソファーで額を撃ち抜かれたニスティが倒れていた。ソファーに真っ赤な鮮血が広がっている。

「ニキッド様!! これは一体!!」

 ナイルも駆けつけた。

「やってしまった……。でもやらなきゃ俺がやられてた」

「ニキッド様!! 大丈夫ですか!! お気をしっかりお持ちください!!」

 両手で頭を抱えて震えているニキッドに駆け寄った。



 入浴を済ませたバスローブ姿のルヴィアとレーシアは廊下でランディと会った。

「あらランディ、なにしてんの?」

「ルヴィア、レーシアちゃん……。リビングに行っちゃダメだ」

 ランディが深刻な表情で言う。

「どーして?」

「……アイツの、彼女が殺されたんだ……」

 それを聞いたルヴィアとレーシアは驚愕する。

「なんですってッ!?」

「別れ話で、2人がもめてて……」

「えッ」

 ルヴィアはリビングへ向かった。



 リビングルーム。

 その光景にルヴィアは目を見開いた。

 ソファーで涙を流したニキッドが血まみれのニスティを抱いていた。

「ニ、ニキッド……。これどーゆーコトなの……?」

 ルヴィアがゆっくり歩み寄る。

「しょうがなかった……。ニスティが俺を殺そうとして、やらなきゃ俺がやられてたんだ。俺と別れるくらいなら、俺を殺して自分も死ぬって……」

「……そんなコトするくらい、アンタのコト好きだったのね」



 ニスティの血が付いたソファーはなくなり2個のソファーはテーブルを挟んで向かい合う形だ。


「ニキッド」

 戻ってきたニキッドとナイルにルヴィアがソファーから立ち上がる。

「……バレたら俺も追われる身だな」

 ニキッドの表情は暗かった。

「あたし達やっぱシティ出るわ。明日にでも」

 ルヴィアがそう言うとニキッドは慌てる。

「エッ!! ちょッ! ちょっと待ってくれよッ! 俺に考えがあるって言ったろッ!?」

「えっ!? 考えってなんだよ」

 ランディがニキッドに尋ねた。

「いーのよニキッド。みじかい間だったけどサンキュー。たのしかったわ」

「待てよルヴィアちゃんッ! シティ出るって言うけど、どうやって出るつもりなのッ!?」

「フネしかないでしょ」

「チケット持ってるのッ!?」

「持ってないわ」

 それを聞いたニキッドはため息をつく。

「だったらシップには乗れないぜ」

「ダイジョーブよ。ココ来る前もチケットいらなかったもの」

「どうして?」

 ニキッドが尋ねるとルヴィアは首飾りを指差す。

「コレ見せたら乗せてくれたわ」

「でもお姉さま、その方法はもう無理よ」

「えっ?」

「私達の正体がわかっちゃったら船に乗せてくれるわけないじゃない」

 レーシアがそう言うとルヴィアはうつむく。

「そーよね……」

「だから、とにかく俺に任せろよ。なっ?」

「何を任せるんだ」

 ランディがニキッドを睨む。

「……わかったわ」

「ルヴィアッ!?」

 驚きの表情でランディがルヴィアを見た。

「よし、決まりだな。さてと、ルヴィアちゃん達どうする? もう寝る?」

「そーね。眠くなってきたわ……」

 あくびをするルヴィア。

「寝床どうするかな。ルヴィアちゃんレーシアちゃん、俺の家には客用のベッドルームなんてたいそうな物ないんだ。俺のベッドでもいい?」

「いーわよ」

「ではニキッド様は私の部屋でお休みください」

 話を聞いていたナイルが言う。

「俺はここでいい。君はナイルの部屋で休みな」

 ニキッドがランディに言った。

「えっ、いいのか?」

「ああ、俺っていい奴だろ? 見直した?」

 ランディはジトッとした目でニキッドを見る。

「……ルヴィアに夜這いするつもりじゃないだろうな」

「しないって!! 君、その疑り深い性格直したほうがいいぜ?」

 呆れるニキッドにランディはムッとする。

「余計なお世話だ」


 

『…ド。ニキッド』

「……ん……」

 ソファーで毛布をかけて眠っていたニキッドは自分の名を呼ぶ声に目を覚ます。

『ニキッド』

「えッ!? ウワァ――ッッ!!!」

 目前の光景に驚愕した。

 そこに死んだはずのニスティがおどろおどろしい形相で見下ろしていた。

「ニキッド様!?」

 向かいのソファーで眠っていたナイルが叫び声に目を覚まして起き上がった。

「ニ、ニスティ……?」

 自分を見下ろす恨めしい目にニキッドは恐怖を感じるがニスティから目をそらせず体も動かない。

『ニキッド、よくも私を……。私は1人で死なないわ。言ったでしょ、あなたも道連れよ』

 ニスティが両手でニキッドの首を絞める。

「ぐッ、はッ……」

「どうなされたのです!? ニキッド様!?」

 ナイルがニキッドに駆け寄ったが暗くてよく見えない。

 慌てて照明をつけて部屋を明るくする。

 だがナイルにはニスティの姿が見えずニキッドは1人で苦しがっている。

「ニキッド様!? 一体どうなされたのです!? しっかりしてください!!」

「うッ、ぐ……」

 もの凄い力で首を絞められ抵抗できない。

 自分はこのまま死ぬのか……。

 ニキッドの意識が遠のく。

『やめろッ!!』

『キャアッ!!』

 突然、男の声が聞こえニスティの手がニキッドの首から離れた。

「はッ、はあッ」

 苦しみから解放されたニキッドが思いっきり息を吸い込んだ。

「大丈夫ですかニキッド様!」

『おまえよくも兄様をッ!!』

『何するのよ離して!!』

 兄様?

 男の言葉に反応してニキッドは起き上がり声のほうを見る。

 そして目を見開いた。

「ニック!?」

『兄様、ご無事ですか?』

 そこに居たのは確かにニックだ。だが、かすかにしか姿が見えない。

 腕を掴まれ振り解こうともがいていたニスティもニックという名に反応して急におとなしくなった。

「助けてくれたのかニック」

『いえ、当然のことをしたまでです』

「久しぶりだな……」

『本当にお久しぶりですね』

「……死んだんだってな」

『はい……。後悔はしていません。母様のところへ行けるのですから』

「そうだな……。母様に会ったら、よろしく伝えてくれよな」

『わかりました。もう2度とこの女を兄様に近づけさせませんからご安心を。それでは、さようなら兄様……』

「ああ……」

『嫌ァ!! ニキッドォ――!!!』

 ニキッドに手を伸ばしていたニスティはニックと共に姿を消した。

「…………」

「ニキッド様……」

 黙り込んだニキッドにナイルがためらいがちに声をかけた。

「んっ?」

 ニキッドがナイルに顔を向けた。

「あの、お首に」



 ニキッドは手鏡で首周りを見た。

 そこにニスティに首を絞められた手のあとがクッキリ赤黒く残っている。

「あちゃー、これは酷いな」

 ホットタオルを手にしたナイルが戻ってきた。

「ニキッド様、タオルをお持ちしました」

「サンキュー」

 ニキッドがホットタオルを受け取り首周りに当てる。

「一体何があったのですか? 私にはよくわかりませんでした」

「……ニスティが化けて出たんだ」

 それを聞いたナイルは愕然とする。

「ニスティさんが!?」

「ああ。ニスティが俺を道連れにしようと首を絞めてたところを、ニックが助けてくれたんだ」

「ニック様が……。そうだったのですか」

「…………」

 ありがとなニック。向こうで、母様と幸せにな……。

 そう思うニキッドだった。



【TALE37:END】

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