TALE36:ウキウキ♪プレジャーランド
「俺の信頼できるブティックがある。そこで着替えるといいぜ」
夜の道路を滑走するエアカーを運転しながら言うニキッドに、助手席に座っているルヴィアは顔を向ける。
「えっ?」
「いくら夜とはいえそのカッコは目立つからな」
「そーね」
「君達もだぜ」
後部座席のランディとレーシアにニキッドが声をかけた。
「特に君の鎧は目立ちすぎる」
「あ、ああ」
ランディが答えた。
「……ねーニキッド」
「んー?」
ルヴィアに声をかけられニキッドが前を向いたまま返事をした。
「あたしニック王子にね、シティをアンナイしてもらうヤクソクしてたのよ」
「へぇ、そうだったのか」
「でもしてもらえなかったわ……」
悲しそうに言ったルヴィアだがニキッドはおかしくなり笑う。
「あいつが果たせなかった約束を今俺が果たしてるってわけか。そりゃおもしろいな」
そしてニキッドは思い出す。
「そういえばさ、変なことがあったんだ。キャッスルが爆破する直前、俺の胸に激痛が走ったんだ。あれってなんだったんだろうな……。今考えると、あいつの痛みだったのかなって思うんだけどさ」
「そーなの……」
プレジャーランドは巨大な遊園地だ。
ルヴィア、レーシア、ランディの格好は変わっていた。
ルヴィアはフェミニンなミニのワンピースとブーツに暖かそうなファーのジャケット。髪を全部入れて帽子を深く被っている。ピンクの髪はアイルーン・キングダムのプリンセス特有のもので、それを隠す為だ。
レーシアはニットとロングスカートにコート。ルヴィアと同じく帽子を深く被っている。アイルーン・ロッドは手にしていない。
ランディはシャツとパンツにジャケットと革靴。
そして3人共しゃれたサングラスをかけている。
ルヴィアは美しく輝くイルミネーションを眺めた。
「キレイねーっ!」
「ああ、ここは夜になるとカップルの世界だぜ」
ニキッドが周囲のラブラブカップルに目をやった。
「ホントォー。カップルしかいないわ」
「さっ、俺達も負けずに行くとしようか」
ルヴィアの肩に腕を回したニキッドにランディは目くじらを立てて怒り狂う。
「ああ゛ッ!! おまえ何してるッ!!」
2人の間に割って入った。
「邪魔しないでくれよ。俺とルヴィアちゃんのデートなんだからさ」
「おまえが邪魔してるんだッ!!」
激しく憤慨した。
「君いつもルヴィアちゃんと一緒なんだろ? 今回は俺にルヴィアちゃんゆずってくれたっていいじゃんか」
「誰がゆずるかッ!!」
「……だったらさぁ、ジャンケンで決めるってのはどう?」
唐突なニキッドの発言にランディは目をパチクリさせる。
「ジャンケンっ!?」
「勝ったほうがルヴィアちゃんとずっと一緒。それでいいだろ?」
「……よし、いいだろう」
冷や汗をかきながらも受けて立つランディ。
「じゃ、いくぜ。ジャンケン、ポンッ」
ニキッドがパーを出しランディはグーだった。
それを見たランディは顔が青ざめグーに握った拳を見つめて叫ぶ。
「アア゛〜〜!!」
「やった! 俺の勝ちだな」
ニッと笑ったニキッドをランディはジトッとした目で見る。
「イカサマしたんじゃないのか?」
「なッ! 失礼なこと言うなよッ!」
「怪しい、もう1度だ」
黙って見ていたルヴィアは呆れてため息をつく。
「ランディ、負けおしみゆーなんて男らしくないわよ」
「なァ、ダサイよな」
ニキッドが同意して言うとランディは悔しがる。
「ぐッ……」
「でもまあもう1度してやってもいいぜ」
それを聞いたランディは瞳を輝かせる。
「ほんとかっ!?」
「じゃ、いくぜ。ジャンケン、ポンッ」
今度はニキッドがチョキを出しランディはパーだった。
「ゲェ〜〜」
再びランディが青ざめた顔で手の平を見つめる。
「実は俺、今までジャンケンで負けたことないんだよねー」
得意気に言うニキッドにルヴィアは感心する。
「えっ!? そーなのっ!? スゴイわね」
ランディは1人ズーンと沈んでいた。
ニキッドはプレジャーランドのパンフレットを広げる。
「さて、どこに行く? いきなりジェットコースター乗ろうか?」
「そーねぇ……。コレっ! おもしろそーっ!」
ルヴィアがパンフレットを指差したのはジェットコースターだ。
「やっぱジェットコースターだよなっ! 俺も好きなんだっ!」
「そんなおもしろいのっ!?」
「ああっ! じゃ俺達はジェットコースターに乗ってくるなっ!」
「じゃーねっ! レーシア、ランディ」
手を振ったルヴィアはニキッドと歩きだした。
だがランディは引き止める。
「待てッ!! 僕達も一緒に行く」
「なんでッ!? 約束が違うだろ。君はレーシアちゃんと好きな所に行けばいいじゃん」
「いや、一緒に行かせてもらう」
「……別にいいけど、俺達の邪魔をしないでくれよな」
ニキッドがそう言うとランディはムカッとする。
「僕のルヴィアに手を出したら許さないぞッ!!」
「そんなの俺の勝手だろ」
「何ィ〜〜!!?」
ジェットコースターはレールに輝くイルミネーションで高速で滑走している様を目にする事ができ、共に乗客の悲鳴も聞こえる。
「きゃーっ! おもしろそーっ!」
ルヴィアがワクワクしながら声を上げたがランディとレーシアは戸惑っていた。
「わ、私こういうのはちょっと……」
レーシアが怯えながら言う。
「そう。じゃやめときな。ムリして乗らないほうがいいぜ。君も、一緒に待ってたほうがいいんじゃない?」
同じくビビッている様子のランディにニキッドが嫌みタップリに言った。
「……僕は乗る」
冷や汗をかきながらも無理に強がるランディ。
「ふーん」
「ダメよランディッ!! レーシアひとりになっちゃうじゃないッ!!」
「あ」
ランディがレーシアを見た。
「私は大丈夫です。ここで待ってますから」
「そんなのダメよッ!! ヘンなヤツらにつかまっちゃうわよッ!!」
「君も待ってるべきだな」
ルヴィアとニキッドが言うとランディは諦めた。
「……わかった」
「うるさい奴がいなくなって清々したぜ」
ジェットコースターの順番待ちの列でニキッドが呟くとルヴィアはおかしくなりクスッと笑う。
「ランディのコト?」
「そうさ。アイツ超嫉妬深いのな」
「そーなのよ」
深いため息をつくルヴィア。
「好きじゃないんだろ?」
「うん」
「だよな。あんな嫉妬深い奴より俺のほうがずっといいって」
「…………」
無反応なルヴィアにニキッドは困り顔になる。
「ルヴィアちゃーん、俺の気持ちわかってるじゃん」
「だから?」
「俺のモノになってよ」
「イヤッ」
ルヴィアが冷たく言うとニキッドはショックを受けた。
「キツイぜルヴィアちゃん。じゃ、これから俺のよさを知って好きになってくれればいいさ。だから俺のモノになって」
「ヤダッて言ってんでしょッ!!」
「……つれないなルヴィアちゃん。でも俺、強気な女って嫌いじゃないんだなー」
ルヴィアの腰を抱き寄せた。
「ちょっとナニしてんのよッ!!」
額に青筋を立てたルヴィアがサングラス越しにニキッドを睨みつけた。
「いいじゃん。スキンシップスキンシップ」
「ナニがスキンシップよッ!! うっとーしーのよ離れてッ!!」
ニキッドを突き放した。彼の態度に段々イライラしてきた。
「……ルヴィアちゃん。そうやって冷たくされると俺、ますます燃えちゃうぜ」
「エッ」
イヤーな顔をするルヴィアだった。
ジェットコースターを乗り終えたルヴィアとニキッドはベンチで待っていたランディとレーシアの元に向かった。
「お帰り。どうだった?」
「もーちょーサイコーだったわっ!! ふたりも乗ったほうがいーわよっ!!」
興奮したルヴィアが歓喜の笑顔で言う。
「えッ……。やめとく」
「次は観覧車に乗ろうぜ」
「かんらんしゃ?」
ルヴィアがポカンとするとニキッドは派手にライトが輝く大きな観覧車を指差す。
「あれさ」
観覧車に乗り込んだルヴィアとニキッドは少し離れて座った。
外観、内部共に円形でシートも円形になっている。上半分が透明の観覧車にライトが淡く差し込みお互いの顔が確認できる程度は見える。
「……ナニコレ。ゼンゼン動かないわよ?」
「動いてるさ、少しずつな」
ニキッドがそう言うとルヴィアは顔をしかめる。
「エ〜〜!? こんなのナニがたのしーのッ!?」
「だからさぁ、こういう密室に男女が2人っきりだろ? カップルはここで愛を育むっていうか……ムラムラ来ない?」
ジッと見つめるニキッドにルヴィアはキョトンとする。
「むらむら? なにそれ」
それを聞いたニキッドは冷や汗を垂らして肩をガクッと落とした。
「……けっこう鈍いんだねルヴィアちゃん」
「はッ!? ナニがよッ!」
ムッとするルヴィアをニキッドは見つめて思う。
もう少し様子を見てみるか。
「アイツこんな所でルヴィアに手を出す気じゃないだろうなッ!!」
観覧車のシートに膝を立てたランディが気が気じゃない様子でルヴィアとニキッドの乗っている観覧車を見つめていた。
「くそッ!! よく見えないッ!!」
目を凝らすが暗くて内部が見えない。
ため息をつき諦めた様子で座るランディに向かいに座っているレーシアはドキッとする。
ランディとこんな近くに、しかも暗い所で2人きり。
うつむき顔が真っ赤になった。だが薄暗いのでランディには解らないだろう。
レーシアは目線を上げてランディをチラっと見る。
その格好も素敵と思った。
ルヴィアとニキッドの観覧車の位置はだいぶ高くなった。
「きゃ〜っ! ココの夜景もちょーキレイっ!」
ルヴィアが感激の声を上げて夜景を眺めた。
「だろっ!? ここの夜景は絶景なんだ」
「ホントー。ロマンチックねー」
ロマンチックという言葉にニキッドは反応する。
ウットリしているルヴィアに近づいた。
「ルヴィアちゃん、ムラムラ来た?」
「はッ!? だからなに? それ」
「わかんないのッ!?」
冷や汗を垂らした。
「エッチな気分になったかってことさ」
「エッチ!!?」
ニキッドの発言にルヴィアがビビッた。
「ナニ言ってんのよッ!!」
「えっ!? なってないのっ!? 俺はもうとっくだぜ」
そう言いニキッドはルヴィアの太ももを撫でた。
「ヒッ!!」
ゾッとしたルヴィアは鳥肌が立つ。
2人の観覧車がグラグラと揺れた。
「イッテーッ!!」
シートに倒れたニキッドが片手で頬を押さえていた。ルヴィア・パンチをお見舞いされたのだ。
「……ゆるせないわ」
怒りで体をワナワナと震わせるルヴィア。
立ち上がりニキッドを睨みつける。
「アンタッ!! あたしをこんなトコつれてきたのってエッチなコトすんのがモクテキだったのねッ!!?」
「それもあるけど……」
頬を押さえたままニキッドが言った。
「見そこなったわサイッテーッッ!!! このあたしに手ェ出そーなんて100億万年ハヤイわよッ!!!」
「なぁルヴィアちゃん。女のコなんだから拳で殴るのやめようぜ」
「ウッサイわねヘンタイッッ!!!」
「変態ッ!?」
ルヴィアの発言にニキッドがガビーンとショックを受けた。
「そ、そりゃないぜ。俺ムリヤリやる気ないんだぜ?」
「ウソよッ!! アンタだってニック王子といっしょだわッ!! さすがフタゴねッ!!」
「ニックとッ!? 俺はあいつと違うぜ。だから怒らないで座ってくれよ」
「……わかったわ、信じてみてあげる。ウソだったらタダじゃすまないわよ」
半信半疑ながらもルヴィアは座るとニキッドは嬉しそうな表情をする。
「えっ!? それって金払えばオーケーってことっ!?」
「ちがうわよバカッッ!!!」
ルヴィアがもの凄い剣幕で怒鳴った。
「……でもさぁ、俺のことそんな嫌? 嫌い?」
「大ッキライッ!!」
それを聞いたニキッドはガビーンとショックを受けた。
「エッ!!? マジでッ!!?」
ツンッと顔を背けるルヴィア。
「大ッ嫌いって、そこまで……」
ニキッドが悲しそうな表情をした。
そんなニキッドをチラっと見たルヴィアはドキッとする。
再びニキッドがニックと重なって見えた。
「ジョーダンよ」
「本当っ!? じゃ俺のこと好きっ!?」
笑顔で尋ねるニキッドにルヴィアは顔をしかめる。
「ニック王子とおなじコト聞かないでよ」
「えっ!? ニックも聞いたの?」
「うん」
「で? なんて答えたの?」
「アンタかなりエッチだし好きじゃないわって」
「やっぱそうか。あいつエロかったろ」
「ちょーヘンタイだったわッ!!」
ルヴィアが険しい表情で言うとニキッドは冷や汗を垂らす。
「そ、そんなにかよ」
「カッテにハダカ見るしレーシアとランディの前で服脱げってゆーしッ! キスしろとかゆーしドレス脱がしてムリヤリしよーとするしッ! もーサイアクだったわッ!!」
「へぇ、大変だったんだな。まーあいつのエロさは前からだし……。でもムリヤリはよくないな。で、ニックとヤッたの?」
「はあッ!!? やめてよッ!!」
ハッキリしていないと断言できないのが辛い。だって意識がなかったし。もう忘れたい。
「ん? ヤッてないの?」
「そんな話いーでしょッ!!」
「だって気になるし。てかルヴィアちゃんて意外とウブなんだね。こういう話ダメ?」
「ウルサイわよッ!!」
「……男に慣れてそうなのにな。あ、でもそのギャップがたまんないかも」
クラッとするニキッドだった。
観覧車から降りたランディは待っていたニキッドを見るなり詰め寄る。
「おまえルヴィアに手を出しただろッ!!」
「……だったらどうする?」
鬱陶しそうにニキッドが言うとランディの怒りが爆発する。
「この野郎ーッッ!!!」
殴りかかったランディをニキッドは簡単にかわして身構える。
「俺にケンカを売るとは上等だぜ」
「やめてふたりともッ!! ランディ、ニキッドとはなにもなかったわよ」
「えっ!? 本当かっ!?」
「ええ、でももーコイツといっしょはヤダわ」
「そんな、ルヴィアちゃん」
ニキッドがショックを受けた。
「じゃ、じゃあルヴィア、今度は僕とこれに乗ろう」
頬を赤らめたランディが言うとルヴィアはイヤーな顔をする。
「エ〜〜!? コレ夜景キレイだけどつまんないからヤ」
「そんなこと言わないでさぁ、行こうよ」
「チョット!」
ランディはルヴィアの手を引き強引に観覧車へ向かった。
「なんだ? アイツだってけっこう強引でやんの」
2人の後ろ姿を見て呟くニキッド。
「ここで待っててもしょうがないし……。レーシアちゃん、俺と一緒に乗らない?」
「えッ!?」
声をかけられレーシアが驚いたようにニキッドを見る。
「ダメ?」
「い、いいですけど」
「アイツと本当に何もなかったよなっ!?」
観覧車で向かい合ってランディがルヴィアに念を押した。
「そー言ったじゃない」
「……そうか。でもアイツはルヴィアのことが好きなんだぞ?」
「それはしかたないわ。男はみーんなうつくしーこのあたしのトリコだもの。あたしってツミな女よねぇ……」
ふぅとため息をつき自己陶酔に浸るルヴィア。
ランディは冷や汗を垂らす。
毎回ルヴィアが自己陶酔に浸る度においおいと思うが、美しいのは本当だからランディは何も言えない。
だって実際、暗闇でライトの淡い光を浴びたルヴィアはとてもとても美しい。陽の下で見るルヴィアは勿論美しいが、今はまた違った美しさだ。
ずっと見ていても飽きない。それくらい愛しい。
本当にルヴィアを愛している事を自覚してランディは胸が熱くなる。
「ルヴィア、側に行っていい?」
「えッ!? なんでッ!?」
「行きたいから」
「……イヤ」
「どうしてっ!?」
「エッチなコトする気でしょッ!」
ルヴィアがジトッとした目でランディを見た。
「し、しないから」
「ウソッ!」
「しないよっ」
信用されてないなぁとランディは思う。まぁ自分のせいだから仕方ないが。
「ゼッタイッ!?」
「ああっ」
「……わかったわ」
それを聞いたランディは喜びルヴィアの側に行った。
ドキドキしながら夜景を眺める。
「見ろよ、綺麗だね」
「さっきも見たわよ」
「でも、この世で1番綺麗なのはルヴィアだ」
ルヴィアを見つめて言った。
「ホホホ、トーゼンよ」
「……手を握っていい?」
「エッチなコトしないって言ったでしょッ!!?」
ルヴィアがギロッと睨みつけるとランディはビビる。
「手を握るくらい、エッチじゃないだろ……?」
「……それだけでしょーねェ」
「う、うん」
手を浮かせるルヴィア。
「ルヴィアっ」
感激したランディは嬉しそうにルヴィアの手をギュッと握り指を絡ませて握った。
ああ幸せ。
ハートを飛び散らして幸せをヒシヒシと感じた。
「なぁレーシアちゃん。ルヴィアちゃんの好きな男のタイプって知ってる?」
同じく観覧車で向かい合ってニキッドがレーシアに尋ねた。
「えッ! お姉さまの好きな男性のタイプですか?」
「うん」
「……私もよく知らないですけど、お姉さまは……男性らしい方がタイプみたいです」
「男性らしいッ!?」
ニキッドが目を丸くした。
「は、はい」
「マジかよ……。俺ってルヴィアちゃんから見たら男らしくないんだな。超ヘコむぜ……」
ショックを受けて落ち込んだ。
「そんなことはないと思いますけど」
レーシアがフォローするとニキッドは顔を上げる。
「えっ!? レーシアちゃんは俺のこと男らしいと思うっ!?」
「……はい」
それを聞いたニキッドは喜ぶ。
「本当っ!? 俺のこと好きっ!?」
「エッ!? いえ、別に……」
「エ〜〜!? なーんだ」
残念そうに言うニキッドだった。
ランディは手を握ったままルヴィアを見つめる。
「ルヴィア」
「ん?」
ルヴィアもランディを見た。
「愛してる」
熱い視線で言うランディにルヴィアは思わずドキンッとする。
……なんでドキドキするのだろう。相手はランディなのに。
ルヴィアの鼓動は高鳴っていた。
このまま時が止まればいいのに。
ランディもルヴィアを見つめたまま鼓動が高鳴っていた。
「キス、していい?」
「ヤクソクはッ!?」
「やっぱり、ダメ?」
2人はドキドキしながら見つめ合う。
「ルヴィア……」
ランディがルヴィアに顔を近づけ2人の唇は触れそうになる。
次の瞬間、観覧車が急停止しライトが消えた。
「な、ナニッ!?」
突然、真っ暗になり驚く2人。
「止まったッ!?」
ニキッドが立ち上がり内部から外を見下ろした。
「真っ暗で何も見えないぜ……」
「大丈夫なんですか!?」
不安そうに尋ねるレーシア。
「ああ、たぶんな……」
「チョットどーなってんのよーッ!!」
ルヴィアも真っ暗闇を見下ろしていた。
「きっと大丈夫だって、座ろうよ」
「でももしこのままだったら」
「……僕の想いが届いたんだ」
「えっ?」
振り向いたルヴィアの腕をランディは引きシートに座らせて肩を抱き寄せる。
「ルヴィアとずっとこうしてたい……。このまま時が止まってほしいって僕の想いが届いたんだよ」
「ランディ……」
観覧車に光が戻り再び動き始めた。
『ご乗客の皆様、大変ご迷惑をおかけいたしました』
アナウンスが内部に流れた。
「直ったようだな」
「よかった……」
ホッとするニキッドとレーシア。
「でもちょっと残念。もうちょっと止まっててもよかったかも。こういうスリルある状況って恋に落ちやすいんだって知ってた?」
ニキッドが笑顔で言った。
「えっ!?」
「俺達恋に落ちてたかもしれないじゃん」
「そ、そんな」
戸惑うレーシアに可愛いかも、と思うニキッドだった。
レーシアとニキッドは待っていたルヴィアとランディの元に向かった。
ランディは妙に機嫌が良くニコニコと微笑んでいる。
「さっきは観覧車が止まって驚いたな」
ニキッドがルヴィアに声をかけた。
「そーね。でもいつから動いたのかわかんなかったわ」
「えッ!?」
それを聞いたニキッドが驚いた。
そして相変わらずニコニコしているランディに目を向ける。
「……なんだ君、何かいいことでもあったの?」
「ああっ! すっごくいいことがね」
「……それってまさか……」
感づくニキッド。
「やっぱこれからは別行動しようぜ」
不愉快そうにニキッドが言うとランディは反応する。
「何ッ!?」
「せっかくのルヴィアちゃんとのデートなのに、俺、君がいると楽しめないんだ」
「なんだとッ!?」
ランディがニキッドを睨んだ。
「最初は2人で来るつもりだったんだし、なぁルヴィアちゃん?」
「そ、そーだけど……。アンタといっしょはヤダわ」
「えッ!」
ルヴィアに冷たく言われニキッドがショックを受けた。
「だってよ」
勝ち誇ったようにニキッドを見るランディ。
「ルヴィアちゃん、俺のことそんな避けないでくれよ。もうやましいこと絶対考えないって誓うからさ」
手を合わせるニキッドにルヴィアは疑りの目を向ける。
「ルヴィア、信用するなよ」
ランディも同じく疑りの目を向けていた。
「……そう。そんな目で見るならいいぜ、わかった」
さすがにニキッドも頭に来たらしい。
レーシアに向かって笑顔になる。
「レーシアちゃん、俺と一緒に楽しく遊ぼうぜっ!」
「えッ!?」
「ほらほら行こうぜっ!」
レーシアの手を引き歩きだす。
「あ、あのっ」
されるがままレーシアはニキッドに連れていかれてしまった。ルヴィアは慌てて2人を追いかける。
「チョット待ちなさいよッ!!」
呼び止められニキッドは冷たい視線で振り返る。
「何ルヴィアちゃん」
「あたしのカワイイ妹に手ェ出すなんてゆるさないわよッ!!」
「なんでー? 別にいいじゃんか。2人は2人で仲よく遊べば」
「おまえルヴィアのことが好きなくせにレーシアちゃんに手を出すのかッ!!? 最低な奴だなッ!!」
「だってルヴィアちゃん俺のこと避けるし」
「だからってレーシアちゃんを」
やっぱり双子だ、とランディが思った。
「わかったわ。アンタといっしょに行くから」
ルヴィアが仕方なしに言うとランディは驚く。
「エッ!! ルヴィアッ!!」
「本当っ!? じゃ行こうぜルヴィアちゃん」
ニキッドはレーシアの手を離すとルヴィアの肩に腕を回して歩きだす。
「あっ!」
2人を追いかけようとしたランディだが足を止めた。
「…………」
無言で2人の後ろ姿を見つめた。
「ルヴィアちゃん、俺まだ納得いかないんだけど」
歩きながらニキッドが不満そうに言う。
「なにが?」
「アイツとヤッたんだろ」
「はあッ!!? ナニ言ってんのよッ!!」
何を言い出すのかとルヴィアがビビッた。
「ヤッたんだろ?」
「やめてよッ!! そんなワケないでしょッ!!」
「だってアイツ妙に機嫌よかったし」
「……でも、あたしなんかおかしーの」
「えっ?」
「ランディにドキドキして……。今までこんなコトなかったのに……」
「マジでッ!? だって好きじゃないんだろッ!?」
「そーだったんだけど……。あたし、ランディのコト好きなのかしら」
ランディの事が好き? あんなに大嫌いだったのに。
気持ちの変化に自分自身が驚いている。
でも、あのときめきはそうだった。
やっぱり好きなのだろうか……。
考え込んでいる様子のルヴィアにニキッドは焦る。
「ルヴィアちゃんっ! 俺はただの気の迷いだと思うぜっ!」
「えっ!?」
「そんなことはよくあることさ、勘違いだって」
「そ、そーなのかしら?」
「だってさ、アイツのことがずっと頭にあるっ!? アイツのことばっか考えてるわけじゃないだろっ!?」
「……それはないわ」
「だろーっ!?」
ホッとしたニキッドは腕時計を見る。
「あっ! ヤバイもうすぐナイトパレードが始まるっ! 見に行こうぜっ!」
「えっ!? なにそれ」
「ナイトパレードっ! 超綺麗なんだぜっ!」
大通りは既にナイトパレードを待ち侘びる人で溢れている。
それ程パレードが楽しみなのだ。夜のプレジャーランドといえばメインはこれなのだろう。ニキッドが言うにはこれが目的で来る人も多いとか。
ルヴィアとニキッドは人の少ない所を見つけて場所を取った。
「なんなのこの人達」
「ナイトパレードを待ってるのさ」
「ふーん」
「もうすぐ始まるからさ」
しばらくすると辺りにパレードのテーマ曲が流れ始めた。
「ほら始まったぜ」
遠くから華やかなイルミネーションの輝くオブジェがゆっくり向かってくる。
「キレイ……」
次々と通過していくオブジェにルヴィアがウットリした。
「気に入った?」
「うん」
「それなら毎晩連れてきてあげるぜ」
ニキッドがそう言うとルヴィアは喜ぶ。それは素直に嬉しい。
「ホントっ!?」
「ああ。だからずっとこのシティにいろよ」
それを聞いたルヴィアの表情が曇る。
「ムリよ」
「なんでッ!?」
「さっきも言ったでしょ。あたし達ワルモノにされちゃってんだから」
「大丈夫さ。この俺がずっと側にいてルヴィアちゃんを護る。だから、なっ?」
「あたしまもってもらうほど弱くないわよ。でもメンドーはキライなの」
「ルヴィアちゃん……。だったら俺がなんとかしてルヴィアちゃんは無実だということをシティの連中に証明してやるぜ」
「えッ!?」
「それだけ俺、ルヴィアちゃんのこと真剣に愛してるんだぜ」
真顔でルヴィアを見つめるニキッド。
「ニキッド」
「そしたら、ずっとシティにいてくれるよな?」
「え……。で、でもどーすんのよ?」
「それはな……。俺だってバカじゃないんだ。考えがあるのさ」
そう言いニキッドは得意気な笑みを浮かべるのだった。
【TALE36:END】