TALE33:涙の決別
「レーシア、『プロテクション』おねがい。ゼッタイとかないで」
「わかったわ。『プロテクション』!」
アイルーン・ロッドのクリスタルの球が光り輝き聖なる光のヴェールがルヴィア達とニックを覆う。
ルヴィア達は門の前へやってきた。
門番をしている2人の男がニックに気づき声をかける。
「プリンスではないですか! なぜこちらにいらっしゃるのですか!?」
「そんなことはおまえ達に関係ない。門を開けろ」
「はっ。ですがレーシア王女様とランディ殿をキャッスルにお入れしてもよろしいのですか?」
「かまわない。早く開けろ」
「かしこまりました」
門番が門を開ける。
城内を進むルヴィア達に数人の男が駆け寄ってきた。
「プリンス!? 何をなさっておられるのです!?」
「フン、訳ありでな。僕は父様に用があるのだ。おまえ達に用はない。道をあけろ」
ニックが命じると男共は敬礼しながら壁際へ離れた。
キングの間。
「何ッ!? ニックが!? それは真か!?」
「はい。まもなくこちらのほうへ参られると」
男がナウロスに報告していた。
「ニックめ。ついにわしに刃向かいおったか」
玉座から立ち上がったナウロスは怒りで恐ろしい剣幕だった。
キングの間へ辿り着いたルヴィア達は鋼鉄の重厚な扉を開ける。
「ニックよ」
「父様……」
ナウロスが待ち構えていた。その表情は今は落ち着いている。
そしてナウロスの脇を固めるように数十人の男が拳銃を身構えていた。皆サングラスに黒のスーツ姿でその光景はまさに圧巻だ。
ルヴィア達はナウロスに歩み寄る。
「父様、僕はもうあなたに従えません」
「何故だ。訳を話せ」
「それはあなたが1番おわかりでしょうッ!? 母様を殺したあなたが許せないのですッ!! 母様の仇を討たせていただきますッ!!」
ニックが拳銃の銃口をナウロスに向けた。
「ニックよ、わしは残念だ。おまえまで殺さなければならなくなってな」
そう言いナウロスは不思議な形をした鉄砲型の銃を手にする。
ルヴィア達は息を呑む。
「アレがカクヘーキッ!?」
「そうだ。わしが長年研究して開発した銃だ。おまえ達を覆っとる魔法など意味がない。今その威力を見せてやる!!」
ナウロスが銃をルヴィア達に身構え引き金を引いた。
銃口から光線がビッと出たが光のヴェールに弾かれる。
「何ッ!?」
それを見たナウロスが愕然とした。
「ホホホホホッ!! やっぱムリだったみたいね。法術がそーカンタンに負けるワケないじゃない」
勝ち誇ってナウロスを見やるルヴィア。
「くッ、だがな、こっちの核はこの銃の何百倍もの威力がある。今のようにうまくいくかな」
リモコンを取り出したナウロスがボタンを押した。
ルヴィア達の顔が青ざめる。
「それはッ!!」
地響きが起こった。
「フハハハハッ!!! もう手遅れだ。まもなくアイルーン・キングダムに向けてオズフェウス・ジェットが飛び立つ!! アイルーン・キングダムは滅亡だ!!!」
狂ったようにナウロスが笑った。
「そ、そんな……」
ランディとレーシアは絶望感にみまわれた。
冷や汗をかいたルヴィアは深刻な表情で覚悟を決める。
こうなったら。
残る手段はただ1つ。
キャッスルごと破壊する。
ルヴィアは両手を前で開いた。
『この世に宿りし大いなる精霊よ…我に力を授けたまえ!!』
ルヴィアの体が淡く輝き瞳は淡く輝きながら様々な色に変わる。
両手の間に小さな何色もの光球が現れた。
『その力…合わさりして我願う…』
「魔法は効かぬ。今さらどうする気なのだ!!」
ナウロスが言い放ったがルヴィアは続ける。
『我が意の全て…永久の滅びを与えたまえ!!』
「お姉さま!! その呪文は!!」
レーシアが驚愕した。
光球は合体すると一回り大きくなり色を変化させながら激しく点滅しバチバチッと迸った。
「あたしのサイキョー精霊術で、このキャッスルごとブッ壊すッ!!」
「なんだと!!?」
「アンタ達もいっしょにトワの眠りにつきなさいッ!!」
「…………」
ニックはふと何かを思い詰めたように悲しそうな表情でルヴィアに微笑む。
「ルヴィア王女……。さようなら……」
拳銃を捨てるとナウロスに向かって走りだした。
そんなニックにルヴィアは愕然とする。
「ニック王子ッ!! ナニしてんのもどってッ!!」
「僕のことはいいのですッ!! 早く魔法をお使いくださいッ!! オズフェウス・ジェットが飛び立ってしまいますッ!!」
「ダメよもどってッ!!!」
ルヴィアが叫んだがニックはナウロスの元へ行った。
「ニック……」
「父様、一緒に死にましょう。死んで母様と3人で……」
ニックの目に涙が溢れた。
「フ……。わしは死んでも、おまえ達と同じ所には行けんだろう」
「父様っ」
ニックがナウロスに抱き付いた。
ナウロスもニックの頭を片手で抱きしめる。
「ニック王子ッ!!」
ルヴィアの目には涙が溢れていた。
ナウロスに抱き付いているニックが理解できない。
どうしてニックは行ってしまったのか。
男共はルヴィア達に歩み寄り一斉に発砲を始めた。鼓膜が破れそうなもの凄い銃声音。
光のヴェールで多少軽減されるがランディとレーシアは両耳を塞いだ。
弾丸は全て光のヴェールに弾かれていく。弾かれるとはいえ、数十人に発砲されるのはたまったもんじゃない。
やがて弾切れにより銃声が治まると静かになった。
だが地響きは先程より強くなった気がする。
顔を伏せているルヴィア。
「ルヴィアッ!! やれッ!! やるんだッ!!!」
ランディの声がルヴィアの背を押す。
「くッ! 『バースト・フレア』――ッッ!!!」
ルヴィアの両手の光球がカッと発光し耳をつんざくもの凄い爆音と共にキャッスルは消し飛んだ。
夕暮れの近いオズフェウス・シティ。
ハイウェイを高速でビュンビュンと滑走している物体がある。これがエアカーだ。道路上を通ってはいるが車体は浮いている。
真っ赤なエアカーを運転しているサングラスをかけた男は突然、胸にズキンッと衝撃と痛みを感じる。
「うッ!!」
エアカーを急停止させる。
「くッ……。なんだこの痛みは……」
前屈みで胸の苦痛を堪えていると遠くで爆音が聞こえた。キャッスルが大爆破した音だ。
音のほうに振り向くと今さっきまであったはずのキャッスルがない。その光景を目撃したサングラスの奧の目が見開き愕然とする。
「嘘だろッ!! キャッスルがッ!!」
爆風の去ったそこは大地が広がっていた。
跡形もなく、最初から何もなかったような大地だけとなった。
だがそこは、間違いなくキャッスルが存在した場所だ。
何もない大地で風だけがルヴィア達に吹きつける。風は少し冷たい。
ルヴィアは膝を付いて座り込み、うつむいた。
涙が地面にポタポタと落ちる。
「うっ……。ニック王子……」
両手で顔を覆って泣いた。
そんなルヴィアをランディとレーシアは辛そうに見つめた。
『……ルヴィア王女……。ありがとう……』
ふとルヴィアの耳に声が聞こえ涙の溢れた目で空を見上げた。そこにニックが微笑む姿が見えたような気がした。
ニック王子……。
ルヴィアは涙を拭う。
ニックが笑っているなら、よかった。
ルヴィア達は念願のシティに居たが、しばらく呆然と立ち尽くしてしまい慣れるまで時間がかかった。
圧倒されたのはまず道の広さ。こんなに広い道はキャッスルタウンにもない。しかもそこを高速で行き交うエアカー。2人乗りのエアバイクもたまに通る。キャッスルだけではなくシティの雰囲気も全く違う。今まで見てきたタウンは暖色系で穏やかな建物だったがシティは寒色系で直線のビルばかりでやはり冷たい印象を受ける。それに建物の高さが圧倒的に高い。最低レベルでもこれまで見てきた中では高いほうだ。更に人口密度の濃さ。
それでもルヴィア達は目立つので、一度歩道を歩けば行き交う国民は足を止めて注目する。既に何度か声をかけられたが当然相手にする訳がない。
少し先に国民による人だかりができており皆、一点を見上げていた。
つられてルヴィア達も見上げると、それはビルにある巨大なスクリーンだ。
『突然起きましたオズフェウス・キャッスルの大爆発ですがご覧ください。不思議なことにまったく何も残っておらず綺麗に平らの土地だけが広がっているのです』
スクリーンにはキャッスルの跡地で中継をしている男性レポーターが映っている。
「あたし……。とんでもないコトしちゃったのかしら……」
「そ、そんなことないって! あの時ルヴィアが魔法を使ってなかったらアイルーン・キングダムが危なかったんだぞっ! ルヴィアは悪くないよっ!」
「そうよ、お姉さま」
悲しそうに呟いたルヴィアをランディとレーシアがフォローした。
「……そーよね」
『大爆発が起こったのでしたら何か破片などが周囲に飛んでいると思われるのですが、確認できておりません。忽然と消えてしまったかのようです。これでは謎が深まるばかりです』
深刻な表情で中継していたレポーターは目を見開く。
『たっ、たった今入った情報ですごいことがわかりました! 昨日キャッスルに魔法王国といわれる、あのアイルーン・キングダムのプリンセスご一行様がいらしていたということなのです!!』
「エッ!!?」
ルヴィア達が目を丸くした。
「ぼっ、僕達のことだぞっ」
「どーしてトツゼンッ!」
『昨日アイルーン・キングダムのプリンセスご一行様にお会いしたというシップの船長からの強力な情報です』
「……あのオジサン言ったのね……」
冷や汗を垂らしたルヴィアが呟いた。
『そうなりますと、この事件にはアイルーン・キングダムのプリンセスご一行様が深く関わっているようです。プリンセスの魔法によって起こされたことなのでしょうか』
ルヴィア達の表情が強ばる。
ルヴィア達はキャッスルの跡地へ向かった。
空とシティをオレンジ色に染める夕日。日差しが周囲のビルに反射してまぶしい。
夕暮れともなると肌寒くなってくる。夜が近づくにつれて冷え込んできた。
規制線の張られている場所まで行くと警護をしている警察官は向かってくるルヴィアに見惚れて目をハートにする。
ルヴィアは堂々と規制線を飛び越える。
「エッ!!?」
我に返った警察官がルヴィアの行動に驚いた。
ルヴィアはそのままズンズンと進む。
「ちょっと君!!」
「おいっ!! ルヴィア待てよっ!!」
ランディも規制線をくぐろうとしたが止められる。
「何しているんだ君!! ここから先は立入禁止だぞ!!」
「わかってますけどルヴィアが」
ルヴィアはテレビカメラの前でレポーターが中継をしている地点へやってきた。
ルヴィアの美貌は注目の的で男スタッフは見惚れて目をハートにする。
男は役立たずなので女スタッフの1人が声をかける。
「ちょっとあなた! こんな所で何をしているの!? 一般人は立入禁止よ!」
それを聞いたルヴィアはムカッとする。
「イッパンジンですってッ!!? ふざけないでよッ!! このあたしをダレだと思ってんのッ!!?」
睨みつけると女スタッフはルヴィアの顔をマジマジと見つめる。
「え……。見たことのない顔だけど。駆けだしのアイドル? あなたみたいな美人だったら話題になるはずなのに」
「はあッ!? ナニ言ってんのよッ! あたしはアイルーン・キングダムのプリンセスよッ!!」
「えっ……。エエ〜〜!!!」
ルヴィアの発言に女スタッフは一瞬、目が点になったが驚き叫んだ。
男スタッフは相変わらずルヴィアに見惚れている為、別の女スタッフが声をかける。
「どうしたの? うるさいわよ」
「あっ先輩! こ、こちらの方……あ、あのアイルーン・キングダムのプリンセスだそうです……」
女スタッフが震えながら説明すると先輩は愕然としてルヴィアを見る。
「なんですってぇ!!?」
「ほらほらいーからァ。あたしに聞きたいコト、イッパイあんじゃないっ!?」
中継中のレポーターはテレビカメラの横のカンペを見て目が飛び出す程驚いた。
すぐにテレビカメラに目線を戻して口を開く。
『皆さん、更にすごい情報が入ってまいりました!! 魔法王国アイルーン・キングダムのプリンセスがやはりキャッスルへいらしていたそうです! 明日の午後より会見を行います!』
オズフェウス・シティ全域に放送されたのだった。
【TALE33:END】