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TALE31:籠の鳥のルヴィア

「おまえ達、この2人をキャッスルから出してやれ」

 地下牢から城内へ戻ったナウロスがランディとレーシアを見て廊下に居た2人の男に命じた。

「はっ、さぁこちらへ」

 2人がランディとレーシアを促す。

 ランディはナウロスに顔を向ける。

「まっ、待ってください。ルヴィアと最後に話をさせてくださいっ!」

「駄目だ。わしの気が変わらぬ内にさっさとキャッスルから出てもらおうか」

「そんなッ!」

「おまえ達が妙な真似をした場合もアイルーン・キングダムを襲撃することとする。キャッスルから出たらおとなしく立ち去れ」

「…………」

「早く連れていけ」

「はっ」

 ナウロスに命じられ2人の男はランディとレーシアを連れていった。

「ルヴィアッ」

 ランディとレーシアは悲しそうにルヴィアを見つめていた。

「ニックよ、わしはキングの間に戻るぞ」

「はい、父様」

「ニックと仲良くするようにな、ルヴィア王女」

「はい……」

 うつむいたルヴィアが元気なく答えた。

「しかし、その姿ははしたなさすぎますぞ。ドレスに着替えるように。ニック、エスコートしてあげなさい」

「は、はい」



 ランディとレーシアは外に出されキャッスルの門は閉じられた。

「レーシアちゃん、ルヴィアはどうなっちゃうんだっ!?」

 涙目のランディ。

「泣かないでください。今、お姉さまにテレパシーを送ってみますから」

「えっ? う、うん」



(お姉さま!)

 キャッスルの廊下を歩くルヴィアにレーシアからテレパシーが届きハッと顔を上げる。

(レーシア)

(お姉さま、大丈夫!?)

(トーゼンよ)

(これから一体どうするの!?)

(なんとかうまくきりぬけてみせるわ。だからアンシンして)

(そんなことを言っても……)

(ダーイジョーブよ、あたしにフカノーはないわっ!)

(気をつけてね、お姉さま。私達は外で待っているから)

(オッケー)

 レーシアはランディに伝える。

「ランディさん、お姉さまはキャッスルから抜けだしてきます。ですから、この近くで待機していましょう?」

「そうか。ルヴィア、どうか無事に出てきてくれ」

 ランディが手を握り合わせて祈った。



「この僕をよくも2度も騙してくれたな」

 先程の部屋でニックがルヴィアをギロッと睨みつけた。

「わるかったわよ」

「僕と結婚すると言ったからには、これ以上僕に刃向かうなよ。どうなるかわかっているだろうな」

「わかってるわ」

「僕のお妃として恥ずかしくない立派なレディーになるように。いいな」

「もーわかったわよッ!」

 ウンザリと言いたげな表情のルヴィアにニックはムッとする。

「なんだその態度は。返事は『はい、わかりました』だろ」

「……わかりました」

「それでは僕に誓いのベーゼを」

「えッ!?」

 また妙な事を言いだした、とルヴィアがイヤーな顔をした。

「僕の命令になんでも従うという誓いのベーゼをしてください」

 微笑むニックにルヴィアのはらわたが煮えくり返る。だが懸命に我慢する。

「……キス、すればいーのね?」

「はい」

 ニックに顔を近づけ頬にキスをする。

「ふざけているのですか?」

「な、ナニよ。キスしたじゃない」

「僕が申しているのは唇です。頬なんて子供じゃありませんし」

 呆れるニック。

「……わかったわよ」

 ルヴィアは嫌々ながら顔を近づけニックの唇に軽く触れた。

 だがニックはルヴィアの頭を押さえて深く唇を重ねる。

「んーッ」

 強引に唇を塞がれ再びルヴィアに憎悪が込み上がる。

 唇を離すとニックはルヴィアを見つめた。

「フフ、普段は強気なあなたが僕の言いなりになるというのはとても快感ですね」

 優越に満ちた表情で言うニックに悔しいが耐えるしかないルヴィアだった。



 ニックは再びドレスを手にした。

「さぁ、こちらにお着替えください」

 今度はピカピカに輝くドレスでルヴィアはイヤーな顔をする。

「エエ〜〜。そーゆードレスもーヤダわ。もっと動きやすいのないの?」

 それを聞いたニックの眉がピクッと動く。

「何かおっしゃいましたか?」

「わかりましたッ」



 ルヴィアはドレス姿でギクシャクとぎこちなく廊下を歩く。

 だがそんな事は構わず通りすがる男は皆、顔を赤らめルヴィアに見惚れる。

 ドレスの裾を踏んづけ、つんのめるルヴィア。

「キャアッ!」

「大丈夫ですかっ!?」

 ニックが慌てて支える。

「ご、ゴメン。こーゆードレス、慣れてなくて……」

 先が思いやられる、とニックが深いため息をついた。



 ダイニングルーム。

 上品に食事を進めるニックの前で相変わらずルヴィアはもの凄い勢いで料理をたいらげる。

 その様子にナウロスは冷や汗を垂らす。

「ルヴィア王女ッ!」

 見かねて声をかけたニックをルヴィアは手を止めて見る。

「なに?」

 全く解っていないルヴィアにニックは呆れてため息をついた。 



 ニックの部屋。

 ソファーでニックは深いため息をつく。

「ナニよアンタ。ゲンキないわね」

 隣に座っているルヴィアが言うとニックは睨む。

「なんですかその口のきき方は。言葉遣いには気をつけるように」

「わ、わるかったわね。すぐなおすのはムリよ」

「あなたは1からマナーを学ばせる必要がありますね」

 ルヴィアの品のなさに頭が痛いようだ。

「ナニよ」

 ニックは肩をすくめる。

「ハァ、一体どのような教育を受けたらあなたみたいになるのでしょう。強気でわがままで凶暴。おまけに下品。レーシア王女とは月とスッポンですね」

 それを聞いたルヴィアの額に青筋が幾つも立つ。

「あッ、アンタだってホンショースゴイじゃないのよ」

「あなたほどではありません」

「アンタ、ホントはあたしと結婚したくないでしょォ」

「いえ、僕は本当にあなたのことを愛していました。ですから、心から結婚したいと思いました。ですがあなたのことがよくわかった今は仕方ないです。父様の命令ですから逆らえません」

「ナニよそれ。メーレーだから好きでもないあたしと結婚すんのッ!? そんなのまちがってるわよッ! ヤならちゃんと言ったほうがいーわッ!」

「うるさいな。そんなことをしたら僕は父様に殺される」

「殺すですってッ!? ジブンのコドモ殺すオヤなんていないわよッ!」

「いえ、殺します。僕の父様は自分の思いどおりにならないと気が済まないお人なのです。僕の……」

 言いかけてニックは口をつぐむ。

「とんでもない人ね。ジブンのインボーのためにコドモ使うなんて。なんかアンタってかわいそー……」

「別に同情なんかしてほしくありません。このキングダムがよくなるならいいのです」

「……あっそ」

 呆れるルヴィア。

 ニックは立ち上がる。

「ワインでも飲みますか?」

 それを聞いたルヴィアの瞳が輝く。

「飲むっ♪」



 ワインを1本とワイングラスを1つ手にしたニックはソファーに座りワイングラスにワインを注ぐ。

「あら、どーしてグラスひとつだけなの?」

「なぜだと思います?」

 ニックがルヴィアをチラっと見た。

「あたしがこのまま飲むと思ったから?」

 ルヴィアがワインをラッパ飲みしようとするとニックは慌てる。

「わーッ!! そんなことをしたらダメですッ!!」

 ワインの瓶を取りあげた。

「ナニすんのよッ!!」

「欲しかったら僕が飲ませてさしあげますよ」

「は?」

 よく解らずポカンとするルヴィアにニックは微笑む。

 ワイングラスを手にしてルヴィアの肩を抱き寄せ見つめながら頬や首筋を撫でる。

 ルヴィアはゾクッとして顔が青ざめる。

「ちょっとナニ?」

「中身は問題ありますが、あなたのお美しさは完璧ですね」

「ヒトコトよけーよ」

「ですがその人間離れした美貌は、あなたの祖先であるエルフのおかげなのでしょうね」

「だからナニッ!?」

 ルヴィアが睨むとニックも睨む。

「なんですかその目は」

 前を向くルヴィア。

 もう嫌だ。なんとかスキを見つけて抜け出さなくては。

 でも、そんな事をしたらアイルーン・キングダムが襲撃されてしまう。

 どうやって切り抜けよう。

 ルヴィアは考える。

 そんなルヴィアをニックは見つめていた。

 ワインを口に含むとルヴィアの頬に触れて顔を自分に向かせる。



 ワインの瓶は空になった。

 ソファーでルヴィアはグッタリしている。

 何故かは言いたくないが、ニックには散々だ。

「どうしたのです? 酔いましたか?」

「……ちがうわよ」

 ニックに尋ねられルヴィアがグッタリしたまま答えた。

「まだまだこれからですよ」

 そう言いニックはルヴィアを抱えてベッドに運ぶ。

「キャッ!!」

 丁寧とはいえない降ろし方でスプリングの効いたベッドが弾んだ。

 ルヴィアをうつ伏せにして散った髪の合間から背中のドレスのファスナーに手をかける。

 下ろされたのを感じてルヴィアはもがく。

「ヤダッ!! やめてッ!!」

「約束をお忘れですか? アイルーン・キングダムがどうなってもよろしいのですね」

 それを聞いたルヴィアはハッとし、おとなしくした。

「…………」

「そう、それでいいのです」

 ニックがニヤっと笑いファスナーを全て下ろした。

 どうする事もできないルヴィアは悔しくてたまらない。

 ドレスの上半身が脱がされそうになる。

 突然ピピピピピと初めて耳にする電子音が聞こえルヴィアは反応する。

「な、ナニッ!? この音」

「チッ、いいところで」

 ニックは不満そうに言うと腰から何かを取る。それは携帯電話だ。

「なんだ」

『プリンス、ルヴィア王女様とキングの間までお越しください。キングがお呼びです』

「わかった。すぐに参ると父様にお伝えしろ」

『はっ』

 携帯電話を切る。

「残念ですが父様がお呼びだそうです。キングの間へ参りましょう」

「ソレなんなのっ!?」

 初めて目にする携帯電話にルヴィアは興味津々だった。



 ルヴィアとニックはキングの間に居た。

「ほう……。そのドレスよく似あっているではないかルヴィア王女」

 ルヴィアのドレス姿を見てナウロスが言う。

「あ、ありがとーございます……」

 ナウロスに褒められても嬉しくないルヴィア。

「のう? ニックもそう思うだろう」

「はい、ルックスだけなら申し分ないですね」

 ニックがキッパリ言うとルヴィアの額に青筋がピキッと立つ。

「ハッハッハ。似あいだぞ。早く孫の顔を拝みたいものだ。期待しとるぞ」

 笑いながら言うナウロスにルヴィアは青ざめた顔で思う。

 孫? 冗談じゃない。

「気がお早いですね父様は。お話はなんでしょうか」

「おまえ達の結婚式の日取りを決めようと思ってな」

「そうですね、いつ頃がよろしいでしょうね」

「スイマセン、キング」

 突然ルヴィアが1歩前へ出た。

「何かな?」

「ニック王子はあたしと結婚したくないそーです」

「なんだと!?」

「なッ! 何をおっしゃっているのですかッ!?」

 慌てたニックがルヴィアの前に回り込んだ。

 ルヴィアはニックを片手でどけて続ける。

「ニック王子はあたしとメーレーで結婚するなんてジョーダンじゃないって」

「ワァーッッ!!! 何をおっしゃっているのですかッ!!」

 冷や汗をかいたニックの顔から血の気が引いた。

「ニックよ、それはまことか?」

 ジロッと睨むナウロスにニックは真っ青な顔で両手を振る。

「違いますッ!! 僕がそんなことを申すはずがありませんッ!!」

「フ、そうだろうな。おまえがわしに刃向かうはずがない。ルヴィア王女、いい加減なことを言ってもらっては困りますな」

「どーしてウソつくのッ!?」

 ルヴィアが見るとニックは顔をしかめる。

「おまえなぁ」

「ホントよッ!! ニック王子はアンタのドーグじゃないわッ!! ちゃんとイシがあんのよッ!! イヤがってんのにムリヤリ結婚させるなんてヒドイわッ!!」

「そうなのかニックー。わしに刃向かうとどうなるかわかっとるだろうなァー」

 ナウロスがもの凄く恐ろしい剣幕で怒りだした。

「違いますってッ!! ルヴィア王女が嘘をついているのですッ!! 結婚したくないのは、当のルヴィア王女のはずでしょうッ!!?」

「エッ!!? あたしのせいにすんのッ!!? サイッテーッ!!」

「そうか。結婚をしたくないからニックを使い、出し抜こうとしたのだな? ルヴィア王女、約束を忘れたのかな? アイルーン・キングダムがどうなっても」

「やめてッッ!!! だけどニック王子のキモチわかってほしくてッ!!」

「ニックの気持ちだと? フッ、くだらんな。そんなものわかってどうする。ニックはわしの命令だけを聞いておればよいのだ」

 ナウロスの発言にルヴィアとニックは衝撃を受けた。

 ……なんて奴だ。こんな奴、絶対に生かしておけない。

 怒りの募ったルヴィアが下唇を噛みしめる。

「父様……。それは本当なのですか……? 僕は、僕は父様の道具なのですか……?」

 悲しそうにニックが言う。涙を流していた。

 そんな事は最初から解っていた。だがナウロスの口から聞かされ改めて自分は只の道具にしかすぎないのだと思い知った。

「ニック王子ッ」

「そうだ。今頃気づいたのか? すべてはアイルーン・キングダムを滅亡させるため。わしに刃向かう者はすべて殺す。ニック、おまえは充分わかっとるだろう? わしの妃であるおまえの母は……」

 ナウロスがニックを見てニヤリと不気味に笑う。

 そんなナウロスをルヴィアはキッと睨みつけた。

「ルヴィア王女、何かな? その反抗的な目は。まだわかっとらんようだな」

「いーえ、よーくわかってますわ。シツレイします。ヘーキ? 行きましょ」

 涙を流すニックを促して立ち去るルヴィアだった。



【TALE31:END】

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