TALE30:冷たい牢獄
部屋のドアが勢い良く開き、おなじみのコスチュームを身に着けたルヴィアが飛び出した。
廊下でキョロキョロしているルヴィアに男が声をかける。
「ルヴィア王女様、お1人ですか?」
「レーシアとランディはドコッ!?」
「お答えできません。それよりプリンスはどうしたのです?」
「アイツなら中で伸びてるわよ。レーシアとランディはドコにいんのよッ!!」
ルヴィアが男の胸ぐらを掴み問い詰めた。
「伸びてるですと!!? それは大変です!!」
驚いた男が慌てて部屋に入っていった。
「あッ!! チョットもーッ!!」
廊下を走りながらルヴィアはレーシアとランディを捜す。
さっきまで廊下に居た気配がしたのに、2人はどこに行ってしまったんだろう。
こうなったら、そこらの奴に聞くしかない。
壁際に立つ1人の男を発見して駆け寄る。
「ねーアンタッ!」
「は、はい」
男がルヴィアを見た。
「レーシアとランディ、ドコにいるか知んないっ!?」
「さぁ、知りません」
ルヴィアの美貌に男は見惚れる。
いかつい顔にサングラスだが顔を赤らめてドキドキした。
「ホントに知んないのっ!? ウソでしょっ!? おねがい教えてっ!」
「え、あ……」
ルヴィアにしおらしい表情で見つめられ脂汗をかき困惑する男。
「おねがいだからぁ、お・し・え・てっ」
ルヴィアの色っぽい流し目アタック。
「ち、地下牢です」
魅了された男がついに白状した。
「地下牢ねっ!? どっち!?」
「あ、あちらです」
男が片手を差し伸べた。
「サンキューっ!」
ルヴィアは走りだしざまに男へ投げキッスをした。
男は投げキッスにクラッとやられ倒れてしまった。
「大丈夫ですか!? プリンス」
「……う……」
意識の戻ったニックが起き上がった。
「どうなされたのです」
「ルヴィア王女にやられた。かなり手強い相手だ」
立ち上がりニックは部屋を見回す。
破り捨ててあるドレスに気づきしゃがみ込む。
「これはドレスではないか。ルヴィア王女はこれを破いたというのかッ!? 銃でも穴が開かない生地だぞッ!」
あまりにも驚き身震いした。
立ち上がり男に向き直る。
「どこに行った!?」
「レーシア王女様とランディ殿を捜しておりましたから、まだ近くにいらっしゃるかもしれません」
「早く捕まえろッ!!」
「はっ」
地下牢。
「ルヴィア大丈夫かな。アイツに何かされてるんじゃ……」
不安そうに呟くランディ。
「でもお姉さまは強いじゃないですか。それにいざとなったら精霊術だってありますし」
レーシアがそう言うとランディはうなずく。
「そうか、そうだよな」
「甘いですね、レーシア王女様」
突然、椅子に偉そうに腰かけている牢番が口を開いた。
「えっ?」
ランディとレーシアが牢番に顔を向ける。
「あなた方が魔法を使えると知っていながらキングがなんの対策もしていないとお思いですか?」
「どういう意味だ」
ランディが牢番を睨みつける。
「魔法など無意味ということです」
「何ッ!?」
「今は魔法より、機械文明のほうが勝るのですよ」
すると階段からコツコツと靴音が響いてきた。
「レーシアッ!! ランディッ!! いるっ!!?」
美しい声が響く。
「ルヴィア――ッ!!」
ランディが返事をし牢番は立ち上がる。
「馬鹿な、どうしてここに」
「ソコにいんのねっ!?」
急いで向かうルヴィアの前に牢番が立ちはだかる。
「ここから先へ通すわけにはいきません」
「おいおまえッ!!」
先程ルヴィアと話した男にニックが駆け寄った。
「はっ! なんでしょうかプリンス」
男がビシッと敬礼する。
「ルヴィア王女を見なかったか?」
「ル、ルヴィア王女様ですか。あ、あちらへ行かれましたが」
ルヴィアの向かったほうへ片手を差し伸べ正直に答えた。
「本当だろうな?」
ニックがジロッと睨むと男はすくみ上がる。
「本当です!!」
地下牢。
「どいて、戦う気ないの。レーシアとランディとキャッスルから出てくわ」
ルヴィアが牢番を睨みながら言った。
「いけません。プリンスはどうしたのです。早くお戻りください」
「ジョーダンじゃないわッ!! あたしアイツと結婚する気なんかないッ!! セーリャク結婚なんてゴメンよッ!!」
「政略結婚ッ!!?」
ルヴィアの発言にランディとレーシアが牢屋から驚きの声を上げた。
「このキングダムのインボーよッ!! 魔法力を手に入れよーとしてんのッ!! それにアイルーン・キングダムをほろぼそーとしてるわッ!!」
「なんだってッ!!?」
「嘘!!」
ランディとレーシアが青ざめた顔で驚愕した。
「プリンスからすべて伺ったのですね。このキングダムにとってアイルーン・キングダムは邪魔なのですよ。滅亡してしまえば世界はオズフェウス・キングダムの物です。このキングダムが天下を取るのです」
それを聞いたランディとレーシアの顔は青ざめたままだった。
「なッ、なんてことを……」
「信じられない……」
「そんなコト、ゼッタイさせないわッ!!」
「ハッハッハッハッハ……」
ルヴィアの背後の階段から靴音と共に高らかな笑い声が響いた。
振り返ったルヴィアはキッと睨みつける。
ニックがゆっくり姿を見せた。
「あなたの正義感の強さには感服しますよ、ルヴィア王女」
「来たわね」
ルヴィアが睨みつけたまま言う。
「この僕をよくも2度も気絶させてくれましたね」
ゆっくりルヴィアに歩み寄るニック。
「来ないでッ!!」
「フフ、いいですよ。だけどあなたをもう2度と逃がしません。あなたは僕のかわいい籠の鳥。僕のものなのですよ」
不敵な笑みを浮かべるニックにルヴィアはゾクッとした。
「ふざけるなッ!! ルヴィアは僕のだッ!!」
ランディが牢屋から声を上げるとニックは振り向き冷たい視線で見下す。
「何をおっしゃっているのかな。君、立場をわかっているのかい?」
「こッ、この野郎〜〜」
頭に来たランディが牢屋の鉄格子を握りガシャンッと音を立てた。
ニックはフッと笑うとルヴィアに向き直る。
「それはそうとルヴィア王女。よくもドレスを破いてくれましたね。せっかく魔法の研究をしようとしたのに台無しだ」
「魔法のケンキューですってッ!?」
「父様と僕は魔法に大変興味があるのですよ。先ほどあなたの魔法を吸収したドレスで研究をしようと思っていたのに残念です」
「そッ! そのためにあたしにドレス着せたってのッ!!? ナニからナニまでゆるせないッ!!」
ますます怒りの募ったルヴィアがニックを睨みつけた。
「それもありますが、僕自身あなたのドレス姿を拝見したかったのです」
ルヴィアにドレスを!?
聞き捨てならない様子のランディが関係ない部分で腹を立てた。
「アンタ達の思うよーにさせないんだからッ!!」
「フン……。どうしてもあなたは僕の申すことを聞いてくれそうにありませんね。なるべくなら僕は手荒な真似をせず、スマートに事を進めるのが好きでね。仕方ありません。ここは代わりにレーシア王女に協力してもらいましょう」
ニックが牢屋のレーシアに目を向けた。
「なんですってッ!!?」
「エッ……」
ゾクッとしたレーシアの顔が青ざめた。
「チョット待ちなさいよッ!! こんどはレーシアに手ェ出そーってのッ!!? そんなコトこのあたしがさせないわッ!!」
「どうしようというのです。また僕を気絶させますか?」
「プリンスに手出しはさせません」
牢番がルヴィアの前に立ちはだかり拳銃を構える。
「ルヴィアッ!!」
「お姉さま」
ランディとレーシアが牢屋からルヴィアを見つめた。
うかつに攻撃したら撃たれてしまう。今ここでやられる訳にはいかない。
うまくスキを作らねば……。
冷や汗をかいたルヴィアは考える。
相手は男だ。女の武器がある。
「イタッ!」
突然、声を上げたルヴィアがしゃがみ込む。
「ルヴィアッ!! どうしたんだッ!!?」
「どうしたのです? ルヴィア王女」
ランディとニックが尋ねた。
「なんか、ココ急にイタくなって……」
座り込んだルヴィアが半身を上げ、尻を見せるように太ももをさすり悩殺ポーズを取った。
セクシーなルヴィアにニックと牢番は目が釘づけになりランディは目をハートにする。
「お〜〜」
「ねーニック王子ィ、イタくてガマンできないのぉ。どーなってんのか見てくんないかしらぁ」
色っぽく言いルヴィアは片足を上げる。
「は、はいっ」
顔を赤らめたニックがルヴィアに歩み寄った。
ルヴィアは微笑む。
「『ライトニング・サンダー』ッ!!」
ルヴィアの体が淡く輝き周囲に稲妻を放った。
薄暗い牢獄に迸るまばゆい稲妻にランディとレーシアは目がくらむ。
「ワアッ!!」
ニックは勿論、牢番も巻き込み感電させたかと思いきや、稲妻は2人の着ている衣服に吸い込まれた。それを見たルヴィア達は目を見開き愕然とする。
「ウソッ!!」
「魔法が効かない……」
「本当だったんですね……」
「…………」
顔を伏せたニックは無言で腰から拳銃を取り銃口をルヴィアに向けて引き金を引く。
銃声が響き弾丸はルヴィアの左肩をかすめた。
「キャッ!!」
ルヴィアの肩に血が滲む。
「ルヴィアッ!!」
ランディが声を上げた。
「ナメた真似をしてくれますねぇ、ルヴィア王女。我々に魔法は通じませんよ。まあ今のおかげで予定どおり魔法の研究ができますが」
怒りを抑えて口元を歪ませたニックが言う。
「…………」
座り込んだままルヴィアは片手で肩を押さえてニックを睨みつけていた。
「あなたは僕をさんざん痛めつけてくれました。せっかくお会いできたのに残念ですが、死んでいただきましょう」
再び銃口をルヴィアに向けるニック。
「やめろッッ!!! 殺すんなら僕を殺せッ!! それで気が済むんだったらそうしてくれッ!!」
「ランディ」
ルヴィアとニックがランディに目を向ける。
「うるさいな君は。彼女の代わりに自分を殺せって? 格好つけやがって。いいだろう、君を先に殺してあげるよ」
ニックがランディに歩み寄り見下した目つきで銃口を向けた。それを見たレーシアの顔が青ざめる。
「まッ、待ってください!」
「ん?」
レーシアに目を向ける。
「私なんかでよろしければ……その……あなたと……」
震えながらレーシアが言った。
「……僕と結婚してくださるのですか?」
「は、はい……」
「フフ、なんて物わかりのいい」
ニックが微笑む。
「レーシアちゃんっ!?」
何を言いだすのかとランディが振り向く。
「ナニ言ってんのレーシアッ!!」
ルヴィアが駆け寄るとレーシアはうつむいていた。
「いいの……」
「いくないわよッ!!」
レーシアは顔を上げてニックを見る。
「あの……お姉さまとランディさんは解放してあげてください。お願いです……」
「……お優しいのですね、レーシア王女は。いいでしょう、おい開けてやれ」
ニックが牢番に命じた。
「はっ」
「レーシアッ!!」
「お姉さまはランディさんと幸せになってほしいの……」
レーシアの目に涙が溢れた。ルヴィアはズキンッと心打たれる。
牢番が牢屋を開けランディとレーシアは出た。
「レーシア王女、僕が幸せにしてさしあげます」
ニックがレーシアの手を取り甲にキスをした。
「待ってッ!!」
突然ルヴィアがニックとレーシアの間に割って入った。
「あたしのカワイイ妹をアンタにわたすワケにいかないわッ!!」
「何をおっしゃっているのです。レーシア王女が申し出たことですよ。せっかく殺さないでおいてやろうとしているのにまた刃向かう気ですか」
「あたしがアンタと結婚すればいーんでしょッ!!」
「ルヴィア何をッ!!?」
「お姉さま!?」
唐突なルヴィアの発言にランディとレーシアが驚いた。
「へェ、その気になったのですか」
「アンタのモノになるわ。だからこのふたりは…」
途端にランディはルヴィアを抱きしめる。
「ルヴィアは僕のものだっ!! コイツには渡さないっ!!」
「ちょっとランディッ!! 離してッ!!」
「愛してるーっ」
ハートを飛び散らしてルヴィアを抱きしめた。
そんな2人にニックはしらける。
「君にはそのフィアンセがいますよ。レーシア王女は僕が頂く」
レーシアの腰を抱き寄せるニック。
それを聞いたルヴィアは慌ててランディを突き飛ばす。
「どーしてッ!! アンタあたしにプロポーズしてくれたじゃないッ!!」
「そうですが……レーシア王女のほうがよろしいので」
ニックの発言にルヴィアはカチンッとする。
「あらッ、聞きずてなんないわね。あたしよりレーシアがいーのッ!?」
ルヴィアが尋ねるとニックは考える。
その間ルヴィアはニックに色っぽくウィンクして気を引くが今のニックに効果はない。
「やはりレーシア王女が」
「ぬァんですってェ〜〜」
目くじらを立てたルヴィアが怒り狂った。
「ルックスはルヴィア王女のようなレディーがタイプなのですが、強気でわがままではないですか。それに乱暴ですし。レーシア王女のようなおしとやかで従順なレディーのほうが好きなのです」
ニックがそう言うとルヴィアは反応して態度をコロッと変える。
「や、ヤダァ。それってカンチガイだわ。あたしホントはとってもかよわいの……」
「はあッ!?」
顔をしかめるランディと冷や汗を垂らすレーシア。
「か弱い? ドレスを破いたあなたがですか?」
「あッ! あれはカジバのバカヂカラってゆーかー。ホホホ」
脂汗をかいたルヴィアが苦しい言い訳をした。
「だってあたし……やっぱニック王子と結婚したいんだもん」
しおらしい表情でニックを見つめた。
「……それでは、もう僕に刃向かわないのですね?」
「え、ええ」
「いまいち信じられませんね。スキを見て逃げだそうとかお考えなのではないですか?」
「そ、そんなコトしないわ」
「もしそうだとしても逃がしはしませんが……。そうだ、いいことを思いつきました。今ここで服をお脱ぎください」
「はッ!!?」
「エッ!!?」
唐突なニックの発言にルヴィアとランディは耳を疑った。
「僕のものになるならできるでしょう?」
怪しい笑みを浮かべるニック。
「な、ナニ言ってんのよ……」
ルヴィアが冷や汗をかいた。
「さぁ早く。それとも僕に脱がせてほしいですか?」
ランディはニックの前に立ちはだかる。
「やめろッ!!」
「なんだ君は。邪魔をするな」
「僕のルヴィアに指1本でも触れたら…」
途端にニックは余裕の表情で拳銃の銃口をランディに向ける。
「触れたら?」
「うッ……。くそッ……」
どうする事もできないランディ。
「いーのよランディ」
「えッ!?」
ルヴィアはランディの前に歩み出た。
決心して服のボタンを外す。
「いい子だ」
ニックがニヤっと笑った。
服を脱ぎブラを露わにしたルヴィアは服を落とす。
「ルヴィアッ!!」
「お姉さま」
背後からランディとレーシアの声が聞こえたが振り返らない。
「ルヴィア王女のストリップとは刺激的で見応えがあります。さぁ次はスカートをお脱ぎください」
「…………」
「どうしたのです?」
「アンタも脱いで」
「なぜ僕が」
「だって、あたしだけじゃはずかしーわ」
目線をそらして恥じらうルヴィアにニックはドキッとする。
ルヴィアに歩み寄り腰を抱き寄せる。
「かわいいですねぇ」
「ああッ!! ルヴィアッ!!」
ランディの顔が青ざめた。
「ルヴィア王女、熱いベーゼを交わしましょう」
「えッ!?」
ニックはルヴィアに唇を重ねた。
「んんッ」
気分が悪くなり激しく込み上げる憎悪。
だがルヴィアは懸命に我慢するしかなかった。
「くッ……」
悔しさと怒りで見ていられなくなったランディは背を向ける。
「ランディさん……」
レーシアも背を向けた。
ニックの手が腰に伸びてルヴィアは慌てる。
「まッ! 待って! はずかしーわ」
「そんな恥ずかしがらずに」
「アンタも脱いでよッ!」
「……そんなにおっしゃるなら、わかりました」
そう言いニックは腰のベルトを外して上着を脱ぐ。
ルヴィアはハッとひらめく。
ニックが服を脱げば、精霊術はきっと通じる。
服を牢番に手渡したニックは上半身だけ薄着になると再びルヴィアの腰に手を伸ばす。
「さぁルヴィア王女」
「待って! ゼンブ脱・い・でっ」
ブリッコしてお願いするルヴィア。
「それはあなたが脱いでからです」
ニックがルヴィアの腰の留め具を外した。
「あッ」
地面に落とす。金属音が響いた。
「さ、スカートをお脱ぎください」
「イヤンっ。そんなにあせっちゃダ・メ・よっ」
冷や汗をかいたルヴィアが無理に微笑むとニックの表情が強ばる。
「早くしてください」
「…………」
仕方ない。これでも少しはダメージを与えられるはず。
突然ルヴィアが体を密着させて右手で胸部に触れるとニックはドキッとする。
「ルヴィア王女?」
「あそびはもー終わりよ」
ニックの耳元で囁いた。
「何ッ!?」
右手を触れたままルヴィアは体を離す。
「『ファイア・フレイム』ッ!!」
ニックの上半身が火炎に包まれた。
「グワァ――ッッ!!!」
「プリンス!!」
牢番がニックに駆け寄る。
「なんだッ!?」
ニックの悲鳴にランディとレーシアが振り返った。
「レーシアッ!! 『プロテクション』をッ!!」
「えッ!? はっ、はい! 『プロテクション』!」
アイルーン・ロッドのクリスタルの球が光り輝き光のヴェールがルヴィア達を覆った。
一息ついたルヴィアは服と留め具を拾う。
「ルヴィア無事かっ!?」
「ん……。ディープされたけど……」
服を着ながらルヴィアが言う。
「うッ、かわいそうなルヴィアッ。アイツに無理矢理キスされてッ」
ランディがルヴィアをガバッと抱きしめた。
「キャアッ!!」
「僕の愛情タップリのキスで清めてあげるっ」
ハートを飛び散らして赤い顔で唇を尖らす。
「ちょっとランディッ!! 今それどころじゃないでしょッ!!」
ルヴィアが両手でランディの顔をグイグイと押した。
「大丈夫ですか!? プリンス!」
ニックの服を手にした牢番が心配そうに尋ねた。服で火炎を吸収させたようだ。
しゃがみ込んだニックの衣服と髪は所々黒く焦げている。
「くッ、くそォッ!! また刃向かったなッ!! 殺してやるッ!!」
もの凄い形相のニックが拳銃を手にしルヴィアに向けて発砲した。
銃声が響きルヴィアは目をつぶったが弾丸は光のヴェールで弾かれた。それを見たニックは目を見開き愕然とする。
「なッ! 何ッ!?」
「ホホホホホッ!! 思ったとーりだわっ! アンタ達のコーゲキは法術でガードできるみたいねっ!」
「こしゃくな。撃てッ!!」
ニックと牢番が拳銃を早撃ちした。
弾丸は全て光のヴェールに弾かれる。
そんな2人をルヴィアはやっと見下せた。
「ムダよムダ」
やがてニックの拳銃はカチッカチッと音がした。
「弾切れか」
「プリンス、私もです」
「補充の弾丸はあるが、きっと無意味だろうな。くそォ、打つ手はないのか」
「終わったの? じゃーそろそろオシオキしなくっちゃねェー」
ルヴィアがニックと牢番を睨みながら歩み寄る。
「かーなりストレスたまったから、あばれてやるわ」
「プリンスに手出しはさせません」
再び牢番が立ちはだかる。
「ジョートーだわ。行くわよッ!!」
ルヴィアが地面を蹴った。
牢番は蹴りを出したがルヴィアは飛び上がり避けると同時に顔面をヒールで踏み付ける。
「あ…が……」
牢番のサングラスが砕け散った。
後方に倒れかけた牢番をルヴィアは飛び越えて着地する。
ルヴィア・キックを牢番の背中に食らわせた。
「ぐおッ!」
今度は前屈みになる牢番。
ルヴィアは飛び上がり気合いの入ったエルボーを牢番の背中に繰り出す。
「やあーッ!!」
牢番は地面にブチ当たり完全にノックアウト。
ルヴィアは一息つく。
無惨な牢番の姿に座り込んだニックは青ざめた顔で震えていた。
「な、なんて女だ……。本当にプリンセスなのか……?」
「あらッ、どーゆーイミかしらッ!? こーんなにうつくしーあたしなのよ。プリンセスとゆーミブンがふさわしーとしか思えないわね」
薔薇の花びらを散らしたルヴィアがすまして得意のセクシーポーズを取った。
「フンッ! どこが。レーシア王女のようなレディーこそ、プリンセスとお呼びする価値がある。君はルックスは美しくても中身はまるで怪物だな」
ニックの発言にルヴィアの額に青筋がピキピキッと幾つも立つ。
「ぬァんですってェッ!!? いーわ、次はアンタよ。このあたしをよくもいーよーにあつかってくれたわねェ。ターップリ、オシオキしてあげるわ」
怒りの形相で拳を握り指をパキパキと鳴らした。
そこへランディが駆け寄る。
「ルヴィア」
腕をルヴィアの前に出して制した。
「ランディッ!! どーして止めんのよッ!!」
「僕のルヴィアによくも好き放題してくれたな。僕が息の根を止めてやる」
ニックを睨みつけてランディはアイルーン・ソードを引き抜く。
下唇を噛みしめるニック。
「あーッ!! おいしーとこヨコドリするなんてズルイッ!!」
「フン、しかし君も物好きな奴だな。こんな凶暴女のどこがいいんだ?」
ニックがそう言うとルヴィアはムカッとして額に青筋が立つ。
「キョーボーでわるかったわねーッッ!!! もーゼッタイゆるさないッ!! ボコボコにしてやるわッ!!」
「……確かに、ルヴィアは乱暴なところがあるけれど、それでも僕はルヴィアを愛してる。この気持ちは変わらない」
それを聞いたルヴィアはランディを見つめる。
「ランディ」
すると階段からコツコツと靴音が響いてきた。
その音が耳に入ったニックは立ち上がり階段に向かって走りだす。
「あッ!! 待てッ!!」
「逃がさないわよッ!!」
ランディとルヴィアが追いかけた。
「助かった! おいッ!! こいつらをなんとかしてくれッ!!」
「……ニックよ」
聞こえた声にニックはハッとする。
「と、父様っ!?」
そこへ現れたのはナウロスだ。
ルヴィアとランディは思わず立ち止まる。
「父様がいらしてくださるとは思っておりませんでしたよ」
「ここだと聞いておまえの様子を伺いに来たのだ。この様子だと、うまくいっとらんようだな」
「そ、そうなのですよ。ルヴィア王女は、それはもうわがままで」
ニックが睨むとルヴィアの額に青筋が立つ。
「また言ったわねーッ!!」
「そうか、そうだろうと思っとったよ。マリアンヌもそれは気が強くてちっともわしの言うことを聞いてくれんかったからな」
「蛙の子は蛙ですね」
呆れるニック。
「トーゼンよッ!! アンタ達のインボーなんかにリヨーされてたまるもんですかッ!!」
「随分な言われようですな。わしはただ、このキングダムをさらに発展させようと思っとるだけなのだが」
「ナニ言ってんのよッ!! アイルーン・キングダムをほろぼそーとしてるクセにッ!!」
「ほう、知っておったか。わしがこのボタンを押せばオズフェウス・ジェットが作動し、すぐにアイルーン・キングダムへ飛び立ち襲撃することができるのだよ。以前は失敗したが今度は自信がある。アイルーン・キングダムなど一瞬で滅亡するだろう」
小さなリモコンを手にしたナウロスが不敵な笑みを浮かべた。
「なッ!!」
ルヴィア達の顔が真っ青になる。
「おねがいだからやめてッ!!」
「さぁ、どうするかな」
「おねがい……。なんでもゆーコト聞くからッ!!」
涙を流すルヴィア。
「ルヴィアッ!!」
「お姉さま!」
何を言いだすのかとランディとレーシアがルヴィアを見た。
「それは、ニックと結婚するということかな?」
「ええ……」
「父様、信用してはいけませんっ! ルヴィア王女は2度も僕を騙しましたっ!」
「フッ、またそのようなことがあった場合はアイルーン・キングダムを容赦なく襲撃するとしよう。それでよいかな?」
ナウロスがニヤリと笑う。
「……いーわ」
「エッ!!?」
それを聞いたランディが驚いた。
「決まりだな」
ナウロスは余裕の表情だがニックは疑りの目をルヴィアに向けていた。
「ふたりはキャッスルの外に出してあげて。あたしが残ればいーんでしょッ!?」
「まあいいだろう。とりあえず、ここから出ようではないか」
ついにナウロスの陰謀に観念するしかないルヴィアだった。
【TALE30:END】