TALE29:恐るべき陰謀
「シティへ行くのは夜を待ってからのほうがよいでしょう」
結局ルヴィア達はニックに案内を頼む事にしたようだ。
ルヴィアは目を丸くする。
「えッ! どーしてッ!?」
「昼間ですと人目につきやすいので何かと面倒なのです。それに夜のほうがシティの夜景も美しいですしね」
「……そぉ」
「まだ夜まで時間はたくさんあります。それまで皆さんにぜひお見せしたいものがあるのです」
「あら、なにかしら?」
ニックに連れられてルヴィア達はある部屋の前にやってきた。
ドアを開けたニックは内側へ回る。
「こちらです」
そこは薄暗い部屋だ。
「なーに? ココ」
「入ればわかります」
「そぉ」
「待てッ!」
入ろうとしたルヴィアをランディが止めた。
「なんか怪しいな。僕が先に入る」
それを聞いたニックは呆れてため息をつく。
「野暮な人ですねぇ。君、レディーファーストという言葉をご存じないのですか?」
「なッ!」
ランディの顔が思わずカァッと赤くなる。
「そんなことも存じないなんて、男として風上にも置けませんね」
「わ、悪かったな……」
「そういうわけでルヴィア王女、お気にせずにどうぞお入りください」
「あ、ええ」
ルヴィアが部屋に入り続いてレーシアが入ろうとした。
だがニックはドアをバンッと勢い良く閉める。
「キャッ!」
「なッ!!」
レーシアとランディが驚いた。
「ナニッ!?」
その音にビックリしたルヴィアが振り返りニックはドアの鍵をかける。
「おいッ!! ふざけるなッ!! 開けろッ!!」
ドアの向こうからランディの声が聞こえドンドンと叩いていた。
「ねーレーシアとランディはっ!?」
ルヴィアが尋ねたがニックは答えない。
「チョットどーゆーつもりなのッ!?」
「……ルヴィア王女、昨夜はよくもこの僕を殴ってくれましたね」
振り返ったニックの目つきは変わっていた。
「な、ナニよ」
「僕は父様にだって殴られたことがないんだぞ」
「あたしだってないわよ。じゃー初めてだったのかしら?」
「当然だッ!!」
「あら、じゃーキゼツは?」
ルヴィアがクスッと笑うとニックはカッとなり殴りかかる。だがルヴィアはすかさずニックの手首を掴む。
「このあたしをたたこーとしてもムダよ」
「…………」
「ココであたしにシカエシしよーっての?」
「いえ、そうではありません。どうぞこちらへ」
冷静になったニックが手を差し伸べた。
「開けろーッ!!」
ランディがドアに体当たりをした。だが鉄製のドアでは無駄だった。
「くっそう」
「何をしている!!」
そこへサングラスにスーツの男が3人駆けつけた。
「ルヴィアがッ!! 中に閉じこめられたんだッ!!」
「……何をおっしゃっているのかわかりませんな」
1人が冷静に言った。
「何ッ!?」
「とりあえず、こちらへ来ていただきましょう」
男がランディとレーシアの腕を掴んだ。
「キャッ」
「何するんだッ!! 離せッ!!」
ランディが男の手を振り払いレーシアの腕を掴んでいる男の手を離させた。
背後へレーシアをかくまう。
「ランディさん」
「抵抗する気ですか」
「当たり前だろッ!! 僕達を誰だと思ってるんだッ!!」
「レーシア王女様に、ランディ殿でしょう? 存じていますよ」
そこは殺風景な部屋だ。
目に付くのは窓と大きなクローゼット。全身の映る鏡。
「ちょっとアンタなんなのよッ!! あたしをこんなトコつれてきて、またエッチなコトしよーとたくらんでるわねッ!!?」
ルヴィアがニックを睨んだ。
「失礼な、人聞きの悪いことをおっしゃらないでください」
「じゃーなんなのよッ!!」
「少々お待ちください」
ニックはクローゼットを開けて何かを手にして戻ってきた。
「ルヴィア王女、こちらのドレスにお着替えください」
手にしていた物はツヤツヤの生地の美しいドレスだ。
笑顔で言うニックにルヴィアは顔をしかめる。
「はあッ!? なんでそんなコトしなきゃなんないのよッ!」
「ぜひお召しになっていただきたいのです。ルヴィア王女に絶対お似あいだと思うのです」
「そりゃあたしプリンセスなんだから、似あってトーゼンでしょ」
「ではお願いします。お召しいただけたら、この僕を殴ったことを許してさしあげます」
「イヤッ! あたしドレスってニガテなのよ。動きづらいし」
「少しの間だけでかまいませんから。ヒールはこちらを」
ハイヒールをルヴィアの足元に置いた。
「シツコイわねェ。アンタそんなシュミあんの」
ルヴィアが睨むとニックは手を振る。
「とんでもないッ! そういうわけではないです」
「じゃーどーして」
「ただ、ルヴィア王女のドレス姿を一目拝見したいと思いまして……。お願いしますっ!」
懇願するニックにルヴィアは参ってしまった。
ため息をつく。
「しかたないわねェー。チョットだけよ」
「本当ですかっ!?」
嬉しそうに顔を上げるニック。
ルヴィアはニックからドレスを受け取る。
「むこー向いてて」
「あっ、失礼」
ニックが背を向けた。
「さぁ、おとなしく我々と来てください」
「どこへ連れてく気だッ!!」
ランディが男を睨む。
「来ればわかります」
男がゆっくりランディに歩み寄り手を伸ばす。
「来るなッ!! いい加減にしないと……」
ランディがアイルーン・ソードの柄に手をかけた。
「剣を使う気ですか? なら我々もこれを使わねばなりませんね」
男が懐から拳銃を取り出した。
初めて目にする謎の物体にランディは注目する。
「なんだそれはッ!?」
「拳銃ですよ。弾丸を詰め発砲する物です」
男は銃口をランディに向けて引き金を引いた。
廊下に銃声が響きランディの顔の真横を見えない弾丸が通過する。
ランディの頬が切れ一筋の血が流れた。
「キャア――!!!」
それを見たレーシアが悲鳴を上げた。
「…………」
まばたきもせず硬直しているランディ。
「剣が銃に勝てるとお思いかな?」
男が不敵な笑みを浮かべた。
「どうです?」
背を向けたままニックがルヴィアに尋ねた。
「せなか閉まんないわ」
「僕が閉めてさしあげます」
そう言いニックはルヴィアの背後に近づきファスナーを閉める。
「胸くるしィ」
「ルヴィア王女はバストが大きいですからね。こちらをお向きください」
ルヴィアはニックに向き直る。ドレスはルヴィアの体で美しい光を放っている。
「なんてお美しい……。素晴らしいですよ、僕の想像以上です」
見惚れるニックにルヴィアは得意顔になる。
「トーゼンね」
「さすがは僕のお妃となるお方ですね」
「はッ!?」
唐突なニックの発言にルヴィアが耳を疑る。
「アンタ今なんて?」
「あなたこそこの僕にふさわしい。僕と結婚しましょう」
ニックがルヴィアの手を握り甲にキスをした。
ルヴィアはニックの手を振り払う。
「イヤッ!! ナニ言ってんのッ!!?」
「僕と結婚して、このキャッスルで幸せに暮らしましょう」
「はあッ!? マジッ!?」
「本気です。僕が冗談を申しているとでも?」
真顔でルヴィアをジッと見つめるニック。
「アンタがあたしのコト好きなのはわかったわ。でも結婚はオーゲサだと思うわよ」
「そうですか? 僕はあなたを一目見た瞬間、運命を感じたのですが」
それを聞いたルヴィアはイヤーな顔をする。
「あなたも僕に感じたはずですよ」
「感じるワケないでしょッ!! 昨日も言ったわよッ!!」
ニックは肩をすくめる。
「なぜですかねぇ? 僕にはあなたが不思議でなりません。こんな完璧なルックスを誇る僕の虜にならないとは」
「バッカじゃないのッ!? うぬぼれんじゃないわよッ!」
「バカッ!?」
ルヴィアの発言にニックがピクッと反応し目つきが変わる。
「また言ったなッ!!? この僕をよくも2度もバカ呼ばわりしてくれたなッ!!」
「だってアンタ、バカじゃない。ジブンのコト、カッコイイと思ってんでしょ」
「当然ですッ!!」
「そこがバカだってのよ。カンチガイもはなはだしーわ」
呆れるルヴィアにニックはカッとなる。
「なんだとッ!!? 少しは口を慎めッ!!」
平手打ちしようと手を振り上げたがルヴィアはすかさずニックの手首を掴む。
「ムダッて言ったでしょ」
ルヴィアがそう言うとニックはハッと我に返り冷静さを取り戻す。
「失礼。僕としたことがつい」
「とにかく、くるしーったらありゃしないわ。もー着がえるわよ」
「ダメです。そのドレスを着ていてください」
「どーしてよッ!! チョットだけって言ったじゃないッ!!」
「そのお美しいドレス姿を父様にもご覧になっていただきたいのです。一緒に参りましょう」
ニックが手を差し出した。
「ヤダッ!!」
「わがままですね」
それを聞いたルヴィアはムカッとして額に青筋が立つ。
「なんですってェッ!!? それはアンタでしょォッ!!?」
ニックはため息をつく。
「わかりました。着替えたいならお着替えください」
「せなかのファスナー下げてくれる?」
ルヴィアが後ろ髪を肩から前に流して背を向けるとニックはプイッと顔を背ける。
「自分でおやりください」
「エーッ!! アンタってイジワルねッ!!」
3人の男に連れられてランディとレーシアは階段を下る。
下りるにつれて空気が冷たくなっていく。
「……まさか、ここに入れる気なのか?」
冷や汗をかいたランディが言った。
そこは地下牢だ。
城内と同じ金属の壁の所々にある小さな照明で不気味に浮かびあがる牢獄。空気が冷たく肌寒い。
「キングとプリンスはルヴィア王女様のみにご用がおありなのです。あなた方は余計なのですよ」
「なんだとッ!!? どういうことだッ!!」
ランディが尋ねたが男は答えない。
牢屋を開けてランディを突き飛ばす。
「ウワァッ!!」
「ランディさん!!」
レーシアが声を上げた。
男はレーシアも牢屋に入れると鍵をかける。
「ゆっくりしていってください」
そう言い牢番を1人残して立ち去った。
「くゥッ……」
ランディが起き上がる。
「大丈夫ですか!? ランディさん!」
「大丈夫……。でもこんなことになるなんてな。ルヴィアが危ない」
「そうですね……」
「う〜〜!!」
懸命に両手を背中に伸ばすルヴィア。あと少しのところでファスナーに手が届かない。
疲れて息が上がる。
「……無理なようですね。そういえばあなたは魔法が使えるはず。なんなら魔法でどうにかしたらどうです?」
唐突なニックの発言にルヴィアは目をパチクリさせる。
「いーの? 燃やしちゃうわよ」
「どうぞとうぞ」
「それじゃおコトバにあまえて」
おもむろに右手を開いた。
『燃え盛る炎の精霊よ…我が意の全てを焼き尽くせ』
ルヴィアの体が淡く輝き瞳は淡く輝きながらルビーレッドに染まる。
手の平に小さな炎が見えたかと思ったらスゥッと消えた。
「あれ? おかしーわね」
もう1度試みる。
『燃え盛る炎の精霊よ…我が意の全てを焼き尽くせ!!』
だが手の平の炎はやはり消えてしまった。
「な、なんでッ!? どーしてッ!?」
こんな事は初めてでルヴィアがうろたえる。
「クックックック……」
突然ニックが笑いだした。
そんなニックにルヴィアは不愉快になりムッとする。
「ナニ笑ってんのよッ」
「魔法は使えませんよ」
それを聞いたルヴィアは驚く。
「どッ! どーゆーコトよッ!!」
「そのドレスの生地は特殊でね、あなたの魔法は吸収されたのです」
ドレスを指差して言うニックにルヴィアは愕然とする。
「なんですってッ!!? 魔法を吸収ッ!!?」
「はい」
「どーしてそんなコトッ!!」
「父様はアイルーン・キングダムを憎んでいるのです。魔法という不思議な術が使える、魔法王国といわれるアイルーン・キングダムをね」
「アイルーン・キングダムを、にくんでるッ!?」
「知らなかったのですか? 父様は過去にアイルーン・キングダムを襲撃したことがあるのですよ」
ニックの衝撃発言にルヴィアは目を見開く。
「ウソォッ!! そんなコト知んない……。おとーさまからそんなの聞いたコトないわ」
「僕もあなたも産まれる前ですがね。そう、僕の父様はあなたの母様をめぐり敗れた腹いせということもあり、核兵器を積んだオズフェウス・ジェットを撃ち込んだのです」
「エエッ!!?」
ルヴィアが青ざめた顔で驚愕した。
「ですが失敗しました。逆に魔法でジェットは破壊されてしまったそうです」
「ホ、ホホホ。そーよね」
ホッと安心した。
「しかし父様は諦めなかった。いつか復讐してやろうとして、ずっと研究を続けていたのです。そう、魔法に勝つためのさらなる高度な核兵器の研究をね。そして再び攻め込むチャンスを狙っていた。あなた方がここにいる今、まさにそのチャンスというものです」
怪しい笑みを浮かべるニック。
「アイルーン・キングダムをほろぼしたいワケッ!?」
「そのとおり」
「ふざけないでッ!! アンタ達どーかしてるわッ!! 仲よくできないのッ!!?」
「無理でしょうね」
「だったら、あたしのコトもニクイんでしょッ!!? どーして殺さないのよッ!!」
「殺すだなんてとんでもない。あなたと結婚することは父様も望んでいるのです。我々の機械文明と魔法の力が結びつけば、さらにオズフェウス・キングダムは発展するというもの。素晴らしいではないですか」
オズフェウス・キングダムの陰謀を知ったルヴィアは呆然とした。
「……セーリャク結婚ってやつね。信じらんないサイッテーッッ!!!」
「キングダムがよくなるならよろしいではないですか」
「バカじゃないのッ!!? 目ェ覚ましなさいよッ!!」
ルヴィアがニックの頬に平手打ちした。
「な、何を……。また僕を殴ったなッ!?」
ニックが恐ろしい目つきでルヴィアをギロッと睨んだ。
ルヴィアを壁にドンッと押し付ける。
「おとなしく僕の言うことを聞け。僕と結婚するんだ」
「ジョーダンじゃないわッ!! なんでこのあたしがアンタなんかと結婚しなきゃなんないのよッ!! セーリャク結婚なんてふざけないでよねッ!!」
「それだけではないです。あなたを愛しているのです」
それを聞いたルヴィアは顔をしかめる。
「はあッ!? そんなのタテマエなんでしょッ!!」
「違いますよ。僕が信じられませんか? なら熱いベーゼを交わしましょう」
そう言いニックはルヴィアに顔を近づける。
「イヤァ――ッッ!!!」
ルヴィア・パンチでニックを殴り飛ばした。
倒れ込むニック。
「キスならしよーと思えばできるわッ!! アンタはあたしのコト、ホンキで愛してないッ!!」
「…………」
片手で頬を押さえながらニックはゆっくり起き上がり立ち上がる。
「また、また殴ったな。すごく痛かったぞ。こっちが下手に出てりゃつけあがりやがって……」
振り向いたニックの顔つきはガラリと変わっていた。
あまりの変貌ぶりにルヴィアは思わずビクッとすくむ。
「……ホンショーあらわしたわね」
ニックは腰から拳銃を取り銃口をルヴィアの額に突き付ける。
「いい加減にしろよ。死にたくないだろ?」
「ナニよソレ。ゼンゼンこわくないわ」
余裕の表情で言うルヴィア。
「……そうか。君は拳銃という物を知らないのだな。見てろ」
ニックが銃口を窓に向け引き金を引く。
銃声がしたと思ったら窓は割れた。
「どうだ、すごいだろう」
不敵な笑みを浮かべるがルヴィアは無表情だ。
「べつに。殺したいなら殺しなさいよッ!! アンタなんかと結婚するくらいなら死んだほうがずっとマシだわッ!!」
ルヴィアが言い放つとニックは笑いだす。
「死んだほうがマシ? そんなわけないだろう。強がっちゃって、かわいいな君は」
そう言いニックはルヴィアの腰を抱き寄せ唇を重ねる。
「ヤァァ――ッッ!!!」
ルヴィアがニックを思いっきり突き飛ばした。
頭から壁に激突したニックは床に倒れて気絶した。
「キゼツした……。今の内だわっ!」
ルヴィアはドレスを懸命に脱ごうとする。
「くゥ〜〜。キツくて脱げない〜〜」
次第にイライラし始める。
「こーなったらヤケだわーッ!!」
渾身の力を込めてドレスをビリビリと引き裂く。
「やったわっ!!」
ドレスを破り捨て笑顔でランジェリー姿を露わにするルヴィアだった。
【TALE29:END】