TALE25:ルヴィア失恋
「お別れですね、さようなら」
街道でコリージュが言うとルヴィアは慌てる。
「ケイン、あたし達どーなんのっ!?」
「えっ? 俺はこれからも剣術の鍛錬の旅を続けようと思う」
それは解っている。ルヴィアが聞きたいのはそうではない。
「だからあたしとっ!」
「…………」
黙りこくるケイン。何故そこで黙るのかルヴィアは解らない。
「ちょっとナニだまってんのよッ!」
「俺、気づいたんだ。君の扱うセイレイジュツという不思議な術。あれを扱えるのはどこかのキングダムだと」
「えッ!?」
「ルヴィア、君はそのキングダムと関係があるんじゃないのか?」
「そーよ。あたしアイルーン・キングダムのプリンセスなの」
「エエッ!!? プリンセス!!?」
ルヴィアの発言にコリージュが愕然とした。
「そうだったのか……」
「ケイン、それがなんだっての?」
「これでハッキリ言える。俺は君にふさわしくない」
何を言いだすのかとルヴィアは目を丸くする。
「どーしてッ!?」
「まだまだ剣術が未熟な俺にはプリンセスの側にいる資格なんかないだろう」
「そんなコト気にしなくていーわよっ! いっしょにいてっ!」
ルヴィアがケインに抱き付いた。やっと出会えた自分の彼氏にふさわしい人なのに絶対別れたくなんかない。
「ああ゛ーッッ!!! 何やってるんだッ!!」
「離れなさいよ!!」
ランディがとっさに2人の間に割って入りコリージュはルヴィアの前に立ちはだかった。
「ジャマしないでよッ!! ケインッ!! あたしあなたと離れたくないわっ!!」
「……すまない。俺、今は剣術のことで頭がいっぱいなんだ」
申し訳なさそうに言うケイン。
ルヴィアはランディとコリージュを片手で突き飛ばしながらケインに駆け寄る。
「なんですってッ!!? ケイン、このあたしよりそっちのほうがタイセツなのッ!!? ヒドイわッ!!」
「ルヴィアッ!! いい加減にしろよッ!! 僕がいるのに」
ランディなど無視してルヴィアはケインの首に両腕を回し唇を重ねる。
「ああ゛〜〜!!!」「ヤァ――!!!」
それを見たランディとコリージュの顔が真っ青になり同時に叫んだ。
行き交う町人は2人の悲鳴に立ち止まりルヴィアとケインのキスに注目する。
「ケイン、あたしのコト欲しーでしょ?」
「…………」
赤い顔のケインは目線をそらした。
自分の事を欲しくないなんて言う男は世の中に存在しないとルヴィアは思っている。
「こっち見て。ガマンしないでいーのよ」
「今は、無理だ」
「えっ?」
「兄貴に勝って、自信がつくまで……」
ルヴィアは大ショックを受けた。
ケインの口から出た言葉が信じられなかった。
でも、それがケインの答え。
ルヴィアの想いは届かなかったという事。
深く傷ついたルヴィアは顔を伏せる。
「……ナニよ、サイッテー。もーいーわッ!! このあたしよりそんなコトがタイセツだって男なんかキライよッ!!」
そう言い捨てルヴィアは走りだす。
「あっ! おい待ってくれよッ!」
ショックから立ち直ったランディとレーシアは慌ててルヴィアを追いかける。
……信じられない。どうして自分がフラれなければならないのか。
自分に絶対の自信を持っているルヴィアにとって、こんな屈辱な事はない。
ルヴィアの目に涙が溢れた。
同時に胸にズキンッと衝撃が走る。
「うッ!」
立ち止まり両手で胸を押さえる。
「ルヴィアッ!」
ランディとレーシアが駆け寄った。
胸がとてつもなく苦しい。
前屈みで胸を押さえて苦しむルヴィア。
「どうしたんだッ!?」
「お姉さま、大丈夫!?」
ランディとレーシアが声をかけたがルヴィアには聞こえていない。
前にも、こんな苦しみ……。
ルヴィアに憶えのある感覚。
脳裏にある男の顔が浮かんだ。
……クレイグ……。
過去に愛した男。ルヴィアの禁断の記憶が甦る。
目を見開き両手で頭を抱えた。
「イヤアァァッッッ!!!!!」
突然、絶叫したルヴィアにランディとレーシアだけでなく行き交う町人も驚いた。
「ルヴィアッ!! 一体どうしたんだよッ!!」
ランディがルヴィアの両肩を掴んだ。だがルヴィアは瞳孔が開き焦点が合っていない。
「ルヴィアッ!?」
その尋常ではない様子にランディが冷や汗をかいた。
ルヴィアは目を見開いたまま膝を付き両腕を抱える。
「ああ……。あああッッ!!!」
ルヴィアの体が激しく点滅を始めた。
辺りに地響きが起こり空が暗くなる。
「うわッ!?」
驚いたランディとレーシア、町人が見上げると空は暗雲に覆われていた。所々がピカッと光る。
周囲に激しい稲妻が幾つも落下した。
「ウワアッ!!」
「キャアッ!!」
叫ぶランディとレーシア。
巨大な竜巻が発生し避難する町人が巻き込まれた。
あちこちで火炎が燃え上がり炎に包まれる町人。
タウンは一気にパニックに陥った。
「大変なことになってるぞッ!!」
「お姉さまが原因だわ!!」
「エッ!?」
「お姉さまが心を取り乱しているせいで魔法力のコントロールができず、精霊が暴走してしまっているんです!」
「どうしたらいいんだ、このままじゃ」
稲妻、竜巻、火炎がタウンを破壊していく。
うずくまったルヴィアは苦しんでいた。
胸が砕けそうに痛い。苦しくて呼吸をするのも困難だ。
苦しい……。誰か助けて……!!
『ルヴィアッ!!』
突然、女の声が聞こえた。
苦しみながらもルヴィアが体を起こすと、そこに姿はかすんでハッキリ見えないが女性が居るのが解った。
『あんたナニやってんのよッ!!』
誰?
『前にも同じコトしたじゃない。あんたのその弱い心が起こしてるコトなのよ』
弱い、心?
『このままじゃあんた壊れちゃうわよ。もっと気をシッカリ持ちなさいッ! いつまでもそんな過去に縛られてたら、また同じコト繰り返すだけよッ!』
えっ……。
『心も強くなんなさい。あんたなら大丈夫よ。だってあんたは、あたしの……』
言いかけて女性の姿がスゥッと消えた。
目を見開くルヴィア。
強くなるってのは力だけじゃない。心も強くならなければ。
女性の言葉がルヴィアの胸に刻まれた。
もっと、もっと強くなりたい!
ルヴィアが目を閉じると体が淡く輝き光は消えた。
稲妻、竜巻、火炎も消え地響きは治まった。
空の暗雲も晴れ、ルヴィアはその場に倒れ込む。
「ルヴィアッ!!」
ランディとレーシアが駆け寄りルヴィアを抱き起こす。
「よかった……。ケガはないみたいだ」
安心したランディはルヴィアを抱えて立ち上がる。
「レーシアちゃん、行こう」
「待ってください! タウンをこのままにはしていけません!」
タウンの状況は酷い。建物は全壊や半壊、街道には負傷者が溢れている。まさにゴーストタウンと化した。
「そうだね。レーシアちゃん、助けられる?」
「はい!」
レーシアはアイルーン・ロッドをかざした。
『天の聖なる光よ…我に力を授けたまえ』
アイルーン・ロッドが淡く輝きクリスタルの球が光り輝いた。
「『リザレクション』!!」
空からまばゆい光柱が一斉に降り注ぎタウンを包む。
破壊された建物が修復し倒れている町人の傷も消えていく。タウンが何事もなかったように元に戻ると光柱はスーっと消えた。
これこそ最上級法術だ。
レーシアが一息つくとランディは笑顔で声をかける。
「すごいよレーシアちゃんっ!」
ホテルの一室。
ランディとレーシアが心配そうに見つめるのはベッドのルヴィア。
「……前にもこんなことがあった」
ランディが呟いた。
「前、ルヴィアが兵士と駆け落ちしたことがあったろ」
「……はい」
ルヴィアは過去に辛い経験をしている。
それは4年前。彼女はキャッスルの新人兵士クレイグと一目で惹かれ合い恋に落ちた。2人はキャッスルを抜け出し駆け落ちした。だが後に連れ戻されたクレイグはルヴィアを連れ去った罪で処刑されたのだ。
「兵士が処刑されたことを知ったルヴィアは狂乱してさっきみたいに……」
「お姉さま、昏睡状態になって何日も目を覚ましませんでしたよね」
「まさか、また同じことに……」
辛そうに言うランディだった。
次の日。
いまだにルヴィアは眠り続けていた。
法術『キュア・ライト』は効果ない。ルヴィアの魔法力の暴走が原因だからだ。
「なぁレーシアちゃん。ルヴィアの目がこのまま覚めないなんてこと、ないよな?」
それが不安で不安でランディは溜まらなかった。
「そんなこと……。大丈夫ですよ、きっともうすぐ」
レーシアが言った矢先、ルヴィアは目を開けた。
「ルヴィアっ!」
「お姉さま、気づいたのね。よかった……」
「……レーシア、ランディ」
顔を動かしてルヴィアが2人を見た。
「ルヴィア、体は大丈夫か?」
「うん……。ダルイけど」
「そうか、じゃあもう少し休めよ」
「そーするわ」
ルヴィアが目を閉じるとランディは安堵のため息をつく。
「よかった。本当によかった……」
「く、くるしィ〜〜」
「大丈夫かよ」
両手で腹を抱えてヨタヨタしているルヴィアをランディが支えていた。
「もう、ずっと寝ていてお腹が空いていたからって食べ過ぎなのよ」
呆れたレーシアが言う。
「それじゃ私は部屋に戻りますね」
「あ、うん」
ランディがうなずいた。
ルヴィアの部屋。
「ほらルヴィア、横になれ」
ランディがルヴィアをベッドに座らせた。
「もー寝たくないわよっ」
「そんなこと言ったって苦しいんだろ?」
「う……」
ランディはルヴィアのブーツを脱がせる。
「ほら」
促すとルヴィアはベッドに横たわりランディはベッドに座った。
「……あたし、思ったの。ホントは弱かったんだって……」
唐突なルヴィアの発言にランディは目を丸くする。
「はッ!? 何言いだすんだ急に。ルヴィアは強いだろ」
「くやしーけど強くないわ、あたしのココロは……。だってフラれたくらいであーなっちゃうのよっ!?」
ルヴィアが泣きそうな表情をする。
「言われて気づいたの。ココロも強くなんなきゃって」
「そうか……。でも言われたって誰に?」
「わかんない」
「えッ!?」
「知んない人なんだけど、でも知ってるよーな気もすんのよね」
「なんだそれ」
「だからあたしもよくわかんないのよッ!」
「そ、そうかよ」
しばらく沈黙が流れた。
「……お腹どう?」
「ちょっとラクんなったわ」
「そう、よかったよ」
ランディが意味ありげな視線でルヴィアを見つめた。
「…………」
そんなランディにルヴィアは嫌な予感がする。
「な、ナニよ」
「いや、別に」
ランディがルヴィアの手を握った。
「ちょっとナニ?」
「僕、今夜ここに泊まっていいよね」
「なんでよッ!!」
「何か忘れてない?」
「ナニをよッ!!」
「僕とルヴィア、勝負したよね」
「したわよ」
「それで僕が勝っただろ。そしたらルヴィア何してくれるって言った?」
「…………」
嫌な事を思い出したルヴィアの顔が青ざめた。
「忘れたとは言わせないよ」
ランディが怪しい笑みを浮かべた。
「イヤァ――ッッ!!!」
飛び起きたルヴィアがベッドから降りてドアに向かおうとした。
「ルヴィアッ!!」
「キャアッ!!」
ランディがルヴィアを捕まえ背後から抱きしめる。
「ナニすんのよッ!! 離してよッ!!」
「約束だぞ。好きにしていいんだろ」
もがくルヴィアをギュッときつく抱きすくめた。
「あっ」
力が抜けてルヴィアはおとなしくなる。
「ルヴィア、愛してるよ。ルヴィアは僕だけのものだ」
ランディがルヴィアの耳元で囁き頬にキスをした。
そのまま首筋までキスをする。
「やっ」
ルヴィアがピクッと反応した。
急に鼓動が高鳴る。
……なんで、なんでランディに。
何故か自分でも解らない。でもドキドキしているのは事実だ。
戸惑っているとランディに顔を横に向かされ唇を塞がれた。
情熱的なキスに思考が飛ぶ。
何も考えられなくなりルヴィアはランディに体の向きを変えて首に両腕を回しキスを受け入れた。
ランディもルヴィアを抱きしめる。
唇を離すと2人は顔を赤らめていた。
「ルヴィア……」
ランディが熱い視線で見つめるとルヴィアはうつむく。
突然ルヴィアの体が浮いた。ランディに抱えられたのだ。
「キャアッ!! ヤッ! ヤダッ!!」
ルヴィア・パンチをランディの顎に繰り出した。
「イテーッ!!」
「キャッ!」
落とされルヴィアが尻モチをつく。
「ナニすんのよッ!!」
「……それはこっちの台詞だよ。なんだよ急に」
「あたしアンタとHする気なんかないッ!!」
ルヴィアが言い放つとランディはガビーンとショックを受けた。
「なッ! なんだってッ!? だって今すごくいい感じになってたじゃないかッ!」
ルヴィアは顔を真っ赤にして立ち上がる。
「ちょっとユダンしたわよ……」
「約束なんだからゃんと守れよなッ!!」
「ナニよッ!! あたしがあー言わなかったらアンタあたしとショーブする気なんなかったでしょッ!! アンタその気にさせるために言っただけよッ!!」
「そんなッ!」
それを聞いたランディはショックを受け、うつむく。
「……僕をまた騙したんだな?」
顔を上げて睨むとルヴィアはツンッと顔を背ける。
「フンッ! だまされるアンタがワルイのよ」
ランディはムカッとしルヴィアの肩を掴んで押しながら歩いた。
「えッ!? ちょッ! ランディッ!」
押されるがままベッドに押し倒される。
「キャッ!! ちょっとランディッ!!」
ルヴィアがキッと睨みつけたがランディも鋭い目つきで見下ろしていた。
「僕の気持ちをもてあそぶなんて許せないッ!! 約束はちゃんと守ってもらうぞッ!!」
そう言いランディはルヴィアに体を重ねて首筋に唇を這わせる。
「ああっ、やっ」
「ルヴィアのここ、感じやすいってわかってるんだからな」
「ルヴィア、最高だったよ」
ベッドで背を向けて横たわっているルヴィアにランディが言った。
「……アンタってマジサイアクだわ」
「エッ!? どうしてッ!?」
ショックを受けたランディにルヴィアは振り返る。
「やっぱあたしのキモチどーでもいーのよ。あたしのカラダが欲しーだけ、あたしとHできればそれでいーんでしょッ!!」
「違うよっ!!」
「ナニがちがうのよッ!!」
ルヴィアの目に涙が溢れ頬に流れる。それを見たランディは衝撃を受ける。
「ご、ごめん。でもルヴィアが僕を騙したからいけないんじゃないか」
「今のコトだけ言ってんじゃないわよッ!!」
「……わかってる。確かに僕はルヴィアの気持ちを考えないで強引にしちゃってたよ。ルヴィアが僕のことを嫌いになるのは当たり前だよな。ルヴィアは僕のすべてで、とても大切に思ってるのに。ルヴィアの気持ちこそが1番大切なのにさ。僕が本当に欲しいのは、ルヴィアの愛なんだ」
「ナニ言ってんのよウソツキッ!! アンタいつだってあたしのカラダだけじゃないッ!! そこらにいる男どもといっしょだわッ!!」
「違うッ!! 僕はあんな奴らとは違うッ!!」
「おなじよッ!! アンタなんか大ッキライッッ!!!」
ショックを受けたランディの頭にゴーンと3tが降ってきた。
ルヴィアはランディに背を向ける。
でも、本当に嫌なのは、大嫌いなランディに抱かれて感じてる自分だ……。
泣きながら思うルヴィアだった。
【TALE25:END】