TALE24:ケイン VS ランディ VS ルヴィア
森の中の開けた場所は、そこだけ太陽の日差しが差し込み明るい。
「ケイン、マジでいくのよ。なんならアイツ殺しちゃってかまわないわよ」
ルヴィアが勢い込んで言う。
「俺はどんな奴でも手加減なんて絶対にしない」
「ケインがんばってね」
コリージュも声をかけた。
「ランディさん、がんばってください」
ルヴィア達とは少し離れた所でレーシアが声をかけた。
「ああ、絶対に負けてたまるか。勝ってルヴィアを見返してやるんだ」
ランディは燃えていた。
「そろそろ始めようか3流剣士」
「その言葉、2度と言えないようにしてやる」
声をかけたケインをランディが鋭い目つきで睨んだ。
ランディとケインは対峙した。
2人は剣を引き抜き身構える。
太陽の光が剣先に反射し、まぶしく光った。
ケインは余裕の表情だがランディは真剣な表情だ。
「僕が勝ったらルヴィアの前から消えろよ」
「そんな大口たたける余裕があるのか。ハッタリじゃないといいがな」
それを聞いたランディはムカッとする。
「ルヴィア、指揮をとってくれないか」
ケインがルヴィアに顔を向けた。
「わかったわ。それじゃふたりとも、いーわね?」
レーシアとコリージュが見守る中ランディとケインは睨み合う。
「始めっ!!」
ルヴィアの指揮でケインが動きランディに剣を振るった。
すかさずアイルーン・ソードで受け止めるランディ。刃の弾ける音がする。
「くッ!」
ケインがギリギリと力を入れランディは少しずつ後退する。
そんなランディを見てやっぱ押されてる、とルヴィアが思った。
ランディさん、がんばって……!
両手を握り合わせて祈るレーシア。
「どうした、さっきまでの勢いは。口だけだったか?」
そう言いケインは素早く剣を横に振るってランディの腕を切り裂いた。ランディの腕に鮮血が滲む。
「つッ!」
「やはり相手にもならないな。ルヴィアのフィアンセだとかほざいておきながら、そんなザマで格好がつくのか? ルヴィアの前で」
ケインがそう言うとランディはカッとなりアイルーン・ソードを振り下ろす。だが簡単に受け止められてしまう。
刃のぶつかり合う音だけが辺りに響く。
ランディは懸命に立ち向かっていくがケインは余裕の表情だ。
「まだまだ甘いな」
ケインがアイルーン・ソードを弾き飛ばした。
アイルーン・ソードは宙を旋回し地面に突き刺さる。
ランディの喉元にケインの剣が突き付けられた。
「勝負あったな」
「ま、まだだ。僕は絶対に諦めない。負けたら僕は……」
「往生際の悪い奴だ。死にたいのか?」
ランディはアイルーン・ソードの元へ走りだし引き抜く。
再びケインに向かって身構えた。
「貴様……。ナメた真似を」
ケインがランディを睨みつけた。
「ちょっとランディッ!! そんなハンソクゆるされると思ってんのッ!!?」
ルヴィアが言ったがランディの耳には入らない。
「僕は諦めない。絶対に勝つッ!! そしてルヴィアを取り戻すんだッ!!」
ランディに闘志がみなぎった。
アイルーン・ソードが光り輝きだす。
「な、なんだ!? 剣が光っている!」
ケインだけじゃなく皆、注目した。
「アイルーン・ソードが……」
「ランディさんと共鳴しているの!?」
目を見張るルヴィアとレーシア。
ランディは走りだし光り輝くアイルーン・ソードをケインに振り下ろした。
ケインは受け止めたが途端に表情が険しくなる。
「ぐッ!」
剣が重い。先程とは訳が違う!
余裕が一気になくなった。
ランディは勢い良くアイルーン・ソードを振るい始める。
それをケインは受けるのが精いっぱいだった。
馬鹿な、太刀筋が見えない。
焦って冷や汗をかくケイン。
「チョットどーしちゃたのよランディのヤツッ! なんか急に強いわよッ!」
ランディの戦いぶりにルヴィアが目を見張った。
パキィンッ
「なッ……!!」
「ウソォッ!!」
「ケイン!!」
ケイン、ルヴィア、コリージュが目を見開き愕然とした。
アイルーン・ソードがケインの剣を折ったのだ。
息が上がり肩で呼吸をするランディ。
「…………」
ケインは刃の折れた剣を握ったまま呆然として膝をガクッと付く。
「……僕の、勝ちだな」
「な、なぜだ? 俺が、3流なんかに負けた……」
「ケインが、負けた……」
「嘘ォ!! ケインが負けちゃった!!」
誰もが信じられなかった。
ルヴィアとコリージュは肩をガックリ落としているケインに駆け寄る。
「ルヴィア……。俺、負けてしまった……。すごく情けない……」
「そんなコトないわよ。ちょっとビックリしたけどケインがんばったわ」
「そうよ、ケイン」
「ルヴィア。俺のこと、嫌いになったか?」
「そんなワケないじゃないっ!」
「だけど……俺には格闘術を学ぶ資格なんてないな。剣術で負けてしまったんだから俺は、もっと剣術の鍛錬をしないと……」
そこへレーシアに腕の傷を治してもらったランディがやってきた。
「フィアンセの登場だ」
「えっ!?」
それを聞いたルヴィアは振り向いたがランディを一目見るなり不機嫌になり、すぐ前を向く。
そんなルヴィアの態度が引っかかったがランディは声をかける。
「ルヴィア、僕の戦いぶり見ててくれたか? 僕、勝ったんだぞ」
「フンッ! マグレでしょ」
冷たく言い放ったルヴィアにレーシアは腹が立つ。
「お姉さま!!」
「だったらッ!! このあたしにも勝ってみせなさいよッ!! こんどはあたしとショーブよッ!!」
ルヴィアがランディを睨みつけた。
唐突なルヴィアの発言にランディは驚く。
「エエッ!!? そんなッ!!」
「さ、始めましょ。ふたりとも下がって」
ルヴィアがそう言うとコリージュはうなずきケインと共に離れた。
妙な展開にランディはうろたえる。
「待ってくれよッ!! ルヴィアと戦うなんて、そんなことできるわけないじゃないかッ!!」
「おだまりッ!!」
「こんなに愛しいルヴィアと戦うなんて無理に決まってるだろ」
ランディがハートを飛び散らしてルヴィアをギュッと抱きしめた。
☆★ 殴 ★☆
「へへ、やられたぁー。やっぱりルヴィアにはかなわないよ」
地面に倒れているランディが嬉しそうに言った。
「マジメにショーブしなさいよォ〜〜」
額に青筋を立てたルヴィアがランディをヒールで踏み付ける。
「どうしても戦わなきゃダメなのか?」
「そーよ。戦わないならゼッコーするわよッ!!」
「そ、それは嫌だっ! わかった、やるよ」
ルヴィアとランディは対峙した。
ルヴィアはファイティングポーズを取り、ランディは再びアイルーン・ソードを引き抜き身構える。
こんな事になるなんて。
ハラハラと2人を見つめるレーシア。
「いつでもいーわよ。かかってきなさい」
「……ルヴィア、もし僕が勝ったら約束してくれないか」
「はッ!? なにを」
「結婚してくれ」
真顔でプロポーズをするランディにルヴィアはズッコケた。
「ジョーダンじゃないわッッ!!! それとこれとはカンケーないでしょッッ!!!」
「……じゃあ、僕をフィアンセとしてちゃんと認めてくれるか」
それを聞いたルヴィアは冷や汗を垂らす。
「アンタ、ジョーケンないとやる気ないワケ」
「いいだろ?」
「ヤダッ!!」
「そんなァ……」
肩をガックリ落とすランディ。
「でもまーこのあたしに勝つコトできたなら、デートくらいしてあげてもいーけどォ……」
ルヴィアがそう言うとランディの耳が素早く反応する。
「えっ!? 本当かっ!?」
嬉しそうに言う。
「あたしに勝てたらよッ!! ゼッタイにフカノーだけどねッ!!」
「わかった。勝ったらデートしてくれるんだなっ!? ちゃんと守れよっ!」
「じゃー始めましょ」
「よおーしッ!! 行くぞーッ!!」
ランディの闘志に火が点いたがアイルーン・ソードには変化がなかった。
ルヴィアに向かって走りだし、アイルーン・ソードを振り下ろす。
簡単にかわしたルヴィアはランディの腕を掴んだ。
「あらどーしたの? またとろいランディにもどったんじゃない?」
そう言いルヴィア・キック(回し蹴り)をランディの足に食らわせた。
「だッ!!」
うつ伏せに倒れ込むランディ。
「ほら、はやく立ちなさいよ。あたしとデートしたいんでしょー?」
ルヴィアがランディのすねをヒールでグリグリと踏みにじる。
「うッ!」
ランディは跳ねるように起き上がり立ち上がるとアイルーン・ソードを見つめた。
何故光らない?
「こんどはあたしから行くわよッ!!」
ルヴィアが飛び上がりランディの頭を踏み付けた。
「わッ!?」
前屈みになるランディ。
そのまま飛び越え着地するとルヴィア・キック(膝蹴り)をランディの背中に食らわせた。
ランディはうつ伏せで地面を滑った。
「イタタッ!!」
膝を抱えたルヴィアが飛び跳ねる。
「い、今のはちょっとイタかったわァー。そーいえばアイツ、アーマー着てんのよねー」
「……うぐ、くそー」
起き上がったランディの顔は砂で汚れていた。
「僕は負けないッ!!」
アイルーン・ソードを拾い念じる。
「僕は勝つ。勝ってルヴィアと……」
だがやはりアイルーン・ソードは変化ない。
「どうしてだッ!?」
「さっきみたいに、アイルーン・ソード光らせたほうがいーんじゃない? そのほうがアンタ強かったじゃない」
「…………」
困り顔のランディ。そうしたいのは山々なのだが、どうしてもアイルーン・ソードが光り輝かないのだ。
「……あたしもホンキ出さなきゃいけないみたいね」
ルヴィアが人差し指をスッと前に出した。
それを見たランディはビビリ顔が青ざめる。
「そ、それは卑怯だろーッ!?」
「お姉さま!! 精霊術はダメよ!!」
口を出すレーシア。
セイレイジュツ?
先程、耳にした同じ言葉にケインが反応してルヴィアに注目する。
『燃え盛る炎の精霊よ…』
「さッ! させるかッ!!」
呪文を唱え始めたルヴィアにランディはアイルーン・ソードを振るった。
ルヴィアは横に走りだす。
『我が意の全てを飲み込みたまえ!』
体が淡く輝き瞳は淡く輝きながらルビーレッドに染まる。
髪はうねり人差し指に炎がボッと点いた。
「うわッ!!」
驚いたランディが慌てて後ずさりをした。
ルヴィアの手の平で炎が燃え上がる。
「ホーホホホッ! さーてこの炎浴びたくなかったら、アンタもホンキ出しなさい」
「あ、あれがセイレイジュツか」
「なんなのあれ!?」
ケインとコリージュがルヴィアの精霊術に目を見張った。
「そういえば聞いたことがある。不思議な術を扱うキングダムがあると……」
「さっ! はやくホンキ出しなさいよ」
「わ、わかってるけど……」
冷や汗をかくランディ。
「ジレったいわねッ!! 『ファイア・フレイム』ッ!!」
しびれを切らしたルヴィアが右手を突き出した。
炎はボンッと膨れ上がると巨大な火炎球となりランディ目がけて襲いかかる。
「ウワァ――ッッ!!!」
真っ青な顔のランディはすっかり怯んでいたが火炎球に向かってアイルーン・ソードを振るった。
するとアイルーン・ソードではなくアイルーン・アーマーが光り輝き火炎球は弾かれ消えてしまった。
「なッ!! なんですってッ!!?」
それを見たルヴィアとレーシアが目を見開き愕然とした。
「チョットどーゆーコトよッ!! アンタなにしたのッ!!?」
ルヴィアがランディに詰め寄った。
「よくわからないよ」
「ならもーいちどッ!」
右手を頭上にかざす。
『吹き荒ぶ風の精霊よ…我が意の全てを裁きたまえ!』
体が淡く輝き瞳は淡く輝きながらエメラルドグリーンに染まる。
一筋の風渦が立ち上ると空に暗雲が発生しピカッと光る。
「ゲッ!!」
「お姉さま!!」
空を見上げたランディとレーシアが真っ青な顔で驚愕した。
「『サンダーボルト』ッ!!」
空から激しい稲妻がランディ目がけて落下した。
再びアイルーン・アーマーが光り輝き稲妻はランディを避けるように分散して消えた。
ルヴィアはまたも愕然とする。
「どーしてッ!!?」
ランディはゆっくりルヴィアに向き直り睨む。
「よくもやってくれたな。酷すぎるぞ」
アイルーン・ソードを身構えると、なんと光り輝きだした。
「あっ!! アイルーン・ソードが!!」
レーシアが声を上げた。
「行くぞーッ!!」
ランディが光り輝くアイルーン・ソードをルヴィアに振り下ろす。
速い!
ギリギリでかわすルヴィア。
先程とは比べ物にならないランディのスピード。それは素早いルヴィアでも圧倒される程だ。
更にアイルーン・ソードを振るうランディをルヴィアは避けるだけしかできずにいた。
ルヴィアの美しいロングヘアがアイルーン・ソードに斬られる。
「ん?」
太陽の光を浴びてキラキラと舞い散る髪にルヴィアが気づいた。
足を止めて髪を確かめる。
腰まである髪の一部が短くなっている。
「あ゛――ッッ!!! あたしのうつくしー髪がァッ!!! アンタなんてコトしてくれんのよォ――ッ!!!」
叫ぶとハッとする。
目前にアイルーン・ソードが迫っていた。
思わず目をつぶる。
アイルーン・ソードはルヴィアの顔の寸前で止まった。
ルヴィアはゆっくり目を開けランディをキッと睨みつける。
「ナーニすんのよバカァァ――ッッッ!!!!!」
ルヴィア・パンチをランディの顎に繰り出しブッ飛ばした。
「お、おい。そりゃないだろ……」
吹っ飛びながら悲しそうに呟くランディ。
「よっくも、このあたしのうつくしー髪切ってくれたわねェ〜〜」
悪魔のような恐ろしい形相のルヴィアが倒れているランディにズンズンと歩み寄る。
「ゆるさないゆるさなーいッッ!!!」
ヒールでランディをゲシゲシと踏み付けた。
「うわ〜ん」
踏み付けられているにも関わらず何故かランディは喜んでいる。
そこへレーシアが駆けつけた。
「お姉さま、ちょっと!」
「ナニよッ!! ジャマしないでよッ!!」
ルヴィアがレーシアをキッと睨みつけた。
「もう勝負はついたはずよ」
「なんですってェッ!!?」
レーシアの発言に耳を疑った。
「どーしてよッ!!」
「ランディさんはお姉さまにソードを突きつけたのよ。ランディさんの勝ちよ」
「エッ!!? 僕の勝ちッ!!?」
それを聞いたランディが1番驚いていた。
「そッ! それがナニよッ!! あたしまだ戦えるわッ!!」
「もう、だったらあの方達にも勝敗を聞いてみましょう?」
レーシアが離れて見ているケインとコリージュに目を向けた。
「えっ!? どっちが勝ったかって?」
「そーよっ!! まだショーブついてないわよねっ!!?」
焦る気持ちでルヴィアがケインに尋ねた。
「うーん……」
「ナニ考えこんでんのよケインッ!!」
「悔しいがフィアンセの勝ちだな」
「エエッ!!?」
それを聞いたルヴィアが愕然としたがランディとレーシアはホッとした。
「どーしてッ!!?」
「俺が追いつけなかったルヴィアの速さにこの剣士は追いついていた。しかもルヴィアに剣を突きつけたんだ、勝ちに決まっている。たいしたもんだ、あんたは。3流なんて言ってすまなかったな」
「いや、そんな」
ケインに言われランディは片手を頭の後ろに回して照れた。
納得がいかないのはルヴィアだ。
「だッ、だってあれはランディがあたしの髪切って、だから」
「言い訳はよくないな。一瞬でもスキを見せたら命取りってものだ」
ケインのもっともな意見に悔しがる。
「くッ、くゥ〜〜。アンタはどーよっ!?」
黙っているコリージュに尋ねた。
「えっ、私!? 私もケインと同じ意見ね」
「…………」
ショックで放心するルヴィア。
「ルヴィア、僕の勝ちだな。約束、守ってもらうぞ」
タウンへ向かって歩きながら肩をガックリ落としているルヴィアにランディが言った。
「もー好きにして……」
涙をだーっと流すルヴィア。
「好きにして? もちろん、お言葉に甘えて」
ランディの顔がニヤけた。すっごく危険だ(汗)。
その隣でルヴィアは肩を落として涙を流すのだった。
【TALE24:END】