TALE23:ルヴィアの恋
「もーゼッタイもどってなんかやんないんだからッ!!」
街道を憤慨しながらズンズンと行くのはルヴィアだ。
ふと気づいて足を止める。
確か前にもこんな事があった。あの時は、ドミニオが自分を慰めてくれた。
ドミニオは元気になっただろうか……。
思い出してなんだか切なくなる。
「あーダメダメ。そーだわ、こーゆー時はパーっとねっ!」
ルヴィアはカジノへやってきた。
彼女は飲酒とギャンブルごとが大好きだ。なんてプリンセス……。
「これメダルにしてくれる?」
カウンターには大量の札束。バニーガールが驚く。
「ぜ、全部ですか?」
「そーよ」
「よろしいんですか? あまったメダルは換金できませんが……」
「わかってるわよ。今日はとことんあそびたいキブンなの」
「ナニよ。けっきょくコレだけしかメダルにしてもらえなかったわ」
両手にメダルが満杯に入ったバケットを持つルヴィアが不満そうに言った。それだけでも充分だと思うが。
「さーてと、スロットスロット」
スロットマシーンが並ぶコーナーに来た。
その中の1台に座る。
「むゥ〜〜」
不満そうにスロットを睨むルヴィア。
5分経過。10分経過。スロットのドラムがなかなか揃わない。
ルヴィアはイライラし始める。
「ナニよコレーッ!! ゼンゼンそろわないじゃないのーッ!! 台変えたほうがいーかしら」
隣の台に移動した。だが意味がなかった。
「ちょっとアンタッ!! あのスロットこわれてんじゃないのーッ!!? そろわないわよッ!!」
キレたルヴィアがバニーガールに食ってかかった。
「そんなはずはございません。あちらの方は毎日いらしてますけど、いつも大当たりを出していらっしゃいますよ」
バニーガールがスロットに向かっている若い男に手を差し伸べた。
確かに男はメダルをジャラジャラとたくさん出している。足元にはメダルの溢れそうなバケットが幾つもある。
感心したルヴィアは男の側に行き声をかける。
「ねー、どーしてそんなアタリ出せんの?」
「気が散るから話しかけないでくれ」
男がスロットに向かったままツッケンドンに言うとルヴィアはムッとする。
「ナニよッ!! チョットくらいコツ教えてくれたっていーじゃないッ!!」
「うるさい女だなー」
男もムッとしてルヴィアを見る。
「おっ!」
見惚れて目をハートにした。
「よしいいぜ。少し教えてやろうじゃないか」
「あらホントっ!?」
喜ぶルヴィア。
男が立ち上がるとルヴィアはその椅子に座る。
男はスロットにメダルを数枚入れた。
「まずな、スロットを回して」
「うん」
男がルヴィアの手を取りスロットのレバーを握らせ引いた。
5個のドラムが回り始めると男はルヴィアの肩に手を置き横から見つめる。
「そんでこの回転をよく見るんだ。絵が止まって見える?」
「見えるワケないじゃない」
「スロットは初めて?」
「そーじゃないけど」
「ふーん、慣れると絵が止まって見えるのさ。だからこうやって」
男が早押しでスロットを止め絵を見事に揃えてみせた。
「きゃっ! スゴーイっ!」
ジャラジャラとメダルが出てきた。
「とまぁこんな感じさ。がんばってみな」
「がんばるわっ!!」
ルヴィアはスロットを回し真剣な表情でドラムの回転を見つめる。
「ん〜〜」
だが男が妙に体にベタベタと触り、横から見つめてくるのでイライラし始める。
「チョットうっとーしーわよッ!! 離れてッ!!」
牙をクワッと剥き出すと男はビビる。
「だ、だってキミかわいいからさぁ」
「それをゆーなら美人と言ってほしーわ」
「美人だよ」
「ホホホ」
ルヴィアは得意顔でスロットを止めた。だが揃わなかった。
「なんでェーッ!?」
「いきなりは無理さ。努力すればできるようになるって」
男がそう言うとルヴィアはムスッとする。
「ドリョクゥ〜!?」
「それが嫌ならさ、俺のメダル全部やるよ。だから俺とつきあわない?」
「はッ!?」
「俺とつきあえばカジノで勝ちまくりだぜ」
カジノで勝ちまくり。
一瞬クラッとした。
「じょ、ジョーダンじゃないわよッ」
「えー!? じゃあ体のつきあいだけでもいいぜ」
男がニヤっと笑うとルヴィアの額に青筋が立つ。
「ヘンタイッッ!!!」
ルヴィア・パンチで男をブッ飛ばした。
ルヴィアは更に不機嫌だった。
「けっきょくメダル、ゼーンブすっちゃったわ。いったいなにしに来たのかしら。ヘンなヤツはいるしメダルはするし。よけーストレスたまったわよ。あばれたいキブンだわ」
『どなたか挑戦者はいませんかー?』
「ん?」
ムカムカしていたルヴィアの耳にアナウンスが聞こえた。
『風のごとく現れ、いまだ勝利し続けるケイン=インティークさん。自分なら倒せるという腕に自信のあるお方はいらっしゃいませんかー? ぜひ挑戦してみてくださーい。見事勝利することができましたら賞金100万ラルが贈られまーす』
誘われるようにルヴィアはアナウンスのほうへやってきた。
そこは闘技場だ。
観客用の囲いの中に窪んだリングがある。リングの周囲には観客がたくさん居た。
ルヴィアはリングに目を向ける。
そこに居るのはマイクを手にした女性アナウンサーと少年。
素敵。
革の鎧を身に着けた切れ長の瞳のクールな美少年を一目見た途端ルヴィアはドキンッとときめき顔を赤らめた。
どうやら一目惚れをしてしまったようだ。ルヴィアのタイプらしい。
高鳴る胸の鼓動。これが恋。
キャッスルの暮らしは恋とは無縁だった。だって出会いがないし。まぁ若い兵士はいるが自分のタイプの男なんてそうそういない。ランディなんか問題外だ。
『ケインさんに挑戦するお方はいらっしゃいませんかー?』
アナウンスにハッと我に返る。
「コレよコレっ! あたしがさがしてたのはっ! ひとあばれできて100万ラルもらえるなんてサイコーじゃないっ!」
『挑戦する方いらっしゃいませんかー?』
ルヴィアは手を挙げ名乗り出る。
「ハーイあたしっ!! あたしがチョーセンするわっ!!」
ルヴィアの声に辺りに居た観客は一斉に注目する。
飛び上がり華麗に宙返りしてルヴィアはリングに着地する。
『お、お嬢さん? お嬢さんが挑戦するんですか?』
アナウンサーが驚き気味にルヴィアに尋ねた。
「そーよ。見りゃわかるでしょ?」
『……これは驚きました!! このお美しいお嬢さんがなんとケインさんに挑むそうでーす!! この勇気あるお嬢さんに皆さん盛大な拍手を!!』
アナウンサーの呼びかけに観客の拍手と声援が沸き起こった。
笑顔でVサインを振りまくルヴィア。
そんなルヴィアにケインは駆け寄る。
「ちょっと待てよ! 君、本当に俺と戦う気なのか!?」
「モチロンよ。あなたに勝って100万ラルいただくわ」
ルヴィアの発言にケインはムッとする。
「女と勝負するのは初めてじゃないけど、俺に勝てる自信があるというのは許せないな」
「あら、だったらあたしにゼンリョクでかかってくるコトね」
『さぁ、おもしろくなってまいりました。それではお嬢さんのお名前は?』
「ルヴィアよ」
『ルヴィアさん。素敵なお名前です! さてケインさん。今回初の女性チャレンジャーですが今の心境は!?』
アナウンサーがケインにマイクを向ける。
『俺に挑んでくる者は男も女も関係ない』
ケインの台詞に少女の黄色い歓声が上がった。どうやらケインのファンらしい。
「フフ、そーよ。そーこなくっちゃね」
『さぁ、それではギャンブルのルールをご説明いたします。ケインさん、もしくは今回のチャレンジャー、ルヴィアさんのどちらか一方のみにお賭けください。賭け金は1000ラルからです!』
観客によるギャンブルタイムになった。
剣を手にしたバニーガールがルヴィアに歩み寄る。
「ソードなんかいらないわ。あたしはコブシでショーブよっ!」
ルヴィアが拳を突き出すとケインは聞き捨てならない様子で口を開く。
「なんだと?」
「あっ! あなたはモチロン使ってもらってかまわないわ」
「ふざけるな。武器を持たない相手に剣が使えるか!!」
「このあたしをあまく見ないコトね。あなたが使わないとなるとフリになりかねないわよ?」
「……相当自信があるようだな。だったら俺は剣を使わせてもらう」
そう言いケインは背に装備している剣を引き抜いた。
『なんと! ルヴィアさんは素手で勝負! こんなことは初めてです。大丈夫なんでしょうか? さぁ、それではルールのご説明をさせていただきます。タイムは無制限。どちらかがギブアップをするまで続行いたします』
「あのー」
ルヴィアが片手を挙げた。
『はい、なんでしょうか?』
「精霊術はー、使っちゃマズイわよね?」
小声で尋ねたルヴィアにケインは反応する。
セイレイジュツ……?
『……? なんですか? よく聞こえませんでしたが』
「あーッ!! なんでもないわっ! 気にしないでっ!」
『……そうですか? それではそろそろ勝負を始めたいと思うのですが、お2人とも心構えのほうはよろしいでしょうか?』
「ヨロシクねっ」
ファイティングポーズを取りケインにウィンクするルヴィア。
ケインはドキッとしたが、すぐ気を取り直して剣を身構える。
「ケインがんばってー!!」
1人の少女がケインに声援を送った。観客からも声援が飛ぶ。
『それではケインVSルヴィア。ファイト!』
アナウンサーの指揮でルヴィアが走りルヴィア・パンチを繰り出す。
「!!」
ケインは横にかわす。
「やあッ!!」
続けてルヴィア・キック(回し蹴り)。
「くッ」
なんとか避けるケインだが、かわすのに精いっぱいという様子だ。
反撃に出たケインが剣を振るう。
ルヴィアはしゃがんでかわし足払いでケインを転ばせた。
倒れたケインに観客が驚く。
ケインが目を開けると、降ってくるルヴィアが目に入った。
「うッ!!」
目を見開く。
ケインの腹部に強力なルヴィア・キックが入った。
ルヴィアが降りるとケインは身をよじり苦しむ。
『おーっとこれはすごい!! ケインさんダウン!! 圧倒的に押されてます!!』
観客からどよめきと歓声が起こった。
「嘘ー!」
声援を送った少女が驚いている。
『ケインさん大丈夫ですか? まだ戦えますか?』
アナウンサーが尋ねるとケインは腹を押さえながら起き上がり立ち上がる。
「まだだ」
「そーこなくっちゃ」
ルヴィアが微笑む。
『それでは続行です!』
「かかってきていーわよ」
「…………」
ケインは剣を身構えると地面を蹴り勢い良く剣を振るった。
ルヴィアは飛び上がり華麗に宙返りして着地する。
そこにケインが剣を振るいルヴィアはしゃがむとエルボーを腹部に入れた。
「がはッ!」
目を見開いたケインが剣を落として倒れ込む。
「ケイン!!」
少女が叫ぶ。
『ケインさんダウン!!』
再び腹を抱え苦しむケイン。
『ケインさんまだいけますか?』
するとケインはゆっくり起き上がる。
「……降参だ」
ケインがそう言うと一瞬辺りが静まり返った。
『……なんと、ケインさんギブアップです! この勝負ルヴィアさんの勝利です!!』
観客から歓声が沸き起こる。
『素晴らしい戦いでした! それでは賞金の100万ラルです! ルヴィアさんおめでとうございます!!』
「サンキュー」
ルヴィアはバニーガールから賞金100万ラルを受け取った。
ケインに目を向けると目が合う。
「あなたとのショーブなかなかたのしめたわ」
「…………」
「戦ったらおなかすいちゃったわ。あたしランチにするけどつきあって。賞金手に入ったしゴチソーするわよっ♪」
「い、いいのか?」
「モチロンよっ」
ルヴィアがケインと腕を組んだ。
そんな2人が外に向かう様子をケインに声援を送っていた少女が見ていた。
「それにしても君、強いな」
街道をルヴィアと腕組みして歩くケインが言った。
「トーゼンよ」
「一体どこで…」
「ケイン――。待ってよ――」
突然、背後から声が聞こえた。
「あっ!?」
ケインが振り返る。
そこへ先程の少女が息を切らしながら駆け寄ってきた。
「お、おまえ。また来たのか」
ため息をつくケイン。
「ナーニ? アンタ」
ルヴィアが不愉快そうに少女に尋ねた。
「だって、私達はいつも一緒よ」
少女がそう言うとケインは呆れる。
「勝手に決めるな」
「ちょっとアンタ答えなさいよッ!! ケインのナニッ!!」
詰め寄るルヴィアに少女はポッと頬を赤らめる。
「えっ、私……」
「ナニ赤くなってんのよッ!!」
「私、ケインの彼女です」
少女の発言にルヴィアはビックリ仰天する。
「カノジョォッ!!?」
「違う!! 俺に勝手につきまとっているだけなんだ。おまえいい加減どこか行けよ」
「ケイン、私はコリージュよ。いい加減に憶えて!」
「頼むから俺につきまとうのはやめてくれ」
「嫌よ。私、ケインのこと好きなの。一緒にいたいの!」
「うっとうしいんだよ」
それを聞いたコリージュはショックを受けた。
「ひ、酷いわケイン! 私のこと好きって言ってくれたじゃない!」
「あれはそういう意味で言ったんじゃない!」
即行否定するケインにコリージュは悲しそうな表情をする。
「おまえには世話になったけど、俺はおまえの気持ちを受け取れない」
「そーゆーコトよ。じゃーケインはやくランチに行きましょっ♪」
再びルヴィアがケインと腕を組むとコリージュはいきり立つ。
「あ――!!! あなた何してるの!!」
「もーウッサイわねッ!! ケイン、ほっといて行きましょっ!?」
「ダメよ!! ケインは私のなんだから!!」
コリージュがケインのもう片腕に抱き付いた。
「ちょっとアンタ離れなさいよッ!!」
「あなたこそ!!」
「なんですってェッ!!?」
ルヴィアとコリージュが睨み合い火花を散らした。
そんな2人にケインは困り顔でため息をつく。
「3人で行かないか」
ケインの発言にルヴィアは驚く。
「エッ!!? ケイン、コイツもいっしょなのッ!?」
コリージュを指差す。
「ああ。女がもめているのは耐えられない。やめてくれないか」
「私はいいわよ。ケインと一緒なら」
「あたしはヤよッ!! ケインとふたりで行きたいのッ!!」
「……まいったな」
ケインがポツリと言うとルヴィアはムッとする。
「それどーゆーイミよケインッ! あたしとふたりで行くのヤなのッ!?」
「そうじゃない」
「じゃーふたりで行きましょっ♪」
ルヴィアがケインと腕を組んで歩きだした。
「ったくシツッコイヤツねェ」
レストランでルヴィアが睨む先にはコリージュが笑顔で居た。
しつこい奴はどいつもこいつも大嫌いだ。不愉快でたまらない。
「私はケインといつも一緒なのっ」
なんて言うコリージュはまさに誰かにそっくりだ。
「あたしコイツによく似たヤツ知ってるわ。ソイツもちょーしつこくてヘンタイで大ッキライッ!!」
そこへウェイトレスがやってきた。
「ご注文はお決まりですか?」
「あっ、えっとねーココからココまでおねがいねっ♪」
メニューの端から端までを指で辿るルヴィア。
「はい!?」
ルヴィアの発言にウェイトレスだけじゃなくケインとコリージュまで目を丸くした。
ルヴィアはテーブルにズラッと並ぶ料理をもの凄い勢いでたいらげる。
「なぁ、おい……」
冷や汗を垂らしたケインが声をかけルヴィアは顔を向ける。
「なにっ?」
「君の格闘術は誰から習ったんだ?」
「ダレからもならってないわよ」
それを聞いたケインは驚く。
「エッ!!? てことは自己流か!?」
「そーよ」
「すごいな……。自己流であれほど強いなんて……」
感心するケインにルヴィアは得意顔になる。
「ホホホ、スゴイでしょっ!?」
「なぁ、1つ頼みがあるんだが」
そう言いケインはルヴィアに体を向けるように座り直した。
「あら、なにかしら?」
「俺、実は君の強さに惚れてしまったんだ。俺に、格闘術を教えてくれないか」
両手を合わせて頼み込んだ。
唐突なケインの発言にルヴィアとコリージュはビックリ仰天する。
「エッ!!?」
「ケイン!!? 何を言いだすの!!?」
「頼む、もっと強くなりたいんだ」
「今でも充分強いじゃない! なんで格闘術なの!? 剣術は!?」
尋ねたコリージュをケインは睨む。
「おまえは黙っててくれ。俺は女に負けたんだ。まだまだ強くなんかない。頼む、このとおりだ!」
再びルヴィアに懇願した。
「べつにいーわよ。じゃー剣士やめちゃうのね?」
「いや、そうじゃない。ただ格闘術の素早さや力強さを剣術に取り入れてみたいんだ」
「ふーん、そぉ。いーわ、このあたしが教えるからにはもっと強くなるわよっ!」
ルヴィアがウィンクした。
「そうか、ありがとう」
お礼を言ったケインをルヴィアはジッと見つめる。
「な、なんだ?」
顔を赤らめるケイン。
「やっと、あたしのカレシにふさわしー人に出会えたわ」
「えっ!?」
「あたし達、これからずーっといっしょよケインっ」
ルヴィアがケインに抱き付くとコリージュは立ち上がり慌てて2人の間に割って入ろうとする。
「やめてー!! ダメよそんなの!!」
「ウッサイわねッ!! ジャマしないでよッ!!」
「ケインに手を出さないで!!」
「そんなのあたしのカッテでしょッ!!」
ギャアギャアとケンカする2人にケインは冷や汗を垂らす。
「頼むからケンカはやめてくれ」
……このままじゃいけないと解っているが、不安だ。
街道を歩くランディの表情は暗い。
少し先のレストランからちょうど出てきたルヴィア、ケイン、コリージュにレーシアは気づく。
「あっ! あれ、お姉さまですよね!?」
「エッ!!」
それを聞いたランディは慌てて物陰に隠れ顔だけ出して確認した。
確かにルヴィアだ。だがまた自分の知らない男と一緒にいる事にショックを受ける。
……やっぱり、自分はもういないほうがいいのでは……。
落ち込んでいるランディにレーシアは歩み寄る。
「ランディさん、お姉さまのところに行きましょう?」
「えっ……。でも、どんな顔をしたらいいか……」
めちゃくちゃ弱気になっていた。
「素直に謝れば大丈夫ですよ」
「でも……」
「お姉さま――」
背後からレーシアの声が聞こえルヴィアは振り返る。
そこへレーシアが息を切らしながら駆け寄ってきた。
「レ、レーシア」
「……お姉さま。ランディさん、ものすごく反省しているの。仲直りしてあげて、お願い」
鼓動を沈めながらレーシアが言った。
ルヴィアはランディの名を聞いた途端、表情を険しくする。
「アイツのナマエ言わないでッ!! ゼッタイゆるさないわッ!! もーゼッコーよッ!!」
「そんな……」
「妹さんか?」
ケインがルヴィアに尋ねた。
「ええ」
「初めまして、俺はケイン。よろしく」
「あ、私はレーシアと申します」
「あたしのカレシなのっ♪」
ルヴィアが笑顔でケインの腕を抱きしめた。
「エッ!!?」
「違うわよ!!」
レーシアが驚きコリージュが否定した。
「お姉さま、これからどうする気なの?」
「え? トーゼン、ケインといっしょよーっ♪」
笑顔でケインの腕をギュッと抱きしめるルヴィア。
「じゃあ、これから2人で旅をする気?」
この前と一緒じゃない。
以前(TALE8)と同じ展開にレーシアが思った。
「私もいるんだけど……」
ポツリと呟くコリージュ。
「あ、そこまで考えてなかったわ」
「ルヴィアも旅をしているのか? それはいいな。俺も同行させてくれないか」
「エッ!!?」
ケインの発言にコリージュが驚いた。
「あら、ケインも旅してんの?」
「ああ。俺は兄貴に勝ちたくて、世界中のいろんな奴と剣で勝負しながら旅をしているんだ。いつか絶対、兄貴に勝つために」
「おにーさんに?」
「そうだ。兄貴は俺よりあとから剣術を始めたってのに、すぐ上達して俺より強くなっていったんだ。俺すごい悔しくて。兄貴が世界一の剣士になるって旅に出たから俺もあとを追って旅に出たんだ。あの頃より剣術の腕は断然上達したし、いつかどこかで兄貴とバッタリ会ったら、その時こそ負かしてやるんだ」
「ゼッタイ勝つわよっ! このあたしがついてんだから」
「ああ、勝ってみせる」
相変わらず物陰に隠れてルヴィア達を見つめているのはランディ。
ルヴィアに謝りたいが、なかなか勇気が湧いてこない。
「それじゃレーシア、あたし達もー行くわ。ココでおわかれね」
ルヴィアがそう言うとレーシアは悲しそうな表情をする。
「お姉さま、本当に行ってしまうの?」
「こんどはマジよ。これでもーアイツの顔見なくてすむわ」
「さっきから聞いていると、ルヴィアは誰かに何かされたようだな」
ケインが口を挟んだ。
「え? ヤダ、気にしないで」
「いいや。俺の師匠に嫌なことをする奴は癪にさわる。俺がそいつを成敗してやる」
「エエッ!!?」
ケインの発言にレーシアが驚いた。
「きゃー! ケイン素敵ー!」
1人黄色い声を上げるコリージュ。
「ケイン。あたしはシショーじゃなくて、カ・ノ・ジョッ!」
ルヴィアが不満そうに言った。
「ハハハ……。で、どこにいるんだ? そいつは」
苦笑いしてから尋ねたケインにルヴィアは首を横に振る。
「ううん、いーのよ。そのキモチだけでうれしーわ。それじゃレーシア、バーイ」
レーシアに手を振り歩きだす。
「あ……」
悲しそうなレーシアにケインとコリージュは会釈してルヴィアの後に続いた。
ランディは焦る。
ルヴィアが行ってしまう。もう迷っている暇はない。
決心して走りだした。
レーシアの横を通り過ぎる。
「ランディさん」
「ルヴィア――!!!」
ランディの声にルヴィアは一瞬、立ち止まりかけた。
ケインとコリージュは振り返る。
「ルヴィア、誰かが呼んでるぞ」
「いーのよ、はやく行きましょっ!」
ルヴィアが前を向いたままケインを促し走りだした。
「まッ!! 待ってくれーッ!! ルヴィア――ッ!!!」
ランディがルヴィアを追いかけた。レーシアもついてきている。
見かねたケインは立ち止まりランディに振り向く。
「なんなんだ貴様は!! ついてくるな!!」
ケインの声にルヴィアは背を向けたまま立ち止まる。
「おまえこそなんだッ!!」
ランディがムッとして言い返した。
「俺はケインという。ルヴィアに用があるなら俺を通してもらおうか」
「ル、ルヴィアって、気安く呼ぶなッ!! おまえルヴィアとどういう関係だッ!!」
「弟子だ」
「カレシよッ!!」
「だから違うわよ!!」
「なんだ?」
ケイン、ルヴィア、コリージュのバラバラな答えに訳の解らないランディ。
「貴様こそ何者だ」
「僕はルヴィアのフィアンセだ」
「ちがうって言ってんでしょッッ!!! もーいーカゲンにしてよッッ!!! アンタなんか大ッキライッッ!!! ゼッコーよッッ!!!」
ルヴィアが背を向けたまま言い放つとランディはうつむく。
その様子にケインは感づく。
「やはりそうか。ルヴィアに嫌なことをしたのはこいつなんだな? そうとわかれば貴様を成敗する」
ランディを睨みつけた。
「なんだとッ!?」
「見たところ貴様も剣士のようだな。俺と剣で勝負だ」
「剣で勝負ッ!? どうして僕がおまえなんかと戦わなくちゃならないんだッ!!」
ランディの発言にケインは呆れる。
「それが剣士ともあろう者の吐く台詞か? 剣士なら挑まれた戦いを受けて立て!!」
「……無駄な戦いはしたくない」
「何!?」
ルヴィアはランディを見ないように振り向く。
「フンッ! そんなコト言って逃げてるだけじゃない。そーよね、アンタは実戦ケーケンないんだもん。おとーさまとしかね。戦い積んできたケインと戦うだけ、ホントにムダよねー」
馬鹿にしたように言うとランディはカッとなる。
そのとおりなのだ。彼は剣術を教えてくれたマックスとしか剣を交えた事がない。
「実戦経験がない!? この男が!? そんな奴がいたなんて剣士の称号を得る資格もないな。それなのに鎧なんか身に着けやがって。3流剣士の相手なんかしてられるかよ」
呆れに呆れたケインは振り返った。
ランディは顔を伏せて震えていた。
「待てッ!!」
「……なんだ3流剣士」
ケインが見下した目つきで振り返る。
「やってやるよ。おまえに絶対勝ってみせるッ!!」
「言ってくれるな3流剣士が」
「おまえに勝って僕はルヴィアを取り戻すッ!!」
ランディがルヴィアに目を向けた。ルヴィアはツンッと顔を背ける。
「ゼッタイにムリね。みっともないからオーミエきんないほうがいーわよ」
「貴様のような3流に負けたら一生の恥だ」
ルヴィアとケインに言われランディは更に腹が立ったのだった。
【TALE23:END】