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TALE21:ランディ生け贄になる!?

 吹く風は潮の香りがするポートタウン。澄んだ青空にカモメが数羽飛んでいる。太陽の日差しは暖かくて心地良い。


 そんなポートタウンの街道をルヴィア達は行く。

 赤ちゃんをおぶった若い母親がルヴィアの横を通り過ぎた。赤ちゃんはルヴィアに向かって手を伸ばしている。

「きゃあ〜っ! カワイイ〜っ!」

 ルヴィアとレーシアが同時に赤ちゃんに駆け寄った。

「あらよかったわねー。お姉ちゃん達にかわいいって言われてー」

 母親が肩越しに赤ちゃんに言う。

 ルヴィアが笑顔で赤ちゃんをあやしている様子をランディは遠目に見つめていた。

「それではすいません。少し急ぎますので」

「あ、はい」

 レーシアが返事をすると母親は会釈えしゃくして立ち去った。

 笑顔で赤ちゃんに手を振るルヴィアの背後にツツツと寄るランディ。

「ルヴィア、赤ちゃん好きだったのか?」

「好きよ。カワイイじゃない」

「ルヴィアの子だったら、もっとかわいいよな」

「トーゼンよ。あたしのコは世界イチ、カワイイわよ」

「僕との子だったら、もっともっとかわいいよな」

「そりゃそーよっ!……エ?」

 嫌な予感がしたルヴィアは冷や汗をかきつつ振り向く。

 ランディは目をピカーと光らせていた。

「ルヴィア〜〜!! 子供を作ろぉ〜〜うっ!!」

「キャアア――ッッ!!!」

 目をハートにしたランディがルヴィアを押し倒さんばかりの勢いで飛び付いた。

「こッ!! このヘンタァァ――イッッ!!!」

 ルヴィアがランディの腕を掴み空高く放り投げた。ランディはまたも星となった。



「お待たせしました」

「待ってましたーっ♪」

 レストランでテーブルにズラリと並ぶ料理を前にルヴィアが瞳を輝かせた。

「さー食べるわよー」

 瞳をキラキラと輝かせてナイフとフォークを握る。

「あんまり食べ過ぎるなよ」

 目前で呆れているランディ。

「いっただっきまーすっ♪♪」

 ルヴィアが料理にナイフとフォークを伸ばした。

 次の瞬間、男が吹っ飛んできてテーブルをガシャーンと倒し料理は全て床に落ちてしまった。

「キャー!!」

 驚いたレーシアが離れランディはワンテンポ遅れて驚く。

「ウワアッ!! なんだッ!!?」

 何やら店内が騒がしい。

 ランディとレーシアが男の飛んできたほうを見ると数人の男が乱闘中だ。周囲のテーブルと椅子は倒され他の客は壁際に寄っている。

「りょ、料理が……」

 ルヴィアが床に無惨に飛び散った料理を呆然と見つめていた。

 そこに倒れていた男は痛々しく起き上がると乱闘しているほうへ戻っていった。

「あたしのッ!! 料理ィィ〜〜」

 顔を伏せたルヴィアは怒りが込み上がり、体をワナワナと震わせ始める。額には青筋がピキピキッと幾つも立った。

 その様子にランディは冷や汗をかく。

「ル、ルヴィア。落ち着けっ」

「ゆゥるゥさァなァ〜〜い」

 悪魔のような恐ろしい形相で立ち上がり乱闘している男共を睨みつけた。

「アンタ達ィ〜〜!!!」

 ルヴィアの声に男共は乱闘に夢中で気づかない。

「あたしのハッピーなランチタイムだってのにふざけんじゃないわよォッッ!!! オシオキしてあげるわッッ!!!」

 ルヴィアが右手を突き出した。それを見たレーシアは焦る。

「お姉さま!! こんな所で精霊術なんて!!」

 だが怒りの募ったルヴィアにレーシアの声は届かない。

『吹き荒ぶ風の精霊よ…鋭き刃となれ!!』

 体が淡く輝き瞳は淡く輝きながらエメラルドグリーンに染まる。

 髪はうねりルヴィアの前に一筋の風渦が現れた。

「『ウィンド・ブレード』ッ!!」

 風の刃が瞬時に男共の体を切り刻む。

「ウギャアッ!! イテェー!!」

「なんだこりゃあ!!」

 突然の事に男共は驚く。体のあちこちが切り刻まれ流血する。

「この!! 何しやがる!!」

 男がルヴィアを睨んだ。

「なんですってェッ!!? それはこっちのセリフよッッ!!! あたしの料理返しなさいよッッ!!! 『ウィンド・ブレード』ッ!!!」

「ギャアア〜〜!!!」

 2発目を食らい溜まらず逃げだす男共。



 テーブルに料理がズラッと並ぶ。


「きゃーっ♪ いーのっ!? ゴチソーなって!」

 瞳を輝かせたルヴィアが言う。

「いいのですよ。あの連中を追い出してくれてどうもありがとうございました。あの連中はいつもいつもやってきては暴れていって本当に困っていたのです。あれで懲りてくれたらよいのですが」

 そう言うのはレストランの主人だ。

「そうだったんですか」

 ランディとレーシアは話を聞いていたがルヴィアはもはや料理に夢中だ。

「ところで、先ほどの不思議な術は一体……?」

 主人が尋ねたがルヴィアは料理に夢中で聞いちゃいない。

「あれは精霊術です」

 代わりにレーシアが答えた。

「セイレイジュツ……?」

 初めて耳にする言葉に目をパチクリさせる主人。

「あ、あの! そのセイレイジュツという不思議な術を見込んで、どうかお願いしたいことがあるのですが」

「お願いですか?」

「怪物を退治してほしいのです」

「かッ!! 怪物ゥーッ!!?」

 驚きの声を上げたランディにルヴィアは反応し手を止めた。

「エッ!? カイブツがどーかしたのッ!?」

「この人が怪物を退治してくれって」

 それを聞いたルヴィアは顔をしかめる。

「エッ!!? なんでッ!!?」

「どうかお願いします!! このタウンをお助けください!! 怪物を退治してくれましたら、お礼にお好きなだけごちそうします!!」

 主人がルヴィアに懇願した。

「あらホントっ!?」

 ルヴィアが瞳を輝かせる。

「それじゃ退治してくれるのですね!?」

「え、でもね……」

 気が進まない様子のルヴィア。

「お姉さま……」

 レーシアに見つめられるとルヴィアは弱い。

「しかたないわねェ。で、そのカイブツはドコにいんの?」

「3日後の夜やってくるのです。その日は年に1度、怪物に生け贄を捧げる日でして、その生け贄が今年はなんと家の1人息子なのですー!!」

 主人がワーっと泣きだしルヴィア達は驚く。

「いッ! イケニエーッ!!?」

「その怪物は生け贄を捧げないとタウンまで襲ってくるのです。捧げればおとなしく帰っていくのですが。そのために毎年、美少年が犠牲になっていくなんて、美少年を持つ親は毎年気が気でなくて……」

「はあッ!!? 美少年ッ!!?」

 今度は顔をしかめる。

「怪物は美少年が好みなのです。美少年でないと、それでも暴れるのです。困ったものですよ。それで、今年はタウン1の美少年に家の1人息子が選ばれてしまって……。怪物に捧げてしまうなんてもったいないくらいの美少年なのです」

「ヘンなカイブツねー。で、ムスコさん今どーしてんの?」

「部屋でずっと泣いています」

「そぉ。でもね、やっつけるヒツヨーなんてないわよ」

 冷静に言うルヴィア。

「どういうことだ?」

 尋ねたランディをチラっと見る。

「美少年かどーかわかんないけど、イケニエの代わりならココにいるわっ!!」

 ランディをビシッと指差した。

「なッ!! なんだってェーッ!!?」

 ルヴィアの発言にランディがブッとぶ。

「何言っているのよお姉さま!!」

「ランディッ!! 男ならイケニエの1度や2度、ドンと引き受けなさいっ!!」

「バカ言うなッ!! 1度引き受けたら死んじまうだろうがッ!!」

「それでもいーじゃないっ。みんなのギセーになって死ぬ。ステキよ……」

 ルヴィアが両手を握り合わせてウットリとした表情で言う。

「素敵か……」

 真に受け考え込むランディにレーシアは慌てる。

「ランディさん!! 考え込まないでください!!」

「その人じゃ駄目です。言ったでしょう? 美少年でないと駄目なのです」

 主人がそう言うとランディの額に青筋が立ち怒り狂う。

「どういう意味だッ!!」

「お願いします、退治してください」

「……わかったわよォ」

 頼み込む主人にルヴィアは嫌々ながら承諾した。

「本当ですか!? ですが、退治するにも怪物を引き寄せるおとりがいなくてはなりませんね。息子を呼んできます」



 しばらくすると主人と妻らしき女性と少年がやってきた。少年は顔を伏せている。

「私達の息子です。ご挨拶なさい」

「初めまして……」

 顔を上げる少年。

「エッ!?」 

 ルヴィア達はビックリして目が点になり口はポカンと開いてしまった。

 少年は輪郭は丸くまだ子供だが、大きな瞳がキラキラとして睫毛が長い、鼻は高くて彫りの深い濃ゆい顔だった。


 これが美少年?

 ルヴィアの顔が青ざめ片手でウップと口を押さえた。

「どうです? 美少年でしょう」

「ドコがよッ!!」

 ルヴィアがハッキリ言うと主人一家はガビーンとショックを受けた。

「エエッ!!? 美少年でないと!!?」


 この一家の美的感覚は狂っているらしい。いや、この少年を選んだポートタウンの町人もか?


「失礼ですわ。私達の自慢の1人息子なのに……」

 妻がハンカチを目に当て泣きだす。

「……とにかく息子が囮をいたしますので怪物が現れた時、あなたのセイレイジュツでドカーンとやっつけてください」

「お父さん、おとりだって嫌だよ」

 息子が不安そうに言う。

「大丈夫だ。この方が退治してくれるから」

「……そーだわっ! オトリをアンタやんなさいっ!」

 思いついたルヴィアがまたもランディを指差した。

「エエーッ!!?」

「アンタたまには役に立ちなさいよッ!!」

「駄目ですって。その人だと怪物が暴れるのが目に見えています」

 主人に再び言われランディはムカッとする。

「なんだとーッ!! 暴れるかどうか、僕で試してみようじゃないかッ!!」

 頭に来たランディがついに囮役を買って出た。

「よく言ったわ」

 ルヴィアは感心したがレーシアは不安そうな表情をする。

「ランディさん、いいんですか?」

「ああ、僕もやるときはやるってところを見せないとな」



 3日後の夜。

 運命の時が来た。


 暗い海の広がるビーチには突き立てられた太い木の柱。両サイドにキャンプファイヤーが2つあり炎がゴォゴォと燃え上がる。周囲にはこういう事が好きな野次馬やじうまも集まった。


「ルヴィア頼むぞ。怪物が現れたらすぐやっつけてくれよな」

 上半身裸のランディがルヴィアに言う。

「ランディ……。これでアンタともエイエンにおわかれなのね。サヨナラ」

 ルヴィアの発言にランディは驚き目を丸くする。

「はあッ!!? 何言ってるんだよルヴィアッ!! まッ!! まさか僕を助けないつもりじゃないだろうなッ!!」

 両腕をブンブンと振りうろたえた。

「だってランディ、イケニエになるケッシンついたんでしょ? 男らしーわ」

「ちっがーうッ!!! 囮だ囮ッ!!!」

「ランディさん、そろそろ準備をしますのでこちらに来てください」

 主人がランディに声をかけた。

「ちょッ! ちょっと待ってくださいッ!」

「そういうわけにはいきません。時間には厳しいのです」

 2人のマッチョな男がそれぞれランディの腕をガシッと掴む。

「ワアーッ!! ルヴィアーッ!!」

 涙を流したランディはビーチを引きずられていった。



 ランディは木の柱に縛り付けられた。

 辺りは皆避難しランディだけが1人ポツンとビーチに取り残された。

 心細い。

 ルヴィアは本当に自分の事を助けないつもりなのだろうか。そんなに自分はルヴィアにとってどうでもいい存在なのか……。

 悲しさと不安で胸が潰れそうになり涙が込み上げる。

 いや、そんなはずはない。ルヴィアはきっと助けてくれる。

 気を強く持ち直し、涙を堪えて顔を上げた。



「お姉さま冗談よね!!? ランディさんを助けないなんて!!」

 精霊術『レビテイト』でランディの上空に浮くレーシアがルヴィアに問い詰めた。

「……マジだったら?」

「お姉さまと縁を切って私がランディさんを助けるわ!!」

 強い口調で言うレーシアにルヴィアはキョトンとする。

「できんのー? あんたに」

「できるわよ!!」

「じゃーやってみなさいよ」

 ルヴィアがそう言うとレーシアの表情がこわばる。

「……それって、私と縁を切るつもり?」

「そーじゃないけど、たまにはあんたの精霊術見せてもらおーと思ってね」

「私、精霊術を使うの好きじゃないのよ!」

「そんなコト言って、こーゆー時のためにあんじゃない。ジブンのタイセツな人まもるためにっ!」

 ハッとするレーシア。

 ルヴィアの言葉に心打たれた。



 暗い海を見つめるランディは次第に海面が盛り上がってくる様子が解った。

「ウワアッ!! ついに怪物がッ!!」

 ランディの顔が青ざめた。

 海面から得体の知れない巨大な物体が頭を出しランディへと近づいていく。

「あっ……。うっ……」

 恐怖に怯えるランディの目には涙が溢れていた。



 ルヴィアとレーシアも空から怪物を確認した。

「ついに来たわよッ!」

 ルヴィアが声を上げた。

「レーシア、どーすんのッ!?」

「…………」

 無言でレーシアはビーチに降下していった。



「ううっ……」

 怯えるランディの前にレーシアが着地する。

「ランディさん」

「レーシアちゃんっ! ルヴィアはっ!!?」

「私が、ランディさんを助けます」

「エッ!!?」

 レーシアは海に向き直った。

 徐々に迫ってくる怪物を前に緊張気味にアイルーン・ロッドをグッと握る。

 ランディの横へルヴィアが着地した。

「ルヴィアッ!! どういうことだッ!!? なんでレーシアちゃんがッ!!」

「まー見てなさいって」

 慌てるランディにルヴィアが落ち着いて言った。



 ついに巨大な怪物は海から上がりレーシアの前に立ちはだかった。

 ランディの左右に焚かれたキャンプファイヤーの炎で怪物の姿が明らかになる。

 黒光りした丸い体。パッチリとした大きい目に長い睫毛。真っ赤で分厚い唇。そしてツルツルの人間じみた脚。ん? 見覚えがないか?


 怪物を目の当たりにしたランディとレーシアの顔から血の気が引く。

「ウギャア――ッッ!!! なんだこの化け物ォッ!!!」

 ランディが叫びルヴィアは怪物をジッと見つめる。

「……あれ? このカイブツ……」

「…………」

 一方レーシアは真っ青な顔のまま硬直していた。

「そーよコイツッ!! あたしがあの時やっつけたッ!! そんなッ!! 生きてたのッ!!?」


 以前(TALE5)マーメイドに怪物に飲み込まれた仲間を助けてほしいと依頼された時に退治した怪物の事だ。

 だがあの怪物とは微妙に違っている部分がある。頭にリボンを付けている点と足に毛が生えていない点だ。メスという事か?


「カクジツにあたしの精霊術くらったのに生きてるなんて……」

「いッ!! イヤアァァ――――!!!!!」

 突然、髪を逆立て涙を流したレーシアが絶叫し猛ダッシュでビーチを走りだした。ルヴィアとランディはビクッとすくむ。走るのが苦手な彼女だが火事場の馬鹿力というものはあなどれない。

「レーシアッ!!? ドコ行くのよッ!!」

 ルヴィアが慌てて追いかける。

「エエッ!!? おいッ!! 僕を1人にしないでくれェェ――ッッ!!!」

 ランディが叫んだがルヴィアは構わずレーシアを追いかけていった。

「そ、そんな……」

 涙を流すランディの前に怪物の顔が迫る。

「エッ……」

 ランディは恐る恐る向き直るとビビッた。

「ヒィッ!!!」

 怪物は真っ青な顔でガタガタと震えるランディをジッと見つめる。目をハートにしてポッと顔を赤らめた。

「いッ!!?」

 驚くランディを目をハートにしたままベロンっと舐め上げる。

「ウゲェェ〜〜!!」

 あまりの恐怖にランディは白目を剥きガクッと気絶してしまった。



 ランディからだいぶ離れたビーチでうずくまり震えているレーシアにルヴィアは呆れ、ため息をつく。

「レーシアッ!! 逃げてどーすんのよッ!! はやくカイブツやっつけなさいよッ!!」

「……で、でも私……。ああいうの苦手なの……」

 うずくまったレーシアがガタガタと震えながら小声で言う。

「あたしだってニガテよッ!! だからってこのままでいーのッ!!? はやくしないとランディ食べられちゃうわよッ!!……もー手おくれかもしんないわ」

 それを聞いたレーシアは立ち上がり振り向く。

「そんな!! どうしたらいいの!!?」

 目には涙が溢れていた。

「どーしたらいーのって、ほっとくワケにいかないでしょッ!! バカねッ!! ほらサッサと行くわよッ!! 『レビテイト』ッ!!」

 風をまとい怪物の元へ向かう。



 怪物の元へ戻ったルヴィアとレーシアは目前の光景に目を見開き驚愕する。

 ランディの縛り付けられていた木の柱を怪物がくわえていたからだ。

 2人に振り向くいた怪物はそのままゴクリと飲み込んだ。

「おそかったみたいね……」

 ルヴィアが呟くとレーシアは顔面蒼白になり膝を付く。

「……そんな、そんなランディさんが……。私の、私のせいだわ。イヤァァ――!! ランディさぁ――ん!!」

 両頬を押さえて泣き叫ぶ。

「落ちついてレーシアッ!! ランディきっと生きてるわッ!!」

「えッ!? でも……ランディさんは怪物の中よ……?」

 涙を流したレーシアがルヴィアを見上げた。

「ダイジョーブ、助けられるわ」

「どうするの!?」

 仕方ない。以前と同じやり方で倒すしかない。

「レーシアッ!! アイツん中入んのよッ!!」

 ルヴィアの発言にレーシアは目を見開く。

「エエッ!!? 入るの!!?」

「そーよッ!! そして中から精霊術使って殺すのよッ!!」

「え……。ええッ……」

 青ざめた顔で怪物をチラっと見る。

「うッ! 私はダメ……。お姉さまお願い……」

 片手で口を押さえるレーシアにルヴィアは激怒する。

「ジョーダンじゃないわッ!! なんでこのあたしが2度もカイブツん中入んなきゃなんないのよッ!!」

「だって……」

「あまえんじゃないわよレーシア。ランディが食べられたのはあんたのセキニンなのよ。だったらジブンでカタつけなさいッ!!」

 姉としてビシッと言う。

「お姉さま……」

 怪物は海に向かい歩き始めた。

「あッ!! アイツ海にもどる気だわッ!!」

「えッ!?」

 レーシアも怪物を見る。

「あんたがモタモタしてるからよッ!!」

「そんなことを言ったって。ど、どうしたら」

「とにかくアイツ止めなきゃッ!!」

 ルヴィアは走りだし怪物の前に躍り出た。

「チョット待ちなさいッ!!」

 両腕を開くと怪物は立ち止まり何やら口をモゴモゴと動かし始める。

「?」

 キョトンとするルヴィアに怪物は口から何かペッと吐き出した。

「ギャアッ!!」

 慌てて避けると、それはビーチにベチョッと落ちた。なんとそれは痰だった。

 それを見たルヴィアは怒りが込み上がり拳をワナワナと震わせ怪物を睨みつける。

「ゆるさない……。このあたしによくもあんなキタナイモノ飛ばしたわねェ〜〜!!? 予定ヘンコー今すぐ殺すッッ!!!」

 ルヴィアが両手をバッと開いた。

『吹き荒ぶ風の精霊よ!! 我が意の全てを裁きたまえ!!』

 体が淡く輝き瞳は淡く輝きながらエメラルドグリーンに染まる。

 ルヴィアの前に一筋の風渦が立ち上り空がピカッと光る。

「『サンダーボルト』ッ!!」

 空から闇にまばゆい激しい稲妻が落下し怪物を直撃した。

 怪物は白目を剥き、その場に倒れ感電死した。

「お姉さま!!」

 レーシアが駆け寄ってきた。

「代わりにやってやったわよ。カンシャしなさい」

「え、ええ。でも……ランディさんは……」

 ルヴィアはハッとする。

「あ、忘れてた……」

 冷や汗を垂らした。



「『ウィンド・ブレード』ッ!!」

 風の刃で怪物を切り刻む。

 ルヴィアは怪物の体内からランディを救出した。



「ランディさん!!」

 ビーチに横たわるランディにレーシアが呼びかけたが無反応だ。

 ランディの脈を取ってみる。

「脈はあるわ」

「キゼツしてるだけね」

「よかった……」

 ホッとする2人だった。



 次の日。

 長年悩まされ続けた怪物が退治されポートタウンに平和が訪れた。

 大宴会が行われ町人は昼間から酒を飲み、お祭り騒ぎだ。

 料理と酒が振る舞われご機嫌のルヴィア。

 大宴会は夜まで続いた。



 次の日。

「怪物を退治していただき本当にありがとうございました」

 主人一家がルヴィア達にお辞儀した。

「よかったわね」

「もっとゆっくりしていかれればよろしいのに、もう行ってしまわれるのですか」

「うん。はやくいろんなトコ行ってみたいし」

「そうですか。ではまたいつでもお立ち寄りください。大歓迎いたします」

「ありがと」

「お料理ごちそうさまでした。おいしかったです」

「ごちそうさまでした」

 レーシアとランディが言った。

「ありがたいお言葉をいただき光栄でございます。私の料理をお気に召していただけたなら、お越しの際はぜひレストランのほうへいらしてくださいね」

「お待ちしておりますので」

 夫婦が笑顔で言う。

「ええ」

「お姉ちゃん達、また来てね」

 顔の濃ゆい息子がキラキラした瞳で見つめるとルヴィアは冷や汗を垂らす。

「あ……。うん」

 どうも苦手だ、この子。



 主人一家に見送られポートタウンを後にしたルヴィア達だった。チャンチャン♪



【TALE21:END】

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