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TALE19:幼なじみの本性



※警告※


今回のお話は一部に惨酷な描写が含まれます。

苦手な方はご注意ください。



 エレンティア家のティナの部屋。

「まだトリガー君がいるのよ」

 困り顔で言うのは母だ。

 リッドが追っ払ったにも関わらず、まだルヴィアを待っているようだ。

「シツコイヤツだなーッ! バカ兄キみたいだ。ムシだよムシッ!」

 不愉快そうに言うリッド。

「あたしガツンと言ってきてやるわ」

 ルヴィアが立ち上がった。

 無視などしょうに合わない。ハッキリ言わなきゃ気が済まないのが彼女だ。



 ルヴィアは家のドアを勢い良くバンッと開けた。ガンッと何かが当たる音がした。

「イテテ」

 ドアの裏でトリガーが片手で顔を押さえていた。

「何しやがんだよ……」

 低い声でトリガーが呟き手をどけるとルヴィアの姿を発見する。

「ルヴィアさん!」

 何事もなかったように言った。

「なんの用ッ!?」

「俺、どうしても君に逢いたくて」

「あたしは会いたくないわよ」

「そんなこと言わずにさ。これ受け取って」

 トリガーが薔薇のブーケを差し出す。

「あら」

「ルヴィアさんに1番ふさわしい花だと思って」

「ホホホ、よくわかってんじゃない。もらってあげてもいーわ」

 気を良くしたルヴィアはブーケを受け取った。

「よかったら、これから俺とデートでも」

「はあッ!?」

 ルヴィアが顔をしかめた。

「ジョーダンじゃないわよ。なんであたしがアンタなんかと」

「……ルヴィアさん、ワイン好きだったよね」

「ワインっ」

 その言葉に素早く反応してルヴィアの瞳が輝く。

「家になかなか手に入らない希少なワインがあるんだ。ぜひルヴィアさんに飲んでほしくて。せめて1杯だけでもどう?」

「いーわねっ♪」

 すっかり弱点を見抜かれている。トリガーの誘いに簡単に乗ってしまうルヴィアだった。



 ルヴィアはトリガーの家に居た。

 シックなインテリアのリビングルーム。

 テーブルに着いたルヴィアの前のワイングラスにトリガーはワインを注ぐ。

「どうぞ」

「いただくわ」

 ルヴィアはワイングラスを手にして一気に飲み干した。

「ナニコレちょーマッズーイ」

 顔をしかめたルヴィアにトリガーはクスッと笑う。

「そうだろうね。そこらの安物ワインだからさ」

 それを聞いたルヴィアはトリガーを睨む。

「なんですってッ!!? アンタなかなか手に入らないワインだって言ったじゃないッ!!」

 トリガーはクスクスと笑っている。

「うッ」

 突然ルヴィアのまぶたがズンと重くなった。

 耐えられない睡魔が襲い、目が開けられない。

 そのまま意識をなくすルヴィア。



 街道を走りながらドミニオはため息をつく。

 まいった。

 部屋に入ったら、いきなりドリスに迫られた。

 あんな大胆なだとは思わなかった。なんだかショックだ。



 エレンティア家。

 ドミニオはティナの部屋のドアを開けた。

「ただいまー」

「あっ、お兄ちゃん」

「お帰りドム」

 ティナとリッドが声をかけた。

 部屋を見回したドミニオはルヴィアが居ない事に気づく。

「あれ、プリンセスは?」

「どっか行っちゃったんだ」

「どっかって?」

「わかんないの。さっきトリガーさんが来たから一緒だと思ったんだけど」

 ティナがそう言うとドミニオは驚く。

「トリガーッ!?」

「うん。トリガーさんがプリンセスに会いたいって来たの。プリンセス断りに行ったのに戻ってこないから心配になっちゃって。トリガーさんち行っても知らないって言うし」

 それを聞いたドミニオの表情が険しくなる。

 部屋を飛び出した。



 トリガーの家はエレンティア家程はない普通の家。


 ドアを開けたトリガーはドミニオの姿を見るなり口を開く。

「ドムじゃないか。なんでここにいるんだよ」

「トリガー、さっきプリンセスと会ったんだろ」

「会ったけど」

「プリンセスがいなくなっちまったんだ。どこに行ったか知んねーか」

「知らないよ。さっきティナちゃんとクソガキにも聞かれたけど」

 淡々と言うトリガーをドミニオは不審に思う。

「……ホントか?」

「なんだ、疑うのか? 親友の俺を」

「知らねーわりにゼンゼン心配してねーじゃねーか」

「別にあんな女、もういいしね。それよりおまえ、どうだったんだよ」

「なにが」

「ドリスに会ったんだろ? あいつなんだって?」

 ドリスの話題にドミニオはギクッとする。

「そ、そんな話今いーだろ。オレ、プリンセス捜してくる」

 逃げるように走り去った。



 夕暮れ。

 エレンティア家。

「お兄ちゃん!!」

 帰ってきたドミニオに血相を変えたティナが駆け寄った。

「どーしたティナ。あ、プリンセスは帰ってるか?」

「それが、ティナあまりにも心配だから水晶球で捜してみたの……」

「おうサンキュー。で?」

「プリンセスはトリガーさんちにいるわ」

「なんだってッ!!?」

 ドミニオが目を見開いた。

「なんか寝てるみたいだった……」

「寝てるッ!?」

「うん」

 どういう事だとドミニオは思ったが、それより先に込み上げてくるものがあった。

「……アイツ、嘘ついてたのか」

 怒りで体を震わせる。

「お兄ちゃん……」

「行ってくる」

 静かに家を出ていくドミニオだった。



 再びトリガーの家を訪れたドミニオだが先程とは様子が違う。

「ルヴィアさんは見つかったのか」

「……テメー嘘つきやがったな」

 顔を伏せたドミニオが低い声で言う。

「何が?」

「プリンセスはここにいんだろッ!!」

 顔を上げて怒りの表情で睨みつける。

「トボけたってムダだぜ。ティナが水晶球で見たんだからな」

「…………」

「プリンセスを返せ。今ならまだ許してやる」

 爆発しそうな怒りを抑えてドミニオが言うがトリガーはひるまず逆にフッと笑う。

「おまえ、ドリスに迫られて逃げたんだって?」

「なッ!」

 唐突なトリガーの発言にドミニオが驚く。

「これだからおまえは……。ドリス泣いてたぜ。逃げるなんて酷い奴だなおまえ」

「なんで……」

 何故知っている?

 ドミニオが動揺した。

「おまえにはドリスがいるじゃないか。もうルヴィアさんのことはいいだろ」

 トリガーがそう言うとドミニオはカッとなる。

「ざっけんなッッ!!!」

 ドミニオの迫力にトリガーはビクッとすくむ。

「早くプリンセスを返せ。さもないとオレなにするかわかんねーぞ」

 鋭い目つきで睨みつけるドミニオ。

 その本気でキレている様子にトリガーは冷や汗をかく。

「何熱くなってるんだよ。それより早くドリスに逢いに行ってやれよ」

「ウルセーッ!! もーオレはドリスさんのことなんとも思っちゃいねーって言っただろッ!!」

「じゃあどうして逢いに行ったんだ? なんとも思ってなかったら部屋に入るのか?」

「それはなりゆきでそーなっちまったけどッ。そんな話いーんだッ! とにかく早くプリンセス返せよッ!!」

 ドミニオがトリガーの胸ぐらを掴んだ。

 冷や汗をかいたトリガーはため息をつく。

「わかったよ。こっちに来いよ」



 ドミニオとトリガーは裏庭へ回った。

 そこに木製の小屋がある。

「おまえ、俺の気持ちに気づいてなかったのか」

 歩きながらトリガーが言う。

「オメーの気持ち? プリンセスのこと好きなんだろ」

「ああ。あんなすごい美人、初めて見たしね。そこらの女とは別格だよ」

「そりゃーな」

「でもそうじゃない。俺が女とつきあっても、なんですぐに別れるかわかるか?」

「それは彼女とあわねーからじゃねーのか」

「違うよ。おまえといるほうが楽しいから、おまえのことが好きだからだよ!!」

「なッ!」

 トリガーの衝撃発言にドミニオが目を見開いた。

「なに言ってやがんだ気持ちワリーなッ!!」

 ドン引きして言う。

「男の俺がおまえを好きだって変だと思うか?」

「ったりめーだろッ!! いろいろ思い当たることあったけどよ、オレ気のせいだと思ってたんだぜッ!!」

 思い当たる事とは。

「俺も最初は変だと思ったさ。ガキの頃からおまえとつるんでる内に、俺のおまえに対する気持ちはいつしか恋だと気づいた。俺は悩んだ。いろんな女とつきあって忘れようと思った。でも女といても楽しくないし好きになれない。やっぱりおまえといるほうがずっと楽しいんだよ」

 それを聞いたドミニオはイヤーな顔をする。

「でっ、でもオメー、今はプリンセスが好きなんだろっ!?」

「彼女は俺にとって特別さ。初めて女に興味を持った。昨日ルヴィアさんに出会ってずっと気になって眠れなかったんだ」

 トリガーの想いを知りドミニオは複雑な気持ちになる。

「トリガー……」

「わかってくれるか」

「プリンセスの気持ちは? プリンセスもオメーと一緒にいたいっつーならオレはあきらめる」

「彼女は俺といるしかないのさ」

 怪しく微笑むトリガー。

「なんだそれ。プリンセスに会わせろよ。直接聞く」

 ドミニオがそう言うとトリガーはため息をつく。

「わかった。そこの小屋さ」

 木製の小屋に振り向く。

「そこにプリンセスがいるのか?」

「ドム」

「えっ?」

 声をかけられドミニオが振り返ると鼻にハンカチを押し当てられた。

 気絶するドミニオ。強い薬品を嗅がされたようだ。



 ドミニオの顔に水がバシャッとかかる。

「ん……」

 意識を取り戻したドミニオは目を開ける。

「お目覚めか」

 聞こえた声に顔を上げる。

「トリガーッ!」

 目前にトリガーが居た。

 更にトリガーに腰を抱えられ目を閉じているルヴィアに愕然とする。

「プリンセスッ!!」

「その前に今の自分の状況に疑問はないか」

「!? なんだこれッ!!」


 壁のキャンドルだけが頼りの暗い小屋。

 左右に灯るキャンドルの壁際でドミニオは膝を付き、足首と横に伸ばした手首が枷にはめられ鎖で壁に繋がれている。


「ククク……」

 トリガーが笑う。その笑いは決して愉快から出ているものではない。

「どーいうつもりだッ!! プリンセスになにしたッ!!」

「強力な薬を飲ませた。いわゆる昏睡状態ってやつさ」

「なんだとッ!!?」


 ルヴィアはまるで死んでいるかのように静かに眠っている。というより意識がないといったほうが正確か。相当強力な薬を盛ったのだろう。


「彼女をずっと手元に置いておくためには手っ取り早いと思ってね」

「テメー頭おかしーんじゃねーかッ!! そんな奴だったとは思わなかったぜッ!!」

 信じられなかった。いや信じたくなかった。子供の頃からつるんできた親友がまさかこんな事をするとは信じたくない。

 トリガーはピクッと反応する。

「言ってくれるなドム。いいだろう、少し懲らしめてやるか」

 ルヴィアを床に寝かせると革製の鞭を手にしてドミニオに歩み寄る。

「な、なんだそれ……」

 初めて目にする鞭に嫌な予感がしドミニオは冷や汗をかく。

「ウィップだよ、こうやって使うんだ」

 トリガーが鞭を振るいドミニオの体を叩く。

「ぐあッ!!」

 激痛が体を走り一気に気絶しそうになった。それは格闘術をやっている彼でも味わった事のない激しい痛み。殴られた時とは訳が違う。全身を駆け抜ける痺れるような痛みだ。

「痛いかドム」

 鞭を振るい続けるトリガー。痛ぶる事を楽しんでいるようだ。

「がはあッ!!」

「いい声だ。ゾクゾクしてくる。もっとわめきな!!」

 容赦ないトリガーの鞭にドミニオは苦痛の叫びを上げ、治まると首をグッタリと落とした。服は鞭で裂け鮮血が滲む。

 トリガーは鞭のでドミニオのあごを持ち上げる。

「痛かったか?」

 ドミニオはゆっくり目を開ける。

 自分を見据え口元だけ笑っているトリガー。その表情はもはやドミニオの知っている彼ではなかった。彼は変わってしまったのか。そうではない、本性を知ってしまったのだ。何故こんな事になってしまったのかとドミニオは胸が張り裂けそうになる。

「……テメー、変態だな……」

 こぼれてしまった言葉にトリガーはカッとなる。

 再び鞭を振るいドミニオの体を叩き始めた。

 ドミニオは歯を食いしばり気が遠くなりそうになりながらも激痛に耐えた。

 目前で狂ったように鞭を振るう親友に、体に負った傷と痛みより心に負った傷のほうが深く刻まれた。

「……これぐらいにしといてやるよ」

 トリガーの鞭が治まった。

 ドミニオは苦しそうに息を荒げている。

 意識は取り留めた。だが服はボロボロで元の形さえ解らない。

 傷の上から傷つけられ裂けた皮膚から流血している。

「おまえに1つ教えてやる。ドリスにな、おまえに迫らせたのは俺だぜ」

「!!」

 トリガーの発言にドミニオが反応した。

「考えてもみろよ。ドリスがおまえのことを好きなはずないだろ。ドリスが惚れてるのは俺なんだからな」

 それを聞いたドミニオは震えながら顔を上げてトリガーを見る。

「簡単だったぜ。おまえのことが忘れられないって言ってやったら単純に喜びやがった。俺とやり直したかったら、ドムに気のある素振りをしてやれってな」

「な…んで…そんなこと……」

 震えながら声を振り絞って言うドミニオをトリガーは冷たい視線で見下ろす。

「おまえがルヴィアさんと旅に出るって言うから足止めさせるためだよ」

 ドミニオは目を見開く。

「ま、俺のおかげでドリスとの両想いを味わえたんだからよかっただろ」

「て、テメー……」

 許せない。ドミニオに怒りが募った。頭に血が逆流していく。

 拳を握り今度は怒りで体を震わせる。

 トリガーはフッと笑い床に横たわるルヴィアに目を向ける。

「俺も楽しませてもらうぜ。ドム、よく見てな」

 おもむろにルヴィアに体を重ねた。

「やッ!! やめろッ!!」

 トリガーはルヴィアの胸元に唇を這わせ胸に触れる。それを見たドミニオはブチッとキレた。

 顔を伏せて拳を握り体から明るいオーラが発する。

「テンメー……。ゼッテー許さねー」

 低い声で言い両手の拳にググッと力を入れた。

 額に青筋が幾つも立ち枷の鎖をバキッと引きちぎる。

「なッ!!」

 目を見開くトリガー。

「やめろォ――ッッ!!!」

 ドミニオが叫びオーラは両手に集まる。

「なんだ!?」

 冷や汗をかき起き上がったトリガーがドミニオに注目した。

 ドミニオは両手をトリガーに向かって突き出す。

 オーラは光線状になり、もの凄い勢いでトリガーの体を貫いた。



 ドアが破られる。

 リッドとティナが入ってきた。

「うッ」

 立ち込める異臭に2人が鼻を押さえる。それは血のにおい。

 暗い小屋に横たわるルヴィア、ドミニオ、トリガーを発見した。

「ルヴィア姉ちゃんッ!!」

「お兄ちゃん!!」

 リッドがルヴィアを揺すりティナはドミニオの側にしゃがみ込む。

「お兄ちゃん、酷いケガ……」

 ドミニオの全身の傷を見てティナが眉をひそめた。

「お兄ちゃん!! 大丈夫!? 聞こえる!?」

「……うッ……」

 ティナの声に反応したドミニオが動いた。

「お兄ちゃん!」

「……ティ…ナ……」

 目を開けたドミニオにティナはホッとする。

「よかった……。お兄ちゃん大丈夫!?」

「うッ、ぐ……」

 心配するティナの横でドミニオは痛々しく体を震わせながら起き上がった。

 一方リッドは深刻な表情でルヴィアを見ていた。

「ティナ、ルヴィア姉ちゃんホントに寝てんの?」

「えっ!?」

 ティナが振り向く。

「だってルヴィア姉ちゃん寝てたらイビキかくハズなんだ。なのに」

「……プリンセスは……強い薬を飲まされたんだ……。しばらく目覚めねーかも……」

 ドミニオがかすれるような声で言うとリッドとティナは愕然とする。

「なんだってッ!!?」

「そんな!」

「…………」

 側でもう1つ、血まみれで横たわるもの。

 それにドミニオは目を向けた。

 子供の頃からつるんできた幼なじみで、さっきまで親友の……。

 ドミニオの目に涙が溢れる。

「……オレ……。アイツ殺しちまった……」

「え?」

 ティナが聞き取れるか取れないかくらいのかすかな声。

 泣き崩れるドミニオだった。



【TALE19:END】

今回はかなりシリアス路線まっしぐらでいかせていただきました。


いやーコメディ慣れしてる私にはシリアスは難しいですね(>_<)

書いてて思い知らされました。

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