TALE17:ドミニオの妹
――数日後。
ルヴィア、リッド、ドミニオはエスタ・タウンに到着した。
やっと到着して喜ぶリッドとルヴィアを連れてドミニオは自宅へ案内する。
繁華街から少し離れた場所にエレンティア家はある。豪邸とまではいわないが大きな家だ。
「ここがオレんちだ」
「へー、ウチよりデケーっ! イイ家じゃん」
驚き気味に家を見上げたリッドが言う。
「サンキューな」
ドミニオは繊細な細工のされた門を開けた。
よく手入れのされた草花の咲く広い庭を3人は通りドミニオは家のチャイムを鳴らす。
しばらくして中年の女性がドアを開けた。
「はい」
「ただいまおふくろっ!」
「あらまあ! ドミニオ!」
ドミニオの母だった。
「お帰りなさい! 無事に帰ってきてくれてよかったわ。目的地にはちゃんと行けたの?」
「ああ。そんでなおふくろ、旅先で知りあった人を連れてきたんだ」
ドミニオがルヴィアとリッドに顔を向ける。
「こんにちわ」
ルヴィアとリッドが笑顔で挨拶した。
「あら、素敵なお嬢さんに可愛らしい坊やだこと。こちらのお嬢さん、まさかあんたの彼女じゃないわよね?」
母が尋ねるとドミニオの顔は赤くなる。
「ちっ! ちげーよっ!」
「そうよねぇ。あんたにはもったいなさすぎるわ」
「…………」
母にハッキリ言われズーンと沈んだ。
「なーそれよりティナはっ!?」
気を取り直して尋ねた。
「ティナ? 今日はお休みだから彼氏とデート中よ」
母の発言にドミニオは目を丸くする。
「彼氏ッ!!?」
「そうよ」
「……惚れっぽいティナのことだから、またロクでもねー奴好きになったんじゃねーのか?」
「まあ失礼ね! ティナが好きになったのだからいいじゃないの」
「と、とにかくオレ、ティナに急用あんだ。2人とも妹捜してくんでウチで待っててくれっか」
ドミニオがルヴィアとリッドに言う。
「うん」
「どうぞ入ってちょうだい」
「おふくろ、頼むな。そんじゃ行ってくるっ!」
門を出て走りだした。
ドミニオは繁華街を走りながら辺りを見回して妹を捜す。
行き交うカップルに目を向けながら走る。
しばらく捜していると、あるカップルが目に留まった。
「ティナかっ」
ついに妹を発見して一目散に駆け寄る。
「ティナ――ッ!!」
「えっ!?」
名前を呼ばれた少女が振り向く。
毛先がカールしたハニーブラウンの髪を耳の下で2つに結い、ドミニオと同じチャイナのような服装の小柄な少女。
「おっ、お兄ちゃん!?」
駆け寄ってきたドミニオに驚いた。
「嘘ー!! ほんとにお兄ちゃんだ!! いつ帰ってきたの!?」
「ついさっきな」
「ティナ、前に話してた旅をしているというお兄さん?」
ティナの彼氏が尋ねた。
「ええ、そうですぅ。お兄ちゃん、ティナの恋人のテーリー様よ」
「初めまして」
紹介されたテーリーが照れながらお辞儀した。
「…………」
冷や汗を垂らすドミニオ。予想どおりだったからだ。
「オレはドミニオ、ヨロシクな。あのデート中ワリーんだけどさ、ティナ、急いでウチに来てくんねーかっ!」
テーリーに挨拶してからティナに言う。
「えっ!? どうして!?」
「オレの大切な人が記憶喪失になっちまって、オマエの力が必要なんだっ!」
「そ、そうなの」
「頼むっ! 早く助けてくれっ!」
ティナの腕を掴んだ。
「お兄ちゃん……。わかったわ。テーリー様、ティナ急用ができちゃいましたぁ。ごめんなさい。あとでお家に行きますから待っててくれますかぁ?」
ティナが悲しそうに言うとテーリーはうなずく。
「もちろん、待ってるよ」
「もう! 今日はお休みだから力を使わない日なのに」
急ぎ足で自宅へ向かいながら不満そうにティナが言った。
「ワリーなティナ。オレ、オマエに助けてもらいたくて急いで帰ってきたんだ」
「そうなの。その人そんなに大切な人なんだ」
「ああ……。ところでティナ、さっきの奴のどこに惚れたんだ?」
「えっ!? テーリー様!? すっごく素敵でしょ!?」
足を止めたティナが両手を握り合わせてウットリするとドミニオも立ち止まる。
「おいティナッ! 急げッ!」
「テーリー様ってすごいのよ。この前投げられたおまんじゅうを一口で食べたのを見たの。素敵だったわー!」
頬を赤らめてウットリと語る。そういえばテーリーの口はでかかった。
それを聞いたドミニオは冷や汗を垂らす。
「……それで惚れたのか」
「うんっ」
ドミニオとティナは自宅へ帰った。
「ただいまおふくろ。あっ! じーちゃん久しぶりっ! 元気してたかっ!?」
リビングルームに居た老人にドミニオが声をかけた。
「おおドム。お帰り。見てのとおり元気じゃぞ」
「お帰りー」
「ただいま、待たせてわるかったな。妹連れてきたぜ」
ルヴィアとリッドにドミニオが言いティナに振り向く。
ティナは呆然としてルヴィアとリッドを見ていた。
「ティナ?」
「お兄ちゃん、この方々が?」
「ああ」
「こんにちわ、初めまして。ティナです」
「あたしルヴィア」
「オレ、リッドってゆーんだ」
いつもは人見知りをしないティナの緊張気味な様子にドミニオは疑問を持つ。
「どーしたんだティナ、珍しく緊張してんのか?」
「だってお兄ちゃん!」
ティナが振り向く。
「えっ?」
「う、ううん。ルヴィアさんていうんですか。すっごいお綺麗な方ですねぇー」
同性だがティナはルヴィアの美貌に見とれた。
「ねぇー? お兄ちゃん」
意味ありげな視線で見るとドミニオの顔がカァッと赤くなる。
「わしも思ったぞ。えらくベッピンなおなごつれてきたのう。おまえのこれかの?」
老人が笑いながら小指を立てた。
「じっ! じーちゃんっ!! ちげーよっ!!」
「私さっき違うって言いましたよ、お爺ちゃん」
「オレも」
母とリッドが言う。
「わしが50年若けりゃのう……」
「なに言ってんだじーちゃん」
「おじいちゃんたらおもしろーい」
冷や汗を垂らすドミニオと笑うティナ。
さっきからそればっかだよ、とリッドも冷や汗を垂らした。
ティナの部屋。
ファンシーなインテリアでまとまった女の子らしくて可愛い部屋だ。
部屋の奥にあるファンシーなインテリアとは雰囲気の違う小さな棚の扉をティナは開けた。
小さな紫のクッションに乗せられ丁重に保管されている両手より一回り大きい水晶球を手にする。
「それなにっ!?」
リッドが水晶球を指差して尋ねた。
「水晶球です。我が家に代々伝わる大切な物です」
「これでルヴィア姉ちゃんのキオク取りもどせんだねっ!」
「はい。それじゃさっそく始めましょう」
ルヴィアとティナは可愛いテーブルクロスの敷かれた丸いテーブルに向かい合って木製のチェアに座った。
「ルヴィアさん、目を閉じていてください」
「うん」
ルヴィアが目を閉じた。
ティナは水晶球に両手をかざし念じ始める。
(神よ……。我が前の迷える者の失われし記憶を我の元に映したまえ)
水晶球がポォっと淡く輝いた。
「……見えるわ。ルヴィアさんの記憶が走馬灯のように」
水晶球を見つめて言うティナにリッドは驚く。
「えっ!?」
「あとはこの記憶をルヴィアさんの脳に送れば!」
ティナは水晶球を手にして立ち上がりルヴィアの額に当てた。
(神よ。我が前の迷える者の記憶を甦らせたまえ!!)
水晶球がカッと発光した。
「……ルヴィアさん、目を開けてください」
ティナがそう言うとルヴィアはゆっくり目を開けた。
ボンヤリしている。
「ルヴィア姉ちゃんっ?」
「プリンセス」
リッドとドミニオが心配そうな表情でルヴィアを見つめた。
ルヴィアはドミニオを見る。
「……ドム」
「プリンセス、オレがわかるのか?」
ドミニオが尋ねるとルヴィアは微笑む。
「ええ、思い出したわ」
「ルヴィア姉ちゃんっ!」
「プリンセス、よかった」
リッドとドミニオの目に嬉し涙が溢れる。
「ルヴィア姉ちゃんっ!! よかったよーっ!!」
喜び抱きつくリッド。
「リッドくん」
「マジでよかった。ありがとなティナ」
「ううん」
「ありがとティナ。あなたがいなかったらあたし」
「いいえ。これがティナの使命ですから」
ティナが笑顔でルヴィアに言った。
「イイ妹ね、ドム」
「あ、ああ」
ルヴィアに言われドミニオが照れくさそうに言う。
「しつもーん!」
突然ティナが片手を挙げた。
「お兄ちゃんとルヴィアさん、どんなご関係なんですか!?」
ワクワクしながら尋ねるとドミニオは慌てる。
「関係って」
「ただの知りあいでしょっ!? ルヴィア姉ちゃん」
リッドがそう言うとルヴィアはドミニオを見た。ドミニオはドキッとする。
「……なんかフシギよね。あの時わかれたのに、またこーやっていっしょにいるし」
「ああ、そーだな」
「また会える気はしてたんだけど」
「オレも。でもこんな早く再会できるとは思ってなかったぜ」
「微妙なご関係なんですね。お兄ちゃんはプリンセスのように思ってるんでしょ?」
「えっ!?」
ドミニオがティナを見た。
「だってそう呼んでるじゃない」
「あたしプリンセスだもん」
ルヴィアが言う。
「たしかに、すごくお綺麗だしプリンセスって呼ばれてもおかしくないですよね」
「そーじゃなくて、ホントにプリンセスなんだよルヴィア姉ちゃんは」
「えっ?」
リッドの発言にティナの目が点になった。
「アイルーン・キングダムのプリンセスなの」
「エエッ!!? ウッソォォ――!!!」
ティナがブッとんだ。
「なんで!!? なんでそんなすごい方とお兄ちゃんなんかが!! どうやって知りあったのよ!!」
「デュッカ・タウンで知りあったんだ」
「格闘術大会の?」
「ああ」
「そうだったんだ。すごいラッキーね、お兄ちゃん」
「たしかに」
納得するドミニオ。
「うわーでもキングダムのプリンセスがティナのお部屋にいるなんて夢のようですぅー」
瞳を輝かせたティナがウットリした。
「今日は、ゆっくりしていただけるんですかぁ?」
「えっ、そーねぇ。なにも決めてないけど」
「そうですかぁ。ぜひゆっくりしていってくださいね」
笑顔でルヴィアに言った。
「ええ」
「そうだわ! お兄ちゃんプリンセスにタウンをご案内してさしあげたら!?」
「あっ、そーだな」
ティナの提案にドミニオがうなずく。
「プリンセス、リッド。行くか?」
「うんっ」
「待って。リッドさんはぁ、ティナのお相手していただけませんかぁ?」
「えっ!?」
リッドがドキッとした。
「で、でもオレも行きたいんだけど」
「だってだってぇ、ティナ1人になったら淋しいですぅぅ」
体を左右によじり淋しそうな表情をするティナ。
「だったらいっしょに行こーよ」
「えーリッドさんティナのお相手するの嫌ですかぁ?」
今度は悲しそうに言った。
「そ、そーじゃねーけど」
「嬉しいぃぃ!!」
「うわッ!!」
ティナがリッドに抱きついた。リッドの顔が真っ赤になる。
「それじゃリッドさんをお借りしますぅ。プリンセスはお兄ちゃんと2人で楽しんできてくださいね!」
そう言いドミニオにウィンクする。気を利かせたのだろう。
「お、おう。んじゃ行くか」
「ええ。じゃー行ってくるわねリッドくん、ティナ」
「行ってらっしゃーい」
2人が出ていくとティナはリッドから離れた。
「ごめんなさぁい」
リッドは真っ赤な顔で心臓はバックン、バックンだ。
「……大丈夫ですか?」
「〜〜〜〜」
目を回しパニック状態のリッド。突然、女性に抱きつかれ免疫のないリッドには平常心に戻るのに時間がかかるようだ。
「ココがドムの暮らしてるタウンなのね」
タウンの景色を見ながらルヴィアが言った。
「他のタウンとあんま変わんねーだろ? でもアイルーン・キャッスルタウンはやっぱ違うなっ! 想像どおりスゴかったぜ」
「そぉ? 気にいった?」
「ああ、できればずっと暮らしてーなと思った。そしたら……なんかプリンセスの近くにいる感じがして……」
「ドム……」
ルヴィアが見つめるとドミニオの顔はカァッと赤くなり前を向いた。
「もー少し行くとな、このタウンのシンボルの女神像があんだ」
エレンティア家のティナの部屋。
「なんでルヴィア姉ちゃんとドムふたりにしたの」
平常心に戻ったリッドがムスッとして言った。
「それはぁ、もうやだぁリッドさんたらぁ」
ティナがリッドをバシッと叩く。
「イテッ!!」
「お兄ちゃんはプリンセスのこと好きなんですよ。応援してあげたいじゃないですか」
「オレだってルヴィア姉ちゃんのこと好きだよっ!」
「ええ。それってお姉さんとしてじゃないんですかぁ?」
「ううん女としてだよっ!」
「エ〜〜〜〜!!!」
リッドの発言に目を見開いた。
「いや〜ん、禁断の愛っ……」
瞳を輝かせてウットリするティナにリッドは冷や汗を垂らす。
「言っとくけどオレとルヴィア姉ちゃんはイトコ同士だかんなっ!」
「あ、そうだったんですかぁ」
ルヴィアとドミニオの向かう先に大きな女神像が見えてきた。
神秘的で美しい女神像の周囲は丸く縁で囲ってあり噴水になっている。水の中には無数に沈むコイン。周囲に幾つかあるベンチには数組のカップルが居る。
「この女神像に祈ると願いが叶うって言い伝えあんだ」
「へー。ドムもおねがいしたコトあんの?」
「いや、オレあんまそーいうのは……。で、でも彼女できたら、ここに一緒に来てーと思ってんだ」
ドミニオが照れながら言った。
「そーなの」
小さなため息をつくドミニオ。
「…………」
そんなドミニオをルヴィアは見つめて考えた。
「向こうに行くか」
「待って」
「んっ?」
ドミニオが顔を向けルヴィアは笑顔で口を開く。
「ドムにはおセワになっちゃったし、お礼にこのあたしが今日だけカノジョしてあげるっ!」
「エッ!?」
唐突なルヴィアの発言にドミニオが目を丸くした。
「今日だけオレの彼女ッ!?」
「そーよ」
ニコニコして言うルヴィアにドミニオは何を言いだすのかと動揺する。
本気で言っているのかそんな事。もしかしたら、からかわれているのかもしれない。
真に受けないほうがいい。もし本気だとしても、そんなの嬉しくはない。
無表情になって口を開く。
「やめとく」
「えッ!?」
それを聞いたルヴィアがビックリした。
「どーしてよッ!」
「いや、だってさ、なんか……。オレはプリンセスが大切だから、今日だけってそんなふうに軽く扱うのは嫌なんだ」
ドミニオの言葉にルヴィアは心打たれる。
「……そーね。ヘンなコト言っちゃったわね、あたし」
恥ずかしそうに言うルヴィア。
「おい! ドム!? ドムじゃないか!?」
突然、男の声が聞こえルヴィアとドミニオは振り向く。
そこに長身の青年が居た。
「トリガーッ!」
「ドムのトモダチ?」
「ああ、幼なじみなんだ」
「それ以上の仲だよなー!」
ニコニコと微笑みながら言うトリガーにドミニオはゾッとして後ずさりをした。トリガーの笑顔が妙に怖かった。
「すごい美人が目にとまって、一緒にいる男を見たらドムっぽいんだもんな。そしたら、まさか本当におまえだったとは驚いたよ」
「そ、そーか」
「久しぶりだな。いつ帰ってきたんだよ?」
「ちょっと前にな」
「ふーん……」
トリガーはルヴィアをジッと見つめる。
「初めまして、トリガーといいます」
「あたしルヴィアよ」
「ドムとはどういう?」
「トモダチよ」
「デュッカ・タウンで知りあって、一緒に格闘術大会に出たんだ」
「格闘術大会? ああ、どうだったんだよおまえ」
「優勝したぜっ!」
Vサインをして得意気にニッと笑うドミニオ。
「すごいじゃないか! まさか優勝するとはな」
「やるだろ?」
「賞金とか出たのか?」
「ああ、200万ラルな」
「やるなー。おごれよ」
格闘術大会の話題にルヴィアは不機嫌になりムスッとした。そんなルヴィアにドミニオは気づく。
「じゃ、今夜メシでも行くか?」
「いいな、いろいろ話もしたいし。君もどう?」
トリガーがルヴィアに言う。
「あたし? ええ、いーわよ」
「それじゃドム。あとでおまえんちに迎えに行くから」
「ああ」
トリガーは手を振って立ち去った。
「……プリンセス」
「んっ?」
「トリガーのこと、どー思った?」
「どーって、べつに」
ルヴィアがそう言うとドミニオはホッとする。
「よかった。アイツ、プレイボーイなんだ。昔から女性にモテてさー」
「キョーミないわ」
エレンティア家。
「そんじゃ矢を3本、縦に射ってみせるね」
「うん、がんばって」
リッドは弓に矢をつがえて弦を引き、庭の木の幹に狙いを定める。
その横でティナはワクワクしながらリッドを見ている。
矢を3本連射した。
幹に向かって真っ直ぐ飛びカッカッカッと縦に見事に刺さった。
「ヤッタねっ!!」
「わあすっごーい!!」
それを見たティナが感激の声を上げた。
「なかなかのもんでしょっ!?」
得意顔のリッドをティナは瞳をキラキラと輝かせて見つめる。
「素敵ですぅリッド様!!」
「えっ」
そこまで言われると思わなかったリッドは照れた。
「ティナ、リッド様のことが好きになっちゃいました!!」
「エエッ!!?」
唐突なティナの告白に顔がボンッと真っ赤になる。
「な、なに言ってんのっ!?」
「ティナとおつきあいしてください!」
「エッ!! あっ、で、でもオレ、ルヴィア姉ちゃんのこと好きだから」
真っ赤な顔のままリッドが言う。
「わかってますけど、ティナはかまいません!」
「エエッ!」
「好きですぅリッド様!」
「わッ!! えッ!! チョット!!」
ティナに抱き付かれリッドがうろたえる。
「リッド様、キスを……」
ティナが目を閉じて迫った。
「エエーッ!!?」
「キャアッ!! ナニしてんのッ!!?」
「ティナッ!!」
声が聞こえリッドは振り向く。
そこに驚きの表情のルヴィアとドミニオが居た。
「ルッ! ルヴィア姉ちゃんッ!!」
リッドはヤバイところを目撃されて慌てたがティナはケロっとした表情で離れた。
「あ、お兄ちゃん、プリンセス。お帰りなさーい」
「今なにしてたんだティナッ!!」
「キスしようとしてたのよ。もう、いいところだったのに」
不満そうに言うティナ。
一方リッドは真っ赤な顔でうつむいていた。
「キスってオマエ」
「ナニそれッ!! どーゆーコトよッ!!」
聞き捨てならない様子でルヴィアが言った。
「ルヴィア姉ちゃんゴカイしないでっ!! オレが好きなのはルヴィア姉ちゃんだけだからっ!!」
「ティナ、リッド様のことが好きになっちゃったんですぅ。リッド様って、弓がとってもお上手ですっごく素敵ですぅ」
ティナが両手を握り合わせてウットリした。
「エーッ!!? リッドくんをッ!!?」
「やっぱそーか……」
予想どおりでドミニオはため息をついた。
「そんじゃさっきの男はもーいーのか」
「あ、テーリーさん? もう関係ないわよ。今はリッド様一筋だもの!」
なんて変わりようだ。
「ハァ……。ティナは昔っから惚れっぽいとこあってな、ちょっとしたことですぐ惚れちまうんだ」
ドミニオが呆れて言うとルヴィアは冷や汗を垂らす。
「そ、そーなの」
「もうお兄ちゃん!! そんな軽い言い方しないで!! ティナはいつも真剣なんだから!! そういうお兄ちゃんはどうだったのよ」
「な、なにが」
「プリンセスとのデートよ」
意味ありげな視線で言うティナにドミニオの顔がカァッと赤くなる。
「べっ! 別になんもねーよっ」
「ふーん」
「ねールヴィア姉ちゃん、オレ達これからどーすんのっ!?」
「えっ」
唐突なリッドの問いにルヴィアは考える。
「そーねぇ、あたしは旅続けるつもりだけど」
「じゃーオレもルヴィア姉ちゃんといっしょに行くっ!!」
即行言うリッド。
「リッドくんも?」
「うんっ! ルヴィア姉ちゃんといっしょにいてーもんっ!」
「ダメよリッドくんは」
「エッ!!」
ガビーンとショックを受けた。
「なんでッ!!?」
「まだコドモだし、ミレイアおばさまにシンパイかけちゃうわ」
ルヴィアがそう言うとリッドはムカッとする。
「またガキあつかいするッ!!」
「だってコドモでしょ」
「う〜〜」
不満そうにうなるリッド。
「リッド様、心配いりませんよ。これからはティナがずぅーっと一緒です!」
ティナが笑顔で言った。
「オレはルヴィア姉ちゃんといっしょにいたいっ!!」
「そんなっ……。ティナじゃ嫌なんですか!?」
ショックを受けたティナの目に涙が溢れリッドは慌てる。
「そ、そーじゃなくてさ」
「リッド様!! ティナのお側にいてください!!」
「わあッ!!」
ティナに抱き付かれリッドの顔が真っ赤になった。
「プリンセス、旅続けるのか」
ドミニオがルヴィアに声をかけた。
「うん。まだ行ってないトコいっぱいあるし」
「そっか……。また、一緒に旅できたらな……」
頬を赤らめてドミニオが言った。
「えっ」
それを聞いたルヴィアはビックリしたが微笑む。
「いーわよ」
「マジでっ!?」
喜ぶドミニオ。
納得がいかないのはリッドだ。
「エーッ!! ドムがよくてなんでオレがダメなんだよルヴィア姉ちゃんッ!!」
「リッドくんはコドモだから」
ルヴィアがあっさり言うとリッドはズガーンとショックを受けた。
「くそ〜〜」
額に青筋を立てて悔しがる。そんなリッドにティナは幸せそうに抱き付いているのだった。
【TALE17:END】