TALE16:リッド、ドキドキの夜
ルヴィア、リッド、ドミニオはレーシアの部屋の前に居た。
ドアが開きレーシアが姿を見せる。
「はい。あらお姉さま、リッドさん。エッ!!? あなたは!!」
そこに居たドミニオに驚きの声を上げた。レーシアはドミニオがキャッスルに居る事を知らなかった。
「お久しぶりです、レーシア王女様」
ドミニオが会釈した。
レーシアの部屋。
ドミニオは今までの経緯をレーシアに話す。
「そういうことだったんですか」
話を聞き終えたレーシアが言った。
「レーシア姉ちゃん、ルヴィア姉ちゃんどーすりゃキオクもどるかなァ。ドミニオさんと出会った時のこととか話してもダメだったし……」
ソファーでリッドが肩を落とした。
「お姉さまの失われた記憶を取り戻すには、お話だけじゃリアリティーが足りないんじゃないかしら」
失われた……。
レーシアの言葉にドミニオが反応する。
そうだ。頼れる人物が1番身近にいるじゃないか。
「ああッ!! オレはなんてバカなんだッ!! なんで今まで気づかなかったんだッ!!」
突然、両手で頭を抱えて声を上げたドミニオに何事かとビックリする3人。
「どーしたのッ!?」
尋ねたリッドにドミニオは向き直る。
「オレの妹は失われた物を探すプロなんです」
「はッ!?」
意味が解らずリッドが目を丸くした。
「妹は水晶占術が得意で、今までたくさん人を救ってきました。占術の腕は一流なんです。頼めばきっとなんとかしてくれますっ!」
自信満々で言うドミニオ。
「で、でも記憶なんて形のない物ですよ!?」
レーシアが尋ねた。
「大丈夫ですっ! 形のない物でもっ!」
それを聞いたリッドは喜ぶ。
「ホントにっ!? その人どこにいんのっ!?」
「ここからずっと西にあるオレの故郷エスタ・タウンです」
「そっか。ゼンは急げだねっ! 今すぐ行こーよっ!」
「はいっ!」
リッドがドアを開けると、そこにランディが居た。
「ナニしてんだバカ兄キッ!!」
キッと睨みつける。
「そ、そっちこそ何してたんだよ」
「そんなことオマエにカンケーねーだろッ!!」
冷たく言い放つとランディはムッとして額に青筋が立つ。
「さっ! 行こーぜっ!」
「はいっ!」
リッドとドミニオは走り去っていった。
ランディはレーシアに声をかける。
「レーシアちゃん、何してたの?」
「あ、ランディさん。すいません。あとでちゃんとお話しますから、お部屋で待っていてくださいますか?」
レーシアが申し訳なさそうに言った。
ルヴィアの部屋。
「レーシア、みんななに話してたの? あたしワケわかんない」
チンプンカンプンのルヴィアがレーシアに尋ねた。
「お姉さまがわからないのも無理ないわ。でもこれだけわかればいいのよ。お姉さまは今からリッドさん、ドミニオさんとキャッスルを出るの」
「えっ!? どーしてっ!?」
「とにかく急いで着替えなくちゃ。ちょっと待っていて」
そう言いレーシアは大きなクローゼットに向かった。
クローゼットを開けると、そこにはルヴィアが密かに買い溜めていた服やブーツ等のコレクションがある。
その中の1つを手にする。
「お姉さま、これに着替えて」
「な、なんで?」
「いいから早く着替えて」
「うん」
ルヴィアは着替えを済ませた。
胸元がV字に開いたファー付きのチューブトップと裾にファーの付いたタイトなミニスカ。これまたファー付きのロンググローブとロングブーツ。それとヘアバンド。全て赤のエナメルでファーは白だ。どうやらルヴィアはこういうファッションがお好みらしい。
「少しここで待っていて」
レーシアは部屋を出ていった。
すぐにドアが開きリッドが入ってくる。
「あっ、リッドくん」
「ルヴィア姉ちゃん行くよっ!!」
後ろにルヴィアを乗せたリッドの馬はキャッスルタウンの街道を駆け抜ける。
ルヴィアの記憶が取り戻せると思うと気持ちが逸って仕方ない。
「あっ!」
何かを発見するリッド。
そこに馬に乗ったドミニオが待っていた。
レーシアはランディの部屋を訪れた。
後ろめたさが表情に出ていて目線は下を向きランディを直視できない。気が重い。できれば話したくはないがルヴィアがキャッスルにいない以上そういう訳にもいかないだろう。
「あ、レーシアちゃん。ルヴィアは?」
何も知らないランディが尋ねた。
「……あの、すいません……。お邪魔してもいいですか?」
「いいけど」
レーシアは部屋に入るなり、ためらいがちに口を開く。
「あの、ランディさん……。驚かないでと言っても無理だと思いますけど……。お姉さまはリッドさん、ドミニオさんと一緒にキャッスルを出たんです」
「エエッ!!? なんだってェ――ッッ!!?」
やはり驚愕してブッとぶランディ。
「レーシアちゃんッ!! なんでだよッ!!」
「ドミニオさんの妹さんは水晶占術が得意なんだそうです。それでもしかしたらお姉さまの記憶が取り戻せるかもしれないということになって、ドミニオさんの故郷に向かったんです」
「そッ、そんな……」
酷くショックを受けた。
「……どうして僕に内緒でそんなことを? 僕はレーシアちゃんのことを信じてたのに」
ランディの目に涙が溢れる。
「ごめんなさい……」
「どうせリッドとあの男が僕に言うなと言ったんだろ?」
「え……」
なんて答えたらよいかレーシアは解らなかった。
「わかってるよ……。僕はルヴィアの記憶が戻らなければいいと思ってる。それでルヴィアと結婚しようとしてる卑怯者さ」
「ランディさん……。お姉さま達はきっとすぐに帰ってきてくれますから……」
それを聞いたランディは涙で濡れた顔でレーシアを見る。
「帰ってくるッ!? そんなわけないだろッ! 記憶を取り戻したらルヴィアはまた僕のことを嫌いになるんだ。ううっ…う……」
「ランディさん……」
泣きじゃくるランディにレーシアはどうしたらよいか解らない。
ランディは片手で涙を拭う。
「決めた。僕もキャッスルを出るよ」
「ランディさん」
「ルヴィアを絶対に連れ戻してやる。レーシアちゃん、ルヴィア達の行き先を知ってるんだろ?」
「…………」
黙りこくるレーシア。
『ゼッタイ、バカ兄キにゆーなよッ! シッカリつないどいてッ!』
そうリッドに忠告された事を思い出す。
「レーシアちゃん?」
「ごめんなさい、知らないんです」
「知らないはずないだろ? また口止めされてるのか」
「…………」
答えないレーシアにランディは腹が立つ。
「だったらもういいッ!!」
「えッ!?」
「レーシアちゃんまでそんな態度なら、もういい。悪いけど、これからは僕に一切話しかけないでくれ」
「そんなッ」
冷たく言われレーシアはショックを受けた。
「……わかりました。教えますから」
レーシアの部屋。
涙が頬を伝いポタっと落ちる。
私、最低……。
レーシアは泣いていた。
ランディに話せばこうなる事は予想できていた。だからリッドにランディを留めておくようにいわれたのに。
でもランディに嫌われたくなくて、白状してしまった自分。
本当嫌になる。
昼。
とあるタウンのレストランでルヴィア、リッド、ドミニオはよほど腹を空かせていたのだろう。もの凄い勢いで料理をたいらげる。といっても、それは勿論ルヴィアだけだが。
「ルヴィア姉ちゃんどーしちゃったのッ!? そんな食ってダイジョーブッ!?」
ルヴィアの食べっぷりにリッドがうろたえていた。
「こーいうとこは変わってねーんだな」
ポツリと呟くドミニオの言葉をリッドは聞き逃さなかった。
「エッ!!? ルヴィア姉ちゃん前からこんな食ってたのッ!!?」
「はい」
「マジッ!!?」
リッドが冷や汗を垂らした。
夜。
更に移動したルヴィア達。
旅に慣れているドミニオはなんて事ない表情をしているが、ルヴィアとリッドは疲れが顔に出ていてクタクタだ。
なんたってリッドは初めての旅。それに1日でこんな長距離を移動したのであれば、まだ子供の彼には負担がきて当然だろう。
ところでリッドは弓を肩に掛けて矢の入った筒を背負っている。
彼はわずか12歳ながら弓術に長けており達人なのだ。
さて重い足を引きずって辿り着いたホテルは、あいにく3名の部屋はないという事だ。
すぐにでも休みたいし他のホテルを探すのも面倒なので部屋を分けて取る事にした。
いうまでもなくルヴィアとリッドは同室。ドミニオは1人部屋だ。
ドミニオの部屋を訪れたリッドは2人でも余裕のバスルームで入浴中だった。
「ねードミニオさん、ルヴィア姉ちゃんのこと好き?」
実は密かに気になっていたリッドが尋ねた。
「エッ!!」
唐突なリッドの問いにビックリしてドミニオの顔が真っ赤になる。
「好きだろ」
リッドがジトッとした目で見た。
「……そーだっつったら……」
「オレ達ライバルだね」
「…………」
「言っとくけど、オレがガキだからってナメないでよねッ!!」
ドミニオをビシッと指差す。
「そんなつもりはッ!」
「そんでコクったの?」
「……はい」
「でっ!?」
「まだハッキリ返事は」
「えッ!? どーゆーことッ!?」
リッドが目を丸くした。
「オレが返事は急がなくていーって言ったんで」
「ふーん。でもルヴィア姉ちゃんオレんだからね。あと5年たったら結婚すんだっ!」
「エエッ!!?」
リッドの衝撃発言にドミニオがビックリ仰天した。
「それマジっすかッ!?」
「うんっ! ルヴィア姉ちゃんそー言ってくれたんだっ! 5年たってオレがイイ男になったら結婚してくれるって」
「……イイ男になったら?」
「ゼッテーなるよっ! せめてあのバカ兄キ以上にはねっ!」
「……リッド様もお兄様のこと嫌いなんですね」
「アッタリマエじゃんッ!! 大ッキライだよあんなヤツッ!!」
とてつもなく険しい顔をして言うリッドにドミニオは冷や汗を垂らす。
「そ、そこまで……」
「アイツのバカヅラ見んのもヤダねッ!! 死んじまってもかまわねーよッ!!」
「…………」
あまりの言いようにドミニオは引いていた。
死んでも構わないなんて、ルヴィアといい、そこまで嫌われるランディは一体何をしたのだろうかとドミニオは思う。
「あっそーだ。言おーと思ってたんだけどさ、ケーゴとかやめないっ?」
「はいっ?」
ドミニオがポカンとした。
「オレのほうが年下じゃん? 今なん歳?」
「21です」
「21ィッ!!?」
もの凄く驚いたリッドの勢いでお湯がザバッと跳ねた。
なんとドミニオは21歳、立派な成人だ。
リッドが驚くのも無理はない。
ドミニオは童顔で背が低い。成長期のリッドより少し高いくらいだ。そのせいで15、6歳に見えてしまう。彼はそれがコンプレックスでガキといわれるとキレる。
「もーそーいうリアクションには慣れました」
ドミニオが苦笑いした。
「ウッソ、ゼンゼン見えねーッ! オレより3つ上くらいだと思ってたッ!」
「…………」
凹むドミニオ。
「タメ口でいーよっ! オレのことはリッドでいーから」
「そ、そっか。リッド、オレもドムでいーぜ」
「いーの? 9歳も上なのに」
「ああ、オレそーいうの気にしねーから」
ドミニオが微笑んだ。
ルヴィアとリッドの部屋。
「それじゃ寝ましょ。おやすみリッドくん」
バスローブ姿のルヴィアがベッドに向かう。
「ルヴィア姉ちゃん」
「んっ?」
「あ、あのさ……。オレといっしょに……」
言いながらリッドの顔がカァーっと赤くなる。
「どーしたの?」
「な、なんでもないっ」
「?」
恥ずかしそうにうつむくリッドをルヴィアはキョトンとして見つめた。
ベッドでリッドはドキドキしていた。
やっぱりルヴィアと一緒に寝たい。だってこんなチャンスめったにないし。
思いきって言おうと隣のベッドで寝ているルヴィアをチラっと見た。
突然グォーと不気味な轟音が響く。
「エッ!? なッ! ナニッ!?」
何事かと飛び起きるリッド。
「ルヴィア姉ちゃんッ!」
声をかけたがルヴィアはベッドに横たわったままだ。
それどころか轟音は確実にルヴィアのほうから聞こえる。
……なんの音だろう。
冷や汗をかいたリッドはベッドから降りて恐る恐るルヴィアを覗き込む。
「……エッ。ルヴィア姉ちゃんの、イビキ……? ルヴィア姉ちゃんてスゲーや……」
改めてルヴィアの底抜けの食欲やイビキを知り痛感するリッドなのだった。
【TALE16:END】