TALE1:絶世の美女プリンセス冒険の旅へ
アイルーン・キャッスルのルヴィアの部屋。
インテリアはレーシアの部屋と特に変わらないが当然本棚はない。
シルクのミニスリップ姿のルヴィアは開け放たれた出窓で頬杖を付いて夜空を眺める。
月星が満天に輝く良い月夜だ。
入浴後らしくノーメイクだが、その美貌は変わりない。
心地良い夜風が腰まであるウェーブがかったロングヘアを優しくなびかせる。
「もーすぐだわ。もーすぐあたしはジユーになるのねっ♪ フフっ、たのしみーっ♪」
出発の時を心待ちにウキウキだった。
するとドアをノックする音が聞こえ振り返る。
「どなた?」
「僕だよ」
ドアの向こうから聞こえたランディの声に顔をしかめる。
「なんか用?」
「用があるから来たのさ。開けてくれよ」
「今チョットいそがしーの」
「すぐ済むからさ」
「……しかたないわねェ」
嫌々ながらドアを開ける。
「やあル・ヴィ・ア」
そこにシルクのガウン姿のランディが居た。だが表情はいつもと違って冷たい。
「ナニよ」
腕組みしたルヴィアが不機嫌そうに言った。
「ちょっと話がしたくてね。入ってもいいか?」
「だからいそがしーって言ったでしょッ! 話なら明日にしてくれるッ!」
ルヴィアが冷たく言い放つとランディの眉がピクッと動く。
「明日じゃなくて今がいいんだ」
「今そんなコトしてるヒマないのッ!」
「……それは残念だなぁ。ルヴィアの大好きなワインを持ってきたのに」
後ろ手で隠していた2本のワインを見せた。
「えっ」
それを見たルヴィアの瞳が輝いた。彼女はワインが大好物なのだ。
「ヒマじゃないけど、チョットだけならいーわ」
まあランディと会うのも最後だし、と我慢を決め込むルヴィア。
「んーっ♪ やっぱサイコーっ♪♪」
ソファーでワインをラッパ飲みするルヴィアは幸せそうな満面の笑顔だ。
「それはよかったよ」
隣に座っているランディが微笑んだ。
彼はルヴィアが大好物のワインさえ飲めば上機嫌になるのを充分解っている。飲酒をしている時以外ルヴィアがランディに笑顔を見せる事はないのだ。
ランディはルヴィアの笑顔を見られるのは嬉しかったが左手にリングがはまっていないのが不満だった。だが視線は大きな胸やセクシーな太ももにばかり集中してしまう。
ルヴィアはランディのいらぬ欲情をかき立ててしまっている事に気づいていなかった。
「ルヴィア」
我慢できなくなったランディが腕をルヴィアの肩に回し肩から首筋にかけてキスをした。ルヴィアはワインをラッパ飲みしている為、嫌がらない。
ランディが耳を舐めるとルヴィアはピクッと反応する。
「チョットやめてよッ!!」
とうとう不機嫌になりキッと睨んだ。ランディはビクッとすくむ。
「あらもーなくなっちゃったわ」
空になった瓶を片手にルヴィアが呟いた。酔った様子は全くない。
やっぱり2本くらいじゃ酔うはずないか、とランディは残念そうにルヴィアを見つめた。
ルヴィアはワイン2本程度ではちっとも酔ったりしない。大酒豪なのだ。飲む量も半端じゃないので、さすがにマックスはいい顔をしない。飲酒は程々にするよう言いつけたが聞くはずもなく酒蔵に忍び込んではくすねる始末だ。
「飲みたんたいわ。もっと持ってきてよ」
「えっ」
ランディがポカンとした。
「はやくッ」
「う、うん。わかった。待っててっ!」
立ち上がり部屋を出ていった。
ルヴィアはランディの座っていた所に何かを発見する。
それは綺麗にラッピングされたプレゼントだった。
しばらくしてランディは部屋に戻ってきた。
「ルヴィア、もらってきたよ」
2本のワインを手にしている。
「……ランディ、ナニよコレッ!!」
怒りの形相でルヴィアが手にしているのは、なんともセクシーなランジェリーだった。
「あッ!!」
それを見たランディの顔が赤くなる。
「なんだ開けちゃったの……。僕があとで渡そうと思ってたのに」
残念そうに呟いた。
「コレはナニって聞いてんのよッ!!」
「何って、バースデープレゼントさ。気に入ってくれた?」
ワインをテーブルに置きランディが笑顔でソファーに座るとルヴィアは立ち上がる。
「そんなワケないでしょ」
恐ろしい目つきで見下ろした。
「エッ、そ、そんな。絶対ルヴィアに似あうと思って作ってもらったのに。僕のデザインなんだよっ!?」
「なッ! なんですってェッ!!?」
ドン引きするルヴィア。ランディのデザインってなんだそれ。
ランディは立ち上がると手をルヴィアの両肩に置き顔を赤らめる。
「なぁルヴィア、僕の前でつけてみてくれよ。絶対似あうからさ」
「はあッ!!? ふざけないでよッ!!」
「いいじゃないか、僕はフィアンセなんだよ? それで今夜は……」
ランディの息が荒くなっていく。
「ちょッ! チョット!!」
「愛しあおうルヴィアっ!!」
「キャアッ!!」
ルヴィアをソファーにガバッと押し倒した。ルヴィアの額に青筋がピキッと立つ。
「ヘンタイッッ!!!」
ルヴィア・パンチでランディをブッ飛ばした。
涙を流したランディの首根っこを掴んだルヴィアは憤慨しながらドアをバンッと勢い良く開けた。
「ワアッ!!」
驚く声に顔を向ける。
「リッドくん」
そこにランディと同じシルクのガウン姿のリッドが居た。
「ルヴィア姉ちゃん」
「どーしたの?」
「えっとね……。ゲッ!! バカ兄キッ!!」
ランディを見て目を見開く。
「なんでバカ兄キがッ!!?」
「ん?」
ランディが顔を上げて立ち上がる。
「バカ兄キッ!! なんでルヴィア姉ちゃんトコいんだよッ!!」
「なんでって」
フッと気取るランディ。
「そりゃあ僕はルヴィアのフィアンセだからな。ルヴィアといつも一緒なのさ」
それを聞いたリッドは悔しそうに睨む。
「なぁルヴィアーっ」
「キャアッ!!」
ランディがルヴィアの腰を抱き寄せた。
☆★ 殴 ★☆
廊下の壁にランディはめり込んでいた。
「おミゴトだねルヴィア姉ちゃん」
微笑むリッド。
「なールヴィア姉ちゃん、ホントはバカ兄キなんかと結婚する気ないんでしょっ!?」
部屋に入るなりリッドがルヴィアに言った。どうやらずっとその事が気にかかっていてハッキリさせたかったらしい。
「だってバカ兄キのことキラッてんじゃんっ!」
「そー、だけど」
ソファーに座ったルヴィアの隣にリッドも座る。
「だったら結婚なんてやめちゃえよっ!」
「……リッドくんには、言っちゃおーかしら」
「えっ、なにっ?」
「あたしランディとは結婚しないわ」
「マジィっ!?」
リッドの表情が明るくなり満面の笑顔でバンザイした。
「ヤッターっ!! よかったーっ!!」
そしてルヴィアに向き直る。
「そんじゃおじさまに言いに行こーぜっ!」
先走るリッドにルヴィアは慌てる。そんな事をしたら元も子もない。
「あ、あのね、それは明日あたしがゆーわ。だからリッドくん、このコトはヒミツ。ダレにも言っちゃダメよ、わかった?」
「うんっ! わかったよっ!」
「イイコね、リッドくんは」
ルヴィアが笑顔でリッドの頭を撫でるがリッドは気に入らなかったらしくムッとする。
「あーッ!! 今オレのことガキあつかいしたろッ!!」
「だってまだコドモじゃない」
あっさり言ったルヴィアにリッドはガビーンとショックを受け、うつむく。
「……どーせオレはまだガキだよ。でもあと5年も経てば、ゼッテーバカ兄キよりイイ男になってるよっ!」
「そーね。リッドくんならランディなんかよりずっとカッコいくなるわよ」
「マジでっ!? そー思うっ!?」
「うん」
ルヴィアが笑顔でうなずくとリッドの顔は赤くなる。
「……じゃ、じゃーさルヴィア姉ちゃん……。オレと、オレと結婚してっ!」
「エッ!?」
唐突なリッドのプロポーズにルヴィアがビックリした。リッドの顔がボンッと真っ赤になり更に驚く。
「リッドくんっ!? どーしたの急にっ!」
真っ赤な顔のままうつむいているリッド。
「急じゃねーもん。オレ、オレ、ルヴィア姉ちゃんのことずっと好きだったから」
だとしてもプロポーズされるとは。12歳のリッドに。
ルヴィアは呆然としたが、でも悪い気はしない。ランディにされるよりか全然良い。それに真っ赤な顔でうつむいているリッドが可愛くて。
「ありがとリッドくん」
ルヴィアがニコっと微笑みリッドは顔を上げる。
「じゃ、じゃーオレと結婚してくれんだねっ!」
「そーね。リッドくんがおーきくなって、このあたしとバランスとれるくらいイイ男になったらね」
「ゼッテーなってみせるよっ!」
なんて言うリッドは本当に可愛いくてルヴィアは微笑ましかった。
「たのしみにしてるわ」
クスクスと笑うルヴィアにリッドは照れた。
時は真夜中。
巡回している兵士は居るものの人の気配を失くした城内は、1人で歩くのは心細いくらいに静まり返る。
自分の部屋の辺りは特に警護が厳しいが、兵士の目を避けるなどルヴィアには造作もない事。
旅の身支度を済ませたルヴィアはバルコニーに居た。
辺りは暗いが夜空の月明かりである程度は見える。
「よーしっ! ジュンビオッケーねっ!」
待ちに待った出発の時がようやく来てルヴィアは張りきる。
最初から1人で旅に出るつもりではいた。でもできればレーシアと2人旅をしたかった。だって1人よりは2人のほうが楽しいし。
もう寝ているかもしれないがレーシアに別れを告げる事にした。といっても直接言う訳ではない。
(レーシア、レーシア聞こえる?……あたしもー行くわ。ゲンキでね……)
テレパシーを送った。
ルヴィアとレーシアがペアで付けているクリスタル・ピアスの機能だ。魔法力が込められたクリスタルのピアスを2人が付けていればテレパシーで会話をする事が可能なのだ。
(待ってお姉さま!)
「えッ!?」
レーシアからテレパシーが返ってくるとは思わずにビックリした。
(レーシアッ)
(今どこにいるの!?)
(バルコニーよ)
(今行くわ。そこにいて!)
(えっ)
慌てているようなレーシア。見送りに来てくれるんだと思ったルヴィアは嬉しくなる。さすがは自分の可愛い妹だ。
待っているとレーシアがバルコニーに駆けつけた。よほど急いで来たのだろう、息を切らして。
「お姉さま!」
「レーシア、見送り来てくれたのね」
「違うわ。お姉さまお願い、私も連れていってくれる?」
「エッ!?」
思いがけないレーシアの発言にルヴィアが目をパチクリさせた。
「どーしたの急にっ!」
「お願い」
両手を合わせてレーシアが懇願した。
なんて事だろう、逆にお願いされてしまった。断る訳もないのに。なんだか拍子抜けしてしまう。
「モチロン、オッケーよ。レーシアいてくれるとココロ強いもの」
「本当!? よかった……」
レーシアがホッと胸を撫で下ろした。
「でも、いったいどーしたってのよ? さっきはイヤがったクセに」
「あ、あれは急だったから……」
「ふーん」
急だったから? よく考えてみたら旅に出たくなったのだろうか。レーシアはそんなコではない気がするが、まあその気になってくれたのならありがたい。よかった、2人旅ができるんだ。ますます楽しみになってきた。
レーシアはルヴィアの格好をマジマジと見つめて冷や汗を垂らす。
「お姉さま……。その格好……」
「んっ?」
ルヴィアの格好は前ボタンのチューブトップに見えそうで見えないギリギリラインのタイトなミニスカ、肘までのロンググローブと膝までのロングブーツ。頭にヘアバンド。全部ピンクで揃えている。どこから見てもセクシーギャルだ。腰には宝石を繋げたジュエル・ウィップを巻き付け、首と太ももにはキングダムのエンブレムが施されたゴールドのアクセサリーを着けている。
ルヴィアはセクシーポーズを取った。
「フフン、どおっ!? 似あうでしょっ!? あたしのコレクションのひとつなのっ♪ これからボーケンの旅出んだから、こーゆー動きやすくてカワイイカッコじゃないとねっ♪」
「恥ずかしくない?」
「ゼンゼンっ!」
「そう……」
レーシアの格好はノースリーブの膝下まであるローブに肩から胸元にかけてスカーフを巻いている。やはり清楚だ。ルヴィアと同じゴールドのアクセサリーを首と腕に着け、セミロングヘアは耳にかかる部分をリボンで結んでいる。そして天使の翼を型どり大きな丸いクリスタルの付いた美しい杖アイルーン・ロッドを手にしている。
2人のファッションのセンスは天と地の差。一言でいうならルヴィアは派手、レーシアは地味。服装に限らず性格もだ。ルヴィアは考えるより行動派、レーシアは緻密に計画を立てる慎重派。イメージとしてはルヴィアが明るい太陽ならレーシアは物静かな月といったところだ。全く正反対の姉妹だが決して仲が悪い訳ではない。
「そーいえば、さっきランディが部屋来てタイヘンだったのよォ」
イヤーな顔をして言うルヴィアにレーシアはドキッとする。
「えッ! そ、そうだったの」
「そのあとリッドくんも来てね、チョット聞いてよ」
「なあに?」
「リッドくんがね、あたしのコト好きだって」
「……私はそう思っていたわ」
「結婚してってプロポーズされたわ」
それには少し驚くレーシア。
「そ、そうなの!? それでお姉さまはなんて言ったの?」
「おーきくなって、このあたしとバランスとれるくらいイイ男になったらって言ったわ」
「そんなことを言って、本気じゃないんでしょう?」
「わかんないわ。でもあたし、ランディよりリッドくんのほうが好きよ」
「そう……」
「さーて、それじゃそろそろ出ましょーか」
ルヴィアが振り返るとレーシアは慌てる。
「待って! あの、お姉さま。もう1つ、お願いがあるの……」
「え、なに?」
向き直ったルヴィアがキョトンとする。
「ちょっと待っていて」
そう言いレーシアは城内へ向かった。
なんだろう、お願いって。
ルヴィアが思うとレーシアが戻ってきた。
ん? とルヴィアの目が点になる。
ちょっと待て。後ろにもう1人居るんですけど。
「エエーッ!!?」
そこに現れた人物に目を見開きビックリ仰天するルヴィア。
ランディだったのだ。
すぐにランディを指差しルヴィアは詰め寄る。
「ちょッ! チョットどーしてアンタいんのよォーッ!!」
「おっ? えっ、ルヴィア?」
歩み寄ってきたルヴィアを上から下までマジマジと見つめたランディは目をハートにする。
「ルヴィア――っ!! どうしたんだよその格好は――っ!!」
「ウルサ――イッッ!!!」
「ちょっとお姉さま静かに!」
ルヴィアの大声にレーシアが人差し指を立てた。
一方ランディは目をハートにしたままルヴィアのセクシーな格好に見惚れていた。
ルヴィアはレーシアにゆっくり顔を向ける。
「レ〜シア〜〜」
恐ろしい形相のルヴィアにレーシアはビクッとすくむ。
「あんた言ったわねェ〜〜」
「ご、ごめんなさい! どうしても黙ってるなんてできなかったの。だってそれじゃ、あまりにもランディさんがかわいそうだもの!」
ランディはデレデレしてルヴィアを見つめていたが我に返ってレーシアを見る。
「レーシアちゃん」
「レーシア……」
だからってランディに言うなんて、とルヴィアは思ったが怒る気になれなかった。
「ランディさん、あんなにお姉さまとの結婚式を楽しみにしていたのよ。だからせめてランディさんも一緒に行っていいわよね?」
「エエッ!!?」
レーシアの発言にルヴィアが耳を疑る。恐ろしい言葉を耳にしたような気がした。
「あ、あんた。今なんて?」
冷や汗をかいて尋ねた。
「ランディさんも一緒に行っていいわよね」
冷静に繰り返すレーシア。
「ナニ言ってんのよッ!! どーしてコイツまでつれてかなくっちゃなんないのよォ――ッッ!!!」
再びルヴィアが怒りを爆発させた。
冗談じゃない。ランディまで一緒なんてそんなのせっかくの楽しい旅が地獄になるだけだ。
「ルヴィアー……」
ショックを受けたランディが涙目になった。
「ダメなの? ランディさんがダメなら私も……」
レーシアがそう言うとルヴィアは慌てる。
「ちょッ、チョット待ってよッ! なんでレーシアまで」
うつむくレーシアを見てルヴィアは感づく。
なんだそういう事。だから旅に出る気になった訳か。
思ったルヴィアはため息をつく。
腕組みし、しばらく考えて口を開く。
「わかったわ」
「えっ」
ランディとレーシアが同時に顔を上げた。
「僕も行っていいのかっ!?」
「レーシアがぁ、どーしてもランディといっしょじゃなきゃヤってゆーならね」
可愛く身じろぎしたルヴィアが意地悪そうな笑みを浮かべてレーシアを見た。
何を言いだすのかとレーシアがうろたえるとランディは両手を合わせて懇願する。
「レーシアちゃん、どうか頼むよ」
「え……。あ……」
とても困っていた。そんな事、恥ずかしくて絶対にできる訳がないと。
「さーどーする?」
相変わらず意地悪そうにルヴィアがレーシアを見ていた。
「……ラ、ランディさんも……一緒に……お願い……」
うつむいたレーシアが震えながら小声で言った。
声からしてもう恥ずかしさ大爆発! てところだろう。彼女にとって顔から火が噴き出そうなくらいに違いない。といっても薄暗いので顔が真っ赤になっているとまでは解らなかったが。
「えっ? なーに? よく聞こえないわよォ?」
片手を耳に当てたルヴィアが意地悪く言った。
「…………」
今度は怒りで体を震わせるレーシア。
「レーシアちゃんはちゃんと言ったよ」
見かねたランディがフォローした。
「ダメー。あたしは聞こえなかったわ」
「ランディさんも一緒にお願い!!」
自棄になってレーシアが言うとルヴィアとランディはビクッとすくむ。
「これでいいでしょう!?」
「ヤっは?」
先程と同じように身じろぎしてみせるルヴィア。
レーシアの目がギラッと光りルヴィアはビビる。
「ま、まーいーわ」
「今度こそ僕も行っていいんだね?」
「ちょーヤダけど、レーシアのたのみだもの」
ルヴィアが冷たく言ったがランディは喜ぶ。
「やったーっ!! ありがとうレーシアちゃん」
「……いいえ」
ランディにお礼を言われレーシアの機嫌は直ったようだ。
「にしても、アンタのそのカッコ……。ああッ!! よく見るとソレ、このキングダムのじゃないのッ!!」
呆れて見ていたルヴィアがランディの身に着けているアイルーン・アーマーを指差して言った。
それはシルバーのきらびやかな鎧だ。天使の翼が胸部に施されている。そして真紅のマントをまとい額にはブロンドに良く映える紅いバンダナを巻いている。
「そうだよ。おじ様から授かったんだ。このアイルーン・ソードもな」
ランディが腰に下げている剣を引き抜いた。鍔が天使の翼になっている美しい剣だ。
アイルーン・キングダムの3大秘宝アイルーン・ソード、アイルーン・アーマー、アイルーン・ロッド。
キングダムにはある伝説が語り継がれている。かつて人間界を支配しようと魔界から現れた魔族と戦った人間と妖精族のエルフがいた。3大秘宝は2人が魔族と戦う為、天界に住まう竜族から授かった聖なるアイテム。神聖な法力が秘められており光をキラキラと放つ。人間とエルフの子のハーフエルフがこの地にキングダムを築き、宝として残したとされる。
ちなみに妖精族は人間界のどこかにあるフェアリーランドという国でひっそりと暮らす種族。人間を恐れている為、姿を見せる事はないがエルフは人間など足元にも及ばぬ美しい容貌をしているらしい。力は弱いが強い魔法力を持ち魔法を使いこなす。そのエルフの血を引いている為アイルーン・キングダムのプリンセスは絶世の美貌と魔法力を持つのも納得がいく。
「ああッ!! ホントッ!! もーどーしておとーさまはこんなタイセツなモノ、ランディなんかにあげんのよォッ!!」
嘆くルヴィアにランディはムッとする。
「僕がいずれこのキングダムを継ぐからじゃないかッ!!」
そしてふと思い出したように真顔になる。
「あっ、ルヴィア。結婚…」
「さーっ! そーと決まればさっさと出るわよっ! もーだいぶタイムロスしちゃったじゃないっ。いそぐわよっ!」
結婚という言葉に素早く反応したルヴィアが振り返り歩きだす。
「ランディ。『レビテイト』で飛んでくから、あたしにつかまって」
振り返り片手を差し出した。
「あ、ああ」
ランディがルヴィアに歩み寄る。
「こうかっ!?」
「キャアッ!!」
なんとルヴィアの腰にガバッと抱き付いた。どうしてこうスケベなのか……。
そしてハートを飛び散らしてデヘデヘした。
「〜〜〜〜」
怒りの込み上がったルヴィアの額に青筋が立ち、拳をワナワナと震わせる。
そんな2人をレーシアは目線をそらし見て見ぬ振りをしていた。
☆★ 殴 ★☆
ルヴィアとレーシアは精霊術『レビテイト』で夜空を飛んでいた。
『レビテイト』は風の精霊の力を借り宙を自由自在に飛ぶ魔法だ。
「ったくこのバカはッ!! ナニ考えてんのよッ!!」
「お姉さま、落ち着いて」
憤慨しているルヴィアをレーシアがなだめた。
頭に大きなタンコブのできたランディはルヴィアに腕を掴まれ宙にぶら下がった状態だ。
軽いジョークだったのに……。
またも涙をシクシクと流しながらランディが思った。
ルヴィア達の眼下には夜も更け灯りの消えた暗いキャッスルタウンが広がる。一部の繁華街は真夜中でも明るくネオンが輝く。
そんなキャッスルタウンの空を3人は飛び、そして越えた。
「ウワァァ――ッッ!!!」
突然ランディが叫び声と共に降ってきた。と思ったら頭から地面に突き刺さっていた。
首から下はグッタリと着地する。
その後ルヴィアとレーシアは軽やかに着地した。
「ん〜っ♪ これでやっとあたしはジユーの身なのねーっ♪」
ルヴィアが両手を挙げて伸びをし満面の笑顔で喜びの声を上げた。
「お姉さま酷いわ!! 早く降りなさいよ!!」
何やらレーシアが怒っている。
ルヴィアはランディの背中に着地していた。いまだにランディは頭を地面に突っ込んだまま苦しそうにもがいている。
「ランディさん、しっかりしてください。大丈夫ですか?」
レーシアが心配しながらハンカチで土まみれのランディの顔を拭く。
「……うん、なんとか」
「ホントにアンタは……。ナニやってんのよ」
呆れたルヴィアがため息をついた。
ランディはピクッと反応しルヴィアに食ってかかる。
「ルヴィアがいきなり落としたんじゃないかァーッ!!」
「ナニよッ!! アンタちょー重いのに運んであげただけでもカンシャしなさいよねッ!! こんなかよわいレディーにッ!!」
「か弱い〜!?」
ランディがどこが? と言いたげにルヴィアの顔を覗き込んだ。
「なんかモンクある」
「いえ」
ルヴィア・パンチをお見舞いされるのがオチなので言わなかった。
「お姉さま、これからどうするの?」
「とりあえず、コリコ・ポートタウンまで行くわよ」
「エエッ!!?」
ランディとレーシアが同時に驚いた。
「コリコ・ポートタウンって、ここからずいぶん距離があるぞッ!?」
「そこまで今から行く気!?」
「遠いのはわかってるわよ。でも行くしかないのっ! プリンセスのあたしが野ジュクなんてジョーダンじゃないわ。ほらふたりとも、そんなヤな顔しないでゲンキよく行くわよっ!!」
ルヴィアが2人を促し張りきって月明かりの下に続く草原の道を歩きだした。
そんなルヴィアの後ろ姿を見ていたランディとレーシアは顔を見合わせ、重い足取りではあるが後に続いた。
こうして、ルヴィアとレーシアの美しきプリンセス+1の楽しく愉快な冒険の旅が今、始まるのだった。この先はてさて一体、どんな事が待ち受けているのやら。
「誰が+1だァァ――ッッ!!!」
ランディの叫びが遠くで空しくこだましたのだった。チャンチャン♪
【TALE1:END】
少しでも気に入ってもらえたら感想でも評価でも頂きたいです♪
ガッツになります。よろしくお願い致します☆・゜:*:゜ヽ(。・ω・。)ノ*:・'゜☆