TALE13:ランディ念願のデート
これって一応デートでは?
さっきはデートどころじゃなかったし、こうして改めてルヴィアと歩ける事をランディは嬉しく思う。ルヴィアとデートなんて、もう記憶にないくらいしていない。
「あ、あの!」
そこへ駆け寄ってきた少女。
ギョッとするランディ。それは先程、自殺しようとしていた少女だった。
ランディは驚いたがルヴィアはキョトンとしている。
「よかった、無事だったんですね!? さっきは本当にごめんなさい!!」
少女がルヴィアに頭を下げた。
「……ダレ?」
少女が解らないルヴィアが尋ねたがランディは冷や汗をかきうろたえている。
「私、もう絶対自殺なんて考えませんから!」
それを聞いたルヴィアはポカンとする。
「じさつ?」
「君ッ!! わかってくれればそれでいいんだッ!! それじゃ僕達は急いでるから失礼するよッ!!」
そう言いランディはルヴィアの手を引き立ち去った。
ランディは一息つく。
やばかった。あの少女のせいでルヴィアが記憶喪失になったなんて知られたら、少女は何しでかすかわかったもんじゃない。
「あっ! 見てランディくんっ!」
「んっ?」
ルヴィアの指差すほうを見ると、そこはペットショップだった。
ペットショップでルヴィアとランディはいろんな動物を見て歩く。
「カワイイーっ!」
子犬に釘付けのルヴィア。
「よかったら抱いてみますか?」
女店員がルヴィアに声をかけた。
「いーのっ!?」
「きゃっ! くすぐったいっ!」
抱っこした子犬に頬を舐められルヴィアは無邪気に笑う。
子犬と戯れるルヴィアをランディは微笑ましく見つめた。
「ルヴィア、手を繋ごうよ」
ペットショップを出たランディがルヴィアに声をかけた。
「うんっ」
笑顔で答えるルヴィア。
素直なルヴィアにランディは感激して手をギュッと握る。
ああ幸せ。
ハートを飛び散らして幸せをヒシヒシと感じた。
それも束の間、ルヴィアはすれ違ったカップルがクレープを手にしているのを目撃してすぐさま迫る。
「クレープっ!! おいしそーっ♪ ドコにあんのっ!?」
カップルの彼女はギョッとしたが彼氏は目をハートにした。
「ここの通りをずっと行って交差点を左に曲がってしばらく行くとショップがあるよ」
デレデレした顔で教える彼氏を彼女はムッとして睨む。
「ありがとっ!!」
ルヴィアが猛ダッシュで走りだす。
「エッ!!? おいッ!! ルヴィアーッ!!!」
慌ててランディが叫んだがルヴィアは既に豆粒だった。もはやランディの存在は忘れられていた。
「……ルヴィア、酷い……」
木枯らしがヒューっと吹いた。
「あった!!」
クレープショップを発見したルヴィアは急停止して駆け寄る。
「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですか?」
「えっとねープリンデラックスっ♪」
「かしこまりました。少々お待ちください」
女店員がクレープを作り始めた。
瞳を輝かせたルヴィアはワクワクしながら待つ。
「お待たせしました。プリンデラックスになります」
「わーいっ♪♪」
嬉しそうにクレープを受け取った。
「お会計は400ラルになります」
女店員がそう言うとルヴィアの目が点になる。
「えっ!? 400ラルっ!?」
「……? そうですよ」
「それって、お金っ!?」
「……そうですが」
女店員がなんだこの女と言いたげな目で見た。
「あッ! あたしお金持ってな――いッ!!」
ルヴィアがショックを受けた。クリスタル・ブレスレットに収められている事など知るはずもない。
「エエッ!!? お支払いいただかないとクレープは差し上げられませんが!?」
「エーッ!! ヤダッ!! そんなのヤダーッ!!!」
大声でわめくルヴィアに女店員は困り顔だ。
「やだと言われましても」
そこへ2人の若い男がやってきた。
「キミ金持ってないの? 俺が払ってやるよ」
それを聞いたルヴィアは瞳を輝かせる。
「えっ!? ホントっ!? いーのっ!?」
「いいよそれくらい」
「わーいっ!! ありがとーっ!!」
「うまい?」
笑顔でクレープを頬ばるルヴィアに男が尋ねた。
「うんっ♪ おいしーっ♪♪」
口がクリームだらけのルヴィアが笑顔で答えると2人の男は笑う。
「クリームだらけだぜ」
「彼女すっげかわいいね。1人なの?」
「えっ!?……あれっ!? ランディくんはっ!?」
やっとランディの存在を思い出したルヴィアが周囲を見回す。
「ランディくん、ドコ?」
「誰そいつ、キミの彼氏?」
男が尋ねるとルヴィアはキョトンとする。
「かれし?」
彼氏という言葉をまだ知らない。
「なーんだ違うのか」
「そんな奴ほっといてさぁ、遊びに行こうよ」
男がルヴィアの肩に腕を回した。
「ヤダッ!! あたしランディくんさがすのッ!!」
「……あっ、実はさぁ俺、そいつ知ってんだ。さっき見たよ」
それを聞いたルヴィアの表情が明るくなる。
「えっ! ホントっ!?」
「ああ、連れてってあげるよ」
「うんっ!」
簡単に信用してしまうルヴィアだった。まぁ今のルヴィアなら無理もない。
2人の男は顔を見合わせてニヤっと怪しく笑った。
「ルヴィア――ッ!!! どこだ――ッ!!! 返事しろ――ッ!!!」
大声で叫びながらランディはルヴィアを捜して街道を走る。
こんな時にルヴィアとはぐれてしまうなんて。
もしナンパ男に絡まれでもしたら、今のルヴィアは。
不安で気がおかしくなりそうだ。
「こっちだよ」
2人の男に人気のない場所に連れてこられたルヴィアは辺りを見回す。
「ランディくんは?」
「……もうずぐ来るよ」
2人はルヴィアの腕をそれぞれ掴み地面に座らせる。
「ね、ねーホントに来んの?」
ルヴィアが不安そうな表情で尋ねると2人は笑いだす。
「彼女、まだそんなこと言ってるわけ?」
「ほんとはわかってんだろ?」
「えっ!?」
ルヴィアを押し倒して足を開く。
「うまそ〜」
いやらしい目つきで見る男。
「なにっ?」
「……マジでわかってねぇのか?」
キョトンとしているルヴィアに2人が冷や汗を垂らした。
「まぁいいや」
男はルヴィアの服のボタンを外し、もう1人はミニスカの脇に手を滑らせる。
「な、ナニすんの?」
さすがにルヴィアも不安になった。
「ヤダァァ――ッッッ!!!!!」
絶叫してルヴィア・キックを男の顔面に食らわせた。それを見たもう1人が愕然とする。
「なッ!!」
「ランディくーんッ!!!」
「この!!」
男がルヴィアに覆い被さり両腕を押さえ込む。
「ヤダーッ!!!」
初めて味わう男の重みと力強さ。
もがいても振り解けずルヴィアは恐怖を覚えるが、なんとしても逃れようと必死だ。
「デッ!!」
無我夢中のルヴィアの頭突きが男にヒットした。
「いってェ〜〜」
額を押さえて痛がる男のスキをつきルヴィアは逃げだした。
汗だくでランディは足を止める。
捜してもルヴィアが見つからない。
一体どこにいるんだ。まさか今頃……。
脳裏に嫌な妄想がよぎる。
「ランディく――ん。ドコ――」
背後から聞き覚えのある声が聞こえハッとする。
「ルヴィアッ!!?」
振り返ると向こうからルヴィアが走ってくるのが見えた。
「ルヴィアーッ!!! 僕はここだよっ!!!」
「ランディくんっ!!」
ランディを発見したルヴィアは一目散に駆け寄り飛び付いた。
「わあ〜〜んっ!! ランディくーんっ!!」
「ルヴィア、よかった。本当に心配したぞ」
ランディに抱きしめられ泣きじゃくる。
「大丈夫か? 何があったんだ?」
「……知らない男の人が……ランディくんのいるトコつれてってくれるって言ったの……。そしたら……ダレもいないトコでヘンなコトしてきて……。こわかったぁ〜〜」
やっぱりそんな目に。
悔しがるランディだった。
傾いた太陽の日差しでオレンジ色に染まる公園。夕日を浴びて噴水がキラキラと輝く。
そんな公園のベンチでランディはルヴィアを心配そうに見つめる。
「ルヴィア……。大丈夫?」
「うん、もーヘーキよ。あたしにはランディくんいるから」
ルヴィアが泣き腫らした目でニコッと微笑むとランディはドキンッとして顔が赤くなる。
これからは自分がルヴィアを護っていかなければ。
ドキドキしながら決心した。
ルヴィアの手を握る。
「ルヴィア、これからは僕から2度と離れるなよ」
「えっ?」
「約束してくれ」
ルヴィアを真剣に見つめるランディ。
「うんっ! はなれないっ!」
ルヴィアがランディの腕を抱きしめた。ランディはドッキーンとする。
こんな近くにルヴィアを感じたのは久しぶりだ。だってこんなに引っ付かせてくれない。
ランディはドキドキしながらルヴィアを見る。
「ルヴィア」
「ん?」
「愛してるよ」
「えっ?」
「愛してるっ」
「あいしてる?」
「すごくすごく大好きってことだよ」
「あたしもランディくんだーい好きっ」
無邪気に言うルヴィア。
「本当っ!? 僕嬉しいよっ!」
感激したランディがハートを飛び散らしてルヴィアを抱きしめた。
2人は見つめ合い、なんだかいいムードになる。
「ルヴィア……。キスしても、いい?」
「うんっ」
それを聞いたランディはドキンッとした。
ルヴィアは目を閉じる。
鼓動がドッキン、ドッキンと高鳴るのを感じながらランディはゆっくりルヴィアに顔を近づけていく。
「ストォ――ップ」
突然、太い声で止められた。2人は肩をビクッと震わせて声のほうを見る。
そこに太った髭面の男が居た。公園の掃除をしているらしくホウキとチリトリを持っている。
「はいはい、そこまでねー。最近公園でイチャつくカップルが多くて困るんだよね。公園はねー、Hする所じゃないんだよ?」
「は、はぁ。すいません……」
顔を真っ赤にして謝るランディ。
「続きはホテルでしなさい。さぁ帰った帰った!」
男は掃除の続きを始めた。
「ザンネンだったわね」
「う、うん……」
ホテルのバスルームの脱衣所でルヴィアとレーシアは服を脱いでいるところだった。
「ねーレーシア。あたしの胸、どーしてこんな腫れてんのかしら? ちょー重いのー」
ランジェリー姿のルヴィアが両手で胸を押さえてレーシアに尋ねた。
「そ、それは腫れているんじゃないのよ。女の子は年頃になると胸が大きくなってくるの」
「そーなのー? でもレーシアそんなに……」
ルヴィアが胸を覗き込むとレーシアはムッとする。
「悪かったわね」
ホテルの一室。
ランディは嬉しかった。ルヴィアと2人きりで夜を過ごせる事を。
だって予定どおり結婚していたら、こうやって初夜を迎えるはずだったんだし。
念願が叶った事といかがわしい考えで顔がニヤける。
「…くん。ランディくんっ!」
ルヴィアの声にランディは我に返る。
「ランディくん、なにしてんの?」
ソファーに座っているルヴィアがランディを見ていた。
「あ、ごめん。なんでもない」
そう言いランディも向かいのソファーに座る。
「ルヴィア、2人きりになれたね」
「うん」
「あのね、少し話を聞いてほしいんだ」
「なーに?」
「実はさ、今日僕達は結婚するはずだったんだ」
唐突なランディの発言にルヴィアは目を丸くする。
「エッ!!? ケッコンッ!!?」
「うん」
「そーなのっ!! あたしランディくんとケッコンすんのねっ!!」
「……結局ダメになっちゃったけど……」
ランディがため息をつき残念そうな表情をした。
「えっ!? どーしてダメになっちゃったのっ!?」
「そ、それはルヴィアが嫌だって言ったから……」
「あたしがっ!? なんでっ!? あたしランディくんとケッコンしたいっ!!」
それを聞いたランディは感激する。
「本当にっ!? 僕と結婚したいんだねっ!?」
「うんっ! 今すぐっ!」
「やったーっ!! 嬉しいけど、今すぐは無理だよ……。じゃあ夜が明けたら、すぐにタウンを出発してキャッスルに帰ろう。そしておじ様と改めて話しあって、結婚式の日取りを決めよう。なっ?」
「うんっ」
ニッコリと微笑むルヴィア。
やっぱり可愛い。
ルヴィアの笑顔をランディは目をハートにして見つめた。
赤い顔で真顔になる。
「ルヴィア、ベッドに行こう」
「寝んの?」
「そ、そうだよ」
「うん」
ルヴィアがうなずくとランディは立ち上がりドキドキしながら手を差し出した。
ルヴィアとランディは1つのベッドに潜った。
シングルのそんなに大きくもないベッドでは2人の体は触れ合ってしまう。
それがランディの気持ちを余計に高ぶらせる。
どうしよう、もう我慢できない。
ランディの心臓はもうバクバクだ。息が荒くなる。
「ルヴィアっ!」
ガバッと体を重ねた。
「ラ、ランディくんっ!?」
「愛してるっ」
唇を重ねた。
「んっ、んんっ」
戸惑うルヴィア。
7歳でもランディとキスくらいはした事がある。だが、こんなに情熱的なのは初めてだ。
「……ランディくん……。どーしちゃったのかしら、あたし。な、なんかヘンな感じ」
紅潮した顔でルヴィアはドキドキした。
潤んだ瞳で自分を見つめる艶っぽいルヴィア。
こんな表情を見たのは久しぶりでランディは気持ちが高ぶる。
「僕も……」
ルヴィアが欲しくなる。
だけど、よく考えたら今のルヴィアは体は大人でも心は7歳だ。そんなルヴィアに手を出してもいいのだろうか。
ランディは思い悩む。
……でも結婚するなら、いずれ通らなければならない道だ。
「ルヴィア。僕達結婚したら、赤ちゃんが…」
「あかちゃんっ!?」
途端にルヴィアが声を上げた。
「そう、結婚したら赤ちゃんが」
「はやくあかちゃんほしーわっ!」
「えっ!」
ルヴィアの発言にランディの顔がボッと真っ赤になった。
「欲しいけど……。ルヴィア、赤ちゃんはどうやってできるか知ってるのか?」
「えっ? ケッコンしたらできんでしょ?」
「……うん、まあ」
結婚しなくてもできるけど、と思うランディ。
「たのしみだわっ!」
笑顔のルヴィアをランディは見つめる。
「ルヴィア。あのね、これからすることは決して変なことじゃなくて……愛しあってる2人がすることで、僕達の赤ちゃんを作るためにするんだ……」
赤い顔で説明したがルヴィアはよく解らずキョトンとする。
「ふーん?」
「……ルヴィア愛してるよっ」
ルヴィアに唇を重ねた。
お約束のイビキをかきながらルヴィアはすっかり熟睡中だ。
そんなルヴィアの肩を抱きながらランディは思う。
ルヴィアと結婚できるのは本当に嬉しい。だけど心は7歳のルヴィアだ。
本当にこれでいいのだろうか。
なんだか良心が痛む気のするランディだった。
【TALE13:END】