TALE9:格闘術大会 I
8月25日。格闘術大会が催される日。
晴天に恵まれ絶好の大会日和だ。
デュッカ・タウンの名物、巨大コロシアム。大きな丸いリングを囲み観客席が雛壇状にある。
各自、所々に出場選手の証であるバッジを付けた強豪が集まっていた。
「スゲー人数だな」
ドミニオが驚き気味に言う。
「そーかしら? みんなブッ飛ばしてあたしがユーショーしてやるわっ!!」
余裕の表情のルヴィアが拳を前に突き出した。
「オレだって優勝ねらうぜっ!!」
だが周囲を見回し女選手が多い事に冷や汗を垂らす。
「……意外と女性が多いんだな……」
「女のコとあたっちゃったらタイヘンねェー」
『出場選手の皆さんはリングまで集合してくださーい』
アナウンスが聞こえた。
ルヴィアとドミニオ、出場選手はリングの周囲に集まった。
リングの上にマイクを手にした男性アナウンサーが居る。
『皆さんお集まりになりましたね!? それでは只今よりトーナメント戦への出場を決定する予選を行いたいと思います』
「ヨセンっ!?」
「ああ。この人数のまんま行えるわけねーからな。少数に絞んだ」
ドミニオがキョトンとするルヴィアに言った。
『トーナメント戦への出場人数は8名です。今回の格闘術大会の応募総数は108名となりました。この人数より8名まで絞ります。それでは予選のルールをご説明いたします。まずこのリングに9名ずつ上がっていただきます。リングアウトを目的として一斉に闘っていただき、リングに1名のみを残します。そして最後にそれぞれで勝ち残った12名で闘っていただき、リングに8名が残った時点でトーナメント戦へ出場することが決定となります』
「へェ、おもしれーな」
説明を聞いたドミニオがニッと笑ったがルヴィアはチンプンカンプンだ。
「……イミよくわかんない」
『それでは予選を始めます。お好きな時でけっこうですので9名お上がりください』
すると出場選手が続々とリングに上がり始める。
「よーしっ! あたし行くわっ!」
ルヴィアが張り切って言ったがドミニオは肩に手を置き止めた。
「待てよ、まずオレが行くぜ」
「エッ!!? 抜けがけなんてズルイッ!!」
「オレの実力見てからでもいーだろ?」
「えっ!?……しかたないわねェ」
シブシブ我慢するルヴィア。
ドミニオはリングに上がった。
『はい9名になりましたのでそこまでです! いいですか、くれぐれもリングアウトを目的として闘ってください。それでは始め!』
アナウンサーの指揮で皆一斉に走りだす。
リングの端で様子を見ているドミニオに女選手が駆け寄る。
「坊や、あなたをリングアウトしてあげるわ!」
ドミニオが足をサッと出すと女選手はつまずいた。
「えッ!? キャア!!」
女選手はリングから落ちリングアウトになった。
それを見たルヴィアは呆れて冷や汗を垂らす。
「ちょっとドムなにセコイコトしてんのよッ!! 戦いなさいよッ!!」
「…………」
ルヴィアの声が聞こえたがドミニオは答えなかった。
ドミニオは飛びかかってくる選手を撃退し見事リングに残った。
一息つく。
『はい終了です。それでは勝ち残ったあなたのお名前は!?』
アナウンサーがドミニオに尋ねた。
「あ、ドミニオ=エレンティアです」
『それではドミニオさん、こちらの席にお着きください』
アナウンサーが手を差し伸べた先には12個の椅子が置かれている。
「はい」
言われるままドミニオはリングから降り椅子に座った。
『さあドンドンいきましょう! それでは次の9名お上がりください!』
「よーしっ!」
気合いを入れたルヴィアがいち早くリングに飛び乗りドミニオは注目する。
ルヴィアの腕前はどれ程なのか。
「……あれ?」
不思議に思うルヴィア。
リングに上がってきたのは女選手のみなのだ。
周囲に居る男選手はルヴィアを見て顔を赤らめている。
その様子に女選手はひがむ。
「なんだい馬鹿な男ども。美人には弱くて手が出せないってのかい」
『はいそこまでです!』
結局リングには女選手のみが集まった。
『それでは予選を始めます。始め!!』
女選手のみの闘いが始まった。
ルヴィアは女選手の1人に狙いをつけ走りだす。
リングを勢い良く蹴りルヴィア・パンチを繰り出したが女選手は素早く避けた。
足を止めると、そこに別の女選手がルヴィアに向かって飛び蹴りをする。
「あまいわッ!!」
ルヴィアは素早く飛び上がりクルクルと華麗に宙返りしてリングに着地する。
「プリンセス、あぶねーッ!!」
ドミニオが思わず立ち上がった。
なんとルヴィアの四方八方から女選手が一斉に飛びかかったのだ。
「たあ――ッ!!」
華麗なルヴィア・キック(回し蹴り)で女選手を蹴散らす。
「キャァァ――!!」
吹っ飛びリングに倒れた者も居ればリングアウトになった者も居た。
「スゲェー……」
それを見たドミニオは呆然とした。
そしてルヴィアはリングに残った。
『はい終了です! それではあなたのお名前を』
アナウンサーがルヴィアに尋ねた。
「ルヴィア…じゃなかったマリアよ」
『フルネームでお願いします』
「フルネーム? えっと、マリア=アレインよ」
『それではマリアさん。こちらの席にお着きください』
「ええ」
リングを降りドミニオの居る椅子が置かれた場所へ向かった。
「さすがプリンセス。強かったな」
「フフンっ♪ トーゼンよ」
ドミニオに向かってVサインをした。
予選はいよいよクライマックスを迎えた。
最後は残った選手12名で闘い8名まで絞る。それでトーナメント戦への出場が決定するのだ。
『それでは予選のラストを始めます。残った12名の皆さん、リングにお上がりください』
ルヴィアとドミニオ、残った10名がリングに上がる。
『只今の12名より8名になった時点でトーナメント戦への出場が決定となりますので、皆さん気合いを入れてがんばってください!!』
「行くわよドム」
「ああっ! がんばろーぜっ!」
ルヴィアとドミニオがファイティングポーズを取った。
『それでは、始め!』
2人は走りだす。
――そして見事に予選を突破したのだった。
昼。
コロシアムの観客席は熱い闘いを見に来た観客で賑わう。
ルヴィアとドミニオはコロシアムの広場のベンチで開始時間を待っているところだ。
「プリンセス。オレ、あのフィアンセに話あんだけどさ」
唐突なドミニオの発言にルヴィアは目を丸くする。
「ナニッ!? フィアンセッ!? まさかランディのコトッ!? なんでッ!?」
「ハッキリさせてーことがあんだ」
「なにそれ」
「フィアンセの前で言うからさ。とにかくフィアンセんとこ行ってもいーか?」
立ち上がったドミニオをルヴィアはジトッとした目で見る。
「ドム」
「んっ?」
「アイツはフィアンセじゃないって言ったでしょ」
「あっ、ゴメン」
「でもわざわざ行かなくても来てもらえばいーのよ」
「えっ!? どーやって?」
ルヴィアは目を閉じる。
(レーシアッ)
コロシアムの観客席に居たレーシアにテレパシーが届いて驚いたように顔を上げた。
ランディとレーシアが観客席から階段を下りると、そこにルヴィアとドミニオが居た。
「ルヴィア……」
ランディが声をかけたがルヴィアは顔を背けている。
「来てもらってワリーな。話あんのはオレなんだ」
ドミニオがそう言うとランディは睨む。
「おまえがッ!?」
「キミ、プリンセスがオレと旅するっつったのに、プリンセスをあきらめるつもりねーだろ?」
「当たり前だッ!!」
「キミがプリンセスのこと好きな気持ちわかるけどよ、だからってずっとつけられてんのもスゲー嫌なんだよな」
「そーよメーワクよ」
ルヴィアも同意して言うとランディはムッとする。
「ここでオレは宣言する。オレがこの格闘術大会で優勝することができたら、キミはプリンセスのことスッパリあきらめてくんねーか」
突然の優勝宣言にランディとルヴィアは驚く。
「何ィッ!!?」
「ドムッ!?」
「そんでもし優勝できなかったら、そん時はオレがプリンセスと旅することをあきらめる」
「ちょッ! ちょっとドムッ!! そんなコト、カッテに決めないでよッ!!」
「大丈夫だ。オレはゼッテー優勝してみせる」
抗議したルヴィアにドミニオが自信タップリで言った。
「……それって、このあたしに勝つ自信あるってコトよね」
ルヴィアが睨むとドミニオは冷や汗を垂らす。
「うッ。そ、そーだけど」
「あまくみないでもらいたいわねッ!! ユーショーすんのはこのあたしよッ!!」
「ハハハ……」
苦笑いしてランディに向き直る。
「どーかな?」
「優勝する自信が相当あるようだな」
「モチロンだぜ」
「いいだろう。ただし優勝できなかった時はルヴィアを僕に返せよッ!!」
「わかってる。オレは男だ。男に二言はねーッ!!」
キッパリ言い切るドミニオだった。
「信じらんないわ。あんなコト、カッテにゆーなんて」
ドミニオの優勝宣言にムカムカと腹を立てるルヴィア。
「まーまー、もー決まっちまったことだし、プリンセスも賛成してくれよ」
「ジョーダンじゃないわッ!! あたしランディんトコもどる気ないわよッ!!」
「……だからオレが優勝すればいーことだし」
「あんたをユーショーさせる気もないッ!!」
ルヴィアがもの凄い剣幕でドミニオにクワッとアップで迫った。
「そんなァ……」
トーナメントは全部で7戦。まずは4戦に別れ2名ずつで闘い、それぞれ勝ち抜いた者同士で闘っていき優勝を決定する。リングアウト、ギブアップ、ダウンして10カウントを取られたほうの負けになる。
8名の選手がリングサイドに集まった。
ルヴィアを含む若い女が3人。大男が1人と中年男が2人。あとはドミニオと若い男。
抽選の結果ルヴィアは1戦目、ドミニオは4戦目となった。
とりあえずルヴィアと離れる事ができてホッとするドミニオだった。
【NEXT→II】