TALE8:ドミニオの告白
次の日。
身支度を済ませたドミニオは部屋の鏡の前で髪を櫛で整える。
「よしっ」
気合いが入る。
ドミニオはルヴィアの部屋のドアをノックした。だが応答がない。
「……まさかまだ寝てんのかな」
ルヴィアの部屋のキーでドアを開けてみた。
何故ルヴィアの部屋のキーを持っているか? それはドミニオ本人にご説明願おう。
「あ、昨夜プリンセスがオレんとこにマッサージ頼みに来て。普通にやってたんだけど、プリンセスがそのまま爆睡しちまって。そのままにもしておけねーし部屋に運んだんです」
だそうだ。
案の定ルヴィアのイビキ音が聞こえドミニオは冷や汗を垂らす。
「やっぱ……」
部屋に入りベッドで眠りこけているルヴィアに歩み寄る。
「あっ!」
顔が赤くなった。
ルヴィアの寝相が悪くて布団がめくれ、バスローブがはだけて太ももが丸見えになっていたからだ。
慌てて振り返る。
見てねーぞオレは!
だけどミニスカートよりこっちのほうがエロく見えるのはどうしてだろう。
赤い顔のままドキドキしながら思った。しっかり見とる。
1時間後。
ドミニオは開いた窓から外を眺めてルヴィアが起きるのを待っているのだが、ちっとも起きる気配はない。
起こしたほうがいいのだろうか。でもプリンセスに下手な事はできないし。
思っているとドアをドンドンと勢い良く叩く音が聞こえビクッと反応する。
「だ、誰だ?」
ドアを開ける。
「ルヴィアッ!! あ? 君は昨日のッ!! どうしてここにッ!!?」
なんとそこにランディとレーシアが居た。
「え? 誰だ?」
ドミニオはランディの事を知るはずもなかった。
レーシアに目を向けて驚く。
「あッ!! アナタはプリンセスの妹様ッ!!」
「えっ」
部屋に入ったランディは相変わらず眠りこけているルヴィアを発見する。
「あッ! ルヴィアッ!」
「お姉さま!」
レーシアが駆け寄っていく。
「これは一体どういうことだッ!? なぜ君とルヴィアが一緒にいるッ!!」
ドミニオを指差しランディが問い詰めた。
「プリンセスが望んだからだ」
「何ィ〜!!? ルヴィアは僕のフィアンセなんだぞッ!!」
「フィアンセッ!?」
ランディの発言にドミニオが愕然とした。
「嘘だッ!! だって恋人いねーってッ!!」
「僕というフィアンセならいるってことだ。それよりおまえ、ルヴィアと一夜を過ごしたんだなッ!!」
「してない」
正直に答えたがランディは信じない。
「嘘つくなッ!! じゃあなんでおまえがここにいるんだよッ!!」
「お姉さま!! お姉さま起きて!!」
レーシアがルヴィアを叩き起こした。
聞き慣れた声で、ようやく目を覚ますルヴィア。
「……んー……。ヘ? レーシア?」
寝ぼけまなこでレーシアを見る。
「起きたのね。もう心配したのよ。昨日テレパシーを送ったのに返事がなかったし。ランディさんと一晩中お姉さまを捜してホテルを回ったのよ」
「えー? なんでー?」
まだ寝ぼけている。
「お姉さまが帰ってこなかったからじゃない!!」
「え?……えーと」
ルヴィアは起き上がり部屋を見回す。
「あっ! ドムっ!」
ドミニオを発見して駆け寄った。
「プリンセス」
「ルヴィアッ!! どうしてその男とッ!!?」
尋ねたランディにルヴィアは冷たい視線を向ける。
「ダレとなにしよーがあたしのカッテでしょ」
「何ッ!?」
「あっ! でもショーカイしてあげてもいーわ。あたしのカレシのドムよ」
ルヴィアが腕を抱きしめるとドミニオの顔が真っ赤になった。
「かッ!! 彼氏ィーッ!!?」
ルヴィアの発言にランディがビックリ仰天した。
一方ドミニオは真っ赤な顔でドキドキしている。
ルヴィアの胸が腕にしっかり当たっているのだ。
「ドムはね、あたしがしつこくナンパされてるトコ助けてくれたの。まさに運命的な出会いよねっ♪ ドムの戦いぶりったらマジちょーカッコいかったわーっ」
「そ、そんな」
照れまくるドミニオの前でランディは震えていた。
「……ルヴィア、信じないぞそんな話。僕だってもう子供じゃないんだ」
余裕を見せるランディだが内心焦っている。
「あっそ。だったらよく見てなさいよ」
ルヴィアはドミニオの首に両腕を回して唇を重ねた。
それを目の当たりしたランディはさすがに顔が真っ青になり顎は落ちた。レーシアは顔を赤くする。
「これでわかった?」
ルヴィアがそう言うとランディはうつむいていた。
キスをされたドミニオは真っ赤な顔で力が抜け床に膝を付く。
ランディは顔を上げたがルヴィアを見れない。表情から傷ついているのが見て取れる。
「……一夜の過ちくらい許すよ」
「はあッ!? バカじゃないのッ!? ゆるせないのはあたしのほうよッ」
「どうしたら許してくれる?」
「そんな気ないわ。あたしこれからドムと旅するコトにしたの。だからアンタ達とはココでおわかれよ」
ルヴィアが冷たく言い放つとランディはショックを受けた。
「お姉さま本気なの!?」
「よかったわねレーシア。これからふたりだけで仲よくね。おシアワセに」
「!!」
レーシアの顔がカァッと赤くなる。
ルヴィアに歩み寄り平手打ちしようと手を振り上げた。だがルヴィアはすかさずレーシアの手首を掴む。
「ナニすんのよッ!! あたしのコトたたこーとしたわねッ!!?」
レーシアをキッと睨みつけたがハッとする。レーシアの目に涙が溢れていた。
「レーシア……」
手首を離すとレーシアは部屋を飛び出した。
「レーシアちゃんっ!!」
ランディは追いかけようとしたが未練の眼差しでルヴィアに振り返りレーシアを追いかけていった。
「レーシアちゃんっ!!」
ランディがホテルを出ると背を向けて立ち尽くしているレーシアが居た。
背後に歩み寄る。
「レーシアちゃん……」
「……お姉さま、酷い……。私は、お姉さまとランディさんに仲良くしてほしいだけなのに……」
両手で顔を覆い泣いていた。
「レーシアちゃん、ごめん。いつも僕に気を使ってくれて……。僕はルヴィアのことを大切に思ってるのに、気持ちを抑えきれなくてつい手を出してしまって傷つけて……。本当に僕はバカだ。僕がいけないんだッ!!」
「なんかスッキリしないわ。まるであたしがワルモノみたい」
身支度を済ませたルヴィアがレーシアを泣かせてしまった事に不満そうに言った。
「……プリンセス。さっきの男……フィアンセなんだろ?」
「ちがうわッ!!」
即行否定したルヴィアにドミニオはビックリする。
「エッ!? でもそー言ってたぜッ!?」
「カッテに決められちゃったコトなのよ。あたしアイツなんかと結婚する気ゼンゼンないわッ!!」
「そ、そーか。そーなんだ。それならよかった……」
ホッとするドミニオ。
「あら? どーしてあなたがアンシンすんのかしらァ」
ルヴィアが見透かしたように尋ねた。
「えッ!! いやそれは……」
困惑したドミニオの額から脂汗が溢れる。
「お、オレが恋人だからじゃねーかっ!!」
真っ赤な顔で思いきって言った。
「はッ!?」
それを聞いたルヴィアが目を丸くした。
「だっ、だってさっきそー言ってくれたろっ!? き、キスだってしたし……」
「あ、さっきのあれ? あれはランディにあたしのコトあきらめさせるために言ったの」
ルヴィアがあっさり言うとドミニオはグワ――ンと大ショックを受けた。ハートにヒビが入り真っ二つに割れる。
「……わかってたぜ、そんなこと……」
涙を流してボロボロとこぼした。そんなドミニオにルヴィアはたじろぐ。
「ご、ゴメン。そんな泣かなくても……」
「だよな。オレが恋人なわけねーよな。くそっ」
涙を片腕で拭うドミニオ。
「でもあたし、ドムといるとなんだかたのしーの。ランディなんかより、ドムのほうがずっとステキよ」
ルヴィアがそう言うとドミニオは顔を赤くする。
「まっ! マジでっ!?」
「うん」
「オレも、オレもプリンセスといるとスゲーたのしーぜっ! ホントだぜっ!」
「トーゼンよ。あたしといてたのしくないなんて言わせないわよ」
「プリンセス……」
2人の間にはなんだかほのぼのとしたムードが漂う。
ルヴィアもランディといる時とは違う心の変化に気づいていた。
ホテルを出たルヴィアとドミニオはすぐ何かの気配に気づきハッとする。
突然アイルーン・ソードを握ったランディが襲いかかってきた。
「うぉおーッ!!!」
「あぶねーッ!!」
「キャッ!!」
ドミニオがルヴィアをかばい横に飛んだ。
ランディはすぐ向き直りドミニオにアイルーン・ソードを振り下ろす。
「くッ!」
刃を両手で挟み受け止めたドミニオをランディは恨みを込めた目で睨みつける。
「おまえ邪魔なんだッ!! 消えてくれッ!!」
「ランディッ!! ナニしてんのよやめてッ!!」
ルヴィア・キック(飛び蹴り)がランディの頭の真横に入った。
「ああ゛ッ!!」
涙を流したランディが倒れ込む。
「ランディさん!!」
離れて見ていたレーシアが駆け寄った。
「ダイジョーブ? ドム」
「ああ」
「はやく行きましょっ!」
「待ってくれルヴィアッ!!」
立ち去ろうとした2人をランディが引き止めた。
頭をさすりながらアイルーン・ソードを手にして立ち上がる。
「僕が悪かった……。謝るから戻ってきてくれ」
「ジョーダンじゃないわッッ!!! アンタなんか大ッキライよッッ!!!」
「待ってくれッ!! 本当に行ってしまうのかッ!!?」
追いかけながらランディが尋ねた。
「そー言ってんじゃないッ!!」
「……わかった。だけど最後に頼みがある」
それを聞いたルヴィアは背を向けたまま立ち止まる。
「ナニよ」
「僕を、殺してくれ……」
ランディの発言にルヴィアは目を見開く。
「ランディさん何を!!? 気は確かですか!!?」
愕然としたレーシアが言う。
「いいんだ。ルヴィアがその男を選ぶなら僕は生きてる意味がない。そんなの辛いだけだ。このアイルーン・ソードで僕の首をはねてくれ」
ランディがルヴィアの背後に歩み寄り右手にアイルーン・ソードを握らせた。
「僕が憎いなら、できるだろ?」
「……そーよ。アンタには今までタクサンのウラミがあるわ。アンタの望みどーり、殺してあげるッ!!」
ルヴィアが振り返り両手でアイルーン・ソードを握りしめた。
「お姉さま!! やめてー!!!」
顔面蒼白のレーシアが叫ぶ。
「止めないでくれ、レーシアちゃん。僕はルヴィアに殺されるなら本望だ。それだけルヴィアに嫌われることをしてきたんだ」
ランディが目を閉じた。
ルヴィアはアイルーン・ソードを振りかぶりランディの首を目がけて振るった。
「イヤァァ―――!!!!!」
両手で顔を覆ったレーシアが絶叫した。
だがルヴィアはランディの首の手前で寸止めしていた。
力なくアイルーン・ソードを地面に落とす。その音にランディがゆっくり目を開ける。
「ルヴィア……。どうして……?」
「こんなトコでアンタの首なんかはねたりしたら、タウンの人達にメーワクかけちゃうじゃない。バカなコトさせないでよッッ!!!」
「ルヴィア……」
「フンッ! そーゆーワケだから、じゃーね。ドム、ゴメンナサイ。行きましょっ!」
ランディに冷たく言い放ちドミニオに笑顔で言った。
「ああ。あのさ、わるく思わねーでくれよ。プリンセスのことは、これからオレが命にかえて護ってく。誓うからさ」
ドミニオがランディに言いルヴィアと歩きだした。
「ルヴィア……。行かないでくれぇ……」
2人の後ろ姿を見つめて泣き崩れるランディだった。
「おいしーっ♪ このアイスっ」
「なーっ」
笑顔で街道を歩きながらルヴィアとドミニオの手にしている物はアイスクリームだ。
「オレの食ってみるか?」
「え、うんっ」
ルヴィアはドミニオの差し出すアイスクリームをパクッと食べる。
「おいしーっ♪ あたしのも食べていーわよ」
「いーのか? 食う」
ドミニオも同じく食べた。
「それもウメーなっ」
「でしょー」
そんな仲の良い2人の後ろ姿を物陰から怨念の眼差しで睨んでいる者が居た。
なんだよイチャつきやがってェ〜〜。
当然ランディだ。2人の後を尾行しており、まるでストーカーだ。隣には勿論レーシアも居る。
ルヴィアはため息をつく。
「やんなっちゃうわ。アイツずっとついてきてんの」
「ああ、だな」
ルヴィアとドミニオを見ているのはランディとレーシアだけではなかった。道の脇でたむろしているガラの悪い3人の男が目をつける。
「おい見ろよ。あの野郎、ずいぶんいい女連れてんじゃねェか」
「生意気だな、ガキの分際で。俺なんて女いねェ歴長ェってのに」
むさい男が悔しがった。
「ああいうガキはテメエの立場ってもんを教えてやらんとなァ。シメてやろうぜ」
3人はルヴィアとドミニオの前に立ちはだかる。
「オイ、ちょい待ちな」
「ゲッ!!」
2人が同時に顔をしかめた。
ランディとレーシアは恐そうな連中にルヴィアとドミニオが絡まれているのを相変わらず物陰から見ていた。
恐い男共の登場にランディは喜ぶ。
チャンスだ、やられちまえと思ったがハッとする。
確かドミニオはケンカが強い。
喜んだのも束の間だった。
「なんか用か」
ドミニオが3人を睨みつけた。
「なんだその目は。ガキのくせに女連れてイキがってんじゃねェぞ」
男の発言にドミニオはピクッと反応する。
「ガキだとッ!!?」
「チョット!! ドムのワルグチ言ったらこのあたしがゆるさないわよッ!!」
ルヴィアがズイっと前に出た。
「彼女も変な野郎が趣味なんだな。こんなガキにゃもったいねェよ。捨てちまいな。こんなガキに抱かれたって嬉しかないだろ?」
「テ、テメー……」
額に青筋を幾つも立てたドミニオが体をワナワナと震わせた。
「ヘンタイッッ!!! どーしてすぐそーゆーコトゆーのよッッ!!!」
「んな格好してるのが悪ィんだろ」
「あたしがなに着よーとカッテでしょッ!! ったくアンタ達みたいなヘンタイよろこばすために着てんじゃないわよッ!! とっとと消えなさいよヘンタイッ!!」
ルヴィアが言い放つと3人はかなり頭に来たようだ。
「何度も変態呼ばわりしやがって。口が達者なようだな」
「犯したろうか!!」
男の発言にドミニオがブチッとキレた。
「なんですってェッ!!?」
「プリンセス、下がっててくれ」
「ドム?」
ドミニオは前に出た。
「やるかーガキ」
「プリンセスを見たら犯すことしか考えねーよーなバカは、オレが腐った根性から叩き直してやんねーとな」
怒りのオーラを発して拳を握りパキパキと鳴らした。
「上等だ。ガキはおウチでねんねしてな!!」
がたいのいい男が殴りかかった。だがかなり怒りの募ったドミニオにそんな拳は通用しない。
簡単に男の懐に入り込み連続打撃を入れた。即ノックアウト。
「まず1人」
「きゃーっ! ドムがんばってーっ!」
ルヴィアが声援を送るとドミニオは振り向きニッと笑ってVサインをした。
「こ、このガキ。なかなかやりやがるぜ」
「こうなったら凶器を使わせてもらおう」
1人は長い鎖を握り、もう1人はトゲ付きのナックルを用いた。
「チョット!! ヒキョーよッ!!」
「死ねー!!」
ルヴィアの声も耳に入らず2人の男は走りだし1人が鎖を振るう。
ドミニオは横に飛び避けたが、そこへナックルの男が飛び込み殴りかかる。
「くッ」
ギリギリでかわす。
そこへ鎖が飛んできて首に巻きついた。
「うぐッ!」
引っ張られ倒れ込む。
「し、しまった」
「ドムッ!!」
「俺らにかかりゃあわけねェな」
2人がドミニオを見下して笑った。
「ゆるせないわッ!! 『吹き荒ぶ風の精霊よ…我が意の全てを吹き飛ばせ!!』」
ルヴィアの体が淡く輝き瞳は淡く輝きながらエメラルドグリーンに染まる。
髪はうねりルヴィアの前に一筋の風渦が現れた。
「『トーネード・ストーム』ッ!!」
男の足元から猛烈な竜巻が発生し巻き込まれた2人は吹っ飛ばされた。
その様子を見たランディはショックを受けた。
あの男の為にルヴィアが魔法を使った事を。
レーシアはこんな所で精霊術を使った事に周囲への迷惑を気にかけた。
ルヴィアはドミニオに駆け寄る。
「ドムッ!! 今助けるわッ!!」
ドミニオの首の鎖を解いた。
「ふぅっ、助かったぜプリンセス。カッコワリーとこ見せちまって」
情けなく思いながらドミニオは起き上がる。
「ううん」
「あの今のってさ、まさかマホーってやつっ!? スッゲーなーっ! オレ見れて感激しちまったぜっ!」
「ついカッとなって使っちゃったわ」
「オレも使ってみてーなー」
「そぉ?」
夕暮れ。
ルヴィアとドミニオはバーに入った。
暗めのムードある店内には、もう既に客が何人か居る。
「なに飲む?」
カウンターに座ったドミニオがメニューをルヴィアの前に置いた。
だがルヴィアは見る事なくマスターに顔を向ける。
「サイコー級ワインとりあえず20本ねっ!!」
ルヴィアの発言にドミニオとマスターはギョッとする。
「はっ!? 20本でございますか!?」
「そーよ」
ドミニオやマスターだけでなく来ていた客も驚きルヴィアに注目する。
「プリンセスッ!?」
「ドムは? どーすんの?」
呆然としているドミニオにルヴィアが顔を向けた。
「えっとオレは……」
脂汗をかくドミニオ。成り行きで来てしまったが、実は酒が飲めないのだ。
「どーしたの?」
「オレ、ちょっと体調ワリーから、酒はいーや」
「えっ、体調ワルイって? ダイジョーブなの?」
ルヴィアが心配そうに尋ねた。
「寝れば治ると思う」
「ホントに?」
「ああ。オレのことは気にしねーでプリンセスは飲んでくれ」
「うん……」
「サイコーだわ〜っ♪♪」
酒瓶を手に頬を赤らめているルヴィア。
カウンターには既に飲み終わった空き瓶が十数本。
冷や汗を垂らしたドミニオはルヴィアの飲みっぷりにただ圧倒されっぱなしだ。
「そんなに飲んで大丈夫かよ。もーやめといたほうが」
「なによぉ〜。つまんなぁ〜い」
ルヴィアがしなだれかかるとドミニオはドキンッとする。
そのままドミニオの首に両腕を回してトロンとした目で見つめる。
「ふぅ〜ん。ドムってよく見るとぉ、けっこーカッコイイじゃな〜い」
「えっ!?」
それを聞いたドミニオの顔が真っ赤になった。
何をするかと思いきやルヴィアはドミニオに唇を重ねる。
「!?」
突然の事にドミニオが目を見開く。
真っ赤な顔のまま固まった。
夜。
「なーんで出てきちゃったのぉー?」
街道を歩きながらルヴィアが尋ねたが、うつむいたドミニオは答えない。
「あーつまんなーい」
あれだけ飲んだにも関わらずルヴィアはもうケロっとしている。大酒豪だ。
ドミニオは顔を上げる。
「プリンセスッ!」
「ん?」
「……なんでまた、オレにあんなこと……」
「えっ?」
「トボけんなよ……」
「キスのコト?……なんかしたかったから」
それを聞いたドミニオはドキンッとする。
「えっ! どっ! どーしてっ!?」
「……なんか……ドムの顔見てたら……」
「オレの顔見てたら? それってどーいう?」
「よくわかんない」
ドミニオは冷や汗を垂らす。
「オレがわかんねーよっ! 気になるじゃねーかっ!」
「気にしないでいーわよ」
「んな勝手なっ!! だってオレ、プリンセスのことがっ!!」
ルヴィアへの想いを言いかける。
「……なんでもねー」
その表情は切なそうだった。そんなドミニオをルヴィアは見つめる。
「ドム?」
ホテルの一室。
「プリンセスッ」
ドアを開けたドミニオが驚いた。
そこにバスローブ姿のルヴィアが居た。
「なんか、ドムのコト気になって……。入ってもいー?」
ルヴィアが見つめるとドミニオはドキッとする。
「ど、どーぞ」
上半身裸のドミニオはよく鍛えられた筋肉質で良い体格をしている事が解る。
ベッドに少し離れて座るルヴィアとドミニオは無言で空気が重く感じる。
なんか話さないと。
気まずい空気にドミニオは口を開く。
「プリンセス」
「なに?」
「えっと、あの、プリンセスは……ど、どんな男性がタイプなんだ?」
ためらいがちに尋ねた。
「えっ……。どーしてそんなコト聞くの?」
ルヴィアがそう言うとドミニオは慌てる。
「えッ! ちょッ、ちょっと気になって……。ハハっ! やっぱオレとは正反対で金持ちで品のある男が」
「ゼンッゼンちがうわッ!!」
即行否定したルヴィアにドミニオはポカンとする。
「へっ!?」
「そんなコト、好きになったらカンケーないわよっ!」
「……じゃー別に金持ちじゃなくってもいーのか」
「そりゃお金は持ってるにこしたコトないけどね」
「……期待、してもいーかな」
「ん?」
「オレでも、オレなんかでも恋人になれっか!!?」
「えっ!?」
「オレ、プリンセスのこと好きだっ!! プリンセスの気持ち、ハッキリ知りてーんだ」
ついに想いを伝えるドミニオ。
「……あたしの、キモチ?」
ルヴィアがそう言うとドミニオは赤い顔でうなずく。
「ドムのコトは好きよ。いっしょにいてたのしーし。でも、このキモチは……」
考えるルヴィアにドミニオは慌てる。
「あっ、まっ、待ってくれっ。その、今すぐ答え出さなくてもいーんだっ」
「えっ?」
「いや、だってプリンセスはオレなんかじゃ手ェ届かねー高嶺の花だって思ってたから、オレぜってーフラれると思ってたし。そんなふうに言ってもらえて正直驚いてんだ」
「そーなの?」
「ああ。だから今はそー言ってもらえただけでスゲーうれしーんだ」
ニッコリと微笑んだ。
「そぉ。ねードム、今日もマッサージおねがいするわ」
「えっ。いーけど、寝るなよな」
ドミニオがそう言うとルヴィアは笑う。
「それはわかんないわ」
「マジかよー」
ドミニオの告白はひとまず成功?
そうして夜は更けていくのだった。
【TALE8:END】