TALE7:出逢い
……何故こんなに気になるんだろう。
ルヴィアだったランディとレーシアをナンパ男から助けた少年が街道を歩きながら思った。
今朝出会ったルヴィアとレーシアが妙に気になっており何故か解らないがずっと頭から離れない。
せめて名前だけでも聞いておけばよかった、と残念に思っていると目を疑う。
前から当のルヴィアが歩いてくるのだ。
あの娘だ!
ドッキーンとする少年。
また逢えるなんてラッキーだ。
ルヴィアを見つめてドキドキする。
綺麗だな……。どうしよう、声をかけてみようか。
レーシアはいつもランディの味方をする。それがルヴィアは不満だった。
酷い。自分は何も悪くないのに。
ルヴィアの目に涙が溢れる。
トボトボと歩くルヴィアを少年の他にも道の脇でたむろしている3人の若い男が見ていた。
「おい、あの女見てみ」
「おー! イケてんじゃん」
「行こうぜ」
3人はうつむいているルヴィアに声をかける。
「かーのじょっ」
「俺らとどっか行かない?」
「ウッサイわね、ほっといてよ」
ルヴィアが片手で涙を拭いながら言い放った。
「あれ? 泣いてるの?」
「顔よく見してみ」
1人が片手でルヴィアの顎を持ち上げた。
ルヴィアの顔を見た3人は見惚れて目をハートにする。
「す、すげぇ美人〜」
「何があったの? 俺が慰めてあげるよぉ」
1人がデレデレした顔でルヴィアの肩に腕を回した。
「さわんないでッ!!」
ルヴィアが手を振り払った。
「いいじゃんか、楽しませてやるから」
別の男が腕を掴むとルヴィアは睨みつける。
「シツッコイわね」
ルヴィアの腸が煮えくり返った。
どうしていつもいつもこういう奴らに会ってしまうのか。ただでさえ不愉快な事があったばかりなのに冗談じゃない。
「やめなッ!!」
「イデデデデッ!!」
男がルヴィアの腕を離した。
ルヴィアが振り向くと、そこに少年が居た。少年は男の腕を逆向きに掴み上げていた。
「何しやがんだテメエ!!」
キレた男が少年に殴りかかる。
少年は簡単に腕を弾き男の腹に鉄拳を入れた。
「ぐほッ」
男がその場に倒れ込む。
一方、他2人は震えあがっていた。
「に、逃げろ!」
仲間を見捨てスタコラと逃げだした。
「逃げたか、ザコが」
情けない2人に呆れる少年。
「キミ、また会えたな。もー大丈夫だぜ」
りりしい表情で振り向く。だがそこにルヴィアの姿はなかった。
「あれっ!?」
慌てて周囲を見回すとルヴィアの歩いている後ろ姿が見えた。
「そ、そんな……」
ガビーンとショックを受けた。
「キミっ、キミっ! ちょっと待ってくれよっ!」
少年がルヴィアに駆け寄る。
「お礼なんか言わないわよ。助けなんかたのんでないんだから」
「あ、ああ。いーんだ。その、ケガはなかったか?」
並んで歩きながら尋ねた。
「ないわよ」
「そっか、よかった」
「じゃーね」
「あ、あのさっ! オレ、ドミニオ=エレンティアっつーんだけど、キミの名はっ?」
ドミニオが尋ねるとルヴィアは顔をしかめる。
「はッ!? なんであんたにナマエ言わなきゃなんないのッ!?」
「え、それは……。また逢えたし……」
「またッ!?」
「その、さ……。オレ、今朝からずっとキミのことが気になってたんだ」
恥ずかしそうにドミニオが言う。
「今朝って?」
「今朝、キミと会ってから……」
「ナニよそれッ!! アンタとはショタイメンじゃないッ!!」
ルヴィア自身は初めて会うのだ。
「エッ!? そんなはずは……」
そんな印象弱かったのか、と残念がるドミニオ。
何コイツ、変な奴?
気味悪くなったルヴィアがイヤーな顔をした。
逃げるように足早に歩きだす。
「えッ! ちょっと待ってくれよっ!」
ドミニオが慌てて追いかけた。
「ナニよアンタッ!! まだなんか用ッ!!?」
「あっ、その、えっと……。1人だったらまた変な野郎が寄ってくるだろっ! やっぱオレが護衛するぜっ!」
「アンタがヘンなヤツでしょッ!!」
「エッ」
ガビーンとショックを受けた。
「オレはそんなんじゃッ! オレはただキミみてーなキレイなコが1人でいたらあぶねーと思って。現に2回も絡まれたんだぜ。だから、な?」
ドミニオが片手をルヴィアの肩にポンと置いた。ルヴィアは肩をビクッと震わせる。
「さわんないでッ!!」
ドミニオの頬に平手打ちした。
「なッ……」
片手で頬を押さえ驚き気味にルヴィアを見るドミニオ。
「シンセツそーにして、どーせあたしのカラダがモクテキなんでしょッ!! アンタだってそこらにいる男どもといっしょなのよッ!!」
それを聞いたドミニオの表情が少し強ばる。
「オレを、あんな奴らと一緒にしねーでもらいてーな」
「ナニよカッコつけないでよッ!! あたしもーこーゆーのヤなのよッ!!」
ルヴィアがそう言うとドミニオは悲しそうな表情をする。
「……そっか……。わるかった。そんじゃオレはこれで」
振り返り歩きだす。
「チェッ……」
その表情はとても淋しそうだった。
「…………」
そんなドミニオの後ろ姿をルヴィアは見つめた。
なんだろう。改めてドミニオが妙に気になる。
「ま、待って!」
「えっ!?」
引き止められ驚きの表情で振り返ったドミニオにルヴィアは駆け寄る。
「ゴメン、あたしがわるかったわ……。よくわかんないけど、あんたはそこらにいる男どもとなんかちがう気する……。ゆるして?」
ルヴィアがしおらしい表情で見つめるとドミニオはキューンとして顔を赤らめる。
可愛い……。
見惚れて目をハートにした。
「ねーチョット?」
冷や汗を垂らしたルヴィアが声をかけドミニオはハッと我に返る。
「あ、いやもーゼンゼン気にしてねーからオレっ!」
「ホントっ?」
「ああ」
「……チョットだけなら、つきあってあげてもいーわよ」
「えっ!? ま、マジっ!?」
「カンチガイしないでね、チョットだけよ」
「あ、ああ。うっしゃ!」
喜びドミニオがガッツポーズを取った。
「ナマエ、なんだっけ」
「あ、ドミニオ=エレンティア。ドムって呼んでくれ、ヨロシクなっ!」
片手を差し出す。
「あたしルヴィアよ」
2人は握手をした。
おしゃれなカフェ。
「へぇ、妹さんとケンカしちまったのか」
可愛らしいカーテンの付いた窓際のテーブルでルヴィアの話を聞いたドミニオが言った。
「それだけじゃないわ。大ッキライなヤツにカラダを……」
ポツリと言うルヴィア。
「え? なんだって?」
「く、くわしーコト言えないんだけど、今のあたしは身もココロもズタズタなのよ」
「そーか……。うーん、なんつったらいーかな。オレにも妹いっけどさ、ケンカしたらたいてーオレから折れてあやまってっけどな。しかたねーよな5つも下だし」
「でもあたしわるくないのよッ!! ランディのバカがヘンタイなコトするから、あたしちょームカついて、レーシアいつもアイツのミカタするしッ!!」
額に青筋を立てたルヴィアがムカムカしながら言う。
「ふーん、そーなのか……。そーだっ! ここはオレ出すからさ、好きなだけ食って飲んで、気ィまぎらしてくれよ」
ドミニオにとっては精いっぱいの気の利いた台詞のつもりだ。
「……ありがと、やさしーのね」
ルヴィアが見つめるとドミニオは照れて顔を赤くする。
「えっ!? べ、別に」
(お姉さま!!)
レーシアからテレパシーが届いた。
(お姉さま何しているの!? ランディさんも心配しているわ! 早く戻ってきて!)
ルヴィアは再び怒りが込み上がり体を震わせた。そんなルヴィアにドミニオは気づく。
「? どーした?」
(お姉さま!! 聞いているの!!?)
ルヴィアはピアスを外してしまった。
「なんでもないの」
テーブルにはパフェは勿論プリン・アラモードやケーキがたくさん並んだ。
ルヴィアの食べっぷりにドミニオは目を見張る。
「うわ……。キミ、よく食うな」
「あら? 好きなだけ食べていーって言ったわよね?」
「ああ。で、少しは元気出た?」
「え、うん」
「そっか、よかった」
ドミニオがニッコリと微笑んだ。
「…………」
ルヴィアがジッと見つめるとドミニオはドキッとして顔が赤くなり慌てて背ける。
そんな見つめられたら照れてしまう。
もう見ていないだろうとゆっくり向き直るとルヴィアはまだ自分を見ていて思わず体が反応してしまうくらいビックリして前を向く。
……何故そんなに自分の事を見てるのだろう。
何か顔に付いているのだろうか。自分の顔を確認したくなったが、あいにく鏡なんて持ちあわせていない。
聞いてみようと思いルヴィアを見ると改めてその美貌に吸い寄せられる。
なんて美しさだ。
シルバーの瞳は見た事もない輝きで吸い込まれるよう。肌なんて磨いた大理石みたいで触れたら気持ち良さそうだ。手を伸ばして触れてみたくなる。そして形の整った鼻と薔薇色の唇。
今朝会った時はそのあまりの美しさに一瞬、人間とは思えなかった。それ程、完璧に美しい。
こんなに美しい女性を見たのは初めてなのに、前から知っているような、この不思議な感覚はなんなのか。
「ねー、あたし達初めて会ったのよね?」
「えっ!?」
見惚れていたドミニオは唐突にルヴィアが口にした言葉に驚く。
「なんか……初めて会った気しないのよね」
「ああ、だから今朝にも1回会って」
また言ってる、と冷や汗を垂らすルヴィア。
「そーじゃなくて、なんかよくわかんないけど前どっかで会ったコトある気するってゆーか」
「えっ!? マジで、キミもそんなふうに感じてくれたのか。オレの気のせいじゃなかったんだな」
「え?」
「オレも、初めてキミ見た時なんつーか、知ってる感じしたんだ」
「ウソっ!」
「そーいうのってさ、もしかしたら前世でオレ達関わってたり……なんてな」
それを聞いたルヴィアはポカンとする。
「ゼンセ?」
「ああ。妹がそーいうの好きでよく言うんだけど、オレ達が生まれ変わる前にもしかしたら知りあいだったのかもな」
笑顔でドミニオが冗談ぽく言った。
「へー、それおもしろいわね」
「だろっ!? もしホントだったらさ……。運命の出会いってやつかも……」
顔を赤らめ照れながら言った。
「あとー、ストロベリーパフェとプリンアラモード5コずつねっ!」
「…………」
ウェイトレスに追加オーダーしているルヴィアに冷や汗を垂らすドミニオだった。
夕暮れ。
ルヴィアとドミニオはカフェを出た。
「ごちそーさま」
「いや、たいしたことねーよ」
笑顔で言ったドミニオだが心の中では泣いていた。
……これから当分野宿だ。
「そんじゃルヴィアさん、家まで送ってくぜ。妹さんと仲直りできるといーな」
「もどるワケないでしょッ!!」
強い口調で言うルヴィア。
「エッ!? じゃーこれからどーすんだ?」
「ドコかホカのホテル泊まるわ」
「ホテルか。じゃーオレも一緒に」
「え?」
ドミニオの発言にルヴィアがジロッと睨む。
「い、いやその変な意味じゃなくてさっ! オレもまだ今日の宿決まってねーし、どーせだったら一緒のホテル泊まろーかと」
だがハッとして重要な事に気づく。
もう金がなかった。
ショックで立ち尽くしたドミニオをルヴィアは不思議に思う。
「あらどーして? あなた家に帰ればいーじゃない」
「あ……。オレ、今旅してっから」
「えっ!? あなたも旅してんのっ!?」
「あなたもって、キミもなのか?」
「そーよ」
「へェ……。どこに向かってんだ?」
「とくに決めてないわ。とりあえずいろんなタウン行って、あきたらまたホカのタウン行くって感じかしら」
「そーなんだ」
「あなた、ひとりで旅してんの?」
「そーだけど」
「ふーん……。だったら、あたしといっしょに行かない?」
「エエッ!!?」
ルヴィアの思いがけない言葉にドミニオが目を丸くした。
「い、いーのかっ!? オレが一緒に行ってもっ!」
「いーわよ。あなたといるのヤじゃないし、ワルイ人じゃなさそーだもの」
「ほっ、ホントかっ!? スッゲーうれしーぜっ! あ、でもいーのかな。妹さんが嫌だっつったら……」
「レーシアなんかどーでもいーわ。あのコはランディがいればそれでいーのよ」
「……?」
よく理解できないドミニオ。
「それじゃこれからもヨロシク。えっと……」
「あ、ドムだ。ドミニオ=エレンティア」
「そーだったわ。ドム、これからもヨロシクね」
ルヴィアが笑顔で、しかも名前を呼ぶとドミニオはドッキーンとし顔が真っ赤になった。
可愛い〜。
目をハートにした。どうやらルヴィアの美貌にすっかりメロメロに魅了されてしまったようだ。
自分の虜がまた1人。あたしって罪な女。
ふぅとため息をつくルヴィアだった。
「ホントにいーのか? オレ、野宿でもかまわねーけど」
「いーのよ。だって野ジュクした人とこれからいっしょなんてヤダもの」
ホテルのフロントでルヴィアがドミニオに言った。
「そっか、ワリーな」
「お客様、お部屋のほうはいかがなさいますか?」
フロントの男性が尋ねた。
ドミニオは期待してドキドキしながらルヴィアを見る。
「シングルひとつずつ」
うッ、とガッカリするドミニオだった。
部屋をドミニオは落ち着きなくウロウロと歩き回る。
ルヴィアの事が気になって行ってみようか迷っているのだ。
するとドアをノックする音が聞こえた。
「えっ!? まさかルヴィアさんっ!?」
顔が赤くなる。
ドキドキしながらドアを開けると、そこに期待どおりルヴィアが笑顔で居た。
「ルヴィアさん」
「ねー、まだディナーまで時間あるし話でもしない?」
「えっ! 喜んでっ」
ルヴィアから来てくれるなんて思ってもなかった。
少しは自分に気があるのでは、とドミニオの鼓動はドキン、ドキンと高鳴った。
どうしよう、聞いてみようか。
思いきって聞こう。
「あ、あのルヴィアさんっ」
「なに?」
「あのさっ、今、かっ、彼氏とかいるっ!?」
ドキドキしながら尋ねたがハッとする。
「あっ、バッ、バカだなオレ。キミみてーなステキな女性にいねーはずねーよな」
いるに決まっているじゃないか。馬鹿な事を聞いたと思いドミニオはバツが悪くなる。
するとルヴィアはため息をつく。
「それがいないのよね。このあたしにふさわしーイイ男ってそーカンタンに見つかんないのよ」
「えっ!? いないっ!? マジでっ!?」
意外な答えにドミニオが目を丸くした。
そうかいないのか。
よし、と喜ぶドミニオ。
ソファーでルヴィアは色っぽく足を組み替えた。
ドミニオの目にルヴィアのセクシーな太ももが飛び込み目がハートになる。
「ねードム」
「はッ! ハイッ!」
ルヴィアの声にハッと我に返る。
「ドムってどーしてひとりで旅してんの? さみしくない?」
「え、んー、そーだな。たまにさみしくなる時もあっけど、オレってあんまそーいうこと考えねーからなー」
そう言いドミニオが笑った。
「ふーん」
「ルヴィアさんこそ、どーして旅してんだ?」
「あたし? タイクツでつまんないキャッスル抜け出して、世界中ボーケンしてジユーに生きてみたくて」
「え、キャッスル?」
ドミニオの目が点になる。
「あたしプリンセスなのよ」
「プリンセスッ!?」
唐突なルヴィアの発言にドミニオが固まった。
ルヴィアの首飾りに注目する。
「……その首のエンブレムって、さっきからどっかで見たよーな気ィしてたんだ……。まっ、まさかアイルーン・キングダムのエンブレムじゃ……?」
冷や汗をかいたドミニオがルヴィアの首飾りを指差して尋ねた。
「そーよ」
「エッ!? そんじゃ……。あ、あなたは……プリンセス……?」
冷や汗をダラダラかき震えながら尋ねる。
「だからそー言ったじゃない」
「エエ――ッッ!!? まッ!! マジでッ!!?」
あまりにも驚き立ち上がった。
「ナニよ。このゼッセーのビボー見ればわかるでしょっ!? あたしみたいな美女ホカにそーいると思うっ!?」
「お、思わない思わない」
首を横に振るドミニオ。
「……あッ! すッ! スイマセンでしたァ〜〜!! 今まで無礼な口きいたりしましてェ〜〜」
突然、土下座して恐縮さで身を縮めた。
「そーね」
「もしかして……ずっと怒ってました……?」
青ざめた顔を恐る恐る上げた。
「トーゼンでしょ」
ルヴィアが冷たく見下ろすとドミニオはビビリ青ざめていた顔が真っ青になる。
「ごッ、ごごごゴメンナサイィ〜〜。なんでもしますからどーか許してくださいィ〜〜」
再び土下座をし必死に許しを請うのだった。
それを見たルヴィアはプッと吹きだしクスクスと笑う。
「……?」
ドミニオがルヴィアの笑い声に恐る恐る顔を上げる。
「ウソウソ、ジョーダンよ。あなたおもしろいわ」
笑い続けるルヴィアになんだか恥ずかしくなるドミニオ。
「あんまナレナレしくされるとムカツクけど、今までみたいにフツーにしてくれればいーわよ」
「えッ!? そ、そーなんですか?」
「ほら、立って」
「は、はい」
緊張気味に立ち上がる。
「どーしたの? すわったら?」
「あ、スイマセン。お言葉に甘えます……」
「フツーに話してくれていーのよ」
「えっ……。でもプリンセスにタメ口で話すのは……」
「あたしがいーって言ってんのよ?」
ルヴィアが睨むとドミニオはすくみあがる。
「はい……」
ベッドに座る。
「それにしても驚いたぜ。まさかアイルーン・キングダムのプリンセスがこんなタウンにいると思わねーし」
「そんなにおどろいた?」
道理で綺麗なはずだ。
ドミニオが納得した。
だってアイルーン・キングダムのプリンセスは絶世の美女しか産まれないという噂だ。
「じゃー妹さんもプリンセス……」
「そーよ」
「今朝一緒にいたのが妹さんだろ?」
「えっ!? 知ってんの?」
「ああ。助けた時一緒にいたじゃねーか」
「はッ!?」
また……。
ルヴィアが冷や汗を垂らした。まだ入れ替わっていた時の事だと気付かないのだ。
「実はオレ、アイルーン・キャッスルタウンに行こーとしてたんだ。昔からずっと行ってみたくてさ」
ドミニオがそう言うとルヴィアは驚く。
「ウソッ!! それじゃいっしょに行けないわね」
「あ、いやっ! 別に急いでるわけじゃねーし、一生の内に行ければいーんだ」
「そーなの?」
「ああ。ところでプリンセスはこれからどこに向かうつもりなんだ?」
「まだ決めてないの。とりあえず格闘術大会出るから、このタウンいるけど」
「エエッ!!? 格闘術大会に出るッ!!? プリンセスなのにッ!!?」
ビックリ仰天するドミニオにルヴィアはムッとする。
「ナニよワルイッ!? プリンセスは格闘しちゃいけないってのッ!?」
「い、いやそんなことねーけど……」
「あっ! そーいえば、あなた見かけによらずケンカ強いみたいね」
見かけによらず!?
ルヴィアの発言にドミニオがガビーンとショックを受けた。
「格闘術大会出ないの?」
「いや、出るぜ。そのためにこのタウンに来たんだ」
涙を堪えながら答えた。
「ホントっ!? じゃーあたしと手あわせてみないっ!?」
ルヴィアがソファーに座ったままファイティングポーズを取るとドミニオは困り顔になる。
「ワリーけど、オレ女性相手に拳握らねーんだ。たとえ相手が悪人だったとしてもな」
「ナニよカッコつけちゃって。そんなコト言って格闘術大会であたしとあたったらどーすんのよ?」
半目でジトッと見る。
「えッ!? そ、そん時はなんとかして……」
「あたしの勝ちは見えてるわね」
自信タップリに言うルヴィアにさすがにドミニオはムッとする。
「そんなことねーよッ!! オレだって負けねーからなッ!!」
「…………」
冷や汗を垂らしたドミニオが何やら圧倒されていた。
ホテルのレストランでルヴィアがお約束の皿が山積みになるまで食べたからだ。
「あー食べた。おなかいっぱーい」
「さっきあんだけ食ったのにたいしたもんだな」
「えーべつに。こんなのフツーよ」
ルヴィアがケロッと言う。
「いつもそんくらい食ってんのか?」
「んー、今日はいつもより少ないわね」
「エッ!!?」
目を丸くするドミニオ。
「……よく太らねーな」
それは禁句だ。
ルヴィアがピクッと反応しギロッと睨む。
「それってイヤミかしら?」
「違うッ!!」
ビビッたドミニオが否定した。
「あ」
突然、立ち上がりルヴィアの横に立つ。
「?」
ルヴィアがドミニオを見上げた。
「食べカスついてんぜ」
ドミニオがルヴィアの頬を指で拭いペロッと舐めた。ルヴィアの顔がカァッと赤くなる。
「ヘンなコトしないでッ!!」
立ち上がりルヴィア・パンチでドミニオの頬を殴った。
「つゥ〜〜。けっこー効いたぜ」
吹っ飛びはしなかったものの痛そうに頬を押さえるドミニオだった。
【TALE7:END】