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EPISODE06 混沌の国のアリス

ドレイクシティ総合病院。


ロドリゲス夫人は夫の傍で泣き続けていた。


「なぜ・・・あなたがこんな目に・・・?ファルコンマンのせいよ!彼のせいで・・・」


ロドリゲス夫人の言葉に、ミラーとジェンキンスは複雑な表情で、ただ黙っていることしかできなかった。


しかし、ミラーが口を開いた。


「奥さん、俺の責任です・・・」


「あなたが・・・?」


「俺があのとき警部を救っていたら・・・こんなことにはならなかった・・・」


「そう・・・あなたは夫のことはどうでもよかったの?」


「いえ、そんなことは・・・犯人は必ず逮捕しますから・・・」


「それが嘘じゃなきゃいいけど・・・」


ロドリゲス夫人は警部の傍で言った。


「さあ、ティム。あのとき警部を救えなかった分を取り返しましょう。」


ジェンキンスがミラーに優しく囁いた。


「ああ・・・ファルコンマンに力を貸さないと・・・」


ミラーとジェンキンスは病室をあとにした。


その頃、街ではバンを盗んで疾走するアリスと、ジェットポーターで追うファルコンマン、そしてファウスティンファミリーのドンが乗った車で、激しいカーチェイスが行われていた。


ファウスティンファミリーは、ファルコンマンに興味は無く、バンに乗ったアリスを狙っていた。


「あのガキを殺れ!遠慮はいらんぞ!」


ドンが部下に命令すると、構成員たちは突撃銃でアリスのバンを一斉射撃。


アリスのバンは爆発炎上した。


「ざまあ見ろ・・・クソガキが。私の部下に手を出した者は皆殺しだ・・・」


ドンは車から降りて言った。


構成員たちが死体を確認しに、バンに近づくと、焼け焦げたアリスそっくりの人形が。


「ボス!ガキじゃありません!身代わりですぜ、こりゃ・・・」


構成員たちがドンに言うと、どこからともなく放たれた銃弾で、額を撃ち抜かれた。


ドンが気づくと、目の前にショットガンを持ったアリスが。


「ねえ、おじさん。遊ぼうよ・・・」


「待て!私の養女にならないか?この通りだ!私は娘を亡くして子どもがいないんだ。」


ドンの口から飛び出したのは、この状況では信じられない言葉だった。


「おじさん・・・本当?私と一緒に暮らしてくれるの・・・?」


「ああ、約束する!さあ、おいで。」


ドンがそう言うと、アリスは彼に抱きついた。


ドンはこれを狙っていた。コートからデリンジャーを取り出そうとしたそのときだった。


「残念でした!」


アリスは小型ナイフでデリンジャーを持つボスの手を切り刻んだ。


苦痛のあまり地面に倒れ込むドン。


「このクソガキ・・・養女にしてやろうと思ったのに・・・」


「何言ってるの、おじさん。そんな小っちゃなおもちゃじゃ遊べないよ?さっきのお兄さんたちみたいに大きなおもちゃじゃないと・・・」


アリスが耳元で囁くと、ドンは力尽きた。


「さてと・・・帰ろっかな~」


アリスはそう言いながら後ろを向いた。


そこにはファルコンマンが。


「逃げられると思うな!」


「もう~、つまんないな~。ヒーローごっこはいい加減辞めたら?」


アリスはそう言って、ショットガンを彼に向けようとしたそのときだった。


「銃を捨てろ!」


アリスが振り向くと、ミラーとジェンキンスが銃を向けて言った。


「しょうがないな~。」


アリスは銃を地面に捨てた。


パトカーに乗せられるアリス。


車内でアリスはジェンキンスに尋ねた。


「どこに連れて行くの?」



「あなたのような人がたくさんいる場所。」


「みんな遊んでくれるのかな・・・・」



「・・・・・。」


「遊んでくれなかったら退屈だな~」


やがてパトカーは精神病院に到着。


着いた途端、アリスは拒絶しだした。


「こんなとこ嫌だよ~! お医者さんがいるんでしょ・・・?」


半泣きのアリスを無理やり連れて行こうとするミラーとジェンキンスだが、ミラーの携帯電話にコールが。


「もしもし?」


「もしもし、ミラー刑事ですか?」


「ええ、そうですが・・・」


「ノーラン産業のサーシャ・ケンジントンです。今あなたがた

が連れているお嬢さんについて調べたのですが、こちらに連れてきてもらえますか?」


「あいにくですが、それはできません。いくらノーラン産業さんだとしても・・・」


「ロドリゲス警部が許可したんです。」


「警部が?わかりました。すぐそちらへ向かいます・・・」


ミラーは携帯電話を閉じると、ジェンキンスに言った。


「アマンダ、この子を連れてノーラン産業に行くぞ。」


「ノーラン産業?なぜそんな所に?」


「警部の指示だ。さあ、行こう。」


ミラーとジェンキンスはアリスを車に乗せ、ノーラン産業へ。


ノーラン産業に到着すると、腹を押さえたロドリゲス警部が立っていた。


「警部!そんな状態で無理しないでください!」


「私は大丈夫だ・・・こんなもの慣れてる・・・あの子は連れてきたな・・・?」


「ええ。」


アリスはジェンキンスとともに車から降りた。


「よし、君たちはもう帰っていいぞ。ご苦労だった・・・」


ロドリゲス警部はそう言うと、アリスをノーラン産業に連れて行った。


ノーラン産業に入ると、アリスはこんなことを言ってきた。


「ねえ、おじさん。ごめんね・・・痛かったでしょ・・・?」


涙がこぼれかけてきた眼でロドリゲス警部に寄り添う。


「大丈夫だよ・・・慣れてるから・・・」


「よかった・・・」


アリスはまるで連続殺人鬼とは思えない、普通の少女のようだった。


2人はサーシャの居るコンピュータルームの隣の部屋に入った。


そこにはトビアスとサムが。


「いい子だ。警部の言うことをちゃんと聞いてたんだね?」


サムはアリスに言った。


アリスは怖がって、ロドリゲス警部の後ろに隠れてしまった。


「ハハハ、大丈夫だよ。彼はおじさんの友達だ。」


ロドリゲス警部はアリスに言った。


アリスは安心したのか、サムに言った。


「はじめまして・・・」


照れた顔で言うと。トビアスも彼女に話しかけてきた。


「いい子だね。挨拶のできる子は立派に育つんだよ。」


アリスはトビアスの言葉を無視し、ソファに座った。


複雑な表情を浮かべるトビアス。


(まさかこの子・・・僕の正体を知ってるのか・・・)


トビアスは彼女を見ながら、そう思った。


部屋にサーシャが入ってきた。


「トビアス、社長、ちょっと来てくれないかしら?」


サーシャについて行くトビアスとサム。


コンピュータルームに入ると、サーシャがモニターを見せた。


「FBIのサイトにハッキングしたんだけど・・・あの子はチェコ出身ですって。」


「チェコ?あの子の名前は?アリスじゃないだろ?」


「それが・・・あの子の身元は誰かに隠匿されてるのよ・・・」


「つまり・・・?」


「外国・・・ 特にヨーロッパではね、誘拐した児童をキッズポルノやスナッフフィルムに出演させるらしいのよ・・・一般には都市伝説と言われてるけど・・・調べたらあの子が出演してるビデオがたくさん出てきたのよ・・・アリスって言うのはチャイルドポルノ上での名前ってことね・・・」


「例のものか・・・」


「そう、とてもじゃないけど、私はビデオを観て気分が悪くなったわ・・・」


「どんな内容だった・・・?」


「思い出すだけでも吐き気がするけど・・・まだマシなものなら・・・ あれは彼女の誕生日パーティかな・・・?ごく普通のホームビデオといった感じで、両親があの子の誕生日を祝っていたわ。プレゼントは大きな熊のぬいぐるみ。彼女が蝋燭の火を消して、電気をつけようとしたときよ・・・ 男4人が侵入してきて、父をナイフで殺害・・・男たちは母の衣服を剥ぎ、強姦した・・・挙句に母を銃で殺害すると、落ちたカメラには誕生日プレゼントの熊のぬいぐるみに血がついた映像が最後に・・・」


「酷いな・・・」


トビアスはアリスにシンパシーを抱いていた。自分も両親を強盗に殺されたからだ。


「あの子は、金持ちに売られて、人体改造されたとか・・・マフィアに引きとられて、銃に囲まれた生活を送ったから、殺しを「遊び」として捉えることしかできなくなったのよ・・・せめて、まともな人に引き取られていたらこんなことには・・・」


サーシャは暗い顔をしていた。


トビアスとサムも同じだ。


トビアスとサムは部屋を出て行った。


窓から隣の部屋を見ると、アリスとロドリゲス警部は遊んでいた。


人を苦しめる「遊び」ではなく、普通の子どもとしての・・・


きっと愛に飢えていたのだろう・・・


2人は邪魔をしてはいけないと思い、静かにその場を離れた。


部屋の中では、アリスがピアノを弾いていた。「エリーゼのために」。


アリスの上手な演奏に、ロドリゲス警部は安心していた。


アリスは演奏し終えると、笑顔を見せた。


拍手するロドリゲス警部。


「上手だね。おじさん、心が癒されたよ・・・。」


「ありがとう、おじさん。おじさんって優しいね。匂いが違うもの・・・」


アリスはロドリゲス警部に抱きついた。


「おじさんみたいな優しい人、今まで会ったことなかったから・・・ずっと一緒にいてくれる?」


「ごめんな・・・おじさんには帰るべきところがあるんだ・・・家族が待ってるんだよ・・・」


「家族?」


「ああ、そうだよ・・・君も帰らなくていいのかい・・・?」


「帰るところなんてないもん。ずっとおじさんと一緒にいたい!」


「そうか・・・でも、おじさんには大切な人がいるんだ。わかってくれるかな・・・?」


「私は大切じゃないの?」


「・・・もちろん大切だよ。でも・・・」


「わかったわ・・・おじさん、ありがとう。遊んでくれたお礼。」


アリスはそう言って、小さな箱を渡した。


「ありがとう。開けていいかな・・・?」


アリスが頷くと、ロドリゲス警部は小さな箱を開けた。


ロドリゲス警部は中身を見ると、すぐに蓋を閉じた。


ロドリゲス警部は、立ち上がると、ドアに向かう。


「おじさん、どうしたの?気に入らなかった?」


アリスのそんな言葉は頭に入らず、ロドリゲス警部は無言で部屋を出た。


部屋から離れたところで、ロドリゲス警部は暗い顔で壁にもたれていた。


そこにトビアスとサムが。


「どうした、警部?」


サムが心配そうに聞いた。


「顔色悪いぞ?」


トビアスも同じように聞いた。


ロドリゲス警部は口を開く。


「なぜあの子が・・・ 欲にまみれた大人たちのせいで・・・」


「何があったんだ?」


トビアスは追求する。


「普通の生活ができていれば、あんなことにはならなかった・・・!せめて救うことができていればれば・・・」


ロドリゲス警部は冷静さを失い、絶望したように言った。


ロドリゲス警部が小さな箱を落とすと、血が垂れていた。


サムは、ロドリゲス警部に言う。


「なあ、警部。この世界は残酷だ・・・ 罪の無い子どもたちが酷い目に遭わされ、欲に支配された大人はのさばり続ける・・・ でもな、あの子はもう遅いんだよ。もう、お前には救えないんだ。神でさえ救えないだろう・・・ 一度、血の海に溺れれば、そこから這い上がることは余程の意思が無い限り難しい・・・」


サムとロドリゲス警部のやりとりを見たトビアスは決意して、トイレに向かった。


ファルコンマンに変身し、アリスのいる部屋へ。


ファルコンマンは部屋のドアを乱暴に開けた。


アリスは反応する。


「また、来た~。ヒーローごっこはもう辞めたんじゃなかったの?」


アリスのそんな言葉を無視し、ファルコンマンはアリスの頬を殴った。


怯むアリス。


「最低!子どもを殴るなんて・・・」


アリスが言いかけると、ファルコンマンは再び殴った。


鼻血を流すアリス。


「お前のような化け物が警部に近づくな!」


ファルコンマンは怒鳴りつけるが、アリスは不気味な表情で言う。


「化け物だって?あんたに言われる筋合いはないわ・・・私と同じ匂いがするあんたなんかに・・・」


「俺とお前を一緒にするな!」


「あら、強がりね・・・ あんたがそう言ってられるのも今だけよ・・・ その内わかるわ・・・ いかに人々があんたを必要としていないか・・・」


アリスの放った言葉に、ファルコンマンは動揺してしまう。


部屋を出るファルコンマン。


外にはロドリゲス警部とサムが立っていた。


ファルコンマンはロドリゲス警部に告げる。


「奴は精神病院行きだ。ドレイクよりもフィラデルフィアの静かなとこがいいだろう。こんな物騒な場所ではダメだ・・・」


「そうか・・・お前でもあの子を救えなかったか・・・」


ロドリゲス警部は複雑な表情で言った。


3日後。


ロドリゲス警部とトビアス、サムとサーシャは、アリスを連れてフィラデルフィアの森にある精神病院へ向かった。


「さあ、ここが君の家だ。シスターの言うことをよく聞くんだよ。」


ロドリゲス警部はアリスに、ここは孤児院だと嘘をついた。


「ありがとう、おじさん。楽しかったよ!また会おうね!」


「ああ・・・また、いつかな・・・」


ロドリゲス警部が答えると、アリスは精神病院へと駆けて行った。


そのときだ。ロドリゲス警部は拳銃を抜き、引き金を引いた。


弾丸は後頭部に命中した。


突然の出来事に驚愕するトビアスとサム、サーシャ。


アリスは倒れると、血を流しながら、言った。


「原っぱってとても気持ちいい・・・空も雲ひとつ無くて・・・綺麗・・・」


アリスは初めて自然に触れ、空の美しさについて純粋な感想を残すと、その短い生涯を終えた・・・


ロドリゲス警部は拳銃をホルスターにしまうと、つぶやいた。


「許してくれ・・・これ以上君に苦しんでほしくなかったんだ・・・ 世界は残酷だ・・・でも、安心してくれ。君が生まれ変わったとき、幸せに暮らせるよう約束するから・・・必ず・・・」


ロドリゲス警部は動かなくなったアリスの傍に一輪の花を置いた。


トビアスはその様子をじっと見守っていた・・・




NEXT STORY・・・EPISODE07「消せない傷」トビアスが未熟な青年だった頃。南米のアマゾンで、マヌエラという女性と出会う。彼女は、彼のトラウマをすぐさま見抜き、トラウマを克服するには、「狩人の眼」と「鉄より硬い意思」が必要だと言う。しかし、トビアスの心の奥には、精神的な「消せない傷」があった。

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