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memory6

 次の目的地である広い路地に到着した。既に太陽は沈み、辺りは電灯が置かれていないため暗い。空は晴れており、半月の月が空に輝いている。

 ここが最後だ。

 周りに人がいない事を確認し、3人は作業に取り掛かった。

 ディーの指示を受けながらサヤは札を貼る。意識を集中させ、慎重に道を作り上げていく。

 道が作り終わり、一息ついたサヤは何かに呼ばれたような気がして空を見上げた。

 はっきりと何かが聞こえたわけではないのだが、それでもサヤは誰かに呼ばれたと思った。

 作業の手を止め、遠くを見つめているサヤに気づいたディーが何をしているのかと彼女に声を掛けようとした。だが、次の瞬間、ディーとアオトは急速に近づきつつある存在を感じた。

「サヤ、下がれ!!」

アオトの鋭い声が響く。

 サヤはぼんやりとしていたため、反応が遅れた。彼女の近くにいたディーが舌打ちしながらサヤの腕を引っ張り、共に後方へ退く。

 サヤのいた場所に大きなハンマーの様な物が落ち、大きく地面を陥没させた。

 ディーがサヤを引っ張っていなければ、落ちてきたハンマーが当たって死んでいただろう。

 それを認識した瞬間、サヤは血の気が引き、身体がふらついた。

「しっかりしろ」

 サヤの体を支えているディーが力強い声で小さく彼女を叱咤する。

 サヤ頭を振り、ディーに大丈夫だといって自分の腕を掴んでいる彼の手を外した。

 ハンマーを見ながら眉間に皺を寄せる。

 あんなもの誰が投げてきたのか。

「いきなりこんな物騒な物を投げてくるとは、随分礼儀知らずだな」

 アオトが険しい表情で言う。

 兄の全く聞いた事のない声音に、サヤは身体を震わせた。

 自分を害する事はないと分かっているのに、彼の怒りに恐怖を覚えた。

「あら、十分礼儀を払ったと思うけれど?ちゃんとこれを避けられるよう、気配を消さずに来てあげたじゃない」

 笑いを含んだ女性の声が聞こえた。

 道の真ん中にサヤとそう年の変わらなさそうな少女と、大柄な男性が立っている。

 サヤ達が警戒している中、少女は悠々とハンマーの柄を手に取り、持ち上げた。

 あんなに華奢な女性が地面をへこませるほどの重量を持つ物を軽々と持ち上げられるのか。サヤは驚いた。

「お前たちは何者だ」

 ディーは睨みながら彼らに問う。

 少女の方がにやりと笑った。

「何者って。私たちは貴方達の同じよ。この世界の頂点に立つ“星”から生まれ、還るモノ」

「では何故、俺たちを攻撃した」

 今度はアオトが少女に問う。

「それはもちろん」

 ここで少女はもっと深く、妖艶に笑った。とても美しい笑みだというのに、それが不吉なものに見えた。己の身に危険が迫るのを感じ、背筋が冷たくなる。

「貴方達が邪魔、だから」

 優しく、甘く、彼女は言う。

 少女の言葉が合図だったのか、それまで一言も喋らなかった大柄な男性が地を蹴った。真っ直ぐサヤ達の元へ進んで来る。

 サヤはディーと左側、アオトは右側に移動し、突っ込んできた男性を避けた。

 男性は両脇に避けた彼らを通り過ぎると直ぐに片足を軸に体を反転させ、サヤとディーの方へ向く。

「げ!?なんでそんなに身軽なんだよ、あんた!!」

 ものすごいスピードで突進して来たのだ。そのまま数メートル進むと思い込んでいたディーが文句を言う。

 ディーに向かって男性が拳を振り上げる。

 避けることが出来ないと判断したディーは両腕で壁を作り直接身体に拳が当たるのを阻止する。更に衝撃を吸収するため、後方に移動しながら力を逃がす。

 打撃を受けたディーは、後ろに飛びすぎないよう踏ん張ったがそれでも数メートル飛ばされた。

 出来るだけ衝撃を和らげたが、見た目通り力が強い。ディーが受けた衝撃は物凄いものだった。痛みに痺れる腕を振る。

 男はゆっくりと拳を打ち込んだ時の体制を解いてディーを見る。直ぐ近くにいるサヤやアオトに見向きもしない。

「ディー!」

 サヤが叫ぶ。

「大丈夫」

 大きな声ではないが、距離が離れてしまったサヤにはっきりと聞こえる声で、ディーは答えた。

「俺の相手はあんたか。お手柔らかに」

 ディーの表情に焦りは無い。むしろこの突然の戦いを楽しむつもりのようで、笑みを浮かべている。

不謹慎な彼の態度に、サヤは呆れた。

 アオトは彼らの戦いに意識を傾けつつ、先程までと同じ場所に立っている少女を見る。

「俺たちが邪魔だと言ったな。その理由は何だ」

「理由?そんなの貴方たちが邪魔だと言っている時点で分かるでしょ?」

「研究所の人間か」

 アオトの言葉に、少女がまたにやりと笑った。

「お喋りはここまで。さあ、私たちも戦いましょう?」

 少女は戦うのが楽しみで仕方がないといった様子だ。

 アオトも彼女の言葉に戦う姿勢となる。

 サヤは自分が加わってしまえば足手まといとなる事が分かっているので、それぞれの戦いの巻き添えをくわないよう注意する。

 アオトとディーが負ける事など、サヤの頭の中にはなかった。

 しかし、アオトはサヤに告げる。

「サヤ。本部に戻れ」

 サヤは目を少し見開いた。まだ作業は途中だ。それを放り投げて本部に逃げろと言うことは・・・。

 動こうとしないサヤにアオトは一喝した。

「行け!!」

 力強いアオトの言葉に、サヤは大きく体を震わせ、走り出した。

 それと同時に少女とアオトの戦闘が始まった。

 後ろ手大きな音がし、振り返りたいのを堪えてサヤは走った。



 あと少しで本部に着くという地点で、サヤは足を止めた。

 何か、自分以外のモノが直ぐ近くに居る。

 周りを見回すが、何もない。

 首を傾げ進行方向へ視線を戻すと、人が立っていた。

 青い色の、足元まで届きそうな長い髪と同じ色の瞳が印象的だ。

 それがゆっくりと近づいてくる。

 サヤはそれから逃げる様に一歩一歩あとずさる。

 怯えるサヤに、それは優しく、愛しむように笑った。

 その笑みが、兄と戦っているだろう少女のあの笑みと重なり、背筋が冷えた。

 あれはやばい。早く離れて本部へ戻らなければ。

 段々と近づいてくるのを見て、そう思うのに、身体を思うように動かす事が出来ない。いつものように兄とディーは助けてくれない。自分一人の力でこの状況を打破しなければならないのに。

 目の前の存在が恐ろしくて堪らない。

 思うように動けないため、相手の歩みはゆっくりだが距離はあっという間に縮まった。

 ゆっくりとサヤに手が伸ばされ、頬に触れようとする。サヤは恐怖でガタガタと震えだした。

 遂にそれがサヤに触れた。

 サヤの中に声が響く。

 やっと、会えた。

 頭に直接伝わって来た言葉。目の前のそれはサヤに響いているのだ。

 そして、それに反応して、サヤの一番奥にある何重にも鎖を巻き硬く閉ざしたはずの扉が開こうとする。

 サヤは拒んだ。その扉が開くことを、心の底から嫌だと思った。

 まだ自分はその事実を受けとめられない。

 何がその奥に在るのか、サヤはまだ知らない。だが、今の自分がそれに触れたら、確実に“星”に還る事は知っている。いや、サヤはそれに触れたら死んでしまうと思った。

 だから、サヤは強く響いた。それらを拒否するため、“響く”。

 サヤに抵抗されると思わなかったのか。相手は怯んでサヤから手を離した。

 まだ、器が完成していないのか。

 そう聞いて、サヤは身体から力が抜け崩れ落ちた。地面の硬い感触はするのだが、地面に体を打った痛みは感じないほどサヤの意識は混濁している。

 そんな状態なのに、サヤははっきりと誰かの声を聞こえた。

「去れ、魔女。こいつをあんたらには渡さない」



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