婚約者が他の令嬢と親しくしたり友人を優先したり幼馴染を優先したりします
王太子であるアラン様と、同い年で、公爵令嬢である私が婚約したのは、10歳の時だった。
親が決めた婚約。それが普通だと思っていたので、何の疑問も不満も持たず、「わかりました」と答えた。
アラン様はいたずらが好きだった。公式行事のときでさえ、変顔をしてみたり、膝カックンしてきたり、肩トントンからのほっぺツンしたり、毎日のようにくだらないイタズラで煩わされていた。
しかし「男の子のほうが精神の成長が遅いっていうものね…」と思って許した。
学園に通う年になると、2人きりでデートの約束などもするようになったが、
「ごめん! クラスの男友達に誘われちゃって!」
とキャンセルされることが多かった。
「同性と遊ぶほうが楽しい時期もあるものね」と思って許した。
「幼馴染の令嬢が具合が悪いっていうから、今日はお見舞いにいきたいんだ。ごめん!」
と断られたこともあった。
「幼馴染が心配なのはしょうがないわよね」と思って許した。
そのうちアラン様は、ピンクブロンドの男爵令嬢と親しくするようになった。
私のお友達が心配して教えてくれたのだが、「貴重な学生時代ですもの、羽目を外したいこともあるのでしょう」と笑って許した。
そんなある日、アラン様が泥だらけで子犬と遊んでいるのを見た。
きのうの雨で地面がぬかるんでいるのに、まったく気にしないで走り回っている。
一国の王太子が、いい年をして、上等な服も顔も泥だらけにして、
「なんだお前! やるか!? 不敬だぞこら! 王室に来ちゃうか? こら!」
と騒ぎながら、追いかけていた。その姿を見たら、もう無理だと思った。
◇◇◇
「婚約解消!? なんで?」俺は驚いて聞いた。
「申し訳ありません、私には王太子妃は務まらないと思いました」
淑女の鑑のようなクラウディア公爵令嬢がうつむいて答えた。
「わけがわからない。あんなにイタズラしても、友人を優先しても、幼馴染を優先しても、他の令嬢と親しくしても、何も言わなかった君が、なんで? きっかけはなんなの?」
「殿下が、素敵だったからです」
ハア?
「今までは、正直、『嫌いではない』程度だったので、殿下が何をしようと気にならなかったんです。お顔も、整いすぎてて逆に引いてたし。でも、あんな、泥だらけにして、子犬と遊んでるところを見たら、もう胸キュンが止まらなくて…!」
クラウディアが真っ赤になって苦しそうに胸をおさえる。
そんな彼女を見るのは初めてだったので、俺は呆けたように口を開けていた。
「こうなってしまっては、無理です。殿下が、他の令嬢と親しくしているのを見るのは辛すぎるのです。嫉妬で醜い行動に出てしまうかもしれません。令嬢に意地悪をして、殿下に嫌われて、婚約破棄をされる未来が見えるのです。だったらその前に解消をお願いしたく…!」
目をうるうるさせながら必死に訴えるクラウディアの手をつかんで、
「その心配はいらない! もう二度と他の女性と親しくすることはない! 二度とデートのキャンセルもしない!」
と言った。
「殿下?」
クラウディアが驚いた顔でこっちを見る。うっ、かわいい!
「ごめん! 君がいつも冷静だから! ちょっと怒られてみたかったんだ! やきもちやいてほしかったんだ! それでいろんなことしてたけど! 気持ちはずっと、クラウディア一筋だから! どうかどうか、俺と結婚してください!」
「ほ、ほんとに?」
俺に手をつかまれたまま、へなへなぺたんと床に座り込んだクラウディア。
にっこにこの俺は、その横にひざまずいて、手の甲にキスした。
ちなみに、俺たちのキューピットとなった子犬は、名誉犬の称号を与えられて、末永く大事にかわいがられるのであった。




