坊やだから
公園には行かないと決心したが、僕の決心は当てにならない。
あの後、走って家に帰り部屋に直行した。
『明日、同じ時間に集合』
楠の言葉が頭から離れない。
口に広がったミントの爽やかさ、エヘヘと笑った可愛い顔が僕の決心を揺さぶり続けた。
楠からもらった飴の個包装を見つめる。
僕の手汗でベタベタしているが、これは僕の宝物になった。
楠なずな。
あまりに違う人種すぎて気にもしていなかった女の子。
僕のような隠キャには高嶺の花すぎて交流をするなど非現実的すぎて思考がまとまらない。
楠はどんな飴が好きなんだろうか?
いちごみるくとか、それともキャラメルとか……
お母さんが好きなミントとミルクの入ったものとか?
それともおばあちゃんの好きな黒糖飴……これはないな。
楠はどうして僕と話したいと言ったんだろう?
もしかして僕が好き……いや、ないな。
そうだったら嬉しいけれど、いや待て、その前に僕は楠が好きなんだろうか?
不意に隣に腰掛けた楠。腕を掴んだ時、楠の指が綺麗で……
ハッ!!
僕は一体何を考えているんだろう?頭の中が楠でいっぱいになってる。
あまりにモテないから、ちょっと話しかけられただけでこの様。
僕はちょろい人間なんだと少し落ち込む。
だけど、楠は飴をくれ、明日は僕に持ってきてと言った。
少なくとも僕を嫌っていないということだ。
明日、行ってみようかな。
約束の時間より早く行って、見えないところから楠が来るか見ればいい。
来なかったら、いや、そもそも来るはずがないから傷つかない。
変わらない毎日が変化する予感。
楠と仲良くなったら学校に行ってもいいかも、愚かな僕はそんなことまで考え始めた。
これを、この状況を誰かに聞いて欲しく、AIに聞いた。
『童貞の痛い勘違い』
と返事が来た。
一瞬ムッとしたが、事実だから反論しようもないが、所詮AI。当てにならない。
聞きたく無い言葉は否定する権利は誰にでもある。
忘れよう。
……今晩風呂に入って、明日も出かける前に風呂に入って、橘に会う。
服はどうしよう。服……ジャージしかない。
嘘だろ、僕、いつから服を買ってないんだろう?
今から買いに行こうか、いや、親に知られたくない。ネットで注文しても間に合わない。
学校を休んでから有り余るほど時間があったのに、僕はここぞというところを外す。
はぁ。
仕方がない、比較的マシな服を着ていこう。髪型は、っていうか僕、いつから切っていないんだろう?
三ヶ月くらい?
はぁ。
僕、一体何を浮かれているんだろ。
こんなに浮かれ、明日楠が来なかったら立ち直れそうに無くなりそう。
*
翌日、僕は二時に家を出て、コンビニに寄った。
飴のコーナーを見る。あまりの種類の多さにたじろいだ。
誰かの為に何かを選ぶ。
僕にとって初めての経験だ。
正直言って何を選んでいいのかわからない。
考えたら考えるほどわからなくなり、四種類ほど飴を買った。
ただ飴を買うだけなのに、変な緊張と、誇らしい気持ち。
『どうしてそんなに沢山飴を買うんですか?』
『彼女へのプレゼント?』
と、聞かれたらどうしよう。そんなことを考えながらレジに向かう。
だが、店員は事務的に対応し、そんなことを聞いてこなかった。
期待を裏切られた気分。
だけど、こういう所が童貞なんだと自覚した。




